
書籍紹介
- 本書は、バリュー投資の父グレアムの哲学を漫画でわかりやすく解説した入門書で、監修者かぶ1000の実績が説得力に。
- 投資の基本は自己判断を信じ、投機と明確に区別し、財務諸表を読み解き企業の本質的価値(収益力・安全性)を分析。
- 割安株投資の原則として、流動比率200%以上やPER・PBRの厳格基準を守り、プレミアムや一時的流行に惑わされず安値で買う姿勢が重要。
- ポートフォリオは株式50:債券50のバランスを守り、防衛的投資家は七条件で銘柄を選び、利益目標や保有期間を決めた機械的な売却ルールで感情を排除。
かぶ1000の略歴・経歴
かぶ1000(かぶせん)
個人投資家。
中学2年生の時、40万円を元手に株式投資を開始。中学3年生で300万円、高校1年生で1000万円、高校2年生で1500万円へと株式資産を増やす。
会計系の専門学校を卒業後、専業投資家へ。2011年に1億円、2016年に3億円、2019年に累積利益4億円。
2021年に刊行の著書『貯金40万円が株式投資で4億円 元手を1000倍に増やしたボクの投資術』がベストセラーに。
ひげ羽扇の略歴・経歴
ひげ羽扇(ひげうせん)
漫画家。女性。
愛媛県の出身。2008年から漫画家。
ベンジャミン・グレアムの略歴・経歴
ベンジャミン・グレアム(Benjamin Graham、1894年~1976年)
アメリカの経済学者。投資家。
イギリスのロンドン生まれ。1歳の時にアメリカへ。コロンビア大学で学士を取得。証券会社での勤務を経て、1926年に投資会社グレアム・ニューマン社を設立。コロンビア大学のビジネス・スクールや、カリフォルニア大学ロサンゼルス校などで指導も。
『マンガでわかる ベンジャミン・グレアムの投資術』の目次
はじめに
PART1 幼少~青年期 — 母の姿から事実を把握することの大切さを学ぶ
PART2 成人期 — ウォール街への就職と財務分析への挑戦
PART3 壮年期 — 世界恐慌での失敗をきっかけにバリュー投資を開発
PART4 最盛期 — 名著を執筆しバリュー投資を世に知らしめる
PART5 熟年期 — 現代に通じる弟子たちのバリュー投資。
グレアムの年譜
おわりに
参考文献
『マンガでわかる ベンジャミン・グレアムの投資術』の概要・内容
2022年9月30日に第一刷が発行。スタンダーズ。175ページ。A5版。148mm✕210mm。
『マンガでわかる ベンジャミン・グレアムの投資術』の要約・感想
- 投資と投機を分ける明確な境界線
- 企業の健康診断となる財務報告書
- 安全性を測る流動比率と資産の内訳
- 一時的な流行に左右されない収益力
- 暴落の危険性と安値で買う基本原則
- 企業を多角的に評価する六つの指標
- 目に見えない無形資産の評価と危険性
- 株価上昇の引き金となる五つの要因
- 究極の割安株を見つけ出す厳格な基準
- 性格的資質としての賢明さの再定義
- 資産を守るためのポートフォリオ戦略
- 防衛的投資家が選ぶべき七つの条件
- 積極的投資家の果敢な逆張り戦略
- 独力で考えることの絶対的な重要性
- 感情を排除した機械的な売却ルール
- 企業の実力を見抜く十五の質問
- まとめ:時代を超えて読み継がれる古典の価値
現代の極めて複雑で変化の激しい経済社会において、私たちが生きる資本主義というシステムの基本構造を深く理解することは、自らの生活と未来の安心を守るための極めて強力な防具となる。
しかし、いざ一念発起して金融や経済の勉強を始めようと決意して大型書店に足を運んでも、そこには無数のノウハウ本や自己啓発書が所狭しと並んでおり、どれを選べば良いのか迷ってしまう。
さらにインターネットの広大な海を見渡せば、誰が書いたかも分からない怪しげな儲け話や、短期的な一獲千金を煽るような極めて危険な情報が氾濫しているのが悲しい現実である。
一体誰の語る言葉を信じ、どのような基礎から手を付ければ良いのかと途方に暮れてしまい、結局は何も行動を起こせずに終わってしまう人も決して少なくないはずだ。
そのような情報の濁流の中で方向感覚を完全に失い、深い森の中で道に迷ってしまった時こそ、時代や流行に決して左右されない確固たる理論を打ち立てた、歴史的な名著に立ち返るべきなのである。
今回紹介する書籍は、まさにその王道とも言える投資の哲学がぎっしりと詰まった、『マンガでわかる ベンジャミン・グレアムの投資術』である。
本書は、近代的な証券分析の強固な基礎を築き上げ、今日でもバリュー投資の父と称されるベンジャミン・グレアム(Benjamin Graham、1894年~1976年)の重厚な哲学を、親しみやすい漫画という形式で翻訳した画期的な一冊である。
ベンジャミン・グレアムは、アメリカの優れた経済学者でありながら、大学の教室で机上の空論を弄ぶだけでなく、自らも過酷な金融市場の最前線で戦う極めて実践的な投資家であった。
彼はイギリスのロンドンで生まれ、わずか1歳の時に家族と共に新天地アメリカへ渡り、その後、苦学の末に名門のコロンビア大学で学士を取得した並外れた秀才である。
証券会社での厳しい実務経験を経て市場の残酷さを身をもって知った後、1926年には自らの投資会社であるグレアム・ニューマン社を設立して数々の成功を収めた。
それと同時に、コロンビア大学のビジネス・スクールやカリフォルニア大学ロサンゼルス校の教壇に立ち、長年にわたって後進の指導にも並々ならぬ情熱を注いだ偉大な教育者でもあったのだ。
