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スコット・ギャロウェイ『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』要約・感想

スコット・ギャロウェイ『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』表紙

  1. GAFAの影響力
  2. 企業戦略の分析
  3. 人間の欲求への訴求
  4. 個人のキャリア戦略

スコット・ギャロウェイの略歴・経歴

スコット・ギャロウェイ(Scott Galloway、1964年~)
アメリカのマーケティングの教授。作家。起業家。
カリフォルニア州ロサンゼルスの出身。カリフォルニア大学ロサンゼルス校、カリフォルニア大学バークレー校、モルガン・スタンレーを経て独立。

『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』の目次

第1章 GAFA――世界を創り変えた四騎士
第2章 アマゾン――1兆ドルに最も近い巨人
第3章 アップル――ジョブズという教祖を崇める宗教
第4章 フェイスブック――人類の1/4をつなげた怪物
第5章 グーグル――全知全能で無慈悲な神
第6章 四騎士は「ペテン師」から成り上がった
第7章 脳・心・性器を標的にする四騎士
第8章 四騎士が共有する「覇権の8遺伝子」
第9章 NEXT GAFA――第五の騎士は誰なのか
第10章 GAFA「以後」の世界で生き残るための武器
第11章 少数の支配者と多数の農奴が生きる世界
謝辞

図表出所

『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』の概要・内容

2018年8月9日に第一刷が発行。東洋経済新報社。451ページ。ソフトカバー。127mm✕188mm。四六判。

題名が『the four GAFA』で、GAFAの読み方は「ガーファ」。Google、Apple、Facebook、Amazonの頭文字を使った略語。副題は「四騎士が創り変えた世界」。

原題は『The Four: The Hidden DNA of Amazon, Apple, Facebook, and Google.』で、2017年に刊行されている。

翻訳は、翻訳家の渡会圭子(わたらい・けいこ、1963年~)。東京都の生まれ。上智大学文学部を卒業。

『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』の要約・感想

  • GAFA――世界を席巻する四つの力
  • アマゾン:ジェフ・ベゾスの飽くなき野望
  • アップル:カリスマとブランドが生む熱狂
  • フェイスブック:つながりが生む光と影
  • グーグル:現代の万能神とその影響力
  • GAFA成功の裏にある「ペテン」とは
  • GAFAが人間を虜にする三つのターゲット
  • GAFAの強さを支える「覇権の8遺伝子」
  • GAFA以後の世界で求められる個の力
  • GAFAが支配する未来への警鐘と希望
  • 終わりに:『the four GAFA』が示す羅針盤

現代社会を席巻する巨大IT企業群、通称GAFA(ガーファ)。

グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン――これらの企業が、私たちの生活、経済、そして価値観までもをどのように創り変えてきたのか。その強さの秘密と、未来への影響とは何か。

本書『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』は、ニューヨーク大学経営大学院教授であり、起業家、そして歯に衣着せぬ批評家としても知られるスコット・ギャロウェイ(Scott Galloway、1964年~)が、この四騎士の実態を鋭くえぐり出し、その本質を白日の下に晒す一冊である。

単なる企業分析に留まらず、GAFAが私たちの「脳・心・性器」にまで訴えかけ、どのようにして現代の「支配者」のような存在になったのかを解き明かす。

本書を通じて、私たちはGAFAの光と影を理解し、これからの時代を生き抜くための視点を得ることができるだろう。

GAFA――世界を席巻する四つの力

現代において、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)の名を知らぬ者は少ないであろう。

これらの企業は、単に大きな会社というだけでなく、私たちのコミュニケーション、消費行動、情報収集、エンターテイメントのあり方を根底から変革した。

スコット・ギャロウェイは本書で、これら四社を「四騎士」と呼び、それぞれが独自の強みと戦略で世界市場を席巻し、現代社会のインフラとも呼べる地位を確立した過程を分析している。

