『超訳ベーコン 未来をひらく言葉』佐藤けんいち

佐藤けんいちの略歴

佐藤けんいち(さとう・けんいち、1962年~)
コンサルタント。
京都府の生まれ。一橋大学社会学部・社会理論過程で歴史学を専攻。
銀行系と広告代理店系のコンサルティングファーム、機械部品メーカーの勤務を経て、独立。
1992年に、アメリカのレンセラー・ポリテクニーク・インスティチュートでMBAを取得。

フランシス・ベーコンの略歴

フランシス・ベーコン(Francis Bacon、1561年~1626年)
イギリスの哲学者、神学者、政治家、法学者、貴族。
ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジを中退。ロンドンのグレイ法曹院で法律を学ぶ。
「知識は力なり」(Ipsa scientia potestas est)の名言や、「イドラ」の概念で有名。

『超訳ベーコン 未来をひらく言葉』の目次

はじめに
Ⅰ 成功の極意
Ⅱ 仕事の極意
Ⅲ 知性を磨く極意
Ⅳ 心を磨く極意
Ⅴ 人とつきあう極意
Ⅵ うまく立ち回る極意
Ⅶ リーダーの極意
Ⅷ 学びの極意

概要

2021年10月22日に第一刷が発行。ディスカヴァー・トゥエンティワン。201ページ。

後世に大きな影響を与えたベーコンの言葉が超訳された作品。処世術などが中心。全体として、8章に大別されていて、さらに細かく、161の項目に分かれている。

訳者は、佐藤けんいち。

感想

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ベーコンは、色々な人が尊敬し、引用している。
今北純一(いまきた・じゅんいち、1946年~2018年)や瀧本哲史(たきもと・てつふみ、1972年~2019年)など。

一応、世界の名著シリーズでベーコンを所有しているけれど、挫折した経験がある。

そんな中、「超訳」というお手軽な感じのものがあったので読んでみる。

何となく入り口としては良い感じ。気になる言葉も沢山あった。

以下、引用と合わせて記述。

避けるべき感情は、嫉妬、恐怖、心配、内攻する怒り、詮索、喜びのあまりはしゃぐこと、人に言えない悲しみ、などである。
受け入れるべき感情は、希望、そして快活さ、驚異と感嘆などだ。だからこそ、歴史や自然観察などが心を満たしてくれるのである。
『エッセイズ』(P.29「Ⅰ 成功の極意:006 リラックスとご機嫌が最高の教え」)

避ける感情と、受け入れる感情。

この二つをしっかりと分けて、意識的に対処していくことが大切であるというもの。

自分の好きなことで、時間を充実させていくのが、精神的にも肉体的にも良いという結論に至る。

歴史と自然観察という具体例も面白い。

歴史にゆかりのある自然の多い場所などへと観光に行くのが良いのかも。

旅好きな自分には最適である。

たしかに、収支を均衡させて富を減らしたくないなら、経常的な出費は収入の半分を超えてはならない。さらに金持ちになりたいなら、三分の一以下に抑えなくてはならない。
『エッセイズ』(P.42「Ⅰ 成功の極意:019 出費はおさえなくてはならない」)

金銭的な話も出てくるのは、ちょっと意外であった。

しかも、とても現実的な金銭に対する方法。

収入の三分の一に、出費を抑える考え方。

何となく林学者で造園家の本多静六(ほんだ・せいろく、1866年~1952年)を思い出した。

本多静六は、四分の一の貯金に回すという方法を推奨。

出費に目を向けるか、貯金に目を向けるかの違いはあるが、結果的にどちらも効率的に、節約が出来たり、経済的な余裕が出来ていく。

やはり、経済観念というのは、いつの時代も大切である。

結論からいえば、選ぶべきコースは、競争相手がほとんどおらず、自分がもっとも目立つことのできそうなものであることだ。
『学問の進歩』(P.64「Ⅱ 仕事の極意:040 競争相手がいない分野を選べ」)

競争するな、という至言。

これは、PayPalの創業者で、実業家のピーター・ティール(Peter Andreas Thiel、1967年~)も言っていること。

確か、ピーター・ティールも、愛読書として、フランシス・ベーコンの『ニュー・アトランティス』を挙げていた。

ことばは、明らかに知性に暴力をふるい、すべてを混乱に陥れ、数知れない空虚な論争と妄想へと連れ去ってしまうのである。
『ノーヴム・オルガヌム』(P.76・Ⅲ 知性を磨く極意:051 思い込みその3 ことばがもたらす「広場のイドラ」)

