『本をつんだ小舟』宮本輝

宮本輝の略歴

宮本輝(みやもと・てる、1947年~)
小説家。
兵庫県神戸市の生まれ。私立関西大倉中学校・高等学校を卒業。追手門学院大学文学部を卒業。広告代理店で勤務後、1977年『泥の河』で、第13回太宰治賞を受賞しデビュー。1978年に『螢川』で、第78回芥川賞を受賞。本名は、宮本正仁(みやもと・まさひと)。

『本をつんだ小舟』の目次

1 ジョセフ・コンラッド「青春」
2 上林暁「野」
3 フロベール「トロワ・コント」
4 ボードレール「悪の華」
5 山本周五郎「青べか物語」
6 ファーブル「昆虫記」
7 「寺山修司歌集」
8 宇野千代「おはん」
9 水上勉「飢餓海峡」
10 チェーホフ「恋について」
11 カミュ「異邦人」
12 井上靖「あすなろ物語」
13 ドストエフスキー「貧しき人々」
14 柳田國男「山の人生」
15 老舎「茶館」
16 泉鏡花「高野聖」
17 ドルトン・トランボ「ジョニーは戦場へ行った」
18 中野重治「雨の降る品川駅」
19 フォースター「インドへの道」
20 永井龍男「蜜柑」
21 ツルゲーネフ「はつ恋」
22 「山頭火句集」
23 メリメ「マテオ・ファルコネ」
24 深沢七郎「楢山節考」
25 ゴーゴリ「外套」
26 三好達治「測量船」
27 樋口一葉「にごりえ」
28 北杜夫「どくとるマンボウ航海記」
29 ラディゲ「肉体の悪魔」
30 サマセット・モーム「雨」
31 大岡昇平「野火」
32 島崎藤村「夜明け前」
あとがき

概要

1993年1月25日に第一刷が発行。文藝春秋。ハードカバー。329ページ。127mm×188mm。四六判。

宮本輝の中学、高校時代の読書遍歴と当時のエピソードなどが交錯するエッセイ集。両親や周りの大人、友人、同級生たちとの交流と感情。32冊の本が紹介されている作品。

1995年5月10日には文春文庫としても発売。

紹介される人物たちの概要は以下の通り。

ジョゼフ・コンラッド(Joseph Conrad、1857年~1924年8月3日)…ポーランド出身のイギリスの小説家。

上林暁(かんばやし・あかつき、1902年~1980年)…小説家。高知県幡多郡の出身。熊本の第五高等学校文科甲類、東京帝国大学文学部英文科を卒業。私小説が有名。

ギュスターヴ・フロベール(Gustave Flaubert、1821年~1880年)…フランスの小説家。

シャルル=ピエール・ボードレール(Charles-Pierre Baudelaire、1821年~1867年)…フランスの詩人、評論家。

山本周五郎(やまもと・しゅうごろう、1903年~1967年)…小説家。本名は清水三十六(しみず・さとむ)。山梨県大月市の生まれ。神奈川県横浜市立尋常西前小学校を卒業。時代小説、歴史小説などが有名。

ジャン=アンリ・カジミール・ファーブル(Jean-Henri Casimir Fabre、1823年~1915年)…フランスの博物学者、教師、詩人。

寺山修司(てらやま・しゅうじ、1935年~1983年)…歌人、劇作家。青森県弘前市の生まれ。早稲田大学教育学部国文学科を中退。

宇野千代(うの・ちよ、1897年~1996年)…小説家、随筆家。山口県岩国市の生まれ。岩国高等女学校を卒業。

水上勉(みずかみ・つとむ、1919年~2004年)…小説家。福井県大飯郡の生まれ。寺の小僧を経て、旧制花園中学校を卒業。立命館大学文学部国文学科を中退。1961年に『雁の寺』で直木賞を受賞。

