『強力伝・孤島』新田次郎

新田次郎の略歴

新田次郎(にった・じろう、1912年~1980年)
小説家。
本名は、藤原寛人(ふじわら・ひろと)で、気象学者。
長野県諏訪郡上諏訪町角間新田(かくましんでん)の生まれ。
旧制諏訪中学校(現在の長野県諏訪清陵高等学校)、無線電信講習所本科(現在の電気通信大学の母体)、神田電機学校(現在の東京電機大学の母体)を卒業。
1956年に『強力伝』で直木賞、1974年に『武田信玄』等で吉川英治文学賞を受賞。
妻は、作家の藤原てい(ふじわら・てい、1918年~2016年)、次男は数学者の藤原正彦(ふじわら・まさひこ、1943年~)。

『強力伝・孤島』の目次

強力伝
八甲田山
凍傷
おとし穴
山犬物語
孤島
解説 小松伸六

概要

1965年7月30日に第一刷が発行。新潮文庫。259ページ。

直木賞受賞作「強力伝」をはじめとする初期の作品を集めた短編集。

「強力伝」は、50貫、つまり約187キロの重さの巨石を白馬岳の頂上に運ぼうとする強力(ごうりき)の物語。実話を基にしている。

ちなみに、強力とは山岳の案内人であり、荷物の運搬を生業とする人のこと。

「八甲田山」は、1902年(明治35年)1月、青森歩兵第5連隊の210名が遭難した雪中行軍を描いたもの。実際にあった山岳遭難事故を基にしている。

「凍傷」は、富士山頂に観測所を設立するために尽力した佐藤順一をメインにした物語。

佐藤順一(さとう・じゅんいち、1872年~1970年)は、福岡県出身、東京物理学校(現在の東京理科大)を卒業している。筑波山の測候所の初代所長も務めた人物。

「おとし穴」は、山犬の落とし穴に落ちてしまった主人公が、その穴の中で、山犬と対峙する物語。

「山犬物語」は、山犬のために娘を失ってしまった夫婦の悲しい復讐劇。

「孤島」は、鳥島(とりしま)という離島を舞台にした測候所員たちの物語。

解説は、ドイツ文学者で文芸評論家の小松伸六(こまつ・しんろく、1914年~2006年)。北海道釧路市の生まれ。東京帝国大学を卒業。

感想

新田次郎の初期の短編作品が、まとめられたものである。

どれも自然の脅威などが、詳細に描かれている。息の詰まる感じというか、重苦しい雰囲気が漂う場面も多々ある。

爽やかな感じではない。重厚な感じである。

やはり、1956年に直木賞を受賞した「強力伝」が注目の作品かもしれない。

解説にも掲載されているが、当時の選評も興味深い。

当時の選評では、「文章はゴツイが、作品の印象は鮮明」(永井竜男)、「文学青年やつれのない作品、謙虚だが素直に書けている」(井伏鱒二)、「特殊な世界の物語だが、授賞対象の意識を忘れて感心した」(川口松太郎)といった批評がみえる。(P.256「解説」)

上記、原文ママ。永井竜男というのは、永井龍男。

永井龍男(ながい・たつお、1904年~1990年)…小説家。東京生まれ。一ツ橋高等小学校を卒業。編集者の仕事をしながら、執筆活動も。

井伏鱒二(いぶせ・ますじ、1898年~1993年)…小説家。広島生まれ。広島県立福山中学校を卒業。早稲田大学文学部仏文学科を中退。1938年に『ジョン万次郎漂流記』で直木賞を受賞。

川口松太郎(かわぐち・まつたろう、1899年~1985年)…小説家、劇作家。東京生まれ。1935年に「鶴八鶴次郎」「風流深川唄」「明治一代女」の作品で第1回の直木賞を受賞。上述の3作品は、光文社文庫『鶴八鶴次郎』に収められている。

この辺りの歴史的な文豪たちが、選考委員として登場しているのも面白い。

ちなみに富士山ということであれば、「凍傷」も重要な作品。

時代的な流れで言えば、新田次郎の作品では、『芙蓉の人』、「凍傷」、『富士山頂』という形になる。歴史小説・時代小説として、ある種の連作とも読めるのがポイントである。

全体としては、山岳小説、歴史小説、時代小説、民話、寓話といった、さまざまな要素が入り込んだ短編が、まとめられている本。

新田次郎の初期作品に触れたい人や短編を読みたい人には、非常にオススメの作品である。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

白馬岳

白馬岳(しろうまだけ)は、飛騨山脈(北アルプス)北部の後立山(うしろたてやま)連峰にある標高2932 mの山。長野県と富山県にまたがる。

八甲田山

八甲田山(はっこうださん)は、青森県青森市の南側にある標高1585mの大岳を主峰とする火山群。青森県の中央部にある。

鳥島

鳥島(とりしま)は、伊豆諸島の島。伊豆鳥島(いずとりしま)とも呼ばれる。特別天然記念物アホウドリの生息地としても有名。西側に鳥島気象観測所があった。東京都に属する。