これらの企業は、かつてないスピードと規模で成長し、多くの産業で既存の秩序を破壊し、新たなルールを創造してきた。

その影響力は経済に留まらず、政治や文化、個人の価値観にまで及んでいる。

本書は、その強大な力の源泉と、それがもたらす未来について、私たちに深く考えることを促すのである。

アマゾン:ジェフ・ベゾスの飽くなき野望

アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos、1964年~)は、オンライン書店からスタートし、今や「地球上で最も豊富な品揃え」を誇るEコマースの巨人へとアマゾンを育て上げた。

しかし、その野望は留まるところを知らない。

クラウドコンピューティングサービスであるAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)は業界トップシェアを誇り、AIスピーカーや実店舗展開など、その触手はあらゆる分野に伸びている。

スコット・ギャロウェイは、アマゾンの本質を次のように指摘する。

ベゾスはAmazonのパートナーをどんどん増やしていった。彼は本とDVDの狭い世界から……あらゆるものの世界へと出て行った。このような攻め方は、軍隊用語で「見る(Observe)、わかる(Orient)、決める(Decide)、動く(Act)」の頭文字を取ってOODAループと呼ばれる。(P.54「第2章 アマゾン――1兆ドルに最も近い巨人:アマゾンの本質」)

このOODAループという概念は、元々、朝鮮戦争の空中戦における意思決定プロセスを分析したものだ。

状況を観察し(Observe)、状況を理解・判断し(Orient)、方針を決定し(Decide)、そして迅速に行動する(Act)。

このサイクルを高速で回すことで、アマゾンは競合他社を圧倒し、市場の変化に素早く対応し続けてきた。

ビジネスの世界でよく耳にするPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルも重要だが、OODAループはより変化の激しい環境、予測不可能な状況下での機敏な意思決定と行動を重視する点で特徴的である。

アマゾンの絶え間ない事業拡大と新サービスへの挑戦は、まさにこのOODAループを体現していると言えるだろう。

さらに、アマゾンの強みの一つに「安い資本」を背景とした実験と失敗への寛容さがある。

アップルとGoogleの自動走行車プロジェクトや、フェイスブックがユーザー課金を増やすために定期的に導入する新しい機能を考えてみてほしい。彼らは実験がうまくいかなければすぐに撤回する。
ベゾスが最初の年次書簡に書いていたとおりだ。「失敗と発明は不可分の双子だ。新しいものを生み出すには実験が必要だ。そして最初からうまくいくことがわかっていたら、それは実験ではない」。(P.不明「第2章 アマゾン――1兆ドルに最も近い巨人:「安い資本」という武器」)

「失敗と発明は不可分の双子」というベゾスの言葉は、イノベーションの本質を突いている。

多くの企業が失敗を恐れるあまり新しい挑戦を躊躇する中で、アマゾンは計算されたリスクを取り、数多くの実験を繰り返す。その試行錯誤の中から、AWSのような巨大な成功が生まれてくるのだ。

もちろん、全ての失敗が許容されるわけではないが、致命傷にならない範囲での小さな失敗を積み重ねることが、結果として大きな成功確率へと繋がるという考え方は、大数の法則にも通じるものがある。

アマゾンの成長戦略は、この実験と失敗を許容する文化に支えられているのである。

アップル:カリスマとブランドが生む熱狂

アップルは、その革新的な製品と巧みなマーケティング戦略により、世界で最も価値のある企業の一つとなった。

スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs、1955年~2011年)のカリスマ性は神格化され、アップル製品は単なるテクノロジー製品を超え、多くの人々にとってライフスタイルの一部、あるいは信仰の対象とすらなっている。

アップルの驚異的な収益性について、スコット・ギャロウェイは次のような数字を提示する。

2015年第1四半期に、全世界で出荷されたiPhoneのシェアは18.3パーセントにすぎなかった。しかしアップルは業界の利益の92パーセントを占めた。これこそ、高級品のマーケティングというものだ。(P.125「第3章 アップル――ジョブズという教祖を崇める宗教:超レア感」)

