藤原てい『流れる星は生きている』

藤原ていの略歴

藤原てい(ふじわら・てい、1918年~2016年)
作家。
長野県茅野市の出身。長野県立諏訪高等女学校(現・諏訪双葉高等学校)卒業。旧姓・両角(もろずみ)。
1939年に気象学者・藤原寛人(ふじわら・ひろと、1912年~1980年)と結婚。藤原寛人は、後に小説家・新田次郎(にった・じろう)となる。次男は数学者でエッセイストの藤原正彦(ふじわら・まさひこ、1943年~)。

『流れる星は生きている』の目次

第一部 涙の丘
駅までの四粁
別離
無蓋貨車
終戦の日
夫との再開
南下しようか
新しい不安
とうもろこしの皮
夫よどこへ
涙の丘の上
無抵抗主義
ダイヤモンド・ダスト
泣かない児
流れる星は生きている
いまぞこいしき
氷の日時計
氷を割る音
オンドルの煙
虐待餓死
第二部 教会のある町
丘の下へ
墓場から来た男
歯型のついたお芋
結婚の申込み
白い十字架
確定的な愛の因子
春風に反抗する
石鹼売りの先生
議論を食べて生きている夫婦
乞食と同じもの
ふるえる手と唇
発狂した女
けがされた人形
ゲンナージの黒手袋
温飯屋の手伝い
二人の子供と一人の子供
引揚げの機運動く
三百円儲けた話
団体の分裂
第三部 魔王の声
親書の秘密
赤土の泥の中をもがく
凍死の前
かっぱおやじの禿頭
二千円の証文を書く
市辺里につく
草のしとね
川を渡るくるしみ
死んでいた老婆
三十八度線を突破する
アメリカ軍に救助される
恨みをこめた小石
気違いの真似をした法学士
議政府に到着
コンビーフの罐詰
貨車の中の公衆道徳
百円紙幣を出す手品
釜山にて
肥った藤原と痩せた藤原
子持ち女
魔王の正体
四千円の仮持参人
上陸の日
上陸第二日
博多から諏訪へ
ああ遂に両親の手に抱かれて
あとがき

『流れる星は生きている』の概要

1976年2月10日に第一刷が発行。中公文庫。302ページ。

1949年5月に日比谷出版社から、1971年5月に青春出版社から単行本として刊行。その他の出版社からも刊行されている。

夫と引き裂かれながらも、満州から子供三人と共に日本へと引き揚げて来た女性・藤原てい。

その悲運と苦難が刻まれた戦後ノンフィクション作品。

満州国の首都・新京(現在の中華人民共和国・吉林省長春市)。1945年の当時、藤原一家は、そこに住んでいた。

8月9日にソ連の参戦。その夜半から物語は始まる。想像を絶する記録である。

作品のタイトルは、元航空隊の人物が教えてくれた歌から。その人物が南方にいた時に、所属していた部隊の兵隊が作詩して、別の部隊が作曲したという歌。

わたしの胸に咲いている
あなたのうえたバラの花
ご覧なさいね 今晩も
ひとりで待ってるこの窓の
星にうつって咲いている

わたしの胸に泣いている
あなたの呼んだあのお声
ご覧なさいね 今晩も
ふたりで誓ったあの丘に
星はやさしく唄ってる

わたしの胸に生きている
あなたの行った北の空
ご覧なさいね 今晩も
泣いて送ったあの空に
流れる星は生きている

(P.64:第一部・涙の丘「流れる星は生きている」)

藤原ていは、この歌を憶えてから無事に日本の本土へと帰り着くまでに、心の中で歌い続けていたという。

この歌はタイトルでもあるし、上記の通り、節の題にもなっている。また作品の最後の方にも出てくるもの。

現在の中国の長春から朝鮮半島を南下し、釜山から船で博多に引き揚げて来た女性の壮絶な記録が綴られた作品。

2002年7月25日には、また新たに文庫版が刊行されている。

『流れる星は生きている』の感想

この作品のことは、全く知らなかった。英文学者・斎藤兆史(さいとう・よしふみ、1958年~)の『努力論』という著作で初めて知った。

満州からの引き揚げそのものには興味があった。

引き揚げ者であり作家でもある五木寛之(いつき・ひろゆき、1932年~)の作品も色々と読んでいたこともある。

一番大きな要素としては、シンプルに自分の父親が満州生まれで引き揚げ者でもあるから。

この作品を読み終えた時の衝撃は忘れられない。というよりも、なかなか凄惨な場面というか、人間の業というか、美醜というか、何とも表現しきれないような描写もある。

そして、藤原ていが引き揚げて来れたのは、奇跡としか言いようがない。ただ、その奇跡は、藤原ていが成し遂げたものでもある。

最初から最後まで緊張感がある。最後の「あとがき」も。

引き揚げ後には、長く病床についたという。その頃に、三人の子供たちに遺書を書いた。それが遺書にはならずに、本となった。この『流れる星は生きている』である。

ノンフィクション系の作品、戦争、戦後文学、引き揚げ者などに関心の高い人には、特にオススメである。

というよりも、義務教育で国語や社会の教科で紹介しても良い本。

読むべき本の一冊である。

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