アントン・パーヴロヴィチ・チェーホフ(Anton Pavlovich Chekhov、1860年~1904年)…ロシアの劇作家、小説家。

アルベール・カミュ(Albert Camus、1913年~1960年)…フランスの小説家、劇作家。1957年にノーベル文学賞を受賞。

井上靖(いのうえ・やすし、1907年~1991年)…小説家、詩人。北海道旭川市の生まれ。静岡県育ち。石川県金沢市の第四高等学校理科を卒業。九州帝国大学法文学部英文科を中退、京都帝国大学文学部哲学科を卒業。1950年に『闘牛』で芥川賞を受賞。

フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(Fyodor Mikhailovich Dostoevsky、1821年~1881年)…ロシア帝国の小説家、思想家。

柳田國男(やなぎた・くにお、1875年~1962年)…民俗学者、官僚。兵庫県神崎郡の生まれ。第一高等学校、東京帝国大学法科大学政治科を卒業。農商務省に勤務。

老舎(ろうしゃ、1899年~1966年)…中華人民共和国の小説家、劇作家。本名は、舒慶春(Shu Qingchun)、字は舎予(Sheyu)。北京の出身。

泉鏡花(いずみ・きょうか、1873年~1939年)…小説家。本名は、泉鏡太郎(いずみ・きょうたろう)。石川県金沢市の生まれ。北陸英和学校を中退。

ドルトン・トランボ(Dalton Trumbo、1905年~1976年)…アメリカの脚本家、映画監督、小説家。

中野重治(なかの・しげはる、1902年~1979年)…小説家、詩人、評論家、政治家。福井県坂井市の出身。石川県金沢市の第四高等学校文科乙類、東京帝国大学独逸文学科を卒業。

エドワード・モーガン・フォースター(Edward Morgan Forster、1879年~1970年)…イギリスの小説家。

永井龍男(ながい・たつお、1904年~1990年)…小説家、随筆家、編集者。東京都千代田区の生まれ。一ツ橋高等小学校を卒業。文藝春秋社に勤務しながら創作を発表。

イワン・セルゲーエヴィチ・ツルゲーネフ(Ivan Sergeevich Turgenev、1818年~1883年)…ロシア帝国の小説家、劇作家、貴族。

種田山頭火(たねだ・さんとうか、1882年~1940年)…自由律俳句の俳人。本名は、種田正一(たねだ・しょういち)。山口県防府市の生まれ。東京専門学校高等予科を卒業、早稲田大学大学部文学科を中退。

プロスペル・メリメ(Prosper Mérimée、1803年~1870年)…フランスの作家、歴史家、考古学者、官吏。

深沢七郎(ふかざわ・しちろう、1914年~1987年)…小説家、ギタリスト。山梨県笛吹市の生まれ。日川中学校を卒業。

ニコライ・ヴァシーリエヴィチ・ゴーゴリ(Nikolai Vasilyevich Gogol、1809年~1852年)…ロシア帝国の小説家、劇作家。

三好達治(みよし・たつじ、1900年~1964年)…詩人、翻訳家、文芸評論家。大阪府大阪市西区の生まれ。京都の第三高等学校文科丙類、東京帝国大学文学部仏文科を卒業。

樋口一葉(ひぐち・いちよう、1872年~1896年)…小説家。戸籍名は、樋口奈津(ひぐち・なつ)。東京都千代田区の生まれ。私立青海学校高等科を首席で卒業。

北杜夫(きた・もりお、1927年~2011年)…小説家、エッセイスト、精神科医。本名は、斎藤宗吉(さいとう・そうきち)。東京都港区南青山の生まれ。麻布中学校、長野県の松本高校、東北大学医学部を卒業。1960年に『夜と霧の隅で』で芥川賞を受賞。

レーモン・ラディゲ(Raymond Radiguet、1903年~1923年)…フランスの小説家、詩人。

ウィリアム・サマセット・モーム(William Somerset Maugham、1874年~1965年)…イギリスの小説家、劇作家。

大岡昇平(おおおか・しょうへい、1909年~1988年)…小説家、評論家。東京都新宿区の生まれ。成城高等学校文科乙類、京都帝国大学文学部仏文科を卒業。

島崎藤村(しまざき・とうそん、1872年~1943年)…詩人、小説家。本名は、島崎春樹(しまざき・はるき)。岐阜県中津川市の生まれ。9歳で上京。明治学院本科を卒業。