そんな彼が残した、素人には少し難解な金融理論を現代の読者に向けて優しく紐解くために、本書の総監修を担当しているのが、驚異的な実績を持つ個人投資家のかぶ1000(かぶせん)である。
かぶ1000は、まだ中学2年生であった頃に、お年玉などで貯めた40万円という限られた元手を握りしめ、プロの大人たちがひしめく株式の世界へ果敢に飛び込んだという異色の経歴の持ち主である。
彼は独自の分析手法を若くして確立し、中学3年生でその資金を300万円に増やし、高校1年生で1000万円、高校2年生で1500万円へと、誰もが驚くような圧倒的なスピードで株式資産を増殖させていった。
会計系の専門学校を卒業して財務の基礎を盤石に固めた後は、専業投資家としての険しい道を歩み始め、2011年に1億円、2016年に3億円、そして2019年には累積利益4億円という莫大な資産を一代で築き上げた本物の実力派である。
彼の著書である『貯金40万円が株式投資で4億円 元手を1000倍に増やしたボクの投資術』は、多くの人々の共感を呼び、見事にベストセラーにもなっている。
そして、その奥深い金融理論を視覚的に分かりやすく表現するための作画を担当しているのが、確かな描写力を持つ漫画家のひげ羽扇である。
愛媛県出身の彼女は2008年から漫画家として幅広く活動しており、活字がびっしりと並んだ分厚い専門書にはどうしても抵抗があるという読者の心理をよく理解している。
彼女が丁寧に作り上げた親しみやすい漫画という視覚的な表現手法を通すことで、読者は登場人物の喜怒哀楽に感情移入しながら、楽しみつつ高度な金融理論の入り口に立つことができるのである。
ここからは、本書の各章に散りばめられた珠玉の言葉の数々を詳細に抜き出し、私自身のこれまでの経験に基づく解釈や独自の考察も深く交えながら、その意味を一つ一つ丁寧に掘り下げていこう。
自己の判断を信じるための四つの原則
自分が何をしているのかを知れ――己の事業を知れ
決して自分の事業を他人任せにしてならない
投機的行為には手を出してはならない
自分の知識や技術に勇気をもって従うべきだ(P.10、11抜粋「PART1 幼少~青年期 — 母の姿から事実を把握することの大切さを学ぶ」)
これは投資の世界において、私たちが絶対に忘れてはならない、いわば憲法のような非常に重要な四つの原則である。
ベンジャミン・グレアムがこの力強い言葉を通じて最も強く伝えたかったのは、自己を主軸にして常に冷静な判断を下すということの絶対的な重要性である。
私たちは情報過多の現代社会において、テレビから流れてくるもっともらしいニュースや、インターネットの匿名掲示板に書き込まれた極端な意見、あるいはSNSのインフルエンサーの不確かな推奨に、いとも簡単に流されてしまいがちである。
しかし、自分の未来の生活を根底から支える大切な資産を、顔も名前も知らない他人の無責任な意見だけで右から左へと動かしては絶対にならないのである。
自分が今、どのような歴史と文化を持つ企業の株を買おうとしているのか、その企業は具体的にどのような商品や画期的なサービスを提供して、社会から利益を生み出しているのかを、深く、そして正確に理解しなければならない。
事業内容を全く理解できないまま、ただ名前が有名だからという理由だけで企業の株を買うことは、目隠しをして夜の高速道路で車を運転するようなものであり、全財産を失う極めて危険な行為である。
また、論理的な裏付けのある真面目な投資と、ただ運を天に任せるだけのギャンブル的な投機を、頭の中で明確に区別することも極めて重要である。
一獲千金を夢見て、中身もよく分からない流行りの金融商品や仮想通貨に全財産を投じるのは、投資ではなく単なる資金の浪費に過ぎない。
徹底的に企業を自らの足と目で調査し、自分自身の知識と分析技術に心の底から自信を持てるようになった時、他人の声に惑わされることなく、初めて勇気を持って行動を起こすべきなのである。
投資と投機を分ける明確な境界線
・投資の定義は「詳細な分析」「元本の保全」「適正な収益」の3つ
・投機の要因は「企業の不安定要素」と「プレミアム」の2つ(P.34「PART1 幼少~青年期 — 母の姿から事実を把握することの大切さを学ぶ」)
ここで明確に言及されている「プレミアム」という言葉の恐ろしい意味を、私たちは歴史の教訓として正しく恐れ、そして深く理解しなければならない。
プレミアムとは、市場における大衆の高まり過ぎた期待や熱狂が作り出した、実体のない架空の価値のことである。
企業の実際の価値や本業で稼ぐ力とは全く無関係に、「これからも永遠に成長し続ける」という必要以上の期待によって、株価が異常なまでに釣り上がってしまっている危険な状態を指している。
歴史を振り返れば、オランダのチューリップバブルや1990年代後半のITバブルのように、人々が「この資産はもっと上がるに違いないから早く買わなければ」という根拠のない焦燥感と熱狂の渦に巻き込まれている時、そこには途方もない多大なプレミアムが上乗せされているのである。
そのような異常な興奮状態で高値づかみをして株を買うことは、決して投資とは呼べず、いつバブルが弾けるか分からないチキンレースに参加するような単なる危険な投機になってしまう。
本当の投資というものは、人間の欲や恐怖といった感情を完全に排除した、冷徹で詳細で緻密な分析から静かに始まるものである。
そして、投じた大切な資金である元本が、たとえ深刻な経済危機が訪れたとしても絶対に失われないような安全性を、何よりも最優先に確保しなければならない。
