
書籍紹介
- バフェットの幼少期のビジネス体験と7歳で出会った複利の本が、生涯の投資哲学の基盤に。
- ハーバード不合格という挫折が恩師グレアムとの出会いを生み、フィッシャーの理論を加えてバリュー投資と成長株の見極め方を確立。
- 心理コントロール、安全マージン、現場の一次情報収集、理解できる事業のみ投資するという鉄則が成功の鍵。
- 年次報告書の読み方や誠実な経営姿勢を重視し、時流に流されない学び続ける姿勢が資産を築く。
濱本明の略歴・経歴
濱本明(はまもと・あきら、1968年?~)
日本大学商学部会計学科の教授。
慶應義塾大学経済学部を卒業。
ちゃぼの略歴・経歴
ちゃぼ
漫画家。
神奈川県の出身。
ウォーレン・バフェットの略歴・経歴
ウォーレン・エドワード・バフェット(Warren Edward Buffett、1930年~)
アメリカの投資家、経営者。
アメリカのネブラスカ州オマハの出身。ペンシルベニア大学ウォートン・スクールファイナンス学科に入学、後に中退。
ネブラスカ大学リンカーン校に編入、卒業して経営学の学士号を取得。
コロンビア大学ビジネススクールに進学し卒業、経済学の修士号を取得。
1954年から資産運用会社グレアム・ニューマンに勤務。
1956年にバフェット・アソシエイツ株式会社を設立。
1965年にバークシャー・ハサウェイの経営権を取得。
『マンガでわかる バフェットの投資術』の目次
はじめに
PART1 幼少期 バフェットの生まれた環境と早熟なビジネスの才能
PART2 青年期 恩師グレアムとの出会いとグレアム・ニューマン入社
PART3 壮年期 フィッシャー理論との出会いとバークシャー取締役就任
PART4 最盛期 バークシャーの経営と関連会社との関わり
PART5 熟年期 最前線で投資を続けるバフェット
バフェット年譜
おわりに
参考文献・参考映像・本文に登場する日本語訳されている書籍
『マンガでわかる バフェットの投資術』の概要・内容
2021年6月5日に第一刷が発行。スタンダーズ。175ページ。A5版。148mm✕210mm。
『マンガでわかる バフェットの投資術』の要約・感想
- 環境と才能が交差する幼少期
- 複利という魔法との運命的な出会い
- 挫折から生まれた恩師との巡り合わせ
- 心理を制御する三つの大切な教訓
- 価値を見極める七つの厳格な基準
- 企業の稼ぐ力を測る重要な指標
- 揺るぎない鉄則と安全域の考え方
- 現場の一次情報が持つ圧倒的な価値
- 未来の成長を見通す十五の問いかけ
- 自身の理解できる領域で勝負する
- 誠実な経営と情報の透明性を求める
- 年次報告書から真実を読み解く技術
- 時流に流されない確固たる投資姿勢
- 長寿企業がひしめく日本への新たな眼差し
- 学び続ける姿勢がもたらす果実
世の中には数多くの投資に関する書籍が存在している。
その中でも特にお勧めしたいのが『マンガでわかる バフェットの投資術』という素晴らしい一冊である。
本書の総監修を務めているのは、日本大学商学部会計学科教授である濱本明(はまもと・あきら、1968年?~)である。
彼は慶應義塾大学経済学部を卒業しており、会計学や経済学の深い知見から本書の監修を行っている。
また、親しみやすい漫画を担当しているのは、神奈川県出身の漫画家である、ちゃぼである。
この本は、世界で最も有名な投資家であり経営者でもあるウォーレン・エドワード・バフェット(Warren Edward Buffett、1930年~)の生涯と哲学を描き出している。
彼はアメリカのネブラスカ州オマハの出身であり、現在に至るまで数々の伝説的な投資実績を残してきた人物である。
ペンシルベニア大学ウォートン・スクールファイナンス学科に入学したものの中退し、ネブラスカ大学リンカーン校に編入して経営学の学士号を取得したという経歴を持つ。
さらに、コロンビア大学ビジネススクールに進学して経済学の修士号を取得するなど、学問的な背景もしっかりと持ち合わせている。
1954年からは資産運用会社グレアム・ニューマンに勤務し、1956年にはバフェット・アソシエイツ株式会社を設立した。
そして1965年にバークシャー・ハサウェイの経営権を取得し、同社を世界最大級の投資会社へと育て上げたのである。