言葉は諸刃の剣である。利点もあれば悪点もある。

言葉による暴力。空虚な論争と妄想。

特に現代ではネット言論などでは、顕著。

文章力と読解力。立場や前提条件の違い。

充分な配慮が必要である。

アテナイの将軍テミストクレスは、ペルシア王にこう語っている。
「ことばにするとは、絨毯を拡げて見せるようなもの。イメージが形となって現れます。ところが、考えているだけではダメ。絨毯が巻かれていては見えてこないのです」と。じつに名言ではないか。
『エッセイズ』(P.78「Ⅲ 知性を磨く極意:053 人に話すことで考えがはっきりする」)

テミストクレス(テミストクレース、Themistocles、紀元前524年から520年頃~紀元前459年から455年頃)
アテナイの政治家・軍人。

アテナイをギリシア随一の海軍国に成長させ、ペルシア戦争の勝利を導いた人物。

言葉にすると、思考を具体化することが出来る、という話。

思考するだけではダメであり、抽象的なものを言語化する。

言語化したものをさらに、行動という現実に落とし込むことも。

フランシス・ベーコンの著作の中には、過去の偉人達の言葉も紹介されているので、面白い。

この辺りも特徴的な部分である。

お節介でせんさく好きな人は、たいてい嫉妬深いものだ。自分の利益になるから他人事に興味しんしんなのではなく、他人の運命を芝居見物のように眺めるのが快感であるに違いないからだ。
自分の仕事しか考えていない人には、他人を嫉妬しているヒマなどない。
『エッセイズ』(P.91「Ⅳ 心を磨く極意:065 嫉妬は暇から生まれる」)

「小人閑居して不善をなす」と、紀元前の中国・前漢時代『礼記』の一編『大学』に由来する言葉もある。

いつの時代、どの場所でも、人間の本質は変わらないようだ。

嫉妬、他者への関心、暇であること。この辺りがキーワードというか、注意点である。

前述の避けるべき感情と受け入れるべき感情でも同じであるが、自分の好きなことに集中して、充実した自らの生活を営むこと。

とても大切である。

また、その後には応用編的な感じで、自分にあまり関係のないところで、妨害されたり、圧倒されたりしておいて、程良く嫉妬の犠牲になっておくのも、ベターという主旨の記述も。

なるほど、勉強になる。

すでに過ぎ去った過去は、呼び戻すことはできない。賢者には、現在と未来にやらねばならぬことが多い。過去の出来事にわずらわされて自分を浪費してはならない。
『エッセイズ』(P.128「Ⅴ 人とつきあう極意:101 復讐しないのは真の勝利」)

過去と他人は変えられないと一般的に言われている。

やはり、フランシス・ベーコンも、過去は変えられないと明確に記している。

賢い人たちは、現在と未来に、すべきことが山積みなので、過去に煩わされることがない。

下らないことに、自分を浪費してはいけない、という結論。

歴史は、人間を賢くする。詩は、人間を多才にする。数学は、頭脳を鋭敏にする。自然哲学は、思考を深くする。道徳哲学は、人間を重厚にする。論理学(ロジック)と修辞学(レトリック)で、議論に強くなる。「学問は人格に移る」(オウィディウス)と言われる通りだ。
『エッセイズ』(P.174「Ⅷ 学びの極意:144 学問は心の処方箋」)

これは、勉強になる言葉。ただ、詩は、人間を多才にするのか、はちょっと分からないけれど。

観察眼と豊かな感情が得られるという点において、多才とは言えるかもしれないけれど。

オウィディウスとは、古代ローマの詩人のプーブリウス・オウィディウス・ナーソー(Publius Ovidius Naso、紀元前43年~紀元後17年 or 18年)。

官能的で優雅な叙情詩「愛の技術」で名をなす。ほかに神話に材をとった物語詩「メタモルフォセス」や「祭暦」「悲歌」などがある人物。

この少し前には、学ぶことによって、自分の心を見つめることができる、つまり、自分の責任を明確化できる、といった話も。

要するに、学び続けることが成長を促進させ、成長や努力が、幸福そのものであるという感じか。

まさに前述した本多静六と同様の考え方。

賢い人たちの考え方は似てくるものなのか。愚かな人たちの考えることが同様であるように。

機会というか、興味や関心がさらに高まったら、原典の通常の翻訳も読んでいきたいところである。

フランシス・ベーコンの著作や思想家、哲学者の考え方に興味や関心のある人には、非常にオススメの本である。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

レンセラー・ポリテクニーク・インスティチュート:佐藤けんいち

レンセラー・ポリテクニーク・インスティチュート(Rensselaer Polytechnic Institute)は、アメリカのニューヨーク州トロイにある1824年に設立の私立の工科大学。

公式サイト:レンセラー・ポリテクニーク・インスティチュート

ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ:フランシス・ベーコン

トリニティ・カレッジ (Trinity College)は、イギリスのケンブリッジ大学(University of Cambridge)を構成するカレッジの一つ。ヘンリー8世(Henry Ⅷ、1491年~1547年)によって、1546年に創設。

公式サイト:ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