渡部昇一『財運はこうしてつかめ』

渡部昇一の略歴

渡部昇一(わたなべ・しょういち、1930年~2017年)
英語学者、評論家。
山形県鶴岡市生まれ。上智大学文学部英文学科を卒業、上智大学大学院西洋文化研究科修士課程を修了。
ヴェストファーレン・ヴィルヘルム大学(通称・ミュンスター大学)に留学、Dr.Phil(哲学博士号)を受ける。

本多静六の略歴

本多静六(ほんだ・せいろく、1866年~1952年)
林学者、造園家、株式投資家。
武蔵国埼玉郡河原井村(現在の埼玉県久喜市菖蒲町河原井)の生まれ。帝国大学農科大学(現在の東京大学農学部)を首席で卒業。ドイツへ留学し、ターランド山林学校を経て、ミュンヘン大学で林学の博士を取得。
日比谷公園などをはじめとする多くの公園の設計や改良に携わり“公園の父”とも呼ばれる。また貯蓄と投資で富を築いたことでも有名。

『財運はこうしてつかめ』の目次

まえがき
第一章 今、なぜ本多静六なのか
第二章 「漏らさない力」こそ蓄財の秘訣
第三章 「馬鹿になれ」と言われた天才
第四章 貧乏こそ幸福のもと
第五章 人生の達人・本多静六
第六章 「最後の五分間」こそが成功の分岐点
第七章 相談は金持ちにしろ
第八章 本多静六の実感的「幸福論」

概要

2000年3月15日に第一刷が発行。致知出版社。253ページ。ハードカバー。127mm×188mm。四六判。

表紙には副題的に「明治の億万長者 本多静六」「開運と蓄財の秘術」という言葉も列記。

苦学して林学者となり蓄財と株式投資で富を築いた本多静六。英語学者の渡部昇一が尊敬する本多静六の考えなどを中心に解説した著作。

2004年8月1日には、新装普及版も発売。

『財運はこうしてつかめ』の感想

『知的生活の方法』をはじめとする英語学者の渡部昇一の著作が好きで、色々と読んでいる。

その中で知ったのが苦学しながら大学教授となり、蓄財や株式投資でも成功した林学者の本多静六。

他の渡部昇一の著作でも登場してくる人物である。

そのような経緯で、本多静六の著作なども読むようになった。

この著作では、渡部昇一が本多静六の考えを解説している。

また第七章では、本多静六と交流の深かった3人の人物たちも登場する。

後藤新平(ごとう・しんぺい、1857年~1929年)…医師、官僚、政治家。 陸奥国胆沢郡(現在の岩手県奥州市)の生まれ。須賀川医学校(現在の福島県立医科大学)を卒業した人物。

渋沢栄一(しぶさわ・えいいち、1840年~1931年)…幕臣、官僚、実業家。武蔵国榛沢郡(現在の埼玉県深谷市)の生まれ。後に、多くの会社や経済団体、教育機関の設立や経営に携わった人物。

大隈重信(おおくま・しげのぶ、1838年~1922年)…政治家、教育者。肥前国佐賀城下(現在の佐賀県佐賀市)の生まれ。第8代、第17第の内閣総理大臣を務め、また東京専門学校(現在の早稲田大学)を設立した人物。

そのような人々との交流も描かれる。

以下、引用などをしながら解説。

カール・ヒルティの『幸福論』、アレキシス・カレルの『人間――この未知なるもの』、幸田露伴の『努力論』などはいずれも私の恩書である。(P.1:まえがき)

恩人という言葉あるように、恩を受けた書物として、恩書という言葉があったとしたら、上記の3冊であるという渡部昇一。

カール・ヒルティ(Carl Hilty、1833年~1909年)は、スイスの下院議員を務め、法学者、哲学者、著名な文筆家でもある人物。

アレクシス・カレル(Alexis Carrel、1873年~1944年)は、フランスの外科医、解剖学者、生物学者。1912年にノーベル生理学・医学賞を受賞した人物。

幸田露伴(こうだ・ろはん、1867年~1947年)は、武蔵国江戸下谷(現在の東京都台東区)生まれの小説家。代表作に『風流仏』『五重塔』『運命』などがある。

そして、本多静六の数々の著作も、もちろん、恩書であるという流れ。

孟子が二千三百年ほど前に「恒産なくして恒心なし」と喝破したとおり、経済的安定がなければ、心の安定も得られにくい。また志を全うすることもむずかしい。これが世の現実ではないだろうか。(P.23:第一章 今、なぜ本多静六なのか)

孟子(もうし、紀元前372年?~紀元前289年?)は、中国の戦国時代の儒者。

今から、2300年も前に、既にお金がなければ、心の安定もない、ということは分かりきったものであったという話。

これは見過ごしてはいけない現実。先立つものは、お金である。

「あれこれ考えるのを止めないかぎり、蓄財はできない」という現実的助言が書かれているという点だけ取ってみても、この『財産告白』は大きな価値を持っていると私には思われるのである。(P.51:第二章 「漏らさない力」こそ蓄財の秘訣)

