『2020年6月30日にまたここで会おう』瀧本哲史

瀧本哲史の略歴

瀧本哲史(たきもと・てつふみ、1972年~2019年)
経営コンサルタント。投資家。教育者。
麻布中学校・高等学校を卒業。東京大学法学部を卒業。
東京大学大学院法学政治学研究科助手やマッキンゼー・アンド・カンパニーなどを経て、京都大学産官学連携センターの客員准教授も務める。

『2020年6月30日にまたここで会おう』の目次

第一檄 人のふりした猿にはなるな
第二檄 最重要の学問は「言葉」である
第三檄 世界を変える「学派」をつくれ
第四檄 交渉は「情報戦」
第五檄 人生は「3勝97敗」のゲームだ
第六檄 よき航海をゆけ
あとがきにかえて 柿内芳文

概要

2020年4月24日に第一刷が発行。星海社新書。224ページ。

2012年6月30日に東京大学の伊藤謝恩ホールで開催した瀧本哲史の講義を収録した書籍。

この講義の参加資格は、29歳以下に限定して、約300人の10代・20代が全国から集まったという。

自ら明かりを燈せ。つまり、他の誰かがつくってくれた明かりに従って進むのではなく、自らが明かりになれ、と突き放したわけです。
これがきわめて大事だと僕は思いますね。(P.13:第一檄 人のふりした猿にはなるな)

仏教の自灯明の話。開祖である釈迦(しゃか、前7~前5世紀頃の人物)が亡くなる前に、弟子たちに伝えた言葉。

釈迦が亡くなったら、自分たちはどうすれば良いのかと弟子たちが困っていた。釈迦は、大事なことは全て教えたから、自分で考えて自分で決めなさい、と言ったという逸話。

瀧本哲史も、この考え方に賛同している。何となく、本田技研工業の経営面を担った藤沢武夫(ふじさわ・たけお、1910年~1988年)の「松明は自分の手で」という言葉と重なる。

現代社会と言いましたが、僕たちが生きているこの社会の基本ルールというのは、資本主義、自由主義、民主主義の3つになります。これらをよく理解することなく、何かを考えたり努力しても徒労に終わるだけでしょう。(P.19:第一檄 人のふりした猿にはなるな)

資本主義は、市場が正誤を判断してくれること。自由主義は、契約や義務という拘束はあるが自由に活動すること。民主主義は、ルールは市民が皆で決めること。

現代社会の基本ルールを知って、しっかりと戦っていく。特に何も考えないで生きていけば、替えのきく人材、いわゆる、コモディティになってしまい、買い叩かれてしまうという話。

その現代社会で重要になってくるのが、先述の自灯明の話。つまり、自分で考えて、自分で決める、ということ。

ブルームによれば、「教養の役割とは、他の見方・考え方があり得る、、、、 、、、、、、、、ことを示すことである」と。
これは、けっこう超重要な定義でして、僕も同意見です。(P.30:第二檄 最重要の学問は「言葉」である)

アラン・ブルーム(Allan Bloom、1930年~1992年)は、アメリカ合衆国の哲学者。『アメリカン・マインドの終焉』という書籍で有名。

学問や学びというのは、答えを知ることではなく、先人たちの施行や研究から、新しい視点を手に入れることであるという主旨が続く。

そして、瀧本哲史は正解を教えることに対して、あまり良いことだとは思わずに、むしろ批判し続ける姿勢でいる。

つまり交渉とは、
「自分の都合」ではなく、「相手の利害」を分析する、
そのためには、「話す」のではなく「聞く」、
そして、非合理な相手は「猿」だと思って、研究する(笑)。(P.118:第四檄 交渉は「情報戦」)

ここでは、交渉時の話。交渉は「情報戦」であり、いかに相手から情報を集めるかで決まるという話。

よく自分の意見を主張した方が良いと思われるが、それは間違っているという指摘も付け加えられる。

「自分の都合」ではなく、「相手の利害」がポイント。

また交渉が上手くなると、プレゼンも上手くなるというメリットも。

究極的には、僕が投資するときは「事業がまったくうまくいかなくても、誰かがその会社を買収したくなる会社にしか投資しない」という方針をとっています。(P160:第六檄 よき航海をゆけ)

第六檄は、会場からの質問に答える部分。

瀧本哲史の投資は、かなりの高確率で買っているのではないか。その成功要因は何なのか。という質問の回答。

失敗しないように気をつけてはいるが、基本的には会社のテーマとメンバーが重要であるとの補足も。

パクリではなく、オリジナリティーがあって、そのメンバーだからこそ実現できるようなチームであること。

そうであれば赤字続きであっても、タイミングの問題となるという話。

感想

瀧本哲史が亡くなったという情報が出回った時は驚いた。数年前に何かで知って、いろいろと著作を読み漁っていたので。

この本は、2010年に開催した講義をまとめたもの。書籍化の経緯は、星海社新書の初代編集長である柿内芳文(かきうち・よしふみ、1978年~)が「あとがきにかえて」で書いている。

つまり、講義に参加していなかった次世代の人々に、瀧本哲史の遺伝子を配りたいという思いから、この本を編集したとのこと。

タイトルは、講義の最後の瀧本哲史の言葉から。

ちなみに、この本には目次はなく、6ページからいきなり本文が始まる。

それぞれ「章」ではなく「檄」となっているのも面白い。各檄の終わりには、まとめとして要点が、第◯檄で手に入れた「武器」、として掲載されている。

この辺りの構成もしっかりとしているので、読みやすく頭にも残りやすい。

若い人向けに行なわれた講義であり、編集された本ではあるが、年齢に関係なく勉強になることが多いので、幅広い世代にもオススメである。

書籍紹介

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