『現代語訳 学問のすすめ』福澤諭吉/訳・齋藤孝

福澤諭吉の略歴

福澤諭吉(ふくざわ・ゆきち、1835年~1901年)
啓蒙思想家。教育者。
摂津国大坂(現:大阪府大阪市)の生まれ。豊前国中津藩(現:大分県中津市)の育ち。
慶應義塾の創設者。新聞「時事新報」の創刊者。
商法講習所(現:一橋大学)、神戸商業講習所(現:神戸商業高校)、伝染病研究所(現:東京大学医科学研究所)、土筆ヶ岡養生園(現:東京大学医科学研究所附属病院)の創設にも尽力。

齋藤孝の略歴

齋藤孝(さいとう・たかし、1960年~)
教育学者。著述家。
静岡県静岡市の生まれ。東京大学法学部を卒業。
東京大学大学院教育学研究科学校教育学専攻、博士課程を満期退学。

『現代語訳 学問のすすめ』の目次

はじめに――今、なぜ現代語訳か?
初編 学問には目的がある
第2編 人間の権理とは何か
第3編 愛国心のあり方
第4編 国民の気風が国を作る
第5編 国をリードする人材とは
第6編 文明社会と法の精神
第7編 国民の二つの役目
第8編 男女間の不合理、親子間の不合理
第9編 よりレベルの高い学問
第10編 学問にかかる期待
第11編 美しいタテマエに潜む害悪
第12編 品格を高める
第13編 怨望は最大の悪徳
第14編 人生設計の技術
第15編 判断力の鍛え方
第16編 正しい実行力をつける
第17編 人望と人付き合い
解説
おわりに

概要

2009年2月10日に第一刷が発行。ちくま新書。251ページ。

齋藤孝が福澤諭吉の著した『学問のすすめ』を現代語訳にした書籍。

『学問のすすめ』は、1872年から1876年にかけて全17編の分冊として発行。1880年に合本として出版された書籍。合本の前書きには、初編の発行以来9年間で、70万冊も売れたという。

現代でもベストセラーの数字となるので、当時では超大ベストセラー。

こちらで余っているものは向こうに渡し、向こうで余っているものはこちらにもらう。お互いに教え学びあい、恥じることもいばることもない。お互いに便利がいいようにし、お互いの幸福を祈る。(P.14「初編 学問には目的がある」)

ここでは、日本の鎖国から開国について触れて、国際交流や国際経済の話。非常に分かりやすい言葉で説明しているのも特徴。

既に開国は始まったので、鎖国や攘夷と声高に叫ぶ人もいるが、それは狭いものの見方であると指摘。それぞれが独立していて、お互いに協力し合い、合理的に進むことが良いと明瞭に説明。

実生活も学問であって、実際の経済も学問、現実の世の中の流れを察知するのも学問でる。和漢洋の本を読むだけで学問ということはできない。(P.23「第2編 人間の権理とは何か」)

難しい本を読むだけが学問というわけではない。学問というものは、実生活に繋がるもの。

「独立した生活ができないものは、いまの世の中に必要な学問に弱い人間だと言える」とも。

本や文字は道具でしかない。道具をしっかりと使うことが学問である。

つまり、日常生活に結び付く行動や実践が伴うもの。「論語読みの論語知らず」になっていけないと伝える。

独立の気概のない者は、必ず人に頼ることになる。人に頼る者は、必ずその人を恐れることになる。人を恐れる者は、必ずその人間にへつらうようになる。へつらう者は、だんだんとそれに慣れ、面の皮だけがどんどんと厚くなり、恥じるべきことを恥じず、論じるべきことを論じず、人を見ればただ卑屈になるばかりとなる。(P.41「第3編 愛国心のあり方」)

独立独歩の姿勢の重要性を説く。国内でも独立の精神と実行ができていなければ、国外に対してもできるはずがない。

また、あまりに物を知らずに従順なままで、国外と取り引きをした場合には、個人の不利益どころではなく、国家の大きな損失に広がってしまう可能性もある。

そのために国内でも国外でも、しっかりと自分の足で立つことができるように準備が必要。その準備となるのが学問。

そもそも事をなすにあたっては、命令するより諭した方がよく、諭すよりも自ら実際の手本を見せる方がよい。一方、政府はといえば、ただ命令する力があるだけなのである。諭したり、手本を示したりというのは、民間でやることである。(P.58「第4編 国民の気風が国を作る」)

国や政府は命令を出す場所。

各種の実行をしやすいのは民間なので、自分たちで良い事業を迅速に実施すべきという。また国や政府の命令が実行が、滞った場合には、論じて批判をすべしとも。

この辺りは、実践家の福澤諭吉の真骨頂。

さすが慶應義塾の創設者、「時事新報」の創始者である。政府に頼らず、不羈独立の精神が、その功績からも明確に分かる。

そもそも、勇気というものは、ただ読書して得られるものではない。読書は学問の技術であって、学問は物事をなすための技術にすぎない。実地で事に当たる経験を持たなければ、勇気は決して生まれない。(P.74「第5編 国をリードする人材とは」)

