『なぜ名経営者は石田梅岩に学ぶのか?』森田健司

森田健司の略歴

森田健司(もりた・けんじ、1974年~)
思想史学者。
兵庫県神戸市の生まれ。京都大学経済学部を卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程を単位取得退学。後に修了。

石田梅岩の略歴

石田梅岩(いしだ・ばいがん、1685年~1744年)
思想家。倫理学者。石門心学の開祖。
丹波国桑田郡(現在の京都府亀岡市)の出身。商家で働き、1729年頃に石門心学と呼ばれる独自の哲学を樹立。主な著書に『都鄙問答』(とひもんどう)、『倹約斉家論』(けんやせいかろん)。

『なぜ名経営者は石田梅岩に学ぶのか?』の目次

はじめに
第1章 日本人を勤勉にした男
第2章 道徳なしに市場なし 石田梅岩とアダム・スミス
第3章 商業は正直から始まる
第4章 倹約は自分のためだけではない
第5章 仕事<ワーク>と人生<ライフ>を結びつける
第6章 現代に生きる心学の精神
第7章 江戸時代のドラッカー
おわりに
主要参考文献

概要

2019年1月30日に第一刷が発行。ディスカバリー携書。285ページ。

元々は商人であった江戸時代の思想家・石田梅岩。経済と道徳の在り方をまとめ上げて広く教えた人物。国内外の歴史などに照らし合わせながら、その思想を解説した著作。

2015年10月に刊行された同名の単行本を新書サイズにしたもの。

石田梅岩という人物ではなく、石田梅岩の考え方に焦点を当てている内容。

イギリスの経済学者であるアダム・スミス(Adam Smith、1723年~1790年)や、アメリカで活躍したオーストリア人の経営学者であるピーター・ドラッカー(Peter Ferdinand Drucker、1909年~2005年)などと比較する章もある。

感想

中江藤樹(なかえ・とうじゅ、1608年~1648年)は、陽明学者で、多くの人々に影響を与えた。

二宮尊徳(にのみや・そんとく、1787年~1856年)は、経済や思想で、多くの人々に影響を与えた。

その中間の時代、その中間的な位置なのが、石田梅岩かも。

思想や経済、経営などに興味があり、何かで名前を知った石田梅岩。

京セラやKDDIの創業者である稲盛和夫(いなもり・かずお、1932年~2022年)が、影響を受けた人物でもある。

その辺りで知ったのかもしれない。

著書は、石田梅岩の思想と共に現在までの経済史の流れを振り返る感じ。

そこまで、石田梅岩という人物にはスポットは当たっていない。

石田梅岩の思想と、ドラッカーなどの日本の企業分析をした人物たちとの考えを照らし合わせて解説。

なかなか面白かった。

これらの道徳が興味深いのは、禁欲的で強い克己心を必要とするものに見えながら、最終的には自身に利益を還元する点です。つまり、倹約、勤勉、正直といった性質を備えた労働者は、国富を増大させると同時に自らも大きな利益を得ることが可能となるのです。(P.56「第1章 日本人を勤勉にした男」)

“倹約”、“勤勉”、“正直”というものが、単に道徳的に良いというものだけではなく、実際に自らの利益にもなるという話。

逆説的に考えると分かりやすい。

倹約しなければ、散財となる。勤勉でなければ、仕事もはかどらないし、技術も上がらないし、金銭も得られにくい。

正直でなければ、周りの評判が落ちて、信用がなくなり、仕事も減る。

当たり前と言えば、当たり前である。

こういった基本的なことが出来ない人が多いという風にも取れる部分である。

それはこの書が、スミスのもう一つの大著『道徳感情論』(1759年)の議論を前提としたものであることを、十分に意識してこなかったことです。もし『国富論』のみを読んで経済のことを知り、考えようとするならば、どうにも偏った市場観を自身の内に育ててしまう危険性があります。(P.70「第2章 道徳なしに市場なし」)

ここでは、石田梅岩の前に、アダム・スミスを考察して、道徳と経済の関係を考察。

この部分は、不勉強で知らなかった。もしくは、学校で習ったけれど、忘れてしまっていたのか。

『国富論』の前提として、『道徳感情論』があったのか。

つまり、道徳という基盤があってこその経済という意味。

第2章のタイトルである「道徳なしに市場なし」が当てはまる部分。

ちょっと時間を見つけて、アダム・スミスの勉強しておきたいところである。

文中の子貢とは、「孔門の十哲」と呼ばれる孔子の優れた弟子の一人で、商売にも高い才能があり、富裕で合ったことで有名な人物です。梅岩が、ここでわざわざ孔子の弟子の名前を出しているのは、当時、商業に最も激しい攻撃を加えていたのが、儒者だったからです。(P.113「第3章 商業は正直から始まる」)

孔子(こうし、前552年 or 前551年~前479年)は、中国古代の思想家。

孔子は、商才のあった子貢(しこう、前520年頃~前456年頃)も、弟子として迎え入れている。

文中というのは、この前の部分で『都鄙問答』の記述を引用している。

儒者は商業を否定するけれど、その儒者の祖である孔子は、商業を否定していませんよ、という石田梅岩の主張。

当時の日本の常識というか、階級社会における、貴賤などが、どのような感じであったのかは、時代背景やこういった書物から、ある程度分かってくる。

さらに石田梅岩は、さまざまな古典を引用して、商業を擁護していくといったスタイル。

倹約ということは、世に説かれているものとは異なり、自分のために物事を節約することではない。世界のために、従来は三つ必要だったものを、二つで済ませるようにすること、倹約というのである。(P.144「第4章 倹約は自分のためだけではない」)

上記は、石田梅岩の講義録の『石田先生語録』からの一節。

倹約は自分のためではなく、他者のためであるという主旨。

また、面白いのが、こういった倹約を、庶民ではなく、為政者から始めるようにと説いている、と筆者の森田健司が指摘。

諸々と凄過ぎる。

また、倹約すると、華美ではなく、気軽い感じになり、ちょっとしたイベントなどの回数も増えて、人間関係が良くなるといった考えも披露。

しっかりと地に足の着いた思想が素晴らしい。

石田梅岩の考え方や、道徳と経済の在り方、ざっくりとした経済思想史などに興味のある人には非常にオススメの作品である。

書籍紹介

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石田梅岩生誕地

京都府亀岡市東別院町東掛にある石田梅岩生誕地。京阪京都交通・バス停「東別院グラウンド前」から直ぐ。