大沢武志『心理学的経営』

大沢武志の略歴

大沢武志(おおさわ・たけし、1935年~2012年)
元リクルートの専務取締役。大学講師。
東京大学教育学部を卒業。東京大学大学院修士課程を修了。
日立製作所に入社。後に、日本リクルートセンター(現在のリクルート)に入社。
その他、東京大学や立教大学の講師、産業大学大学院客員教授、産業組織心理学会理事長などを務める。

『心理学的経営』の目次

序章 心理学的経営とは
第一章 モティベーション・マネジメント
1 積極的な満足感は「仕事」から生まれる
2 外的報酬のもつ意味
3 職務特性モデル
4 目標のもつ意味
第二章 小集団と人間関係
1 「ホーソン効果」の真実
2 「集団規範」が行動を決める
3 自律的小集団
4 エンカウンター・グループ
第三章 組織の活性化
1 活性化の現象学
2 不均衡の理論
3 活性化のマネジメント
4 企業のライフステージと活性化
第四章 リーダーシップと管理能力
1 リーダーシップとパーソナリティ特性
2 リーダーシップ四機能論
3 リーダーシップ行動の測定
4 リーダーシップ行動の変容
第五章 適性と人事
1 職務適性と社員適性
2 企業人適性の三側面
3 適性を測る
4 企業の求める人物像
第六章 個性化を求めて
1 ユングの性格タイプ論
2 個性を見出す
3 リーダーシップと性格タイプ
4 企業人の個性化
あとがき

『心理学的経営』の概要

1993年10月29日に第一刷が発行。PHP研究所。203ページ。電子書籍は、2019年4月17日に製作。

約30年にわたって、リクルートの組織運営に携わった大沢武志が、さまざまな研究や実務などを照らし合わせて、まとめた心理学を取り入れた経営論。

副題は“個をあるがままに生かす”。

序章から第六章までの構成。

第一章から第六章のそれぞれの最後には参考文献が掲載されている。参考文献は、おおよそ1960年代~1990年代に刊行されたもの。

序章では、心理学的経営の概要を説明。また、あとがきには、本書の作成の発端などについての記述もある。

『心理学的経営』の感想

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以前に、リクルートを創業者した江副浩正(えぞえ・ひろまさ、1936年~2013年)やリクルートの発展、リクルート事件などの詳細が掲載されている『起業の天才!』をとても楽しく読んだ。

そこから、リクルートのことや関連した人物たちにも興味を持った。

江副浩正は、東京大学教育学部を卒業。在学中にリクルートを創業。

今回の著者である大沢武志も東京大学教育学部の卒業である。さらに30年にもわたってリクルートで働いてきた人物。

そして、リクルートの組織としての在り方を研究してきた人物である。

以下、引用と一緒に紹介。

しかし、そもそも人間の行動は、このいわばノイズとしてのムダな情緒や感情を基底にもつところにその本質がある。効率性と合理性を優先させる組織論は、人間存在の一方の重要な側面を無視しているのである。(P.19「序章 心理学的経営とは:人間をあるがままにとらえる」)

合理的な組織論を引き合いにしながら、人間についての考察を行なう。

合理性だけではなく、情緒や感情など、人間の現実をあるがままに受け入れ、とらえることを非常に大切にしているのが、心理学的経営の考え方とのこと。

人間は合理だけではなく、感情で動くし、むしろ合理的な判断をどこまで出来るのかも疑わしい。

そのため、情緒や感情といったものも考慮して、経営を考えるのが良いのではないかという方向性。

すべての人間が仕事に等しく意欲的で自ら責任をとることを好むものでもない。また一人の個人をとりあげても仕事への意欲は状況によって変ることもあれば、大将によっても、気分によっても変るものである。(P.22「第一章 モティベーション・マネジメント」)

そして、人間はそれぞれに個性があったり、同一の人物でも日によって、状況によって、仕事への意欲は変わってくる。

そのようなことも全て含めて、人間の心理的事実をありのままに受け容れるのが心理学的経営のはじまりと説く。

人間というものに対して、かなり公平で誠実なスタンスが明言されている部分である。

これらの五つの職務次元、すなわち技能の多様性、課業のまとまり、仕事の有意義性、自律性そしてフィードバックが職務設計の中核的五次元といわれるものである。(P.35「3 職務特性モデル:職務設計の中核的五次元」)

ハックマン(J.Richard Hackman、1940年~2013年)とオールダム(Greg R.Oldham、生没年不詳)の「職務設計の中核的五次元」についての解説。

技能の多様性というのは、どのような能力や技術が求められるか。

課業のまとまりは、仕事や業務内容の一貫性。

仕事の有意義性は、仕事の意味や影響力。

自律性は、自分の裁量の範囲や責任の大きさ。

フィードバックは、仕事の成果の確認。

分かりやすく言ってしまえば、上記の5つの要素が満たされていると、かなり仕事に前向きになり、意欲が向上するというもの。

その要素を5つにまとめたのがハックマンとオールダムの「職務設計の中核的五次元」。

ただ、ここでも注意点というか、恐ろしい指摘もある。

働く人の能力と技術が、とても低いとき、成長への欲求が弱い時、各種の労働条件に不満を持っていると、効果がなくなってしまうというもの。

スキル不足、現状維持、もしくは不満があると、仕事に対する、やる気が出ない。

身も蓋もない感じではなる。

さらに続いて、大沢武志は、若者にやる気を出す心理的条件として、自己有能性、自己決定性、社会的承認性を重要として掲げる。

自己有能性は、仕事を通して自分の効力感を体験できること。

自己決定性は、自律性、自由裁量、自己責任。

社会的承認性は、職場の上司・同僚・部下など周囲からの理解、認識。

目標設定に関して。

具体的に明確にする。成否の確率は五分五分程度。目標に向けての進捗状況のフィードバック。

上記が非常に重要であると説く。

「目標設定理論」の研究に取り組んでいるアメリカの心理学者エドウィン・ロック(Edwin A. Locke、1938年~)なども紹介。

何かに強制された、組織的、経済的制約のなかで、自分の自由になるべき時間を切り売りするのではなく、自らの主体的な意志で、仕事の主人公になりきることが、最も人間的な仕事への関わりのはずである。(P.51:第二章 小集団と人間関係:1 「ホーソン効果」の真実:照明実験の意外な結果)