その盤石な基礎の上に立って初めて、短期間での莫大な利益を夢見るのではなく、常識的な範囲内の適正な収益を何十年にもわたって地道に狙うのが正しい姿勢なのである。
金融の過酷な世界には、一切のリスクを負わずに短期間で大きな利益を確実に得られるような都合の良い魔法は絶対に存在しないという真実を、心に深く刻むべきである。
企業の健康診断となる財務報告書
「すべてのビジネスパーソンや投資家には、企業の財務報告書を理解することが求められている」(P.36「PART2 成人期 — ウォール街への就職と財務分析への挑戦」)
これは、ベンジャミン・グレアムが1937年に出版した名著『賢明なる投資家【財務諸表編】』の中に記されている、時代を超えて響く非常に重い言葉である。
やはり、細かい数字の羅列である財務報告書を正しく読めないようでは、海千山千のプロがひしめく厳しい市場で長期的に生き残ることは到底不可能だということだろう。
というよりも、財務諸表を読むことは一部のエリートにしかできない特別なスキルではなく、投資家として市場に参加するための、文字を読み書きするのと同じレベルの基礎中の基礎なのである。
企業の売上や利益を示す損益計算書、資産や借金を示す貸借対照表、お金の流れを示すキャッシュフロー計算書といった基礎的なデータを基にして、その企業が持つ本当の価値を論理的に評価する手法をファンダメンタルズ分析と呼ぶ。
これは、過去の株価のチャートの形や値動きのパターンだけを見て将来の価格を安易に予測しようとするテクニカル分析とは対極に位置する、極めて学術的で地に足の着いた考え方である。
財務諸表は、人間で例えるならば、病院で精密検査を受けた後に医師から渡される詳細な定期健康診断の結果報告書のようなものである。
立派な本社ビルという外見や、テレビで頻繁に流れる華やかな企業のロゴマークだけでは絶対に分からない、企業の内部の隠された本当の健康状態を、数字という揺るぎない客観的な事実を通して把握することができるのである。
本業の売上高が毎年順調に右肩上がりで伸びているか、将来の首を絞めるような危険な借金が多すぎないか、利益を効率よく生み出す筋肉質な体質であるかといった情報を、自らの目で厳しく読み解く力が不可欠なのである。
安全性を測る流動比率と資産の内訳
・財政がよい企業の目安は流動比率が200%以上であること
・資産の総額だけで判断せず、棚卸資産などの内訳にも注目する(P.57「PART2 成人期 — ウォール街への就職と財務分析への挑戦」)
これは、企業の財政状態をさらに細部まで冷酷に解剖し、分析の精度を高めるための極めて具体的な指標の話である。
流動比率とは、企業が1年以内に無理なく現金化できる資産である流動資産が、1年以内にどうしても返済しなければならない借金である流動負債をどれくらい上回っているかを示す、企業の生存能力に関わる重要な数値である。
この流動比率が200%以上あるということは、手元のすぐに使える現金が直近の支払いの2倍以上あるということであり、短期的な支払い能力が極めて高く、どんな不況が来ても資金繰りに余裕がある非常に安全な企業だと言える。
逆に言えば、どんなに帳簿上で利益が出ていても、手元の現金が枯渇すれば企業はあっけなく黒字倒産してしまう恐れがあるのだ。
さらに、単に資産の総額が巨大であるという表面的な数字の足し算だけで安心してしまうのは、痛い目を見る素人の典型的な陥りやすい罠である。
資産の細かい内訳を虫眼鏡で見るようにしっかりと確認し、その中にいざという時に全く現金化できない無価値な不良資産が含まれていないかを厳しくチェックしなければならない。
例えば、棚卸資産と呼ばれる、いわゆる倉庫の奥で埃を被って眠っている在庫の扱いには、経営者の見栄や嘘が隠れている可能性もあるため特別な注意が必要である。
流行が完全に過ぎ去った旧型の衣料品や、最新の技術に追いつけず型落ちになって性能が劣るテクノロジー関連の電化製品などは、帳簿上に書かれている金額通りに高い値段で売れるとは限らないからである。
市場価値の落ちた不良在庫をそのまま過大に評価してしまうと、企業の本当の実力を大きく見誤り、結果的に致命的な投資の失敗へと一直線につながるのである。
一時的な流行に左右されない収益力
・収益トレンドではなく、純利益の平均である収益力に注目する
・収益力は赤字が出ている年を除いて計算する(P.64「PART2 成人期 — ウォール街への就職と財務分析への挑戦」)
世の中の目まぐるしく移り変わる流行や、新技術に対する将来への過度な期待などに感情を左右されずに、常に冷静に過去の数字の事実を見つめることが大切である。
ベンジャミン・グレアムの代表的な著書であり、今なお世界中で読まれている『証券分析』の中では、過去10年間という非常に長期的な業績の数字を活用することが強く推奨されている。
近年のパンデミック下における特定の業界の特需のように、たまたま特定の年に時代の空気に合致して大ヒット商品が偶然生まれ、利益が急増したとしても、それが翌年以降も同じように続く保証は世界のどこにもないのである。
だからこそ、単年ごとの一時的な収益のトレンドやグラフの急激な傾きだけを追いかけるのではなく、長期間にわたる平均的な稼ぐ力こそを慎重に見極める必要があるのだ。
様々な経済の波、すなわち好況の波と不況の波の両方を力強く乗り越えて、長きにわたって安定した純利益を出し続けている企業こそが、真に強いビジネスモデルを持つ企業であると評価できる。
