『影武者徳川家康』隆慶一郎

隆慶一郎の略歴

隆慶一郎(りゅう・けいいちろう、1923年~1989年)
時代小説家。脚本家。
東京生まれ。東京市赤坂尋常小学校を卒業。同志社中学校を卒業。第三高等学校文科丙類を繰り上げ卒業。東京大学文学部仏文科を卒業。本名は、池田一朗(いけだ・いちろう)。

『影武者徳川家康』の目次

【上巻】
関ヶ原
大津城
敗者
異邦人
伏見城
江戸
源氏長者

【中巻】
千姫
変転
大御所
駿府
偃武

【下巻】
大坂和平
反撃
キリシタン禁令
大坂冬の陣
大坂夏の陣
終焉
あとがき
解説 縄田一男

概要

1993年8月25日に発行。上中下巻。新潮文庫。

1989年5月に新潮社から上下巻の単行本として発行されたものを文庫化。

もともとは1986年1月4日から1988年11月30日まで「静岡新聞」に連載されたもの。

かなりの長編であり、文庫でも上巻が639ページ、中巻が564ページ、下巻が解説を含めて535ページといった構成。

物語は、1600年の関ヶ原の戦い以降の徳川家康(とくがわ・いえやす、1543年~1616年)を中心とした時代小説。

実は、徳川家康は、関ヶ原の戦いで暗殺されて、影武者であった人物が、入れ替わって、その後の徳川幕府を築き上げたのではないか。

という作者である隆慶一郎の仮説から、歴史を再構築したもの。

主人公となるのは、影武者の世良田二郎三郎元信(せらだじろうさぶろうもとのぶ)。

徳川家康の顔、体躯などが酷似していて、徳川家康の近くで、思考や行動を見聞きし、影武者としての役割を全うしようとする。

しかし、関ヶ原の戦いで、本物の徳川家康は暗殺されてしまう。

そのため、影武者であった世良田二郎三郎元信が、本物の徳川家康に成り代わって、その後の戦後処理から、徳川幕府の礎を築いていく物語。

主要な歴史上の登場人物は以下の通り。

家康の側室・お梶の方(おかじのかた、1578年~1642年)。

豊臣氏の家臣・石田三成(いしだ・みつなり、1560年~1600年)。

三成の参謀・島左近(しま・さこん、1540年~1600年)。

家康の家臣・本多正信(ほんだ・まさのぶ、1538年~1616年)。

徳川氏の家臣・本多忠勝(ほんだ・ただかつ、1548年~1610年)など。

その他にも、箱根山一帯に勢力を持つ関東の忍びの集団・風魔衆や江戸幕府の兵法指南役となる柳生家など。

さまざまな組織や一族、人物たちが次から次へと出てきて、物語を重厚に複層的に織り成していく。

時折、史実に基づく記述も入る。物語の流れを断ち切らないような形で、自然に入って来る。むしろ、物語を補強し、新たな推進力を与えるかのように。

実際の徳川家康の死は、秘密のままなのか。その秘密は暴かれてしまうのか。徳川家康に成り代わった、影武者である世良田二郎三郎元信の過去と江戸幕府の未来。

現実味を帯びた時代小説を堪能できる作品である。

感想

「週刊少年ジャンプ」でも漫画として掲載されていた『影武者徳川家康』。原作は、この隆慶一郎が書き上げた時代小説である。

「あとがき」に詳しく書かれているが、作者の隆慶一郎は、関ヶ原の戦いの前と後との徳川家康の行動の違いに疑問を抱いていた。

そのような折に出合ったのが、教育者・村岡素一郎(むらおか・もといちろう、1850年~1932年)が、1902年に刊行した『史疑 德川家康事蹟』。徳川家康の影武者説について書かれたものである。

ちなみに、2008年に新版と題して『史疑 德川家康事蹟』を作家の榛葉英治(しんば・えいじ、1912年~1999年)が現代語訳した『史疑 德川家康』が発売されている。

史実や史料、当時の最新の歴史研究の成果などが織り込まれた『影武者徳川家康』

大長編作品であり、さまざまな登場人物が出てくるが、どの登場人物たちも魅力的、あるいは際立った人物造形がなされている。

さらに実は、他の隆慶一郎の作品との関連などもある。『吉原御免状』『かくれさと苦界行』など。隆慶一郎のファンはもちろん楽しめるが、歴史好きの人などにも、非常にオススメである。

ちなみに「解説」は、文芸評論家の縄田一男(なわだ・かずお、1958年~)。熱海にある隆慶一郎のお墓参りについての記述も載っている。

「あとがき」「解説」も、存分に楽しめる文庫三巻である。

書籍紹介

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