上記の作家たちの著作が紹介されている随筆。

感想

好きな作家が本を紹介している作品もお気に入りである。

その作家が、どのような作家の影響を受けてきたのかを知ることができる。

また、どのような部分に感動や感銘、刺激を受けたのかも。

というわけで、今回の『本をつんだ小舟』では、国内外を問わない作家の本が紹介されている。

初めて読んだのは、かなり前であるが、この本で知った作品や作家も多かったと思う。

もしくは名前や作品は知っていたけれど、内容はそこまで知っていなかったなど。

現在、確認してみると、実際に読んだ本もある。

また購入はしたけれど、読んでいない本もある。

読んだ本と言っても、目次にある中で、1/4程度くらいか。

まだまだ読んでみたい本が沢山あるので困ってしまう。

そのように本を紹介している作品としての機能もあれば、上質な随筆、エッセイの一面もある。

私は本を読むのが好きだった。勉強も嫌い、スポーツも嫌い。兄弟もなく、友だちもあまりいない。父は借金取りから逃げて家に帰ってこない。母は希望を喪って昼間から酒にひたり、目を離すと市電のレールの上を歩いていたりする。当時はそんな生活だったのである。(P.11:ジョセフ・コンラッド「青春」

この作品の2ページ目に書かれている。

そこまでの間に、日本経済の急速な発展、自家の貧しさ、同級生の死などが描かれている。

途轍もなく濃厚であり、叙情感もある。

それぞれの本を紹介する時に、宮本輝の何らかのエピソードも語られる。

また驚くのが、事業に失敗を続ける父親が、なかなか文学などにも造詣が深いという点。

宮本輝に、意外と色々な詩人や歌人などを教えている。ボードレールや種田山頭火など。

父は尋常小学校しか出ていなかったが、ある時期、世間で言うところの一般教養的なものぐらいは身につけておこうと決心して、たくさんの本を読みふけったのだと私に言った。(P.40:ボードレール「悪の華」

尋常小学校は、1886年4月~1941年3月までにあった初等教育機関。修業年限は、1908年3月までは4年、4月以降は6年。

卒業後、高等小学校などに進学する者も。

この辺りは、時代背景が現在とは異なるので注意しておきたいところである。

約80年以上前の話であるから、当然ではあるけれど。

宮本輝の父親は、相当自分で色々な本を読み込んだようだ。

事業は失敗続きではあったけれど、物は知っていそうな雰囲気ではある。

あとは、この本の構成として、宮本輝の作家の技術として、基本的にそれぞれの本の紹介が、約7ページであるというのもポイント。

非常に読み切りしやすい文章の量である。

本そのものは分厚いが、ひとつひとつの項目はそこまでの長さではないので、テンポ良く、読み進められる。

また、その作家の概要や逸話なども出てくる。

初見でも分かりやすい。

さまざまな配慮がなされている作品である。

宮本輝ファンだけではなく、文学好き、読書好きの人たちにも非常にオススメの本である。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

宮本輝ミュージアム

宮本輝ミュージアムは、大阪府茨木市の追手門学院大学付属図書館にある宮本輝の文化施設。学校法人追手門学院の創立120周年を記念して2008年に開設。宮本輝は、追手門学院大学の第一期の卒業生。

公式サイト:宮本輝ミュージアム

以前に行ったことがある。なかなか綺麗な感じの館内。宮本輝の講演会の映像を個別で借りて、館内で視聴できたのは、とても良かった。

ファンであれば、一度は訪問してみるのが良いかと思う場所である。

大阪府立中之島図書館

大阪府立中之島図書館は、大阪府大阪市北区中之島一丁目にある1904年に開館の公共図書館。

宮本輝は浪人生時代に通って、ロシア文学とフランス文学に耽溺したという。

実際に訪問したことがあるが、ルネッサンス様式の外観もバロック様式の内観も、非常に素晴らしく、知的な雰囲気に満ち溢れた場所。

公式サイト:大阪府立中之島図書館