また、大規模な自然災害や予期せぬ工場の火災事故などの突発的な事情で、たまたま赤字になってしまった年を平均の計算から意図的に除外するというのも、実に深い洞察に基づいた手法である。
一時的な不運やトラブルの影響を数字から綺麗に取り除くことで、その企業が本来持っている純粋な実力をより正確に測定しようという、非常に論理的で実践的な工夫である。
経済の荒波に飲み込まれることなく、企業の根本的な価値を静かな海で測るための、歴史に裏打ちされた優れた知恵だと言える。
暴落の危険性と安値で買う基本原則
「株価が大幅に上昇したすぐ後には絶対に株を買ってはいけない」(P.66「PART3 壮年期 — 世界恐慌での失敗をきっかけにバリュー投資を開発」)
これは、第二次世界大戦後の1949年に出版された『賢明なる投資家』の中に記されている、多くの投資家の血の涙によって書かれたような警告の言葉である。
連日のように株価が急上昇を続けて市場全体がお祭り騒ぎになっていると、自分だけが利益を得る絶好の機会を取り残されて損をしているような、猛烈な錯覚と焦りに陥ってしまう。
そして、その焦燥感から周りの人々に負けまいと、慌てて天井の高値で株を買いたくなってしまうのが人間の抗えない哀しい群集心理である。
しかし、そこは歯を食いしばってぐっと堪え、自分の尽きない欲望を完璧にコントロールし、冷静さを取り戻すように気を付けなければならないのである。
自分よりもはるかに賢く、そして何より1929年の世界恐慌という地獄のような大暴落を生き抜き、全財産を失う恐怖を経験した本物の投資家が、絶対に買ってはいけないと断言しているのだから、その教えを素直に信じるべきである。
株価が短期間で大きく上がるということは、それだけ人々の非合理的な期待が先行して実力以上に過大評価されている状態であり、その後、反動で大きく下がる可能性も大いに秘めているということである。
投資も商売の一環である以上、その最も基本的で原始的なルールは、とにかく安く買って高く売るということに尽きる。
最初から誰も見向きもしないような、泥にまみれた割安な優良株を探し出し、それをじっくりと時間をかけて保有していれば、そもそも大きな問題や取り返しのつかない損失は発生しないのである。
パニック的な群集心理に決して流されず、自分自身の冷静な判断基準を孤独に持ち続けることが、弱肉強食の過酷な市場で生き残るための絶対条件となる。
企業を多角的に評価する六つの指標
利益成長率、増収増益の期間、売上高利益率と株主資本利益率、負債の額、配当の有無、株価が割安かどうか。(P.83「PART3 壮年期 — 世界恐慌での失敗をきっかけにバリュー投資を開発」)
これは、ベンジャミン・グレアムが膨大な企業情報を分析する際に特に意識して徹底的に調べ上げた、六つの重要なポイントである。
これらの異なる角度からの指標を複合的に確認することで、企業の本当の姿が平面ではなく立体的な形として、鮮明に浮かび上がってくるのである。
利益が毎年着実に成長しているか、売上と利益が共に増え続けている期間は過去何年に及ぶかを見ることで、その事業の根本的な成長性と他社に負けない持続力を測ることができる。
売上高利益率は本業の儲ける効率性の高さを如実に示し、株主資本利益率は経営陣が集めた資金をどれだけ上手く活用して利益に結びつけているかを示す、極めて重要な経営指標である。
さらに、予期せぬ不況時に企業が倒産してしまう最悪のリスクを避けるために負債の額を厳格にチェックし、株主に対する利益還元の誠実な姿勢を配当の有無とその歴史で確認する。
そして最後に、それらの優良な条件を全て見事に備えた素晴らしい企業の株が、現在の市場で不当に割安な価格で放置されているかどうかを最終判定するのである。
どれか一つの指標だけが飛び抜けて良くても絶対に駄目であり、全体のバランスを俯瞰して見ながら総合的に価値を判断する高い能力が、投資家には求められているのである。
目に見えない無形資産の評価と危険性
のれんとはブランド力、情報、ノウハウ、社会的価値や知名度といった「企業の収益に貢献する力」のことを指す。(P.84「PART3 壮年期 — 世界恐慌での失敗をきっかけにバリュー投資を開発」)
金融や企業の会計の世界では、こうした専門用語の定義を曖昧にせず、正確に、そして深く押さえておくことが非常に重要である。
のれんとは、巨大な工場や最新鋭の機械、あるいは広大な土地のような目に見える形のある実物資産ではなく、手に取ることはできない目に見えない無形の資産のことを指している。
これらは確かに、企業の収益力を飛躍的に高める強力な見えない武器になるが、同時に客観的な金銭的評価が非常に難しいという、極めて厄介な側面も持っているのである。
そのため、こうした目に見えないふんわりとした価値に対しては、常に強い疑いの目を持ち、あるいは意図的に半分以下に控えめに見積もるようにするというのが、資産を守る保守的な投資の鉄則である。
ここでののれんは、単なる街の噂ではなく、会計上の貸借対照表に具体的な大きな金額として計上されている項目のことである。
長年培ってきた企業のブランド力や社会的知名度といったものは、時代の急激な変化や消費者の気まぐれな好みの移り変わりといった時流によって、いとも簡単に変化してしまう脆い性質のものである。
