西岡杏の略歴
西岡杏(にしおか・あんぬ、1991年~)
新聞記者。
山形県酒田市の生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業。日本経済新聞社に入社。
『キーエンス解剖』の目次
はじめに
プロローグ 語りかける化石たち
第1章 顧客を驚かせる会社
なぜそれを知っている? 神出鬼没の営業パーソン
異動のことまで把握 顧客の要望を先回り
コラム キーエンス丸分かり
第2章 営業部隊が「先回り」できるわけ
猛烈な成長スピード 3年目で「超一流」に
商談のレベルを引き上げる「ロープレ」1000本ノック
アポは1日5件から 1分単位で書き込む「外報」
何でもお見通しの「千里眼」 ウェブ企業さながらの分析
時々刻々と変わる数字の正体「営業がうまい」を可視化
これは監視か救いの手か 上司の「ハッピーコール」
購買部ではなく「工場」のそばに ビジネスは現場で始まる
潜在ニーズを引き出す「顧客取材力」の源泉
事業部の壁を越えろ 京都で生まれた「ID制度」
第3章 期待を超え続ける商品部隊
ここから機能追加? それでも間に合わせるスゴ腕
顧客の「欲しい」 それでは遅い
潜在ニーズと開発をつなぐ 企画部門の自負
最後まで関与 開発と丁々発止
新車を明日納品するようなもの? 「即納」へのこだわり
ファブレスなのに工場も 協力会社との蜜月をつくる
第4章 「理詰め」を貫く社風と規律
「一人ひとりが社長」 賞与で経営の意識を育む
社員の時間も大事な資本「時間チャージ」
会議の席は入った順 後輩も「さん」付け
情報の囲い込みは「ダサい」 周りに広げてこそ
社内にマルサ? 「内部監査」が目を光らす
90年代には存在 マネージャー育てる「360度評価」
ESなし、志望動機も不問 志望者の「本質」に迫る
第5章 仕組みの源流に「人」あり
「飛び込みなし」「接待なし」は80年代から
「カリスマではない」 創業者・滝崎氏の信念
決意は高校時代 3回目の起業でチャンスつかむ
「やってみなはれ」は もうかるなら
第6章 海外と新規で次の成長へ
テスラのお膝元 米駐在員の奮闘
成長余地は海外に いずれは7割超え
スーツケースにデモ機を詰めて 1日1都市モーレツ巡業
訪れた「海外比率3割の壁」 デジタル変革で突破
「スターは不要」 アベレージヒッターを底上げ
「おんぼろビル」から「栓抜きビル」へ 中国での躍進
ローソンも飛びつくソフト データ分析が次の鉱脈
第7章 「キーエンスイズム」の伝道師たち
ソフト会社にキーエンス流 ジャストシステムの変革
OBが続々起業 DNAはあちこちに
おわりに
『キーエンス解剖』の概要
2022年12月26日に第一刷が発行。日経BP。200ページ。
副題は「最強企業のメカニズム」。
もともとは『日経ビジネス』2022年2月21日号特集「解剖キーエンス 人を鍛える最強の経営」の取材が発端。「はじめに」で少し触れられ、「おわりに」で、より具体的な記載がある。
『キーエンス解剖』の感想
以前から気になっていた企業であるキーエンス。本書がかなり好評みたいだったので、購入。
キーエンスは、精密機器の開発と販売を行なっている企業。
滝崎武光(たきざき・たけみつ、1945年~)が、1974年に兵庫県尼崎市で「リード電機」として設立。
1986年に社名を “Key of Science” に由来する「キーエンス」(KEYENCE) に変更。現在、本社は大阪府大阪市にある。
結論としては、とても面白く読めた。ざっくりとキーエンスの歴史と事業内容も分かった。
OBたちの発言や歴代社長たちのインタビューなどもあり、具体的。取り入れられる施策も多々あり、とても勉強になった。
あらゆることが非常にシステマチックに整っている。ある種、トヨタのカイゼンみたいな感じで、洗練されていったみたいなものか。
週2日ほどの「社内日」は、例えば午前8時半に出社した後、午前中は電話やメール、オンライン面談などの顧客フォローをこなす。午後は商品の提案や外出アポ取り、見積もり作成などに充てる。電話は1日当たり30~80件ほどに及ぶという。(P.41:第2章 営業部隊が「先回り」できるわけ・アポは1日5件から 1分単位で書き込む「外報」)
2023年の時点でも、やはり電話での予定設定、打ち合わせ、解説などが重要であるということか。
それにしても、1日で30~80件の電話は凄い数だな。メールなどのテキストよりも、電話などの音声の方が直接的で素早いということなのだろうか。
週2日は「社内日」で、事務作業というか、顧客のための準備をしておく。
週3日ほどの「外出日」についての説明も続く。
1日に5~10件のアポイントメントは当たり前だと言う。しかも、1日に5件以上のアポが無いと、外出そのものが許可されないというルール。
徹底した合理化のため。
いやはや、本当に凄まじい制度設計。
1日に5件以上のアポを詰め込むために、より多くの営業先を確保しておかないといけない。しかも、クライアントの空いている日程にも合わせないといけない。
