- 伊藤隆行の経歴と哲学
- 番組制作と自己犠牲
- 組織での立ち回り方
- 伊藤隆行とテレ東出身者
伊藤隆行の略歴・経歴
伊藤隆行(いとう・たかゆき、1972年~)
テレビプロデューサー。
東京都小金井市の出身。早稲田大学高等学院、早稲田大学政治経済学部を卒業。
1995年にテレビ東京に入社。
『伊藤Pのモヤモヤ仕事術』の目次
はじめに
第一章 最下位局・テレビ東京で育って
証言1 「伊藤Pの源とは?」 大江麻理子
第二章 プロデューサーという仕事
証言2 「伊藤君がいるといないとでは、ムードが違う」 さまぁ~ず 大竹一樹・三村マサカズ
第三章 企画の考え方
証言3 「伊藤さんが作る『テレ東初』」 大橋未歩
第四章 サラリーマンとしての仕事術――テクニック編
証言4 「革命軍のリーダー、伊藤隆行」 北本かつら
第五章 伊藤Pのモヤモヤ仕事術――「気の持ちよう」こそ全て編
証言5 「お前はバカだから、制作に行け」 近藤正人
第六章 テレビについて考えること――五番勝負
おわりに
参考資料 伊藤隆行が関わった代表的番組など
『伊藤Pのモヤモヤ仕事術』の概要・内容
2011年9月21日に第一刷が発行。集英社新書。251ページ。
証言として登場する人物たちは、以下の通り。
大江麻理子(おおえ・まりこ、1978年~)…キャスター。福岡県豊前市の出身。照曜館中学校・東筑紫学園高等学校、フェリス女学院大学文学部日本文学科を卒業。2001年にテレビ東京に入社、2025年に退社。
大竹一樹(おおたけ・かずき、1967年~)…お笑いタレント。さまぁ~ずのボケ担当。東京都墨田区の出身。東海大学付属高輪台高等学校を卒業、東海大学文学部を中退。
三村マサカズ(みむら・まさかず、1967年~)…お笑いタレント。さまぁ~ずのツッコミ担当。東京都墨田区の出身。東海大学付属高輪台高等学校を卒業。
大橋未歩(おおはし・みほ、1978年~)…アナウンサー。兵庫県神戸市須磨区の出身。神戸市立北須磨小学校、神戸女学院中学部・高等学部、上智大学法学部法律学科を卒業。2002年にテレビ東京に入社、2017年に退社。
北本かつら(きたもと・かつら、1974年~)…放送作家、脚本家。東京都新宿区の出身。中央大学法学部を中退。
近藤正人(こんどう・まさと)…慶應義塾大学文学部を卒業、1980年にテレビ東京に入社。伊藤隆行の元上司。
『伊藤Pのモヤモヤ仕事術』の要約・感想
- 著者・伊藤隆行とは何者か?
- 『伊藤Pのモヤモヤ仕事術』の構成と魅力
- 最下位局・テレビ東京で育って
- プロデューサーとの仕事は武士道に通じる
- 企画の考え方と熱い思い
- サラリーマンとしての仕事術:精神的テクニック
- 伊藤Pのモヤモヤ仕事術と上司の思い
- 衝撃の「おわりに」:妻が語る伊藤隆行の素顔
- まとめ:『伊藤Pのモヤモヤ仕事術』から得られるもの
仕事に行き詰まりを感じたり、何か新しいアイデアを生み出したいと思ったりする瞬間は、誰にでもあるだろう。
そんな時、型破りな発想と行動力で数々の人気番組を世に送り出してきたテレビプロデューサーの仕事術は、きっと我々の凝り固まった頭に新たな風を吹き込んでくれるはずである。
今回紹介するのは、テレビ東京のプロデューサー、伊藤隆行(いとう・たかゆき、1972年~)による著書『伊藤Pのモヤモヤ仕事術』である。
『モヤモヤさまぁ~ず2』や『やりすぎコージー』、『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』など、個性的でエッジの効いた番組を手掛けてきた彼の思考の断片が、この一冊には詰まっている。
テレビ東京といえば、他のキー局とは一線を画す独自の路線を突き進むテレビ局として知られている。
その中でも特に異彩を放つテレビ東京出身のプロデューサーたちの活躍は目覚ましく、佐久間宣行(さくま・のぶゆき、1975年~)や高橋弘樹(たかはし・ひろき、1981年~)、上出遼平(かみで・りょうへい、1989年~)といった面々の著書を手に取った人もいるかもしれない。
本書は、いわばその源流の一人とも言える伊藤隆行の仕事に対する哲学、発想法、そしてサラリーマンとしての処世術が赤裸々に語られた一冊なのである。
著者・伊藤隆行とは何者か?