昨日まで誰もが憧れて行列を作っていた輝かしいブランドが、たった一つの経営陣の不祥事やSNSでの大炎上で、明日には全くの無価値になり、のれんの減損処理という形で巨額の赤字を生み出すことも現代では決して珍しくはない。
だからこそ、実体のない抽象的な価値に過度な期待を寄せることは絶対に避け、確実な現金や不動産といった数字に基づいた安全な判断を心掛けるべきなのである。
株価上昇の引き金となる五つの要因
株価を上げる5つの「カタリスト」
①配当額の上昇
②資産の売却
③大株主の変化
④買収防衛策の廃止
⑤東証への移動・重複上場(P.96「PART3 壮年期 — 世界恐慌での失敗をきっかけにバリュー投資を開発」)
カタリストという言葉は、本来は化学反応を劇的に促進する触媒という意味を持つが、投資の世界では停滞していた株価上昇の明確なきっかけや、眠れる獅子を起こす起爆剤となる出来事のことを指す。
どんなに世界を救うような素晴らしい技術を持ち、毎年過去最高益という優れた業績を上げている企業の株であっても、他の多くの投資家から全く見向きもされなければ、株価が上がることは永遠にない。
株価の上昇というダイナミックな現象は、何らかの好材料をきっかけにして市場全体から一斉に広く注目され、多くの資金によって実際に買い注文が入ることから発生するものである。
例えば、企業が株主に支払う配当金を大幅に増やすと発表すれば、それは溜め込んだ利益を還元する株主重視の素晴らしい姿勢の表れとして高く評価され、即座に買いが殺到する。
また、本業に全く関係のない不要な不動産などの資産を売却して財務を身軽にしたり、現代で言えば物言う株主であるアクティビストのような、経営に厳しく口を出す新たな大株主が登場したりすることも、企業が良い方向へ劇的に変わる兆しとして歓迎されることが多い。
これらのカタリストがいつ、どのような形で、どの企業に発生するのかを事前に完璧に予測することは神でなければ不可能に近い。
しかし、常に四方八方にアンテナを張り巡らせて経済のニュースを熱心に収集し、こうした経営環境の変化の兆しを誰よりもいち早く察知する能力を磨くことは、努力次第で誰にでもできるのである。
究極の割安株を見つけ出す厳格な基準
時価総額が正味流動資産の3分の2以下なら買ってもよい。(P.98「PART3 壮年期 — 世界恐慌での失敗をきっかけにバリュー投資を開発」)
これは、ベンジャミン・グレアムが提唱した、投資の致命的なリスクを極限まで減らすための、非常に厳格で保守的すぎるほどの基準である。
正味流動資産とは、企業が金庫に保有している現金や、すぐに換金できる有価証券などの資産から、企業が抱えているすべての負債を容赦なく差し引いた、純粋な手残りの金額のことである。
極端な話、仮にその企業が今すぐすべての事業から撤退して会社を完全に解散したとしても、借金を全て返した後に確実に手元に残るであろう現金の額と言い換えることもできる。
会社の丸ごとの値段である時価総額が、その手元に残る現金の価値の3分の2以下の値段で株式市場で売られているならば、それは紛れもなく異常なスーパーバーゲンセールである。
本書の監修を務めるかぶ1000は、この古典的なアメリカの基準を、現代の複雑な日本市場に合わせて非常に実践的にアレンジしている。
具体的には、換金性が高い流動資産から総負債を引いた額が、市場でつけられている時価総額よりも大きいこと、という独自の基準を用いているのである。
換金性が高い流動資産とは、貸借対照表に記載されている現金及び預金、受取手形及び売掛金、投資有価証券、有価証券、貸倒引当金を足し合わせたもののことである。
これほどまでに厳しく保守的な条件を満たす企業を広大な市場から見つけ出すのは容易なことではないが、もし見つけることができれば、それは極めて安全性の高い、宝の山のような理想的な投資対象となるのである。
性格的資質としての賢明さの再定義
ここでいう賢明とは「性格面の資質」を指しており、「適切な全体方針を持ち、そしてそれを堅持する性格を持ち合わせていること」と述べている。(P.119「PART4 最盛期 — 名著を執筆しバリュー投資を世に知らしめる」)
これは不朽の名著『賢明なる投資家』のタイトルにも使われている、賢明という言葉の本当の意味を詳細に解説した非常に奥深い部分である。
私たちが普段日常生活で使うような、他人に勝る先見の明があるとか、未来を見通す天才的な洞察力を持っているといった、単なる知能指数の高さのような意味合いではないという事実には深く考えさせられる。
投資の世界で本当に求められる賢明さとは、頭の回転の速さや計算能力の高さではなく、精神的な強さと、いかなる時も自分を律する心の強さ、そして忍耐力のことなのである。
最初に論理的に考え抜いて決めた適切な投資の全体方針を、市場がどれほどパニックに陥って暴落しようとも、あるいはどれほど熱狂的なブームに沸いて高騰しようとも、決して曲げずに堅持し続ける頑固な性格こそが重要になる。
また、過去の著作である『証券分析』は専門用語が非常に多く、プロの機関投資家などの中級者以上向けであったのに対し、『賢明なる投資家』は一般の初級者でも無理なく読めるように言葉を選んで配慮して書かれているとのことだ。
一部の天才にしかできない奇跡的な神業ではなく、凡人であっても誰もが実践できる再現性の高い堅実なルールをまとめ上げたからこそ、長い年月を経た現代においても、投資のバイブルとして世界中で読み継がれているのである。
資産を守るためのポートフォリオ戦略
・ポートフォリオの基本は株式50対債券50で保有すること