環境と才能が交差する幼少期
彼の人生を振り返ると、幼少期の環境がその後の並外れた成功に大きな影響を与えていることがよく分かる。
彼の父親は証券会社を営んでおり、彼は子供の頃からビジネスや金融の空気に触れる環境で育ったのである。
これは、才能の片鱗を開花させるための極めて重要な環境的要因であったと言えるだろう。
幼い頃から数字や商売に対する感覚が磨かれることで、彼は自然と経済の仕組みを理解するようになっていった。
彼自身も子供の頃から、コーラを仕入れて売ったり、ゴルフボールを拾って売ったりと、実際にビジネスを経験していたのである。
机上の空論ではなく、現実の商売を通じて利益を生み出すという体験を若くして積んでいたことは、その後の投資家としての姿勢に直結している。
商売の基本は、安く仕入れて高く売ることであり、それは株式投資の基本とも完全に一致しているのだ。
このような実践的な経験が、彼の論理的思考力とビジネスに対する鋭い嗅覚を養っていったに違いない。
複利という魔法との運命的な出会い
彼の幼少期を語る上で欠かせないのが、7歳の頃に地元の図書館で出会った一冊の本である。
その本とは、フランシス・コーラ・ミネイカー(Frances Cora Minaker、1895年~1968年)が執筆した『One Thousand Ways to Make $1000』という書籍であった。
彼はこの本から、お金を稼ぐための具体的な方法だけでなく、投資において最も強力な武器となる「複利」の概念を学んだのである。
複利とは、元本についた利子が次の期間には新たな元本に組み込まれ、そこにさらに利子がつくという仕組みである。
アルベルト・アインシュタイン(Albert Einstein、1879年~1955年)が「人類最大の発見」と呼んだとも言われるこの複利の力を、彼はわずか7歳にして理解し、魅了されたのだ。
時間が経てば経つほど、雪だるま式に資産が増えていくという数学的な事実が、彼の人生の羅針盤となったのである。
若いうちから投資を始め、長期間にわたって運用を続けることがいかに重要であるかを、彼はこの本から学び取った。
この運命的な出会いがなければ、現在の投資の神様は誕生していなかったかもしれない。
挫折から生まれた恩師との巡り合わせ
輝かしい経歴を持つ彼にも、若き日には大きな挫折の経験があった。
実は、彼は世界最高峰の教育機関であるハーバード大学ビジネススクールを受験し、不合格となっているのである。
学業成績は優秀であったにもかかわらず、面接で不合格の判定を下されてしまったというのだ。
若き日の彼にとって、この出来事は決して小さくないショックであったと想像できる。
しかし、人生というものは誠に不思議なものであり、この挫折が結果として最高の幸運をもたらすことになる。
ハーバード大学に落ちた彼は、感銘を受けた『賢明なる投資家』の著者であるベンジャミン・グレアム(Benjamin Graham、1894年~1976年)が講義を受け持つを知って、コロンビア大学ビジネススクールへと進学することに。
もしハーバード大学に合格していれば、彼の投資手法は全く違ったものになっていたかもしれない。
運命のいたずらとも言えるこの出来事が、彼の投資家としての道筋を決定づける重要な転換点となったのだ。
心理を制御する三つの大切な教訓
投資において最も難しいのは、市場の分析ではなく自分自身の心理をコントロールすることである。
彼は幼少期から青年期にかけての経験を通じて、投資に関する極めて重要な教訓を導き出している。
バフェットが投資で得た3つの教訓
1 買ったときの株価にこだわらない
2 目先の小さい利益にとわられない
3 極力他人のお金では運用しない(P.36「幼少期 バフェットの生まれた環境と早熟なビジネスの才能」)
購入時の価格にこだわってしまうと、人間は合理的な判断ができなくなってしまう。
株価が買った時よりも少し下がっただけで慌てて売ってしまったり、逆に少し上がっただけで満足して手放してしまったりするのだ。
これは二番目の教訓とも深く通じており、目先の小さな損失や利益にとらわれないという確固たる姿勢が必要である。