市場シェアは2割に満たないにも関わらず、利益の9割以上を独占するという事実は衝撃的である。

これは、アップルが単に優れた製品を開発しているだけでなく、強力なブランドを構築し、顧客に高い付加価値を提供することに成功している証左だ。

まさに高級ブランドのビジネスモデルであり、熱狂的なファン層がその高価格戦略を支えている。

しかし、スコット・ギャロウェイはスティーブ・ジョブズというアイコンに対して、手厳しい評価も下している。

スティーブ・ジョブズは「宇宙をへこませた」(訳注:スティーブ・ジョブズ自身の言葉「私たちは宇宙をへこませるためにここにいる<少しでも世界を変える>」)とよく言われる。
しかしそうではない。私の意見では、スティーブ・ジョブズは宇宙に唾を吐いたのだ。宇宙をへこませているのは、毎朝起きて、子どもに服を着せ、学校へ行かせ、子どもの幸せのためなら何でもするという人々だ。世界にもっと必要なのは、まじめな親たちのための家であって、高性能なばかげた電話ではない。(P.130「第3章 アップル――ジョブズという教祖を崇める宗教:高級ブランドの5条件 1 アイコン的な創業者」)

この痛烈な批判は、カリスマ経営者を絶対視する風潮への警鐘とも読める。

確かにジョブズのような革新者が社会に与えた影響は大きいが、世界をより良い方向に動かしているのは、日々の生活を誠実に営む名もなき市井の人々であるという視点は、ハッとさせられるものがある。

本書のこうした辛辣な意見は、読者に多角的な思考を促す。

アップルがテクノロジー企業から高級ブランドへと転換した戦略は、ビジネス史における重要な転換点であったとスコット・ギャロウェイは指摘する。

テクノロジー企業から高級ブランドへ転換するというジョブズの決定は、ビジネス史上、とりわけ重要な――そして価値を創造した――見識だった。(P.141「第3章 アップル――ジョブズという教祖を崇める宗教:高級ブランドの5条件・5 高価格」)

この転換こそが、アップルに持続的な高収益をもたらした核心である。

高級ブランドの条件として、スコット・ギャロウェイは「アイコン的な創業者」「職人気質」「垂直統合(メーカー直営店)」「世界展開」「高価格」の5つを挙げているが、アップルはこれらを巧みに満たしてきた。

製品の品質へのこだわり、自社設計の半導体から直営店での販売・サポートに至る垂直統合、そしてグローバルなブランドイメージの確立。

これらが一体となって、アップルの「高級ブランド」としての地位を揺るぎないものにしているのだ。

さらに、アップルは「製品の価格は高く、生産コストは低く」という、通常は両立が難しい命題を実現している。

しかしアップルはどちらも実現した。それができたのには3つの要因がある。大半のテック企業(特に消費者向け)に先駆けて製造ロボットを重視したこと。世界的なサプライチェーンを確立したこと。そしてサポートとIT専門家の力を背景に、小売業としての存在感を確立したことだ。この3つの要素により、アップルはあらゆるブランドや小売業の羨望を集めている。(P.146「第3章 アップル――ジョブズという教祖を崇める宗教:最高の商売人、ジョブズ」)

製造段階でのロボット導入によるコスト削減と品質維持、効率的なグローバルサプライチェーンの構築、そしてApple Storeを中心とした質の高い顧客体験の提供。

これら製造、流通、そしてサポート体制の三位一体が、アップルの高収益構造を支える屋台骨となっている。

贅沢品のカテゴリーにおいて、これほど巧みにビジネスを展開している企業は稀有である。

フェイスブック:つながりが生む光と影

フェイスブック(現メタ・プラットフォームズ)は、マーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg、1984年~)によって創業され、今や世界人口の約3分の1が利用する巨大SNSプラットフォームとなった。

人々のコミュニケーションのあり方を劇的に変え、情報伝達のスピードと範囲を飛躍的に拡大させた。

スコット・ギャロウェイは、マーケティングファネルにおけるフェイスブックの位置づけを次のように説明する。

つまりフェイスブックはアマゾンより漏斗の上部にある。フェイスブックは“何”を提案し、グーグルは“方法”を提示し、アマゾンは“いつ”それが手に入るかを教えてくれる。(P.160「第4章 フェイスブック――人類の1/4をつなげた怪物:欲しいもの」)