大沢武志の仕事観が表れている部分。

当然と言えば当然かもしれないが、仕事にしても人生に対しても、自らが主人公となって、前向きに積極的にか関わっていくことが大切であるというもの。

ここでは、ホーソン効果についても。

ホーソン効果とは、一般に人間は注目されることを好み、特別な扱いを受けると、さらに成果を上げようとする傾向があるということ。

ちなみに、ホーソンとはアメリカのイリノイ州シカゴの郊外にある工場の名前。

大沢武志は、ホーソン効果に関して、道徳的な部分も指摘。

高い倫理観というか、高い仕事意識を持つので、その仕事の集団が、まとまり、より成果が出やすいのではないかというもの。

一橋大学の野中郁次郎教授と対談したとき、私は企業の戦略的活性化のポイントを「一に採用、二に人事異動、三に教育、四に小集団活動、五にイベントにまとめられます。これに共通しているのはカオスの演出です」と述べた。(P82「第三章 組織の活性化:3 活性化のマネジメント」)

野中郁次郎(のなか・いくじろう、1935年~)は、経営学者。

東京都墨田区の出身。東京都立第三商業高等学校を卒業。早稲田大学第一政治経済学部政治学科を卒業。

富士電機製造株式会社に入社。カリフォルニア大学バークレー校経営大学院経営学修士課程、博士課程を修了し、修士号・博士号を取得している人物。

大沢武志は、経営学者の野中郁次郎との対談で、企業の活性化に関して、上記の5つを挙げた。

組織を活性化することで、官僚的形骸化や既得権益的なものを防ぐ効果がある。

いわゆる、創造と破壊の柔らかな表現といった感じか。

因みに、第二次大戦における日本海軍司令官・山本五十六元帥の言葉として有名な「やってみせて、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば人は動かじ」という人を動かす要諦に表現された四つのリーダーシップ行動と、この四機能論は見事な符号を成している。(P.108「2 リーダーシップ四機能論:リーダーシップ四機能論」)

山本五十六(やまもと・いそろく、1884年~1943年)は海軍軍人。

新潟県長岡市の出身。長岡町立阪之上尋常小学校、旧制新潟県立長岡中学校を卒業。海軍兵学校を卒業。海軍大学校を卒業。後にハーバード大学留学もした人物。

ここでは、「やってみせる」は信頼性、「言って聞かせる」は通意性、「させてみせる」は要望性、そして「褒めてやる」は共感性とそれぞれ対応していると解説。

前の部分では、リーダーシップの役割は、メンバーに役割を与えて、動かすこと、そして、個々のメンバーに配慮して、集団を維持すること、と紹介。

リーダーシップの役割と、そのための4つの要素をまとめている。

以上述べた知覚と判断にみられる感覚、直観、思考、感情という四つの心理的機能が、ユングの性格類型論の最も基本的な概念である。(P.163「第六章 個性化を求めて:1 ユングの性格タイプ論:四つの心理的機能」)

カール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung、1875年~1961年)は、スイスの精神科医・心理学者。分析心理学(ユング心理学)を創始した人物。

さらに基本的態度として、外向型か、内向型か、さらに、判断型か、知覚型かという指向のタイプが追加されて分類。

それが、MBTI(Myers–Briggs Type Indicator、マイヤーズ=ブリッグス・タイプ指標)という自己申告型診断テスト。

キャサリン・クック・ブリッグス(Katharine Cook Briggs、1875年~1968年) と娘のイザベル・ブリッグス・マイヤーズ(Isabel Briggs Myers、1897年~1980年)によって1962年に初版が完成。

MBTIを利用すると、個人の職務適性などが分かりやすくなるというもの。

「あとがき」では、この本の発端や経緯についての記述の詳細も。

二年前(一九九一年)、札幌で開かれた日本応用心理学会第五十八回大会でたまたま講演を依頼されたとき、本書の構想とだぶらせて、「人材経営と心理学――心理学的経営試論」と題して駄弁を弄させていただいたのが、本章がこうして陽の目をみるはずみとなってくれた。(P.198「あとがき」)

日本応用心理学会は、心理学の社会への応用を図ることを目的として、1931年に創立された学術団体。

その講演で、この著作と同じテーマを大沢武志が話している。

さらに続いて、立教大学での産業心理学の講座、東京大学での組織心理学の講義を担当したこと。

何よりもリクルートでの約30年の経験から得たものが、本書の背景にあると書かれている。

ちなみに、「心理学的経営」という言葉は、新しい経営のあり方を模索していたリクルートの経営を評してあるジャーナリストが命名したものであるという文章も。

大雑把にまとめてしまえば、組織運営に関しては、心理学の要素なども上手に取り入れながら、感情や情緒面にも配慮しなさいというもの。

組織やチームのまとめ役となる社長さんやリーダー、また組織やチームの中で、上手に生きていくために、さまざまな知見を知りたい人には非常にオススメの著作である。

大沢武志の『経営者の条件』も気になっているので読んでみようと思う。

書籍紹介

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