・債券の代わりに金、REITなどで代用するのも一手(P.125「PART4 最盛期 — 名著を執筆しバリュー投資を世に知らしめる」)
上記に示されているのは、資産の減少リスクを最小限に抑えたいと強く考える防衛的投資家のための、ポートフォリオ構築の黄金の基本形である。
なるほど、私たちは常にどのような企業の株を買うかという個別銘柄の選択ばかりに気を取られがちだが、株式と債券の全体的な保有割合をどう配分するかというマクロの視点も、同じくらいに大事なことなのだと気付かされる。
また、利回りの低い債券の代わりに、インフレにめっぽう強い実物資産である金や、不動産から安定した家賃収入を得るREIT、あるいは市場全体に広く分散投資するインデックスファンドなどを組み込むのも、現代における非常に有効な手段である。
これまでは、こういった資産全体のバランスや割合を深く論理的に考えずに、ただ漠然と値上がりを期待して株式だけを購入してやってきている人が多いのではないだろうか。
株式だけの偏った保有は、過去の金融危機のように市場全体が暴落した際に、資産の半分以上を一瞬で失う致命的な危険性を常に孕んでいる。
もっと大局的な視点でバランスを考えていく必要性があることを、過去の歴史を振り返りながら改めて痛感させられる。
というのも、人間の経済活動には必ず好況と不況の波があり、株式相場にもそれに連動した抗えない大きな波が存在するからである。
株価が上がり続ける強気相場の時は、いずれ必ず来るであろう下落の可能性を考慮して、株式の割合をあえて25%に減らし、安全な債券の割合を75%に増やすといったリバランスの調整を行う。
つまり、十分に利益が出ている株を売却して利益を確実に確定させ、その資金で価格の安定した安全な債券を買うという、強固な防御の行動をとるのである。
基本的には株価が高騰して皆が浮かれている時には、群衆から離れて株を売るという逆張りの発想が資産防衛には重要になるが、上がり続けているものを売るというのは心理的に非常に難しい行動でもある。
逆に、株価が大きく下がる弱気相場の時は、将来の回復と上昇の可能性を考慮して、株式の割合を75%に大胆に引き上げ、債券を25%に減らす。
つまり、皆が恐怖に駆られて株を投げ売りしている悲観的な局面で、本来の価値よりも不当に安くなったバリュー株を勇気を出して大量に買うのである。
あるいは、保有している債券を売って投資用の資金を作り、そのお金で割安な株を拾い集めるという、非常に論理的で合理的な行動を淡々ととるということである。
防衛的投資家が選ぶべき七つの条件
防衛的投資家が買うべき株式銘柄
①適切な事業規模:小型株は避ける
②健全な財務状況:流動資産が流動負債の2倍以上かつ負債が株式資本の2倍以下
③収益の安定性:過去10年間で安定した収益がある
④配当歴:20年連続で配当を出している
⑤収益の伸び:過去10年間のうち間近3年間の1株あたり純利益が最初の3年間より33%以上上昇
⑥妥当なPER:PERが15倍以下
⑦妥当なPBR:PBRが1.5倍以下(P.129「PART4 最盛期 — 名著を執筆しバリュー投資を世に知らしめる」)
これらは、日々の企業分析にあまり手間をかけずに安全に資産を運用したいと願う防衛的投資家が、実際に買うべき株式銘柄をスクリーニングするための具体的な七つの条件である。
①で真っ先に指摘されているように、事業の規模が小さい小型株を意図的に避けるというのは、経営基盤の絶対的な安定性を何よりも重視している明らかな証拠である。
規模が小さい新興企業は、大化けして株価が急上昇する夢がある一方で、少しの経済的打撃や競合他社の出現で簡単に倒産してしまうハイリスク・ハイリターンの性質を持っているからだ。
⑥と⑦の条件に関しては、企業の稼ぐ利益に対して株価が割安かを示すPERと、企業が持つ純資産に対して株価が割安かを示すPBRという、投資の基本となる二つの指標が使われている。
この二つの数字を掛け合わせたものは、ミックス係数ともグレアム指数とも呼ばれる、世界中の金融界で非常に有名な指標である。
一般的には、このPERとPBRを掛け合わせた数値が22.5以下の銘柄であれば、十分に割安な水準であると判断され、投資の対象となり得る。
しかし、実践の達人であるかぶ1000の場合はさらに条件を厳しく設定し、掛け合わせた数値がなんと5以下の銘柄だけを真の割安株と考えるとのことである。
このような極めて厳しい条件に当てはまりやすい業種として、私たちの日常生活に不可欠なインフラ系の企業が絶好の狙い目となる。
これまでは、安定した需要が必ず見込める電気、ガス、水道といった伝統的な公益事業が投資の中心であった。
しかし、インターネットが社会の生命線として完全に普及した現代社会においては、それに加えて通信事業も新たなインフラとして追加されるべきだと、かぶ1000は的確に述べている。
積極的投資家の果敢な逆張り戦略
・一時的に不人気な大企業は割安に購入しやすい
・上場企業が子会社を精算したら株価が上がるケースがある(P.140「PART4 最盛期 — 名著を執筆しバリュー投資を世に知らしめる」)
こちらは、より多くの時間と膨大な労力を企業分析に費やすことができる、プロフェッショナルな積極的投資家のための、やや高度で攻撃的な投資姿勢についての解説である。
長年の輝かしい歴史を持つ優良な大企業であっても、製品の大規模なリコール問題や経営陣の予期せぬ不祥事の発覚、あるいは全く根拠のない風評被害などによって、市場全体から完全に見放されて株価が一時的に大きく低迷することがある。
