『捨て童子・松平忠輝』隆慶一郎

隆慶一郎の略歴

隆慶一郎(りゅう・けいいちろう、1923年~1989年)
時代小説家。脚本家。
東京生まれ。東京市赤坂尋常小学校を卒業。同志社中学校を卒業。第三高等学校文科丙類を繰り上げ卒業。東京大学文学部仏文科を卒業。本名は、池田一朗(いけだ・いちろう)。

『捨て童子・松平忠輝』の目次

【上巻】
序章
鬼子
川中島
麒麟
紛争

【中巻】
高田城
和解工作
越後
禁制
決起
遣欧使節(一)

【下巻】
遣欧使節(二)
忠隣始末
その前夜
決断
旅立ち
執筆を終えて 隆慶一郎
隆慶一郎の人と作品 縄田一男
付記 縄田一男

概要

1992年11月15日に上巻の第一刷が発行。講談社文庫。

上・中・下巻の全三巻。上巻が345ページ。中巻が357ページ。下巻が331ページ。

1989年11月に刊行された単行本を文庫化したもの。

主人公となるのは松平忠輝(まつだいら・ただてる、1592年~1683年)。

徳川家康(とくがわ・いえやす、1543年~1616年)の六男。容貌が怪異なために、父親である家康から「捨てよ」と言われた人物。また“鬼の子”とも呼ばれた。

成長した松平忠輝は、尋常ではない体力と知力、つまり生命力に漲っていた。

それは波乱に満ちた生涯を暗示するものでもあった。安土桃山時代から江戸時代にかけて生きて、92歳という長命で幕を閉じた松平忠輝の物語。

登場人物は、その他に以下の通り。

江戸幕府の第2代将軍・徳川秀忠(とくがわ・ひでただ、1579年~1632年)。その配下で、松平忠輝の命を狙う柳生宗矩(やぎゅう・むねのり、1571年~1646年)。

松平忠輝の正室となる五郎八姫(いろはひめ、1594年~1661年)。出家後の院号は、天麟院(てんりんいん)。伊達政宗(だて・まさむね、1567年~1636年)の長女でもある。

豊臣秀吉(とよとみ・ひでよし、1537年~1598年)の三男である豊臣秀頼(とよとみ・ひでより、1593年~1615年)。

徳川家の家臣・大久保長安(おおくぼ・ちょうあん、1545年~1613年)など。

下巻には、「執筆を終えて」という隆慶一郎の「あとがき」的な文章も。

解説的な位置づけとして、文芸評論家の縄田一男(なわた・かずお、1958年~)による「隆慶一郎の人と作品」「付記」の二つがある。

2015年4月15日には、新装版も、電子書籍版も刊行されている。

感想

この作品を読むまで、全く知らなかった人物・松平忠輝。

史実と虚構を織り交ぜて、隆慶一郎が再構築した時代小説。あるいは、伝奇小説。

スケールが大きく、様々な人物たちの思惑が錯綜する。長編ではあるが、一気に読めてしまう物語。

歴史的な資料についての引用が織り交ぜられながら、出生からグイグイとそのストーリーに引き込まれてしまう構成。

通常の子供とは異なるエピソードの挿入。巧みな隆慶一郎のストーリーテリングに魅了される。

また登場人物たちのそれぞれのキャラクター造形も素晴らしい。

急逝によって未完の作品も多いが『捨て童子・松平忠輝』は完結しているので、安心して読めるのもポイントである。

“道々の輩”である傀儡子なども登場。自由で漂泊をする民たちとの交流も、もちろんある。

歴史好き、隆慶一郎ファンなど、非常にオススメの必読の書である。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

貞松院

長野県諏訪市にある浄土宗の寺院。松平忠輝の墓所がある。

公式サイト:貞松院

高島城

長野県諏訪市高島にある城。松平忠輝が幽閉され、亡くなるまで過ごす。

公式サイト:高島城

天麟院

宮城県宮城郡松島町にある臨済宗の寺院。松代忠輝の正室で、伊達政宗の長女である五郎八姫の墓所がある。五郎八姫の院号と同名。特に公式サイトなどは無い。