また、他人の影響を受けないために、基本的に他人のお金は運用しないというルールも非常に理にかなっている。
他人のお金を預かって運用すると、自分の判断とは関係のない別のプレッシャーが掛かってしまうからだ。
顧客から利益を急かされたり、損失を責められたりすることで、自己判断が鈍ってしまう危険性がある。
冷静でいられなくなる状況を自ら排除するというこの姿勢は、投資だけでなくあらゆるビジネスにおいてとても勉強になる。
目標とする適正価格になるまで決して売らないという忍耐力や、勝ち負けの理由を客観的に分析する姿勢の根幹がここにある。
価値を見極める七つの厳格な基準
彼がコロンビア大学で学んだ恩師が、「バリュー投資の父」と呼ばれるベンジャミン・グレアムである。
グレアムの教えは、現在の彼の投資哲学の強固な基礎となっている。
バリュー投資の7つの基準
①適切な事業規模か:小型株は避ける
②財務状況は健全か:流動資産が流動負債の2倍以上かつ長期負債が純流動資産以下
③収益は安定しているか:最低10年間は赤字がない
④配当はあるか:20年連続で配当を出している
⑤収益の伸びはどうか:過去10年間のうち直近3年間の1株あたり純利益が最初の3年間より33%以上上昇
⑥株価収益率は妥当か:PERが15倍以下
⑦株価純資産倍率は妥当か:PBRが1.5倍以下(P.60「青年期 恩師グレアムとの出会いとグレアム・ニューマン入社」)
これが、グレアムが提唱したバリュー投資の七つの基準である。
非常に厳格であり、一つ一つの指標が企業の真の実力を測るための精緻なフィルターとなっている。
適切な事業規模を求め、リスクの高い小型株を避けることで、安定性を確保している。
また、流動資産や負債のバランスを厳しくチェックすることで、企業が倒産するリスクを徹底的に排除しているのだ。
十年間赤字がないことや、二十年連続で配当を出していることなどは、その企業が持つビジネスモデルの強靭さを証明するものである。
さらに、PER(Price Earnings Ratio、株価収益率)や、PBR(Price Book-value Ratio、株価純資産倍率)といった指標を用いて、株価が本来の価値に対して割安であるかどうかを冷静に判断する。
これらの基準は、感情に流されず、純粋に数字と事実に基づいて企業を評価するための強力な武器となるのである。
企業の稼ぐ力を測る重要な指標
企業を評価する際、彼は特定の財務指標に強いこだわりを持っている。
バフェットも、1株あたり純利益(EPS)よりもROEを重視すべきだと説き、米国企業の平均である15%以上をすすめている。(P.70「青年期 恩師グレアムとの出会いとグレアム・ニューマン入社」)
ROEとは、Return On Equityの略であり、日本語では自己資本利益率と呼ばれる指標である。
これは、企業が株主から集めた資金(自己資本)を使って、どれだけ効率よく利益を生み出しているかを示すものである。
日本企業の場合、このROEは10%前後が平均的であると言われている。
したがって、日本企業に投資する際も、10%を上回っているかどうかが一つの良い基準になるだろう。
また、類似の指標としてROA(Return On Assets、総資産利益率)というものもあり、こちらは最低でも6%以上であることが望ましいとされる。
自己資本比率については、40%以上が合格ラインであり、50%以上が理想的な状態であると言える。
しかし、自己資本比率が単に高過ぎれば良いというわけでもないのが、経営の奥深いところである。
なぜなら、あまりにも自己資本比率が高すぎる場合、その企業は信用がなく、金融機関から資金を借り入れできない状態にあるとも推測されるからだ。
数字の表面だけを見るのではなく、その数字がどのような背景から生み出されているのかを読み解く力が求められるのである。
揺るぎない鉄則と安全域の考え方
彼が恩師グレアムの下で働いていた時代、常に意識していた三つの重要な鉄則がある。
・企業の一部を所有するつもりで買う
・安全マージン(安全域)を利用する
・マーケットは主人ではなくしもべである(P.73「青年期 恩師グレアムとの出会いとグレアム・ニューマン入社」)
