野原秀介の略歴
野原秀介(のはら・しゅうすけ、1991年~)
経営者。投資会社X Capitalの代表。
神奈川県鎌倉市の出身。開成高校、東京大学を卒業。ゴールドマン・サックス証券を経て起業。
『投資思考』の目次
はじめに
第1章 基本編
1-1 時間を味方につける
1-2 バランスシートを意識する
1-3 価値→評価の順で考える
1-4 Exitシナリオから考える
1-5 マーケットは常に正しい
1-6 IRRを意識する
1-7 常にフレームワークから始める
1-8 シャープレシオを考慮する
1-9 オプションバリューを考慮する
1-10 流動性を考える
1-11 給料は資本装備率で決まっている
1-12 困ったときは正々堂々
1-13 信頼を積み上げる
第2章 応用編
2-1 ポジションを取る
2-2 ブランドは買い手でなく、売り手であれ
2-3 顧客と精神的な繋がりを構築する
2-4 儲かるトレードアイデアは徹底的に繰り返す
2-5 ポートフォリオを組まない
2-6 常にライバルを作る
2-7 自らをMark to Marketする
2-8 学歴・職歴はオーバーウェイトされる
2-9 悪い報告ほど早くする
2-10 社内政治を制するものが、営業を制す
2-11 交友関係は1年に1度見直す
2-12 先輩付き合いより、後輩付き合いを大切にする
2-13 選択肢のない相手と取引する
おわりに
解説/事業家bot(経営者/『金儲けのレシピ』著者)
『投資思考』の概要
2022年10月4日に第一刷が発行。実業之日本社。191ページ。ソフトカバー。128mm×188mm。四六判。
副題的に表紙には「王道を歩き続けてきた著者が明かす、キャリアと人生を豊かにする26の原則」と書かれている。
解説は、『金儲けのレシピ』の著者で経営者の事業家bot(じぎょうか・ボット)。野原秀介が代表である投資会社X Capitalに、事業家botは投資していると解説でも記載されている。
構成については
●誤りのない意思決定を行うための原理原則をまとめた【第1章 基本編】
●αを創出するための原理原則をまとめた【第2章 応用編】(P.4「はじめに」)
と「はじめに」に書かれている。
『投資思考』の感想
『金儲けのレシピ』の著者である事業家botの投資先であり、また解説も書いているということで、購入。
開成高校の時には、応援団の団長をしていて、東京大学在学中では、起業サークルに入っていたという野原秀介。
どんな体力と頭脳を持っているんだよ、と。
マイクロソフトのスティーブ・バルマー(Steven Anthony Ballmer、1956年~)みたいだなと思った。
スティーブ・バルマーは、大学進学のための適正試験であるSATの数学で満点。ハーバード大学在学中には、アメリカンフットボールのマネージャーを務めている。
まぁ、野原秀介もかなり例外な人物であるということを念頭に置きながら、その思考方法からヒントを得られれば、といった感じ。
このように、これまでの人生の過ごし方は全てバランスシート上において精算されており、そこを出発点として将来取り得る選択肢の幅が規定されていきます。(P.43「第1章 基本編:1-2 バランスシートを意識する」)
PL(Profit and Loss statement)と表される損益計算書。
BS(Balance Sheet)と表される貸借対照表。
人生を考える上でも、特に貸借対照表、つまりバランスシートを基準にすると良い。
資産、資本、負債について、考慮する。
この文章の前段階では、お金の使い方に資産になるものと、資産にならないものがあるという記述も。
資産になるものは、投資。
資産にならないものは、浪費。
という分類になる。
この本のタイトルでもある『投資思考』に関する重要な部分の一つである。
しかも、その後には、そのようにバランスシートに記載され、それまでが精算されているので、人生において、一発逆転は難しい、と指摘しているのも面白い。
その中でも特に大事にすべしと教えられたのが“Our clients’ interests always comes first.(我々は、顧客にとっての利益を常に最優先する)”というものでした。(P.45「第1章 基本編:1-2 バランスシートを意識する」)
その流れで、大学卒業後に入社したゴールドマン・サックスの経営理念について。
ゴールドマン・サックスでは、14項目の経営理念があり、その第一番目に上記の言葉があるという。
また、明文化はされていないが、さらに大事にされている価値観“Long Term Greedy(長期的な欲深さ)”というものも学んだという話が続く。
顧客の利益と長期的な欲深さ。
これも常に意識しておかないといけない。
短期でマイナスになっても、長期でプラスになれば良いということ。
これもバランスシート的な考え方に通じるものである。
マーケットは常に正しいという考え方は、まず世の中を“自分自身”(考え方・行動・習慣など)と“自分以外の要素”(家族・友人・会社・政治・経済など)の2つに分けることから始まります。(P.60「第1章 基本編:1-5 マーケットは常に正しい」)