著者の伊藤隆行は、東京都小金井市の出身。早稲田大学高等学院を経て、早稲田大学政治経済学部を卒業後、1995年にテレビ東京へ入社した。
もともとは、報道志望でジャーナリストになりたいと思っていたらしいが、入社以来、バラエティ番組を中心に数多くのヒット作を生み出し続けている。
その手掛ける番組は、一見すると突拍子もないアイデアが多いように見えるが、そこには緻密な計算と、何よりも「面白いものを作りたい」という純粋な情熱が込められているのだ。
本書を読めば、その源泉に触れることができる。
『伊藤Pのモヤモヤ仕事術』の構成と魅力
本書は、「はじめに」から始まり、全六章で構成されている。
各章の終わりには、伊藤隆行とゆかりの深い人物たちからの「証言」が挟まれており、これがまた面白い。
キャスターの大江麻理子(おおえ・まりこ、1978年~)や、お笑いコンビのさまぁ~ずの大竹一樹(おおたけ・かずき、1967年~)と、三村マサカズ(みむら・まさかず、1967年~)。
元テレビ東京アナウンサーの大橋未歩(おおはし・みほ、1978年~)、放送作家の北本かつら(きたもと・かつら、1974年~)。
そして、テレビ東京の元上司である近藤正人(こんどう・まさと)といった面々が、それぞれの視点から伊藤隆行という人間を語る。
この構成自体が、まるで一つのドキュメンタリー番組を見ているかのように巧みであり、読者を飽きさせない工夫が凝らされている。
文章全体からは伊藤隆行らしい、どこか飄々としながらも熱い魂が感じられ、読みやすい。
決して小難しい理論が展開されるわけではないが、読後には確かな満足感と、何か行動してみたくなるような不思議な高揚感が残るはずだ。
最下位局・テレビ東京で育って
第一章では、伊藤隆行がテレビ東京という「最下位局」でどのように育ってきたのかが語られる。
一般的に見ればハンデとも思える環境が、逆に彼独自の強みや発想力を鍛え上げる土壌となったのかもしれない。
テレビ東京ならではの自由な気風、そして常に挑戦者であり続ける精神が、伊藤隆行の番組作りの根底には流れているのだろう。
この章の終わりには、テレビ東京の看板アナウンサーである大江麻理子からの証言「伊藤Pの源とは?」が収録されている。
彼女の言葉からは、伊藤隆行の仕事に対する真摯な姿勢や、周囲を巻き込む人間的魅力が伝わってくる。彼女から見た伊藤隆行像は、また異なる一面を照らし出してくれる。
プロデューサーとの仕事は武士道に通じる
第二章では、伊藤隆行が考える「プロデューサーという仕事」について深掘りされる。
番組の総責任者であるプロデューサーには、一体何が求められるのだろうか。
企画力、実行力、交渉力、リーダーシップ……様々な要素が挙げられるだろうが、伊藤隆行の言葉はもっと本質的で、そして強烈である。
さてなんの話をしているのかというと、プロデューサーにも「人のために死ねること」が求められると思うのです。プロデューサーは、やりたい企画が面白くなければいけませんが、それだけで務まる仕事でもありません。大事なのは、人のために死ねること……いや、死にまくれることが、プロデューサーの最低条件です。(P.66「第二章 プロデューサーという仕事」)
この「人のために死ねる」という言葉は、野球のバントの重要性に例えられた話から続く。
自己犠牲を厭わず、チームのために、面白い番組のために、面倒な根回しや調整ごとにも積極的に身を投じる。
その姿勢は、まるで現代に生きる武士のようでもある。ほぼ武士道である。
プロデューサーとは、単なる管理者ではなく、番組という名の戦場で先頭に立って道を切り拓く、熱い魂を持った存在なのだと教えられる。
この章の証言者は、公私ともに伊藤隆行と親交の深い、さまぁ~ずの二人だ。
「伊藤君がいるといないとでは、ムードが違う」という言葉は、現場における伊藤隆行の存在感の大きさを物語っている。
彼らが語る伊藤隆行は、常に面白いことを追求し、演者やスタッフを信頼し、そして何よりもテレビを愛している男なのである。
企画の考え方と熱い思い
テレビ番組の面白さを左右する「企画」。
第三章では、伊藤隆行流の「企画の考え方」が明かされる。奇想天外な企画は、一体どこから生まれてくるのだろうか。
「企画書を書く時、最初に何を考えるんですか?」と聞かれることがあります。