マーケティングファネルとは、顧客が製品やサービスを認知し、興味を持ち、検討し、購入に至るまでのプロセスを図式化したものである。

フェイスブックは、ユーザーの日常に深く入り込み、友人や知人の投稿、あるいはターゲティング広告を通じて、新たな商品やサービスへの「認知」や「興味」を喚起する役割を担う。

つまり、消費行動の入り口に近い部分で影響力を持っている。

日常的にフェイスブックに触れることで、潜在的な欲求が刺激され、それがグーグルでの検索(方法の提示)、アマゾンでの購入(いつ手に入るか)へと繋がっていくという流れである。

この指摘は、フェイスブックが広告媒体として非常に強力である理由を的確に示している。確かに、毎日SNSに触れていると、無意識のうちに何かしらの影響を受けていることは否定できない。

しかし、フェイスブックの持つ巨大な影響力は、負の側面も併せ持つ。特に、社会の分断を助長する可能性については、深刻な懸念が示されている。

右でも左でも、熱狂的な信者は、そうした餌をすぐクリックする。一番クリックされやすいのは対立と怒りを煽るものだ。クリックされればその投稿のヒット率が上がり、グーグルとフェイスブックの両方でランキングが上昇する。それでさらにクリックとシェアが増える。最高(最悪)のケースでは、ある記事や映像クリップが口コミを一気に集め、何百万、ときに何億もの人へ広がる。そして人々の間の断裂はさらに深くなる。これは毎日、どこかで起きていることだ。(P.191「第4章 フェイスブック――人類の1/4をつなげた怪物:そして社会は分断される」)

アルゴリズムは、ユーザーの関心を惹きつけ、エンゲージメントを高めるように最適化される。

その結果、過激な意見や感情的なコンテンツ、特に「対立」や「怒り」を煽るものが拡散されやすくなる傾向がある。

このような情報はクリックやシェアを誘発しやすく、結果としてプラットフォーム上での露出が増える。

これがエコーチェンバー現象やフィルターバブルを生み出し、異なる意見に触れる機会を減少させ、社会の分断を深刻化させる。

この問題は、現代社会が抱える大きな課題の一つであり、プラットフォーマーの責任も問われている。

私たち自身も、情報の受け手として、そして発信者として、怒りの感情に流されず、冷静な判断を心がける必要があるだろう。

グーグル:現代の万能神とその影響力

グーグルは、世界最大の検索エンジンとして、情報へのアクセス方法を根本から変えた。

その事業領域は検索にとどまらず、オンライン広告、モバイルOS(Android)、動画共有(YouTube)、自動運転技術、AI研究など、多岐にわたる。

スコット・ギャロウェイは本書の目次でグーグルを「全知全能で無慈悲な神」と表現しており、その圧倒的な情報支配力と社会への影響の大きさをうかがわせる。

グーグルは、私たちの疑問に答え、道を示し、世界中の情報を整理して提供する。その恩恵は計り知れない。

しかし、その一方で、あまりにも多くの情報を一企業が掌握することのリスクも指摘される。

プライバシーの問題、アルゴリズムによる情報のフィルタリング、そして市場における独占的な地位の濫用など、グーグルの「神」のごとき力は、常に監視と議論の対象となるべきである。

だが、現代において、グーグルなしの生活を想像することは困難であり、その存在はまさに現代のインフラと言えるだろう。

GAFA成功の裏にある「ペテン」とは

GAFAの成功物語は、華々しい技術革新や優れた経営戦略だけで語られるものではない。

スコット・ギャロウェイは、彼らが「ペテン師」的な側面も持ち合わせていたと指摘する。

2つ目のペテンからわかることは、いわゆる先行者利益が必ずしも利益にならないということだ。ある業界のパイオニアが、うしろから撃たれることはよくある。四騎士たちもまた後発組だ(フェイスブックの前にはマイスペースが、アップルの前には最初のPCを開発した企業が、グーグルの前には初期の検索エンジンが、アマゾンの前には最初のオンライン小売業があった)。彼らは先行者の死骸をあさって情報を集め、間違いから学び、資産を買いあげ、顧客を奪って成長した。(P.251「第6章 四騎士は「ペテン師」から成り上がった」)