上述の『財産告白』とは、本多静六の晩年となる1950年に刊行された『私の財産告白』のこと。

月給の四分の一を貯金にまわす。短期保有の株は、2割の値上がりで売却。長期保有の株は、2倍の値上がりで半分を売却。

このような具体的な手法が記されている。

そして、あれこれ考え過ぎても仕方がないので、まずは始めなさいというもの。

本多静六の方法を上手にアレンジして、2年くらいで家を建てられるほどの資産を、渡部昇一は築いたという。

もちろん、投資の危険性も指摘し、投資したお金ががゼロになっても、日々の生活に影響が出ない程度に留めておくようにとのアドバイスも。

また、お金の話だけではなく、自らの成長のための勉強の方法などについての言及もある。

この辺りは、やはり渡部昇一らしい部分である。

故・岡潔博士(一九〇一~七八)は関数論の分野で世界的業績を収め、文化勲章を与えられた方だが、その岡博士は生前「若いころには血反吐を吐くぐらい暗記しないと頭は伸びない」という主旨のことを語られておられて印象的だった。(P.83:第三章 「馬鹿になれ」と言われた天才)

本多静六は、漢文などで暗記力を鍛えたという。

さらにその暗記力でドイツに留学してからの試験なども上手く乗り切れたという。

「詰め込み教育」の代表と言われてしまう傾向のある暗記に対して、渡部昇一は肯定的であり、上記の文章を掲げる。

岡潔(おか・きよし、1901年~1978年)は、大阪府大阪市生まれの数学者。京都帝国大学理学部を卒業し、フランスなどにも留学した人物。

本多博士は著書のなかでしばしば「機会は前髪でつかまなければならない」と記されている。運命の神の頭には前髪しか生えていない。だから幸運を得ようと思えば、その前髪をつかむしかないと昔から西洋では言われている。(P129:第四章 貧乏こそ幸福のもと)

この文章の前には、ドイツ留学が困難になりかけた時に、決断と熱意で周囲を説得したという。

その熱意に動かされた人もいて、ドイツ留学が実現できた。

そのような経験もあり、機会や運命、幸運は、少しでも兆候があれば、瞬時に捉えなさいということを悟ったというもの。

その人が得た人生訓には、それに気付くまでのプロセスや前提がある。それを無視して、結論だけを導入しようとすると、思わぬ怪我をしてしまうことになりかねない。(P.193:第六章 「最後の五分間」こそが成功の分岐点)

ビジネス書や自己啓発書、伝記などなどを読む時も同じである。

どのような本を読む時でも、そこにおける前提や過程がある。そこに注意しなければならない。

また渡部昇一が、このように人生論や人生訓に関して、このように、助言を加えているのも親切なところである。

世間一般には、職業は辛い、仕事は楽しくないという観念が蔓延している。だが、仕事とは面白いものであるという確信を持って進むことが必要である。真面目に努力を続けていれば、かならず面白くなる――ヒルティ、そして本多博士が体得した、この真理をぜひ覚え、実践していただきたいと思う。(P.211:第六章 「最後の五分間」こそが成功の分岐点)

この文章の前には、本多静六と渋沢栄一が講演会に呼ばれた時のエピソードが書かれている。

職業・仕事の道楽化というもの。

上記の中の、この真理という部分にも繋がる。

さらに、お金に関しては、道楽のカスというような表現も。

楽しい仕事をして、そのカスであるお金を貯めなさいという、楽観的でポジティブな主張が書かれている。

また、ちょっと面白い人生の真実も。

これは私自身にも経験のあることだ。金銭に関する相談はことにそうだが、人生の相談をするときには、やはり豊かな人に尋ねたほうが実のある回答が返ってくるのではないか。(P.232:第七章 相談は金持ちにしろ)

お金持ちの実業家たちと本多静六との交流について書かれた後の部分。

その交流とは以下の通り。

実業家たちに無料で、自らの知識や経験を披露して、相談に乗っていた。

経済関連の話になり、実業家たちに、私は専門ではないから経済学者のだれそれに聞いた方が良いではないかと話す。

すると実業家たちは、その経済学者は借金を多く持っているから良くはない、というエピソードが綴られている。

本多静六や渡部昇一のファンであれば非常にオススメの著作。

また、お金を貯める方法や投資の手法、その考え方や姿勢、生き方などについて参考にしたい人にも、最適の本である。

『財運はこうしてつかめ』の書籍紹介

関連書籍

関連スポット

ミュンスター大学:渡部昇一

ミュンスター大学は、ドイツの総合大学。正式名称は、ヴェストファーレン・ヴィルヘルム大学(Westfälische Wilhelms-Universität、WWU)。

公式サイト:ミュンスター大学

オックスフォード大学:渡部昇一

イギリスのオックスフォードにある総合大学。11世紀の末に大学の基礎が築かれた名門の英語圏では最古の大学。

公式サイト:オックスフォード大学

本多静六記念館

本多静六の生誕地・埼玉県久喜市菖蒲町にある記念館。2013年に菖蒲総合支所5階にオープン。入場無料。周辺には、本多静六博士の森、本多静六博士生誕地記念園も。

公式サイト:本多静六記念館等

ターランド山林学校(ドレスデン工科大学):本多静六

ターランド山林学校は、現在のドレスデン工科大学(Technische Universität Dresden)で、ドイツのザクセン州立の大学。1828年の設立で、1961年にドレスデン工科大学という名称になる。

公式サイト:ドレスデン工科大学

ミュンヘン大学:本多静六

ミュンヘン大学は、ドイツのバイエルン州の州都ミュンヘンにある1472年に設置された総合大学。正式名称は、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(Ludwig-Maximilians-Universität München)。

公式サイト:ミュンヘン大学