『「好き嫌い」と経営』楠木建

楠木建の略歴

楠木建(くすのき・けん、1964年~)
経営学者。
東京都目黒区の生まれ。幼少期に南アフリカ共和国のヨハネスブルグで過ごす。一橋大学商学部を卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程を修了。

『「好き嫌い」と経営』の目次

まえがき――「好き嫌い」の復権
Profile#01 永守重信 日本電産 代表取締役社長
「何でも一番」が好き
Profile#02 柳井 正 ファーストリテイリング 代表取締役会長兼社長
「デカい商売」が好き
Profile#03 原田泳幸 日本マクドナルドホールディングス 取締役会長
「雷と大雨とクライシス」が好き
Profile#04 新浪剛史 ローソン 取締役会長
「嫌いなやつに嫌われる」のが好き
Profile#05 佐山展生 インテグラル 代表取締役パートナー
「偉そうにする」のが嫌い
Profile#06 松本 大 マネックス証券 代表取締役社長CEO
「小トルク・高回転」が好き
Profile#07 藤田 晋 サイバーエージェント 代表取締役社長
「今に見てろよ!」が好き
Profile#08 重松 理 ユナイテッドアローズ 名誉会長
「一番好きなことを最初にやる」のが好き
Profile#09 出口治明 ライフネット生命保険 代表取締役会長兼CEO
「活字と歴史」が好き
Profile#10 石黒不二代 ネットイヤーグループ 代表取締役社長兼CEO
「理系のギーク」が好き
Profile#11 江幡哲也 オールアバウト 代表取締役社長兼CEO
「図面を引く」のが好き
Profile#12 前澤友作 スタートトゥデイ 代表取締役
「人との競争」が嫌い
Profile#13 星野佳路 星野リゾート 代表
「スキーと目標設定」が好き
Profile#14 大前研一 経営コンサルタント
「実質を伴わないもの」が嫌い
Profile#15 楠木 建 一橋大学大学院国際企業戦略研究科 教授
なぜ「好き嫌い」なのか?

概要

2014年7月10日に第一刷が発行。東洋経済新報社。376ページ。ソフトカバー。127mm×188mm。四六判。

経営学者の楠木建が14人の経営者と「好き嫌い」についての対談集。経営者たちの経営や戦略、直観やセンスの根幹となる「好き嫌い」を考察した作品。

14人の経営者たちのプロフィールは以下の通り。

永守重信(ながもり・しげのぶ、1944年~)…京都府の生まれ。職業訓練大学校電気科を首席で卒業。ティアック、山科精機を経て、日本電産を設立。

柳井正(やない・ただし、1949年~)…山口家宇部市の出身。早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業。実家の小郡商事(ファーストリテイリングの前身)に入社。1984年にユニクロの第一号店を出店。

原田泳幸(はらだ・えいこう、1948年~)…長崎県の生まれ。東海大学工学部通信工学科を卒業。日本NCR、横河・ヒューレット・パッカード、シュルンベルジェグループ、アップルコンピュータジャパンを経て、日本マクドナルドへ入社。

新浪剛史(にいなみ・たけし、1959年~)…スタンフォード大学交換留学。慶應義塾大学経済学部を卒業。三菱商事に入社。ハーバード大学経営大学院を修了。ソデックスコーポレーションを経て、ローソンへ入社。

佐山展生(さやま・のぶお、1953年~)…京都府の生まれ。京都大学工学部高分子化学科を卒業。帝人、三井銀行を経て、ニューヨーク大学ビジネススクールにてMBAを取得。東京工業大学大学院社会理工学研究科博士後期課程を修了。ユニゾン・キャピタルを共同設立。

松本大(まつもと・おおき、1963年~)…埼玉県の生まれ。東京大学法学部を卒業。ソロモン・ブラザーズ・アジア証券、ゴールドマン・サックス証券を経て、マネックスを設立。

藤田晋(ふじた・すすむ、1973年~)…福井県の生まれ。青山学院大学経営学部を卒業。インテリジェンスを経て、サイバーエージェントを設立。

重松理(しげまつ・おさむ、1949年~)…神奈川県逗子市の生まれ。明治学院大学経済学部を卒業。婦人服メーカーを経て、ビームスの立ち上げに参加。後に、ユナイテッドアローズを設立。

出口治明(でぐち・はるあき、1948年~)…三重県の生まれ。京都大学法学部を卒業。日本生命保険相互会社に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て退社。ネットライフ企画を設立。後に、ライフネット生命保険に社名を変更。

石黒不二代(いしぐろ・ふじよ、1958年~)…愛知県一宮市の生まれ。名古屋大学経済学部を卒業。ブラザー工業、スワロフスキー・ジャパンを経る。スタンフォード大学ビジネススクールにてMBAを取得。Alphametricsを起業。後に、ネットイヤーグループに参画。

江幡哲也(えばた・てつや、1965年~)…神奈川県の生まれ。武蔵工業大学工学部電機電子工学科を卒業。リクルートに入社。米国About.comとリクルートとのジョイントベンチャー事業として、リクルート・アバウトドットコム・ジャパン(現在のオールアバウト)を設立。

前澤友作(まえざわ・ゆうさく、1975年~)…千葉県の生まれ。早稲田実業学校高等部を卒業。高校在学中にバンドを結成し、輸入CD・レコードのカタログ通販ビジネスを創業。後に、スタート・トゥデイを設立。ネット通販サイトのZOZOTOWNを開設。

