『かくれさと苦界行』隆慶一郎

隆慶一郎の略歴

隆慶一郎(りゅう・けいいちろう、1923年~1989年)
時代小説家。脚本家。
東京生まれ。東京市赤坂尋常小学校を卒業。同志社中学校を卒業。第三高等学校文科丙類を繰り上げ卒業。東京大学文学部仏文科を卒業。本名は、池田一朗(いけだ・いちろう)。

『かくれさと苦界行』の目次

※実際には目次は無い。以下に見出しの列挙。

川禊
仙洞御所
巨人伝説
巨根
決闘鎰屋の辻
形代
茶立女
勝山幻想
百太夫
戦端
新町
吾妻
海難
けいどう
妻恋
初買
初桜
初節句
解説 縄田一男

概要

1990年9月25日に発行。新潮文庫。450ページ。

1987年12月に新潮社から刊行された単行本の文庫化したもの。

『吉原御免状』の続編。

もともとは、「週刊新潮」の1986年7月10日号~1987年4月23号まで連載されていた時代・伝奇小説。

前作『吉原御免状』では、主人公である松永誠一郎とその仲間たちは、裏柳生との争いに勝つことができた。

しかし、再び裏柳生たちの暗躍が再始動するというのが続編の『かくれさと苦界行』である。

最初の方のページには、登場人物の一覧も出ているので、前作から時間が経ってしまい、どのような人物たちが出てきたかを忘れている場合でも、再度確認できるようになっている。

先述した通り、主人公は松永誠一郎

宮本武蔵(みやもと・むさし、1584年~1645年)に育てられた剣士であり、後水尾天皇(ごみずのおてんのう、1596年~1680年)の子供である。

今作では、その他に以下の登場人物も。

新陰流の剣豪・荒木又右衛門(あらき・またえもん、1599年~1638年)。

将軍家の兵法指南を務めた柳生宗冬(やぎゅう・むねふゆ、1613年~1675年)。

またその弟で宗冬や誠一郎と敵対する柳生義仙(やぎゅう・ぎせん、1635年~1702年)なども。

前作よりもさらに大掛かりな全面対決が始まる、といった物語。

感想

隆氏は、自身の急逝によって果たせなかったものの、『吉原御免状』シリーズを、誠一郎の成長や吉原の歴史とともに四部作にする予定であったという。(P.444「解説」)

作者・隆慶一郎が急逝してしまったので、このシリーズは『吉原御免状』『かくれさと苦界行』の二つの作品で終わってしまっている。

四部作を計画していたというのは、本当に読めなくて残念である。

この『かくれさと苦界行』そのものも面白いが、当然、前作となる『吉原御免状』を読んでいるとさらに楽しめる。『吉原御免状』を読んでいる人であれば、必ず読んでもらいたい作品である。

さらに柳生にも興味を持ったら、奈良県奈良市にある「柳生の里」にも立ち寄ってもらいたい。

宿は少ないけれど、複数あるし、長閑な場所で、静かにのんびり観光したい人にはオススメの場所である。

柳生家の菩提寺である臨済宗の寺院、芳徳寺。資料館的な旧柳生藩家老屋敷。十兵衛杉。修行の地。色々と見所も多い。

この『かくれさと苦界行』では、主人公の松永誠一郎は、色里・吉原の総名主となって、その地区や組織をまとめる役となる。また、おしゃぶ、との結婚も。

前作から続く、徳川家康(とくがわ・いえやす、1543年~1616年)の秘密が隠された「神君御免状」の謎と関連して暗躍する人物たち。

アクションもあり、サスペンスもあり、ミステリーもあり、恋愛も、成長も、もちろん、歴史もある。ダイナミックに描かれた時代・伝奇小説である。

文芸評論家の縄田一男(なわだ・かずお、1958年~)の解説も含めて、文庫ではあるが450ページの長編。

ただ、隆慶一郎のストーリーテリングの素晴らしさによって、あっという間に読めてしまう。

歴史好きをはじめ、多くの人にオススメできる作品である。

書籍紹介

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公式サイトは無い。

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