スコット・ギャロウェイが言う「ペテン」には二つのタイプがある。

「他の会社の知的財産を拝借――盗むという意味であることが多い――する行為」と「他の誰かが築いた資産を使って、それを開発した人にはできないやり方で利益をあげること」である。

GAFAは、必ずしもそれぞれの分野における最初の開拓者ではなかった。

むしろ、先行者の失敗から学び、そのアイデアや技術、市場を巧みに取り込み、より洗練された形で事業を展開することで成功を収めたケースが多い。

これは、ビジネスの世界において「先行者利益」が絶対ではないことを示している。

後発であっても、市場の状況を冷静に分析し、先行者の弱点を突くことで、より大きな成功を掴むことが可能なのである。

ある意味、これは非常に戦略的であり、したたかな経営手腕と言えるかもしれないが、その過程には倫理的な問題を孕むケースも少なくない。

GAFAが人間を虜にする三つのターゲット

GAFAがこれほどまでに私たちの生活に浸透し、強力な影響力を持つに至った背景には、人間の根源的な欲求に訴えかける戦略がある。

スコット・ギャロウェイは、ビジネスで大きな成功を収める秘訣として、まず低コストでの大規模化を挙げる。

ビジネスで大きな成功を収めるには、低コストでの大規模化が必要だ。それはクラウド・コンピューティング、バーチャル化、そして競争を通じて生産性を10倍に高めるネットワーク効果に力を入れることで実現できる。(P.267「第7章 脳・心・性器を標的にする四騎士」)

この指摘は、実業家ベン・ホロウィッツ(Ben Horowitz、1966年~)、起業家で投資家ピーター・ティール(Peter Thiel、1967年~)、グーグルの元CEOエリック・シュミット(Eric Schmidt、1955年~)、ヤフーの元バイスプレジデントサリム・イスマイル(Salim Ismail、1965年~)といった著名な実業家や投資家たちが共通して主張する点であるという。

クラウド技術やデジタルプラットフォームを活用することで、かつてないほどの低コストで、グローバルな規模の事業展開が可能になった。これは現代のビジネスにおいて不可欠な要素である。

さらに、スコット・ギャロウェイは、成功するビジネスが人間のどの部分に訴えかけるかに着目する。

進化心理学の見地からすると、成功するビジネスはどれも、体の3つの部位のどれかに訴えかけるものだ。
その3つとは脳、心、性器である。これらはそれぞれ人間の生き残り戦略の違う面を支えている。会社の指導者は、自分たちがどの領域にいるか――どの器官を刺激しているか――を知り、それに沿って戦略を練る必要がある。(P.268「第7章 脳・心・性器を標的にする四騎士」)

「脳」は知的好奇心や情報欲、問題解決への欲求を満たす。

「心」は愛情、共感、帰属意識、自己表現といった感情的な欲求に応える。

「性器」は、文字通り性的な魅力や繁殖本能、あるいはより広義には生存や魅力といった根源的な欲求に関連する。

GAFAは、これらの欲求のいずれか、あるいは複数に巧みに訴えかけることで、ユーザーを惹きつけ、依存させ、巨大なビジネスを構築してきた。

例えば、グーグルは「知りたい」という脳の欲求を、フェイスブックは「つながりたい」「認められたい」という心の欲求を、アマゾンは「欲しいものを手に入れたい」という物欲(これも脳や心、時には生存本能にも関わる)を満たし、アップルはデザイン性やブランドイメージで心を満たしつつ、最新テクノロジーで脳も刺激する。

