『続 知的生活の方法』渡部昇一

渡部昇一の略歴

渡部昇一(わたなべ・しょういち、1930年~2017年)
英語学者。評論家。
山形県鶴岡市生まれ。上智大学文学部英文学科卒業、上智大学大学院西洋文化研究科修士課程修了。
ヴェストファーレン・ヴィルヘルム大学(通称・ミュンスター大学)に留学、Dr.Phil(哲学博士号)を受ける。

『続 知的生活の方法』の目次

はじめに
1-日本の知的生活の伝統
2-知的生活の理想像
3-仕事のしかたとライブラリー
4-知的独立について
5-知的生活と表現

概要

1979年4月20日に第一刷の発行。講談社現代新書。218ページ。1976年4月20日に第一刷が発行された『知的生活の方法』の続編。

また今回はカードの作り方などの細かい技術的なことにはあまり触れないようにした。それよりは知的生活というライフ・スタイルを作りあげるうえでの心術とでもいうべきことをのべたつもりである。(P.4「はじめに」)

前著が非常に詳しい方法論をメインとしたものであったのと比較して、こちらの著作はより精神面を主軸としたもの。

ただ様々な偉人のエピソードや渡部昇一の具体的な体験が数多く掲載されているので、方法論としても非常に参考になる。

この著作にスコットランドからの例が多い理由は、イギリスに1977年~1978年の一年間、住んでいて帰国する少し前に、出版の依頼を受けたため。

海外の文化や伝統などが垣間見えるのも、一つの特徴である。

そんなに客にこられてどうして仕事ができたのか、といえば、午前中の大部分は戸外ですごし、午後に著述、夜は客をもてなす、という時間の三分法を励行したからである。(P.61「2-知的生活の理想像」)

ここでは、スコットランドの詩人で小説家のサー・ウォルター・スコット(Sir Walter Scott、1771年~1832年)についての解説が続いている部分。

弁護士の資格を持ち法律家としての仕事も続けながら、文学でも人気を博した人物。

時間の使い方も上手で、一日を三分割して、それぞれ活用していた。

それ以前に一年の半分はスコットランドの首都であるエディンバラで過ごし、残りの半分は南東にある郊外、ツイード川の近くのアボッツフォードで過ごしていたという。

一日、一週間、半年、一年と有限の時間を有効利用して、法律の仕事、文学の研究、友人との交流を最大化させていたという事。

ド・セナンクールは「世間とつき合っているとき、人は自分の時代に生きるのだが、孤独のときはすべての時代に生きるのです」といったそうである。(P.69「2-知的生活の理想像」)

ド・セナンクールとは、フランスの小説家のエティエンヌ・ピヴェール・ド・セナンクール(Etienne Pivert de Senancour、1770年~1846年)。

孤独の時間は知的生活や知的生産のためには非常に重要である。ただ、人間の生活には交際も必要。

様々な人々との交流の中でも、知的な刺激は受けるので、孤独の時間と交際の時間を上手く区分していく事が大切という話。

バランスを取りながら、アウトプットとインプットの時間を配分していくのが肝である。

すぐれた長篇小説家は必ず多作であり、多作の人は必ず機械的に書いているのだ、と悟るべきものなのだ。別のいい方をすれば、機械的な書き方をしても文学的感興を与える才能のある人が長篇小説家であるということになろう。(P.79「3-仕事のしかたとライブラリー」)

機械的に、休日ではなく、平日に書き続けられる人間が優れた作家である。

インスピレーションが出てきた時だけ、気分が乗っている時だけ、書いているというわけではない。日々、機械的に書き続けているという事。

この後には、平日に変わりなく書き続けた作家たちの例として、夏目漱石(なつめ・そうせき、1867年~1916年)や、山田智彦(やまだ・ともひこ、1936年~2001年)、新田次郎(にった・じろう、1912年~1980年)の言動が掲載されている。

夏目漱石は午前中に、勤め人であった山田智彦と新田次郎は、帰宅後の夜に小説を書き続けたという。

経済的独立を得たり、海外滞在の経験をするためには、定職を捨てることを気にせず、その後は貯金の金利で生活して著作に打ち込むときうライフ・スタイルが、そこに出てくるのである。(P133「4-知的独立について」)

経済的独立や海外滞在となると、定職から離れる必要がある。もしくは、かなりの交渉が必須となるのかもしれない。

また現在では、貯金の金利は微々たるものであるため、その後の生活のための各種の工夫も考えなければならないだろう。

ここでは、哲学者のデイヴィッド・ヒューム(David Hume、1711年~1776年)と、経済学者のアダム・スミス(Adam Smith、1723年~1790年)の話が記載されている。

二人とも倹約をしながら裕福な貴族の個人教授などで充分な報酬を受け取って生活の基盤を整えていった。

因みに同じ章の後半には、日本人の事例も。『私の財産告白』を出版した大学教授の本多静六(ほんだ・せいろく、1866年~1952年)である。

本多静六は、長年の倹約・貯金・株式投資などで、膨大な資産を築き上げた人物。

感想

『知的生活の方法』のシリーズの二作目。因みに「正・続・新」という形で、三作目までで出ていると認識している。次の機会には、「新」も紹介しようと思う。

前作を読んでいるのであれば、この二作目も読むのが非常に良いかと。より深みを感じられる著作である。

スコットやヒューム、本多静六など、あまり知らなかったので、とても勉強になった。

特に本多静六については、ここから各種の著作を読み始めた。というよりも、渡部昇一が本多静六についての本を出していたり、本多静六の本に解説を寄稿していたりも。

経済的独立についても、大きな刺激を受けた。なるほど、自分のための知的生活のために、資産という基盤が必要になるという事。

恒産なくして恒心なし、とも言うし。渡部昇一や本多静六のおかげで、株式投資などにも興味を持つ事が出来た。

未だに経済的独立は難しいけれど、仕事や倹約、株式投資などで、地道には進んでいるように感じている。

海外滞在などもしたいと思うので、自分の生活を見直しつつ、生活基盤を盤石にしていこうと改めて思う。

知的生産、知的生活に関連したものが好きな人には非常にオススメの著作である。

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