債券のトレーディングを20年以上続けてきた業界の有名人から「マーケットは常に正しい」と教えられたという。
自分のやり方や考え方に執着しないで、現実に起きていることに対して柔軟に応じなさいというもの。
どんなに優秀なトレーダーでも勝率は6割。つまり、4割は負ける。
そこから、著者自身の考えを発展させる。
自分自身と、自分自身以外を分ける。自分自身以外には介入しない。自分自身に集中する。
自分が介入できること、干渉できること、影響を与えられること、コントロールできることに集中する。
『7つの習慣』の「影響力の輪」みたいなものか。
この辺りも、意外と忘れがちになってしまうからな。肝に銘じておかないと。
あなたにとっては初めての取り組みであっても、そのほとんどは人間の歴史・業界の歴史から見れば何千回何万回と繰り返されており、「こうやると最も効率が良いですよ」という正解は必ず存在しているのです。(P.74「第1章 基本編:1-7 常にフレームワークから始める」)
前例やフレームワークをしっかりと勉強してから、現実の自分の問題に対処する。
愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ、的な。
一つのテーマや業界の歴史をまず学ぶというのは超重要だな。そこから考え方を取り入れていく。
既に正解が出ているものに対して、あれこれ悩んだり考えたりしても無駄である。
まとめ|高給を取りたいなら、産業構造を分析し、資本装備率の高い業界を目指せ。(P.107「第1章 基礎編:1-11 給料は資本装備率で決まっている」)
ディベロッパーの森ビルと、外食産業の吉野家HDを比較。年間収益は、2,500億円と2,000億円。
だが、資産規模と従業員数が異なる。
資本装備率=有形固定資産÷従業員数
40倍の差が出る。
つまり、外食産業よりディベロッパーの方が、資本装備率が良いので、給料も良い。
また「資本装備率は個社要因というよりも業界要因によって決定されます」という指摘も。
業界の資産規模、企業の資産規模、従業員数。
超絶重要な変数。
まとめ|成功したやり方は賞味期限が切れるまで徹底的に繰り返せ。(P.144「第2章 応用編:2-4 儲かるトレードアイデアは徹底的に繰り返す」)
何らかの勝ちパターンを見つけたら、余計なことをしないで徹底的に繰り返す。そして賞味期限が切れたらスパッと止める。
別の方法を取る。良いものは取り入れる姿勢。
効果が消えるまで続ける。その間に別の施策を複数考案しておく。
またその後の文章では、常にライバルを作っておくというアドバイスも。著者は、同期がいなかったので、年齢の近い先輩を仮想ライバルとしていたとか。
その先輩に勝とうと考えて、残業、土日の出社で追いつこうとした。
しかも金曜の夜の飲み会では、抜け出して会社に戻ってレポートを作成し、再び飲み会に戻ったというエピソードも。
発想も体力も凄いな。これくらいしないと抜け出せないということか。
自分に求められる役割を果たすといった社内政治をきちんとやることこそが仕事の第一歩であり、それを突破した人であればきちんとクライアントの背景を理解して立ち回り、成果を生み出すことができるので、<後略>(P.168「第2章 応用編:2-10 社内政治を制するものが、営業を制す」)
社内政治を悪いものと勘違いしていた著者。俯瞰力がなかったことを後悔。社内政治は必須科目であるとまとめている。
確かに。自分の役回りを明確に理解することが大切である。社内政治は、折衝や交渉、利害調整の下準備みたいなものである。
社内の営業ができなければ、社外での営業もできない。
社内に味方がいなければ、社外に味方も作れない。
それぐらい、調整や気配りが出来る能力が必要ということ。
また、その後には1年に1度、自分の交友関係を見つめ直しなさいと。
自分より高い位置の人に絡もうとするのではなく、自らを改善し、自らが上がりなさいと。自分を高めなさいと。
これも気を付けないといけないな。自らを磨きつつ、多くの人と交流していこう。
これほどまでに選択肢にあふれる時代だからこそ、選択肢を持たない相手と取引を行うことは、より一層価値が高いのです。
<中略>
職業を問わず「選択肢がない状況に自分を追い込まない」という点を意識することは大変重要です。(P.182「第2章 応用編:2-13 選択肢のない相手と取引する)
やばっ、めっちゃ怖い。ただかなり肝心。
まずは相手として、選択肢の無い人を探す。
そして、自分は常に選択肢のある状態にしておく。
代案を複数持っておく。取引先、営業先、仕事の種類など、色々と当てはまる。
幸運なことにX Capital社は売上規模、組織規模ともにスルスルと成長していっているので、私が「野原君の未来に賭けた」投資もどうやら大失敗ではなさそうだ。(P.191「解説」)
事業家botによる解説の文章。
ざっくり何となく投資したというには笑ってしまったけれど。
あとは、冷静さというか俯瞰力の凄まじさ。「大失敗ではなかった」と書かれている。
ポーズなのか、常にそういった性格なのか。
というわけで、投資思考というか、貸借対照表思考、バランスシート思考といった考え方を中心に、多くのことが学べる非常にオススメの本である。