僕の場合、非常にシンプルです。まず最初は「これを見てみたい」と思うタイトルや一枚の画しか浮かびません。そういう“核”の部分を先に見つけないと、その先の発想ができないんです。(P.94「第三章 企画の考え方」)
伊藤隆行の企画術は、まず強烈な「一枚の画」や「タイトル」といった核を見つけることから始まるという。
複雑な理屈ではなく、自分が純粋に「これを見てみたい!」と思えるかどうか。
その初期衝動を大切にし、そこから肉付けしていくスタイルは、あらゆる分野の企画立案に応用できる考え方ではないだろうか。
この章では、具体的な番組のエピソードも豊富に語られる。例えば、さまぁ~ず司会の深夜番組『怒りオヤジ』と『モヤモヤさまぁ~ず2』に関するエピソードは、伊藤隆行の義理堅さと番組への愛情が凝縮されている。
……と普段は説明しているのですが、実はもうひとつの理由があります。
昔、深夜にさまぁ~ず司会で『怒りオヤジ』という番組をやっていました。(P.101「第三章 企画の考え方」)
タイトルに、「2」や「3」をつけると、人気があって続いているような雰囲気で、そのように視聴者も思ってくれて、見てくれるかもしれない、といった表向きの説明をしていると、発言している部分。
その後に、もう一つの理由を語る。
当時、他局で放送されていた、さまぁ~ずの番組があった。
テレビ東京でも、その後に直ぐに、さまぁ~ずの番組を新しく放送しようとしていた。だが、その他局は、認めなかった。
「裏被り」つまり、同じタレントが同じ時間帯に別々の局の番組に出演してしまうこと、を避けるため、スポーツ中継などの延長で放送時間がズレた場合には、放送休止などの好条件の話をしたにもかかわらず、結果的にその局の難色により『怒りオヤジ』のレギュラー化が叶わなかったという。
しかし、伊藤隆行はそこで諦めなかった。
『怒りオヤジ3』として、おぎやはぎの矢作兼(やはぎ・けん、1971年~)と、カンニング竹山(かんにんぐ・たけやま、1971年~)を起用して番組をスタートさせたのだ。
そして、幻となった「2」は、さまぁ~ずのために欠番とした。
さらに、後に始まる『モヤモヤさまぁ~ず2』が「2」からスタートしているのは、この『怒りオヤジ』の欠番を受け継いでいるからだというのだから、その熱い思いには胸を打たれる。
また、思わず笑ってしまうような失敗談も包み隠さず語られているのが本書の魅力だ。
元テレビ東京アナウンサーの大橋未歩に「お口に出してイッちゃって!」という際どいコーナータイトルをスタジオで絶叫させたエピソードは、その最たるものだろう。
結局、放送後、上層部に呼び出され、「おまえはアナウンサーをなんだと思っているんだ!!」とえらい剣幕で怒られました。言われるままに仕事した大橋アナも怒られて、「私もすっかり穢れてしまいました……。私の人生、どうなっちゃうんでしょう?」と涙目で嘆かれたことも懐かしい思い出です。(P.117「第三章 企画の考え方」)
このエピソードには、思わず吹き出してしまった。
しかし、こうしたギリギリを攻める姿勢こそが、テレビ東京らしいエッジの効いた番組を生み出す原動力なのかもしれない。当時の放送をリアルタイムで見ていたような記憶がある人もいるのではないだろうか。
この章の証言は、その大橋未歩本人から寄せられている。
「伊藤さんが作る『テレ東初』」と題された文章からは、アナウンサーという立場でありながらも、伊藤隆行の無茶な要求(?)に応え続け、共に新しい表現を切り拓いてきた同志のような関係性がうかがえる。
サラリーマンとしての仕事術:精神的テクニック
フリーランスではなく、テレビ局という組織に属するサラリーマンである伊藤隆行。
第四章では、そんな彼が組織の中でどのように立ち回り、仕事を進めてきたのか、その「テクニック」が語られる。
しかし、それは決して世渡り上手な処世術といった類のものではない。
ここで注意です。
「損してるかも……」という感情は強く無視することがポイントです。(P.146「第四章 サラリーマンとしての仕事術――テクニック編」)
これは、上司や先輩から怒られている際に、伊藤隆行の中に芽生えたある種の「アナーキーな感情」から学んだ教訓だという。
かつては自分たちも無茶な企画をやっていたはずの先輩たちが、立場が変わると急に「善人」ぶった意見を言ってくる。
そんな矛盾を感じた伊藤隆行は、むしろ叱られそうな企画をあえてぶつけていくことで、「何をするか分からないヤツ」という独自のポジションを確立していったのだ。