この視点は、GAFAのサービスがなぜこれほどまでに人を惹きつけるのかを理解する上で非常に示唆に富んでいる。

自分たちのビジネスが、顧客のどの本源的な欲求に応えようとしているのかを明確に意識することは、あらゆるビジネスにおいて重要な戦略となるだろう。

GAFAの強さを支える「覇権の8遺伝子」

スコット・ギャロウェイは、GAFAという四騎士に共通する成功の要因を「覇権の8遺伝子」として分析している。

これらが複合的に作用することで、彼らは1兆ドル企業へと成長し、市場を支配する力を得たのである。

四騎士に共通する8つの要素がある。①商品の差別化、②ビジョンへの投資、③世界展開、④好感度、⑤垂直統合、⑥AI、⑦キャリアの箔づけになる、⑧地の利。これらの要素からあるアルゴリズム、1兆ドル企業になるためのルールが生じる。(P.289「第8章 四騎士が共有する「覇権の8遺伝子」」)

これらの8つの要素は、GAFAがなぜこれほどまでに強力なのかを理解するための鍵となる。

①独自の技術やブランドによる商品の差別化、②長期的な視点での大胆な未来への投資、③グローバル市場での圧倒的な存在感、④社会からの一定の好感度やブランドイメージ、⑤開発から販売、サポートまでを一貫して手がける垂直統合戦略、⑥データとAI技術の積極的な活用、⑦そこで働くことが一種のステータスとなり優秀な人材を引き寄せる力、そして⑧地の利。

スコット・ギャロウェイの経営分析の会社L2では、これらの要素を「Tアルゴリズム(Trillion Dollar Algorithm)」と呼んでいるという。

特に「⑧地の利」については、現代におけるその意味合いが興味深い。

キャリアの箔づけとなるためには、原材料を持たなければならない。かつては炭鉱のそばに発電所を建てていたが、現代は一流の工学、経営、教養の学位を持つ人材が集まる場所に企業をつくるのだ。(P.318「第8章 四騎士が共有する「覇権の8遺伝子」:⑧地の利」)

かつての産業革命期には、石炭や鉄鉱石といった天然資源の近くに工場が建設された。

しかし現代の知識集約型経済においては、「人材」こそが最も重要な資源である。GAFAの多くがシリコンバレーに本拠を置くのは偶然ではない。

スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校といった世界トップクラスの大学が近隣に存在し、優秀なエンジニアや研究者、ビジネスパーソンが絶えず輩出される環境が、彼らの成長を支えてきた。

アマゾンもまた、ワシントン大学との近接性が指摘されている。

この事実は、現代においてイノベーションを生み出し、企業が成長するためには、優秀な人材が集積するエコシステムの重要性がますます高まっていることを示している。

ある意味で、学歴や教育機関の質が、地域全体の競争力、ひいては企業の競争力にも直結すると言えるだろう。

GAFA以後の世界で求められる個の力

GAFAが君臨する現代において、私たちはどのようにキャリアを築き、生き残っていけばよいのだろうか。

スコット・ギャロウェイは、個人のキャリア戦略についても厳しい現実と具体的なアドバイスを提示している。

特に、若いうちの「バランス」神話には懐疑的だ。

世界をつかむのは大物ではなく、すばやいものだ。ライバルたちより短い時間で進歩することを目指す。そのために最も必要なものは才能ではなく忍耐力だ。私は若くしてキャリアを確立するために、髪の毛、最初の結婚、そしてほぼ間違いなく20代を犠牲にした。そしてそれだけの価値はあった。(P.401「第10章 GAFA「以後」の世界で生き残るための武器:バランス神話」)

この言葉は、ワークライフバランスが重視される現代の風潮とは一見、逆行するように聞こえるかもしれない。

しかし、スコット・ギャロウェイ自身が「私はいまバランスの取れた生活を送っている。それは20代から30代に、バランスなど無視して働いてきたからだ。ビジネススクールは別としても、22歳から34歳まで、私は仕事をしていたという以外のことをあまり思い出せない」と語っている。

このように、キャリアの初期段階においては、集中的に努力し、他者よりも速いスピードで成長することが、将来の選択肢を広げ、より大きな自由を得るための布石になるという考え方である。