かなりの分母を揃えておかないと難しい。
つまり、やはりは量ということか。試行回数。
また外出のスケジュール管理として、報告書の記入も。面談の開始と終了の時間、そして議事録。誰と会って、反応はどうだったのか。
そのような情報を上司と共有する。
担保された営業の行動量と顧客量。時間の管理と情報の共有の体制。なるほどな。
顧客がキーエンスのウェブサイトで製品のカタログをダウンロードすると、すぐに電話をかける。(P.49:第2章 営業部隊が「先回り」できるわけ・時々刻々と変わる数字の正体「営業がうまい」を可視化」)
スピード感。
先述の大量行動に加えての速度。しかも、その後に顧客からの問い合わせがなくても、1カ月に3~4回は電話をかけて、市場の状況を解説。
スピード感でもあり、アグレッシブさでもあるか。
そういえば、キーエンスではないけれど、Salesforceで同じような営業の電話を受けたことがあった。あれもビックリしたけれど、営業体制が整っているということだったんだな。
ちなみにキーエンスでは、電話による営業の頻度もKPIに設定されていて、尚且つ他の人の件数まで、表示されて見える化されている。
営業ノウハウをはじめ、各種の情報は共有されるようにもなっていて、営業の最適化を促進、また属人化の防止にも。
営業の最適化の仕組み、取り組みは、セールス・イネーブルメント(Sales Enablement)と呼ばれる。
またキーエンスの社員は勉強家であり、相当な知識を吸収していて、その情報量を強みに顧客との関係性を築いているという。
キーエンスでは「この商品のターゲットとなる顧客を30社ヒアリングしたところ、20%が購入しそうだった。全国では2000社程度がターゲットとなるので、利益はこのぐらいになる」と積み上げ式で説明しなければならない。(P.88:第3章 期待を超え続ける商品部隊・潜在ニーズと開発をつなぐ 企画部門の自負)
これは、潜在的な市場を開拓して、市場規模そのものを拡大させる発想でもある。
現在の市場で、顧客を競合と奪い合うのではなく、市場を新たに開拓して顧客を創出し、利益を得る。
また具体的な手法で、実現可能性も高い。単なる絵に描いた餅ではないところも利点。
真っ当な仮説というか、前提というか、基盤からの積み上げ。よく分からない市場調査や単なる定性的なものからでもない。
しかし、「キーエンスはそういう考え方はしない。成果だけで見てしまうと、(時期や業界、地域によって異なる)顧客の景気に左右されてしまうからだ」と斎藤氏は説明する。だから、「どういうアクションを取っているかというところを大事にしている」(P.108:第4章 「理詰め」を貫く社風と規律・「一人ひとりが社長」賞与で経営の意識を育む)
ここで登場している斎藤氏というのはキーエンスの人事部の社員。
キーエンスでは、年に4回の賞与がある。社員のやる気を上げる目的もあるが、会社の業績や市況をリアルタイムで体感できる意味も。
さらにキーエンスでは、個人が一定以上の成果を出したらインセンティブを上乗せすることはしない。
成果は、個人意外の複数の要素の影響を受けるため。不確定要素が多過ぎる。
そのため、成果以上に、行動を評価。
これも、なかなか珍しいことではないだろうか。もちろん、最低限の成果を出した上での話ではあるが。
その他にも、キーエンスの制度設計では、「性弱説」を基にしているのも面白い。
そのための仕組みとして、日々の行動の可視化。先述のKPIや情報共有などの話と繋がってくる。
キーエンスでは社長のことを会社の責任者、「社責」と呼ぶ。「その人が何の責任を持つ立場なのか」を明確にするのが目的であって、「長=一番偉い人」という印象を持たれたくないというのだ。(P.138:第5章 仕組みの源流に「人」あり・「カリスマではない」 創業者・滝崎氏の信念)
同じように、一般的な企業での部長に当たる人物は「部責」と呼ばれる。
独自の組織づくるの要。地位の高低ではなく、責任の有無。
なるほど。フラットな組織でもない。ピラミッド的ではあるが、それは責任の所在のピラミッドということか。
またその後で、創業者の滝崎は、付加価値を生み出すのは、技術やサイエンスで、過去ではない、という哲学を示す。
“Key of Science” に由来する「キーエンス」(KEYENCE)という社名にも結びつく。
伝統や創業年数ではない。そのため、キーエンスは過去を不要としているとの姿勢。
というわけで、キーエンスについて知りたい人、営業力を高めたいという人には、非常にオススメの本である。
書籍紹介
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キーエンス
大阪府大阪市東淀川区東中島に本社を置く、自動制御機器、計測機器、情報機器、光学顕微鏡・電子顕微鏡などの開発及び製造販売を行なう企業。
公式サイト:キーエンス