積極的投資家は、そのような一時的なパニックによる不人気状態を絶好の千載一遇の投資機会と捉え、あえて火中の栗を拾うように購入するという果敢な行動に出るのである。
ただ、闇雲に下がった株をギャンブルのように勘で買うわけではなく、基本的には防衛的投資家と同様に、企業の本当の価値をしっかりとデータ分析で弾き出すことが大前提となる。
そして、計算された本来の価値よりも明らかに安く放置されている割安の株だけを厳しく選別して購入するという、極めて論理的で冷徹な話でもあるのだ。
また、企業が赤字を垂れ流す不採算の子会社を思い切って清算して経営を筋肉質に効率化させた場合などに、その決断が市場で高く評価されて株価が上がるケースを見越すといった深い洞察力も求められる。
興味深いことに、ベンジャミン・グレアムは特定の少数の銘柄に資金を集中させるのではなく、ビジネスとして徹底的なリスク管理を行い、なんと1,000銘柄以上の幅広い企業に分散投資を行なっていたという。
これは、自分が熟知する一部の優良企業に資金を極端に集中させることで知られる彼の最大の弟子、ウォーレン・バフェット(Warren Buffett、1930年~)とは大きく異なる手法であり、投資のスタイルの多様性を強く感じさせる部分である。
独力で考えることの絶対的な重要性
「成功を収めるには2つの要件がある。ひとつは正しく考えること、もうひとつは独力で考えること」(P.142「PART5 熟年期 — 現代に通じる弟子たちのバリュー投資。」)
この力強い言葉は、彼の死後、後年に出版された『グレアムからの手紙』(2009年)からの貴重な引用である。
投資において一時的なまぐれではなく、長期的な成功を収めるためには、この二つの要件を両方とも同時に満たしていることが極めて大切であると教えられる。
「正しく考えること」は、複雑な財務諸表を読み解く技術や、企業価値を計算する論理的な知識を、地道な学習によって身に付けることで達成できる。
しかし、それ以上に実行するのが精神的に難しいのが、「独力で考えること」のほうかもしれない。
私たちは将来の不確実性が不安になると、つい他人の意見を求めて安心したくなったり、多数派の行動に同調して群れの中に身を隠そうとしたりする弱い生き物である。
しかし、複数人で相談して妥協点を見つけようとすると、責任の所在が曖昧になり、他人の判断に寄りかかって決断に迷いが生じ、結果的に間違って大失敗することも多々あるのだ。
なるほど、同調圧力に屈することなく、群集心理に流されず、市場のノイズを完全に遮断し、自分自身の頭だけで決断を下すという、孤独な作業への圧倒的な耐性がやはり必要なんだなと痛感する。
もちろん、一人で黙々と数字の分析を続けるのが苦にならないという、本人の生まれ持った性格的な相性といったものもあるとは思うけれど、投資家としての精神的な完全な自立は不可欠な要素である。
感情を排除した機械的な売却ルール
一般的には、銘柄ごとに50~100%の利益目標を設定し、その価格が実現したタイミングでの売却を推奨した。また、保有期間はおおむね2年~3年半とし、保有期間内に目標の株価が実現しない場合は、その時点で売却するべきという。(P.158「PART5 熟年期 — 現代に通じる弟子たちのバリュー投資。」)
株を買うことは資金さえあれば誰にでも簡単にできるが、投資において最も難しく、そして最も重要なのは、どのタイミングで株を売るかという出口戦略である。
彼は、株を購入する前の冷静な段階で、あらかじめ明確な利益目標を数字で設定することを強く推奨している。
具体的には、購入した株価の1.5倍から2倍まで値上がりしたら、そこでもっと上がるかもしれないと欲張らずに、達成の証として機械的に売却して利益を確定させるのである。
さらに、いつか上がるかもしれないといつまでもだらだらと根拠なく持ち続けることを防ぐために、時間的な制限として2年から3年半という明確な期限を設けている。
もし、その期限が来ても最初に設定した目標株価に到達しなかった場合は、自分の見込み違いであったと潔く負けを認めて、その時点で無情にも売却してしまうのである。
人間にはプロスペクト理論で証明されているように、損失を確定させることを極端に嫌う心理があるため、このルールを徹底するのは至難の業だ。
しかし、手元に戻ってきた資金を使って、また別の新たな割安株を探して購入するという、資金を効率よく回転させる淀みのない流れを作り出すためには絶対に必要なルールなのだ。
いつ売るべきかという出口の時期などについても、最初から厳密に計算してルール化して考えていたのかと感心させられる。
そりゃ、どんなに素晴らしい株を安く買っても、利益を現金として確定させなければ絵に描いた餅に過ぎないのだから、当然のことか。
日本の歴史に名を残す偉大な投資家である本多静六(ほんだ・せいろく、1866年~1952年)なども、自身の定めた厳格なルールに従って、未練という感情を交えずに機械的に売却しているからな。
また、重要なポイントとして、当初その企業の株を購入した決定的な理由が消滅してしまったら、その時点で迷わず売却するという損切りの視点もある。
安定した配当が目当てで買ったのに業績悪化で無配転落になり配当が止まるとか、あるいは社長の交代による経営方針の急な変更で将来の不安定化が予想される場合などである。
企業の実力を見抜く十五の質問