一つめの鉄則は、株券を単なる紙切れやギャンブルの対象として見るのではなく、実際のビジネスの一部を所有するという意識を持つことだ。
これにより、目先の株価の変動ではなく、その企業の長期的な成長を見越した投資が可能になるのである。
二つめの安全マージンとは、投資において損失を回避するための極めて重要な概念である。
グレアムは安全マージンを、企業の清算価値と時価総額との差であると定義していた。
それを彼は独自に発展させ、企業の本来の事業価値と時価総額の差であると定義し直したのである。
この差が大きければ大きいほど、投資家は安全に利益を手にする確率が高まる仕組みになっている。
三つめの鉄則は、市場の気まぐれな動きに決して振り回されないということである。
市場は日々乱高下し、人々の欲望や恐怖を煽り立てるが、それに感情を左右されてはならない。
あくまでも主人は自分自身であり、市場は自分に奉仕するしもべであるという毅然とした姿勢を保つことが不可欠なのである。
現場の一次情報が持つ圧倒的な価値
彼は恩師グレアムから多くのことを学んだが、やがてそれだけでは不十分であることに気づき始める。
・ほかの投資家の意見を鵜呑みにせず、自ら調べ判断することが大事
・商品やサービスのうわさや評判で企業を評価することも重要(P.101「壮年期 フィッシャー理論との出会いとバークシャー取締役就任」)
この教訓を象徴するのが、アメリカン・エキスプレスが巻き込まれたサラダオイル事件と呼ばれる詐欺事件のエピソードである。
この事件により、同社は巨額の損失を抱え、世間の投資家たちはパニックに陥って株を投げ売りした。
しかし、彼は世間のうわさや新聞の悲観的な報道を決して鵜呑みにはしなかったのである。
彼は実際に街へ出て、レストランや店舗で人々がどのようにアメリカン・エキスプレスのカードを使っているかを自分で調べた。
その結果、詐欺事件に関わらず、利用者は普段と全く変わらずに同社のサービスを利用し続けている事実を確認したのである。
この現場の一次情報に基づく確信から、彼はパートナーシップの資金を投じて同社に大規模な投資を行い、後に莫大な利益を手にした。
自らの足で調べ、現場の事実を確認するという周辺情報の大切さを、彼はこの経験から痛感したという。
これは、後に彼が出会うフィリップ・アーサー・フィッシャー(Philip Arthur Fisher、1907年~2004年)の理論にも深く通じるものである。
師匠であるグレアムは、徹底して過去の数字である帳簿を重視するアプローチをとっていた。
そこに加えて、彼は帳簿には決して記載されない顧客の忠誠心やブランド力といった無形の価値を重視するようになっていったのである。
未来の成長を見通す十五の問いかけ
彼に多大な影響を与えたもう一人の人物であるフィッシャーは、成長株を見極めるための独自の理論を持っていた。
【フィッシャーの15の質問】
・売上拡大を続ける力を見るポイント
①現在の製品・サービスで収益増は望めるか
②新しい製品・サービスで収益増は望めるか
③研究開発はなされているか
④独自のノウハウはあるか
⑤優れた営業部門はあるか
⑥長期的展望はあるか
・利益を生み出す力を見るポイント
⑦売上高営業利益率は十分か
⑧営業利益率を維持・改善しているか
⑨適切なコスト分析・財務分析がなされているか
・経営者の質を見るポイント
⑩労使関係は良好か
⑪管理職の能力は引き出されているか
⑫優秀な管理職は豊富か
⑬経営者は悪いニュースも報告しているか
⑭経営者は投資家に対して誠実か
⑮増資のリスクはないか(P.104「壮年期 フィッシャー理論との出会いとバークシャー取締役就任」)
これが、企業の本質的な価値をあぶり出すための「フィッシャーの15の質問」である。
これらの項目は、売り上げの持続的な安定性と、未来へ向けた適切な投資が行われているかを厳しく問うものである。
優れた製品を持っているだけでなく、それを売るための営業力や、次の時代を創る研究開発力が備わっているかが重要になる。
さらに、どれほどビジネスモデルが優れていても、経営陣が誠実でなければ長期的な成功はあり得ない。
経営陣と従業員の労働環境が良好であるか、優秀な人材が育つ組織風土があるかという点も、見逃してはならないポイントである。
