『西洋の着想 東洋の着想』今北純一

今北純一の略歴

今北純一(いまきた・じゅんいち、1946年~2018年)
経営コンサルタント。
広島県の生まれ。東京大学工学部応用物理学科を卒業、東京大学大学院化学工学科修士課程を修了。
旭硝子、英国オックスフォード大学、仏国ルノー公団、エア・リキードで勤務。

『西洋の着想 東洋の着想』の目次

序にかえて 日本人という呪縛
第一章 常識を改造する
第二章 二つのアプローチを考える
第三章 着想の座標軸を求めて
第四章 評論から実践へのジャンプ
終わりに

概要

1999年4月20日に第一刷が発行。文春新書。229ページ。

イギリスやフランスなど海外でも活躍した経営コンサルタント・今北純一の著作。

人に頼らず、自分の城は自分で守る、そうすればその報酬として世間の思惑に翻弄されることなく個人としての自由を手に入れることができる。これが、私がヨーロッパで見つけた個人主義だ。(P.14「序にかえて 日本人という呪縛」)

日本を離れて、イギリスやフランスで活躍した著者。

日本の集団主義の限界を指摘し、これまでの常識を再構築する必要性があると説く。そして、実際に今北純一は日本だけではなく海外でも能力を存分に発揮した。

その中での経験を、その常識の再構築のためのヒントと提案の形にまとめたのが、今回の書籍。

もともとは、自分のための気付きのメモ書きだったものが、体系化されていったという。

自然科学におけるブレークスルーを達成する上で成否の鍵を握るのは、この、仮説の設定の仕方である。それも、どれだけ大胆な仮説を設定できるかで運命が決まるといっても過言ではない。技術におけるブレークスルーにおいても同じことが言える。(P.43「第一章 常識を改造する」)

大胆な仮説は、当たっているのはもちろん良いが、間違っていても無駄にはならない。

その不合理の批判を出発点として、新たな発見や証明が生み出される場合もあるため。

この記述の前には、天動説のプトレマイオス(Claudius Ptolemaeus、83年頃~168年頃)と、地動説のアリスタルコス(Aristarchus、前310年~前230年頃)やコペルニクス(Nicolaus Copernicus、1473年~1543年)たちの話。

ドイツの化学者ベッヒャー(Johann Joachim Becher、1635年~1682年)とシュタール(Georg Ernst Stahl、1659年~1734年)の二人と、フランスの化学者・ラボアジェ(Antoine-Laurent de Lavoisier、1743年~1794年)の燃焼に関連するエピソードも。

ラジウムの発見者としてのキュリー夫人(一八六七~一九三四)の名前を知らない人はないが、ノーベル賞を二度もらったキュリー夫人の功績は、細分化のプロセスと統一化のプロセスの組み合わせの歴史的証言そのものである。(P.127「第三章 着想の座標軸を求めて」)

分裂と融合。

この細分化と統一化のプロセスによって、新しい発見や発展を見い出す事が出来る可能性が高い。何かの研究だけではなく、ビジネスや日常生活にも役立つ知見である。

因みに、ノーベル賞を受賞したキュリー夫人(Madame Curie、Maria Salomea Skłodowska-Curie、1867年~1934年)は、一度目は物理学賞、二度目は化学賞と分野が異なる。

その後も、具体的な事例を交えて、着想のための指針となる座標軸のヒントが記述される。

結論としては、イノベーションの発掘の起爆剤の一つが、発想における融合であると今北純一は述べる。企業であれば、経営理念と時代の流れを上手く適合させる事でもあると。

行動と体験を通じて、心に伝え、目に伝え、耳にも伝え、とすべてのものを、現場でつかんだ自分自身の信念に基づいて人々に伝えていく姿勢こそが、国境を超えたメッセージの発信につながるということなのである。(P.214「第四章 評論から実践へのジャンプ」)

ここでは「行動の伴わない愛は不充分だ」との信念を持っていたマザー・テレサ(Mother Teresa、1910年~1997年)が紹介されている。

そして、行動は小さな積み重ねの徹底であるという話も。

どのような理想や目標があっても、行動がなければ意味がない。

行動とは大きな物でもない。小さな事の積み重ねである。

小さな事を継続的に実行していく。それが波及していき、大きな物となる、といった流れ。

感想

著者の今北純一は、確かコンサルタントの梅田望夫(うめだ・もちお、1960年~)の書籍か何かで知った人物である。

高度経済成長の時代の日本を飛び出して、海外で活躍した人物。一冊読んで好きになり、他の著作も読み漁った。

この書籍には、様々な化学者や科学者、哲学者、思想家、偉人などが登場する。

日本人では、指揮者・佐渡裕(さど・ゆたか、1961年~)や遺伝学者・木村資生(きむら・もとお、1924年~1994年)なども。

化学や科学、思想、哲学など、また歴史についても勉強になる。

事例が幅広い分野に及ぶので、基礎的な知識も広がる。また世界で仕事をするための思考や行動の勉強にもなるし、大きな刺激も受ける。

「終わりに」でも「自分で考え、直感を信頼し、行動をおこす、これしかない」と言う。日本再生のために、一人ひとりの個人が動き出さなければならないという事。

実際、著者は非常に賢い人なので、情報量が多く、追い掛けるで精一杯になってしまうが、様々な小さな行動を続けていきたいと思う。

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オックスフォード大学

イギリスのオックスフォードにある11世紀末に設立した名門の総合大学。

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