【バフェットの15の質問を把握する】
・売上拡大を続ける力を見るポイント
①現在の製品・サービスで収益増は望めるか
②新しい製品・サービスで収益増は望めるか
③研究開発はなされているか
④独自のノウハウはあるか
⑤優れた営業部門はあるか
⑥長期的展望はあるか
・利益を生み出す力を見るポイント
⑦売上高営業利益率は十分か
⑧営業利益率を維持・改善しているか
⑨適切なコスト分析・財務分析がなされているか
・経営者の質を見るポイント
⑩労使関係は良好か
⑪管理職の能力は引き出されているか
⑫優秀な管理職は豊富か
⑬経営者は悪いニュースも報告しているか
⑭経営者は投資家に対して誠実か
⑮増資のリスクはないか(P.167「PART5 熟年期 — 現代に通じる弟子たちのバリュー投資。」)
上記は、世界最高の投資家と呼ばれるようになったウォーレン・バフェットが、投資先の銘柄を厳格に選定するために用いているとされる有名な十五の質問である。
なるほどな、企業の価値を構成する重要な要素を、大きく三つの分類に分けて徹底的に深掘りしているのだな。
売上を伸ばすための尽きない成長力、利益を効率よく生み出す強靭な収益力、そして組織を率いる経営者の人間としての高い質、という三つの太い柱である。
その大きな柱の下に、具体的なチェック項目としての細かい質問が連なっている、非常に論理的で隙のない構造になっている。
若い頃のウォーレン・バフェットは、地元の図書館で偶然『賢明なる投資家』を読んで雷に打たれたような深い感銘を受け、後にコロンビア大学ビジネススクールに進学して直接ベンジャミン・グレアムの熱い授業を受けたのだという。
さらに卒業後は、どうしても尊敬する師匠の下で働きたいと懇願し、実際にベンジャミン・グレアムが経営する投資会社で懸命に働いた経験を持っている。
その後、ベンジャミン・グレアムが投資の世界から完全に引退して会社を解散すると、ウォーレン・バフェットは故郷であるネブラスカ州の地元のオマハに戻り、自身の投資会社を立ち上げる。
師弟関係のこうした歴史的な繋がりや人間ドラマの流れも全く知らなかったので、読んでいて非常に驚き、興奮した。
そもそも、今や投資の神様として世界中から崇められているあのウォーレン・バフェットに、手取り足取り教えを授けた偉大な師匠がいたという事実自体が新鮮であった。
ただし、ウォーレン・バフェットの現在の完成された投資スタイルは、師匠の教えをそのまま100%コピーして受け継いでいるわけではない。
彼はさらに、成長株投資の偉大なパイオニアであるフィリップ・フィッシャー(Philip Fisher、1907年~2004年)という別の天才投資家の影響も強く受けている。
実は、上記の企業を定性的に徹底分析する十五の質問は、このフィリップ・フィッシャーの考え方が土台であり基本になっているのである。
二人の巨人の良い部分を見事に融合させることで、ウォーレン・バフェットは誰にも真似できない最強の独自の手法を確立させたと言える。
ベンジャミン・グレアムの厳格な教えを受けた優秀な弟子は、もちろん彼だけではない。
他にも、ウォルター・シュロス(Walter Schloss、1916年~2012年)や、メーソン・ホーキンズ(Mason Hawkins、1948年~)など、後の金融界に確固たる名を残す錚々たる顔ぶれが見事に育っている。
ウォルター・シュロスは、師匠の教えを最も忠実に守り抜き、徹底して数字だけを見るバリュー株への分散投資を生涯にわたって頑なに貫いた。
彼は企業の経営陣と直接面談して話を聞くことすら嫌い、むしろ事業内容にはあまり興味を持たずに、統計データに基づいて機械的に株の売買を繰り返して大きな利益を上げた。
一方のメーソン・ホーキンズは、師匠の古典的な理論を現代の複雑な会計基準に合わせて進化させ、さらに厳密なキャッシュフローの分析を取り入れた。
本業の儲けである営業キャッシュフローから、事業維持に必要な投資キャッシュフローを差し引いた、企業が自由に使えるお金であるフリーキャッシュフローが豊富に生み出されている企業に深く注目したのである。
まとめ:時代を超えて読み継がれる古典の価値
全体を通して、株式市場の根源的な成り立ちから企業の価値の論理的な測り方まで、基礎から応用までかなり幅広く勉強になる内容である。
難しい数式や理解不能な専門用語が並ぶ無味乾燥な金融の専門書とは違い、漫画という視覚的な形式のおかげで、複雑な経済の仕組みが手に取るように分かりやすい。
総監修を務めた、かぶ1000の現代の日本市場に合わせた的確な解説やアレンジメントが、本質的な部分を全く損なうことなく解説しているのも特徴である。
この素晴らしい本をきっかけにして、ベンジャミン・グレアムが残した原著の分厚い本を、思い切って購入して本格的に学んでみようという読者も出てくるはず。
巻末には、貴重な参考文献のリストが丁寧に掲載されているので、次に何を読めばよいかの大きな道しるべになるかもしれない。
投資というのは、決して一時的な流行に乗ったり、運任せのギャンブルに興じたりすることなどではなく、人間の複雑な心理と経済の冷徹な合理性が複雑に絡み合った、極めて知的で奥深い知的探求の旅なのである。
自分自身の知識と教養を日々深め、確固たる信念を持って荒れ狂う市場と向き合うことの大切さを、この一冊から深く学んでみてはいかがだろうか。
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