学問は技術でしかないなので、身につけたら、行動が大切ということ。

行動することで、勇気が生れる。勇気が生れると、困難に立ち向かえる。新しい物事にも乗り出せる。

先述した通り、独立した姿勢が大切と言っているが、周りとの協力も重要。

後段では、政府と助け合って、官と民の力のバランスを取りながら、一国全体の力を増していくようにと助言。

一人の人間の考えていることを多くの人に伝えるのに、スムーズにいくかどうかは、それを伝える方法におおいに関係しているといえる。(P.151「第12編 品格を高める」)

ここでは演説についての考察。口頭で話すことの効果を指摘する。

文章よりも、口で言葉にすると理解がしやすく、人の心を動かしやすいという。

古今の名高い詩歌なども、形式や決まりごとを外して、通常の文章にしてしまうと面白みがなくなってしまう。

そのため、人に何かを伝える技術や方法というのは、とても大切なので、充分に考慮する必要がある。

ただ一つ、そもそもの働きにおいて完全に欠点一色で、どんな場面でもどんな方向性でも、欠点中の欠点といえるのは、怨望である。怨望は、働き方が陰険で、進んで何かをなすこともない。(P.165「第13編 怨望は最大の悪徳」)

この全部では、人間のある性質は、状況や見方によって、欠点にも美点にもなると記述。

驕りと勇敢さ、粗野と率直、頑固と真面目さなどを具体的に挙げる。

ただ完全に欠点なのが、怨望。他者を不幸にするのみ。

他者を不幸にするということが積み上がれば、それは世間一般の幸福が減っていく。世の中にとって害悪でしかない。

他者の幸福と自分の不幸を比較して、自らに不足があるならば、改善して自らが幸福になれば良い。

人生という商売は、十歳前後の人間らしい心ができたときからはじめたものであるから、普段から知性や人格、事業の帳簿を精密につけて、損失が出ないように心がけていなければならない。(P.181「第14編 人生設計の技術」)

時々、自分の過去を振り返り、何を損して何を得したのかなど、見つめ直すのが良い。また、その内省を基にして、今後の行動計画を立てる。

この前段階で、人生は悪いことや失敗など上手くいかないことが多いので、時折、自分の中で、あらゆる棚卸し、総点検を実施すべしというアドバイス。

そこでの反省点を活かして、改善に取り組み、成長することが大切。物事を心で理解できていれば、実践も伴う。

知識を吸収しながら、知性や人格も磨き、行動して、成果を出すべしという主旨。

感想

福澤諭吉に興味を持って、この書籍を読んだ。

慶應義塾大学などに行ったことはないが、大分県中津市にある福澤諭吉旧居・福澤記念館には訪問したことがある。

1万円札の肖像画の人物。慶應義塾大学の創設者。『学問のすすめ』の著者というくらいしか知識が無かった。

その程度の情報しか無かったので、では、福澤諭吉はどんな人なのだろうか、という所から、この現代語訳の『学問のすすめ』を手に取る。

また梅田望夫(うめだ・もちお、1960年~)や勝間和代(かつま・かずよ、1968年~)も慶應の出身。

RADWIMPSの野田洋次郎(のだ・ようじろう、1985年~)やKREVA(くれば、1976年~)、一青窈(ひとと・よう、1976年~)といったアーティストなども慶應出身が多いし、その辺りも、慶應義塾の創設者としての福澤諭吉に関心を抱いた部分。

「第13編 怨望は最大の悪徳」で、怨望を最低の感情であると説くのも、かなり興味深い。

ドイツの哲学者のフリードリヒ・ニーチェ(Friedrich Wilhelm Nietzsche、1844年~1900年)のいうルサンチマンと同じか。同時代というのも面白い。

どの内容も分かりやすく書かれている。

もともと福澤諭吉が、誰でも分かるように書いているというのもあるが、現代語訳にした齋藤孝の言語感覚の素晴らしさも非常に大きい。

実際に原文を読んだことがあるが、読めないことはないが、やはり現代では読みにくいとは感じる。

ただ現代語訳を読んで、さらに興味を持ったら原文を読むのはとても良いと思う。より福澤諭吉の体温などを感じられる。

結局のところ、福澤諭吉が伝えたかったのは、何よりも知識だけではなく、行動しなさい、ということ。

現在でもよく言われる言葉。つまり、行動しない人が多いので、行動した人の方が、成果を出しやすいという話。

改めて、どんどん行動を起こしていこうと思う。

非常にオススメの本である。

書籍紹介

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福澤諭吉記念 慶應義塾史展示館

慶應義塾三田キャンパス内・慶應義塾図書館旧館2階にある文化施設。

公式サイト:福澤諭吉記念 慶應義塾史展示館

福澤諭吉旧居・福澤記念館

福沢諭吉の出身地である大分県中津市にある旧居と記念館。

公式サイト:福澤諭吉旧居・福澤記念館

麻布山 善福寺

福澤諭吉の墓所がある東京都港区の浄土真宗の寺院。

公式サイト:麻布山 善福寺