成功のためには、才能以上に、目標達成に向けた執念や忍耐力、そして圧倒的な行動量が求められる時期があるということだろう。

もちろん、健康を害するほどの無理は禁物だが、ある一定期間、特定の目標にエネルギーを集中投下することの重要性を示唆している。

また、スコット・ギャロウェイは、起業家に向いているかどうかの資質についても言及している。

1 人前で失敗しても平気でいられるか
2 売り込みは好きか
3 大企業で働くスキルに欠けているか
(P.404「第10章 GAFA「以後」の世界で生き残るための武器」)

これらの問いは、起業家精神の本質を突いている。

失敗を恐れず挑戦し続けるタフさ、自らのアイデアや製品を他者に情熱をもって伝えられる営業力、そして既存の大きな組織の枠組みには収まりきらない、あるいは馴染めないようなある種の独立心や反骨精神。

これらに加えて、「ブランドづくりより製品づくりができること。そして創業チーム内、あるいは近くに技術者を入れること」も起業の成功には必要だと述べている。

製品やサービスそのものの価値を追求する姿勢と、それを実現するための技術的な裏付けが不可欠ということだ。

誰もが起業家になる必要はないが、このようなマインドセットは、変化の激しい現代を生き抜く上で、多くの人にとって参考になるだろう。

GAFAが支配する未来への警鐘と希望

GAFAは私たちの生活を便利にし、多くの価値を提供してくれる存在であることは間違いない。

しかし、その強大な力には常に影が伴う。スコット・ギャロウェイは、GAFAがもたらす未来について、次のような警鐘を鳴らす。

四騎士は、神、愛情、セックス、消費の具現者であり、何十億人もの人々の毎日の生活の価値を高めている。とは言うものの、これらの企業が私たちの精神状態を心配してくれるわけではなく、老後の面倒を見てくれるわけでもなく、手を握ってくれるわけでもない。(P.409「第11章 少数の支配者と多数の農奴が生きる世界」)

GAFAは、検索における「神」(グーグル)、人とのつながりや承認欲求という「愛情」(フェイスブック)、魅力的な異性やパートナーを探す手段としての「セックス」(各種マッチングアプリやSNSも広義には関連する)、そしてあらゆる「消費」(アマゾン、アップル)を司る現代のアイコン的存在である。

彼らは確かに私たちの日常を豊かにし、多くの便益をもたらしている。

しかし、忘れてはならないのは、彼らはあくまで営利企業であり、私たちの幸福や人生そのものに最終的な責任を負ってくれるわけではないという事実だ。

GAFAのサービスに過度に依存し、その掌の上で踊らされるだけでは、スコット・ギャロウェイが示唆する「少数の支配者と多数の農奴が生きる世界」の農奴側に甘んじることになりかねない。

終わりに:『the four GAFA』が示す羅針盤

スコット・ギャロウェイ著『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』は、現代社会を理解するための必読書の一つと言えるだろう。

GAFAという巨大企業のビジネスモデルや戦略を詳細に分析するだけでなく、その成功の裏にあるしたたかさや、社会に与える光と影の両面を鋭く描き出している。

著者の辛辣でユーモラス、そして時に挑発的な筆致は、読者を飽きさせない。

単なる企業分析本としてではなく、現代資本主義の行く末や、テクノロジーと人間の関係、そして私たち自身のキャリアや生き方について深く考えさせられる一冊である。

本書から得られる知見は、GAFAの脅威にどう立ち向かうか、あるいはGAFAが作り上げた世界でいかに賢く生きるかという問いに対する、一つの羅針盤となるはずだ。

本書を読むことで、GAFAという存在をより多角的に捉え、彼らが提供するサービスの裏側にある構造や意図を読み解くリテラシーを養うことができる。

そしてそれは、情報過多で変化の激しい現代において、自分自身のビジネスや人生の舵取りをする上で、かけがえのない武器となるに違いない。

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カリフォルニア大学ロサンゼルス校

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles、UCLA)は、アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルスにある総合州立大学。

公式サイト:カリフォルニア大学ロサンゼルス校

カリフォルニア大学バークレー校

カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley、UC Berkeley、UCBl)は、アメリカ合衆国カリフォルニア州アラメダ郡バークレー市に所在する州立大学。

公式サイト:カリフォルニア大学バークレー校