星野佳路(ほしの・よしはる、1960年~)…長野県軽井沢町で、星野温泉旅館の4代目として生まれる。慶應義塾大学経済学部を卒業。コーネル大学ホテル経営大学院修士課程を修了。日本航空開発、シティバンク銀行を経て、家業を継ぐ。後に、星野リゾートに社名を変更。

大前研一(おおまえ・けんいち、1943年~)…福岡県の生まれ。早稲田大学理工学部を卒業。東京工業大学大学院原子核工学科で修士号を取得。マサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インクに入社。日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し退社。経営コンサルタントや人材育成に従事。

以上が、14人の経営者。

15人目として、インタビューアーの楠木建が登場。対談形式で「あとがき」のような総括。

感想

『戦略読書日記』を読んで面白かったので、さらに楠木建の他の著作を読んでみようと思って、手に取ったのが『「好き嫌い」と経営』

気になる経営者たちが多く対談していたのもポイント。

大前研一、出口治明、柳井正、藤田晋、星野佳路の本は、色々と読んだこともある。

というわけで、この『「好き嫌い」と経営』

以下、引用などをしながら紹介。

営業も、部下のコントロールも嫁さんのコントロールも、全部が人心掌握。嫁さんの心もつかめないようでは、仕事なんかできませんよ。(P.23「Profile#01 永守重信 日本電産 代表取締役社長」)

若い頃に、なかなかのモテ具合だったという永守重信。

もともと人を楽しめるのは好きだったようだ。

そこから発展して、自分の嫁さんの心をつかめないのであれば、営業や部下の統制すらもできないはずであるという主張。

まぁ、確かに言われてみれば、そうである。

ただそうは言っても、合う合わないもあるので、そのような部分は、しっかりと見極めるとのこと。

また減点主義ではなく、加点主義で考えているのもポイントかも。

肯定的な組織設計をすれば、自ずと人が着いてきて、成果や結果も出しやすくなるはず。

若い頃は「実業界を早く引退して投資家で終わりたいな」と思ったりしたけれど、ビジネスより投資のほうがよっぽど難しい(笑)。よほど才能がある人以外は、やっちゃいけないと思います。(P.63「Profile#02 柳井 正 ファーストリテイリング 代表取締役会長兼社長」)

投資は好きだけれど、苦手だという柳井正。

はっきりと、投資には向いていないという発言に続いての上述の引用。

世界的な規模でビジネスをしている人でも、投資の世界は難しい、というのは、なかなか面白い。

実際に、柳井正は、かなりの金額を投資で失っているっぽいような記述もある。

向き不向きもあるとは思うが、経営と投資は違うものなのか。

私自身も株式投資を少しだけ実際にやっているが、まぁ、分からない。

変数が多過ぎるし、勉強すべき事項も多過ぎる。

今後も社会勉強のために継続はするけれど、損をしないようにしていこう。

リサーチというのは顧客の体験や過去の検証であって、将来を予見するインサイトではありません。お客様がまだ自覚しておらず、言葉にならないところにビジネスチャンスがあるわけです。(P.69「Profile#03 原田泳幸 日本マクドナルドホールディングス 取締役会長」)

リサーチだけで、企画を立ててはいけないという主旨。

仮説を自ら立てて、リサーチで検証、そこからのインサイトで、企画を立案する、といった流れが理想か。

ここでは、リサーチに関する注意事項で、具体的には理想的なプロセスについての記載はない。

お客様のインタビューでは、企画のためのインサイトは得られないという話。

基本的には、お客様の発言ではなく、お客様の行動を考察した方が、良いだろう。

さらに話は、音楽やマラソン、トライアスロンへと発展していく。原田泳幸は高校の時に本格的にドラムを始めたとか。

ちなみに、楠木建も音楽好きで、ロックバンドを組み、ベースを担当している。

定食がまずそうなとき、お客様は必ずカレーや麺類を選びます。また、何がおいしいかは日によって変わるもので、普遍的に重要なのはお米のおいしさです。ローソン改革の最初に行った「おにぎり屋」は、その考えで始めたものです。(P.98「Profile#04 新浪剛史 ローソン 取締役会長」)

これは全く意識していなかったこと。考えてみたらそうかも。

カレーで失敗した経験はないし、麺類も失敗する確率は低い。

そして、基礎の基礎というか、本質としては、お米。お米が美味しければ、おにぎりや定食も、美味しくなる可能性は高い。

なるほど。基礎が大切という当たり前のことだ。ただ忘れてしまいがちである。

一般的な経営者では、細かいこと気にせずに大局的に物事を判断して実行することが多い中、新浪剛史は細かい部分まで、自分で行動するという。

発言や指示が細かく、情報量が多いので、部下が対応できないことが多かったとか。

そのため、分かりやすいシンプルな指示に、修正するようにしたというエピソードも。

といった感じで、他の経営者たちの対談も進んでいく。

話し言葉でテンポが良く、文量は多いけれど、割りとサクサク読み進められる作品。

楠木建のファンや掲載されている経営者のファン、経営やビジネスの考え方などを知りたい人には、非常にオススメの本である。

2016年4月22日には続編的な『「好き嫌い」と才能』という書籍も刊行されている。

書籍紹介

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