『孤高の人』新田次郎

新田次郎の略歴

新田次郎(にった・じろう、1912年~1980年)
小説家。
本名は、藤原寛人(ふじわら・ひろと)で、気象学者。
長野県諏訪郡上諏訪町角間新田(かくましんでん)の生まれ。
旧制諏訪中学校(現在の長野県諏訪清陵高等学校)、無線電信講習所本科(現在の電気通信大学の母体)、神田電機学校(現在の東京電機大学の母体)を卒業。
1956年に『強力伝』で直木賞、1974年に『武田信玄』等で吉川英治文学賞を受賞。
妻は、作家の藤原てい(ふじわら・てい、1918年~2016年)、次男は数学者の藤原正彦(ふじわら・まさひこ、1943年~)。

『孤高の人』の目次

実際の本には目次は無い。

【上巻】
第一章 山麓
第二章 展望

【下巻】
第三章 風雪
第四章 山頂
解説 尾崎秀樹

概要

1973年2月27日に第一刷が発行。新潮文庫。上下巻。上巻が503ページ。下巻が378ページ。

※発売年次等によって文字の大きさやレイアウトが変わるので、連動してページ数も変わる。

1969年5月に刊行した上下巻の単行本を文庫化したもの。

登山家の加藤文太郎の生涯を描いた山岳小説。

加藤文太郎(かとう・ぶんたろう、1905年~1936年)は、兵庫県美方郡新温泉町の出身。浜坂尋常高等小学校高等科を卒業。神戸の三菱内燃機製作所(三菱重工業の前身)に勤務しながら、兵庫県立工業学校夜間部を卒業。

複数の同行者との登山ではなく、数々の単独登山を行なう。“単独行の加藤文太郎”とも呼ばれる。

仕事をしながら登山をして、社会人登山家としての道を切り拓く。

1936年、数年来のパートナーであった吉田富久と共に、飛騨山脈南部にある槍ヶ岳北鎌尾根に挑み、猛吹雪により遭難。

小説の中では、吉田富久は宮村健という名前。

第一章の山麓が10節、第二章の展望が13節、第三章の風雪が11節、第四章の山頂が10節といった構成。

解説は、文芸評論家の尾崎秀樹(おざき・ほつき、1928年~1999年)。台湾台北市の生まれ。台北帝国大学付属医学専門部を中退。

感想

新田次郎の名前は、新田次郎文学賞といった文学賞もあるので、聞いた事があった。それまで、全く読んだ事はなかった。

そもそも、きっかけと言えば、新田次郎の次男である藤原正彦の著作に感動したから。『若き数学者のアメリカ』『遥かなるケンブリッジ』など。

そして、父親が新田次郎である事を知る。何となく『孤高の人』の名前も知っていたので読む。

とても感動した。

実在した人物を主人公にした小説。加藤文太郎の登山への姿勢、仕事への姿勢などが、とても素晴らしかった。

新田次郎の自然に対する描写なども良かった。気象学者という仕事が、その筆力と重なって、上質の作品に仕上がっている。

読み終わった後には、新田次郎の他の山岳小説も手に取った。『強力伝』『槍ヶ岳開山』『八甲田山死の彷徨』『劒岳 点の記』など。

他ジャンルの『アラスカ物語』やエッセイ集の『小説に書けなかった自伝』なども。

さらには、兵庫県にある加藤文太郎記念図書館にも訪問した。

同地出身の加藤文太郎についての資料が、図書館の2階の加藤文太郎山岳資料室に、まとめられて展示されている。同じく2階には山岳図書の閲覧室も。

話を小説に戻すと、非常にオススメの山岳小説の金字塔。登山や加藤文太郎について知らない人にも、推奨できる素晴らしい作品である。

さらに興味が湧いたら、登山を始めても良いし、加藤文太郎記念図書館などに訪れてみるのも一興である。

ちなみに、この小説『孤高の人』を原案とした、ストーリーの異なる坂本眞一(さかもと・しんいち、1972年~)の作画によるコミック『孤高の人』もある。

こちらも別物として、なかなか面白い作品である。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

加藤文太郎記念図書館

兵庫県美方郡新温泉町の浜坂温泉郷にある山岳図書を中心とする図書館・資料館。1階は一般的な図書館。2階が、加藤文太郎山岳資料室と山岳図書閲覧室。

公式サイト:加藤文太郎記念図書館