現代であれば、企業のホームページや年次報告書、ニュースサイトなどを通じて、これらの情報をある程度収集することができる。
自身の理解できる領域で勝負する
世の中には星の数ほどの企業が存在するが、彼が投資の対象とする企業には明確な基準がある。
・自分の理解できる事業に投資する
・安定した企業はトラブルに強い
・ブランド力やネームバリューがある企業は強い(P.114「壮年期 フィッシャー理論との出会いとバークシャー取締役就任」)
これが、彼の企業選定に関するシンプルかつ最強の指針である。
自分がそのビジネスの仕組みを深く理解できているからこそ、企業を正しく評価することができるのである。
逆に言えば、自分が理解できない複雑な事業には、どれほど儲かっているように見えても絶対に手を出さない。
理解できないものを正しく評価することは不可能であり、それは投資ではなく単なる投機になってしまうからだ。
非常にシンプルでありながら、多くの人が守ることができない論理的なルールである。
彼はグレアムのバリュー投資にフィッシャーの成長株理論を加え、企業の成長性やブランド、ネームバリューを深く考慮するようになった。
企業に成長性があるということは、競争の激しい市場において事業が安定しているとも言えるのである。
そして、事業が安定して成長を続けるからこそ、その企業のブランドやネームバリューはさらに増していくという好循環が生まれるのだ。
誠実な経営と情報の透明性を求める
彼自身が世界最大級の投資会社の経営トップとして、どのような指針を持って組織を率いているのかも非常に興味深い。
バフェットの経営に関する3指針
1 合理的な資本配分を行う:利益が出たときに、配当金や自社株買いで経営状況に合わせた的確な分配ができる
2 積極的な情報開示を行う:よいニュースだけでなく、悪いニュースもありのままを報告する
3 他社の経営方針を真似しない:他社のやり方を真似したり、従来型の手法にこだわったりせず、独自の方針をとっている(P.134「最盛期 バークシャーの経営と関連会社との関わり」)
これらの指針は、利益配分の適切さ、株主に対する徹底した誠実さ、そして安易な時流や同調圧力への強い抵抗を示している。
経営者として得た利益を無駄に貯め込むのではなく、株主に報いるために配当や自社株買いといった形で適切に還元することが求められる。
また、情報開示においては、企業にとって都合の良いニュースばかりを発表する経営者を彼は信用しない。
悪いニュースが発生した時こそ、ありのままの事実を迅速に報告する姿勢に、経営者の真の誠実さが表れるのである。
独り占めをせず、悪さをせず、悪い状況も正直に説明するという、人として当たり前のことをビジネスの世界で徹底しているのだなと感じる。
そして、他社がやっているからという理由で経営方針を決めることは絶対に避け、常に自分たちの頭で考えた独自の方針を貫き通している。
年次報告書から真実を読み解く技術
彼が企業を調査する際、最も重視する情報源の一つが企業の発行する年次報告書である。
①社長(会長)のメッセージ
②会社概要
③主要事業
④資産や負債の推移
⑤経営者の顔ぶれ(P.142「最盛期 バークシャーの経営と関連会社との関わり:年次報告書で確認すべき5項目」)
彼は膨大な数の年次報告書に目を通すが、ただ漫然と読むのではなく、明確な目的を持ってこれらの項目を確認している。
トップのメッセージからは経営者の哲学や誠実さを読み取り、事業内容や財務の推移から企業の体力を測るのである。
また、現在の投資対象から外れた企業であっても、少しでも気になる点があれば年次報告書を定期的にチェックし続けるという。
投資対象として適格な企業だけでなく、将来投資するかもしれない投資対象予備軍の動向まで常に把握しておくことが重要なのである。
このような地道な作業を長年続けられるのも、彼の中に決してブレない明確な評価基準が存在しているからこその対応と言える。
一般の人が年次報告書をそこまで気にして読むことは少ないかもしれない。
しかし、株式投資を成功させるための情報源として考えると、これほど有用で信頼できる一次情報は他にないということである。
時流に流されない確固たる投資姿勢