もちろん、これは諸刃の剣かもしれない。
しかし、組織の中で新しいことを成し遂げようとする時、ある程度の抵抗や軋轢は避けられないものだ。
その際に、自分の信念を貫き通す強さ、そして「損得勘定」で動かない覚悟が重要になることを、このエピソードは教えてくれる。
証言者である放送作家の北本かつらは、伊藤隆行を「革命軍のリーダー」と評する。その言葉通り、伊藤隆行は既存の枠組みに囚われず、常に新しい風を吹き込もうとする改革者なのであろう。
伊藤Pのモヤモヤ仕事術と上司の思い
本書のタイトルにもなっている「モヤモヤ仕事術」。
第五章では、その核心に迫る「気の持ちよう」について語られる。仕事をしていると、誰しもが様々な「モヤモヤ」を抱えるものだ。理不尽な要求、進まない企画、人間関係のストレス……。
そんな時、伊藤隆行はどのようにそのモヤモヤと向き合い、力に変えてきたのだろうか。
いや、伊藤隆行の言うところの「モヤモヤ」とは何なのか。それも語られる。
この章では、具体的なテクニックというよりも、むしろ精神論に近い部分が語られるのかもしれない。しかし、結局のところ、物事を前に進めるのは「気の持ちよう」ひとつで変わってくることも多い。
困難な状況でも、それをどう捉え、どう楽しむか。伊藤隆行流のポジティブな思考転換術は、日々の仕事に疲れた心に活力を与えてくれるだろう。
単に、平均の人よりは、打たれ強いという性格はあるのかもしれないが。
この章の証言は、伊藤隆行の元上司であり、彼を制作現場へと導いた張本人でもある近藤正人から寄せられている。
「お前はバカだから、制作に行け」という、一見すると強烈な言葉の真意も触れられる。その言葉が、伊藤隆行のテレビマンとしてのキャリアを決定づけたのかもしれない。
衝撃の「おわりに」:妻が語る伊藤隆行の素顔
そして、本書を読み終えて最も衝撃を受けるのが、「おわりに」の部分かもしれない。
なんと、このあとがきは「伊藤隆行の妻です」という一文から始まるのだ。
これまでの証言者たちも伊藤隆行をよく知る人物ばかりだったが、妻という最も身近な存在からの言葉は、また格別なリアリティと面白さがある。
シャワー中に突然絶叫するなど、家庭での伊藤隆行の意外で、少し不安にもなるような一面が、ユーモラスに綴られており、プロデューサーとしての顔とはまた違う、一人の人間としての伊藤隆行が垣間見える。
このユニークな構成もまた、伊藤隆行らしいサービス精神の表れなのかもしれない。
まとめ:『伊藤Pのモヤモヤ仕事術』から得られるもの
『伊藤Pのモヤモヤ仕事術』は、アカデミックな経営書や自己啓発本とは趣が異なる。
しかし、そこには、一つの道を極めようとする人間の生々しい葛藤や情熱、そして困難を乗り越えるためのヒントが詰まっている。
読みやすく、随所に笑えるエピソードも散りばめられており、エンターテインメントとしても十分に楽しめる一冊である。
本書を読むことで、伊藤隆行という稀代のプロデューサーの思考回路や人間性に触れることができるのは間違いない。
それは、テレビやマスコミ、メディア、エンタメの業界を目指す若者にとっては、進むべき道の一つの指針となるかもしれない。
また、日々の仕事にマンネリを感じている人や、新しい発想を生み出したいと願う全ての人にとって、凝り固まった思考を解きほぐし、一歩前に踏み出す勇気を与えてくれるはずだ。
特に、佐久間宣行や高橋弘樹、上出遼平といったテレビ東京出身の他の名物プロデューサーたちの著書を読んだことがある人ならば、本書は彼らに共通するテレビ東京のDNAのようなものをより深く感じ取ることができるだろう。
それぞれ、伊藤隆行、佐久間宣行、高橋弘樹、上出遼平は、直属上司・部下、先輩・後輩の関係でもある。
さらにちなみになぜか全員、早稲田大学の卒業生でもある。早稲田卒のテレ東プロデューサー出身者たちは何か似た要素があるのかもしれない。
何か面白いことをしたい、誰かを楽しませたい、そして自分自身もワクワクしたい。
そんな純粋な思いを抱えながらも、日々の業務に追われてモヤモヤしているのなら、ぜひこの『伊藤Pのモヤモヤ仕事術』を手に取ってみてほしい。
きっと、あなたの心の中にある「面白いこと」の種に、水を与えてくれるはずである。
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