熟年期を迎えても、彼の投資に対する基本的なスタンスは全く変わることがない。
株価:その企業の本来価値より株価が割安である
事業:事業の内容が理解できる
業績:長期的に業績がよいことが予想される
能力:経営者に能力がある(P.159「熟年期 最前線で投資を続けるバフェット:バフェットの投資スタンス」)
このスタンスに関連して、彼の凄さを物語る有名なエピソードがある。
1999年から2000年にかけて、世界中がIT関連株の暴騰に沸いたドットコムバブルの時代、彼はIT業界に一切投資しなかったのである。
周囲の投資家たちが莫大な利益を上げる中、彼は自分が理解できない事業には手を出さないというルールを頑なに守り抜いた。
その後、ドットコムバブルは悲惨な崩壊を迎え、多くの投資家が資産を失ったが、彼は無傷であった。
そして時代が進み、事業モデルが変化して自分が理解できるようになったと判断した2011年になってからIBMに投資を開始した。
さらに2016年には、テクノロジー企業ではなく強固な消費者ブランドとして評価したAppleに対して巨額の投資を行っている。
自分が心から理解できる対象に絞るということが、いかに資産を守り、増やす上で重要であるかがよく分かる事例である。
分かったつもりになったり、世間に合わせて分かったふりをしたりすることは、投資の世界では絶対に避けるべきなのだ。
常に自分自身の知識と能力の限界に対して真摯であれという教えは、胸に深く刻んでおくべきだろう。
目先の流行やブームを追うのではなく、何十年というある程度の未来を見据えて行動することが大切なのである。
長寿企業がひしめく日本への新たな眼差し
長らくアメリカ企業を中心に投資を行ってきた彼であるが、2020年には世界中を驚かせる大きな決断を下した。
これまで直接投資してこなかった日本の株式市場に参入し、大手総合商社の株式を大量に取得したのである。
日本の五大商社と呼ばれる、伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅の株式をそれぞれ5%以上取得したというニュースは大きな話題となった。
彼の投資基準に照らし合わせると、これらの企業が持つ公共性や、グローバルなブランド力、そして高い配当利回りが評価されたと考えられる。
また、資源から消費財まで幅広いビジネスを束ねる商社という事業モデルの持続性も、彼の目に魅力的に映ったのだろう。
実は、日本という国は世界でも類を見ない長寿企業の宝庫であることをご存知だろうか。
日本国内には、創業から100年以上続く企業がなんと3万3,078社も存在している。
さらに歴史を遡れば、200年以上続く企業も1,340社あるという驚くべきデータがある。
このような長期的な視点と持続力を持った日本の独自の企業風土が、彼の投資哲学と見事に共鳴したのかもしれない。
学び続ける姿勢がもたらす果実
本書を通じて彼の人生と哲学を辿ってみると、実に多くの学びを得ることができる、一冊である。
父親が証券会社をやっていたという環境要因は確かに大きいが、それに甘んじることなく子供の頃から自らビジネスをやっていた行動力には驚かされる。
7歳の頃に図書館で偶然出合った一冊の本から複利の力を学び、それを生涯の武器にした点には、紛れもない才能の片鱗が出ていると感じる。
また、ハーバード大学ビジネススクールの面接で落ちたという経験が、結果的にグレアムという恩師との出会いを生んだというエピソードも非常に興味深い。
人生の挫折が、最大の成功への扉を開く鍵になることもあるのだということを教えてくれる。
彼は現在もなお、毎日膨大な資料を読み込み、新しい知識を吸収し続けているという。
投資の手法や財務の知識だけでなく、人間の心理や感情の動きを冷静に見つめる哲学的な視点こそが、彼の真の強さの源泉である。
これから資産形成を考えている若い世代の人々にとって、彼の歩んだ道のりとその考え方は、暗闇を照らす確かな灯台となるはずである。
本書は漫画という形式をとりながらも、その奥底には経済や経営の深い真理が隠されており、何度でも読み返す価値のある作品であると言える。
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