『遥かなるケンブリッジ』藤原正彦

藤原正彦の略歴

藤原正彦(ふじわら・まさひこ、1943年~)
数学者。大学教授。
満州国の新京(現在の中国吉林省長春市)生まれ、東京育ち。東京学芸大学附属小金井中学校、東京都立西高等学校、東京大学理学部数学科を卒業。東京大学大学院理学系研究科修士課程数学専攻を修了。アメリカのミシガン大学の研究員、イギリスのケンブリッジ大学の研究員も経る。
父親は小説家の新田次郎(にった・じろう、1912年~1980年)、母親は作家の藤原てい(ふじわら・てい、1918年~2016年)。

『遥かなるケンブリッジ』の目次

第一章 ケンブリッジ到着
第二章 ミルフォード通り17番地
第三章 研究開始
第四章 ケンブリッジの十月
第五章 オックスフォードとケンブリッジ
第六章 次男が学校でなぐられる
第七章 レイシズム
第八章 学校に乗り込む
第九章 家族
第十章 クイーンズ・カレッジと学生達
第十一章 数学教室の紳士達
第十二章 イギリスとイギリス人
永遠の相の下に 南木佳士

概要

1994年7月1日に第一刷が発行。新潮文庫。273ページ。

副題は「一数学者のイギリス」。

1991年10月に刊行した単行本を文庫化したもの。

数学者の藤原正彦が家族と共に過ごしたイギリスでの日々を綴った体験記。

1987年の8月から文部省の在外研究員として、約1年の予定でイギリスに赴くことになった藤原正彦。

ケンブリッジ大学を選んだのは、藤原正彦が専門とする数論で有名な場所であったから。

1972年には、研究員としてミシガン大学に、翌年には助教授としてコロラド大学に赴き、アメリカで過ごした経験のある藤原正彦。

アメリカで過ごした時は独身であった。

しかし、今回のイギリス行きは、家族と一緒に。妻と7歳、5歳、乳飲み子と共に。

通じない英語、まずい食事、子供のいじめ被害といったあれこれ。歴史、文化、文明、人間といったものが浮かび上がる体験記。

解説は、医師で小説家の南木佳士(なぎ・けいし、1951年~)。

感想

先述の通り、副題は「一数学者のイギリス」。

これは、1977年に発売した同著者の『若き数学者のアメリカ』を踏襲したものである。

この『遥かなるケンブリッジ』の舞台となるのは、イギリス。日本、アメリカとの比較も楽しめる。

ケンブリッジ大学は、藤原正彦の憧れの地であった。

ちなみに、ケンブリッジ大学は、1209年にオックスフォード大学から移り住んできた学者たちの活動が萌芽となり、1284年に、ピーターハウス(Peterhouse)のカレッジが創立。

出身者には、哲学者のフランシス・ベーコン(Francis Bacon、1561年~1626年)、自然科学者のチャールズ・ダーウィン(Charles Robert Darwin、1809年~1882年)、数学者のアラン・チューリング(Alan Mathison Turing、1912年~1954年)なども。

日本人では、実業家で三菱財閥の4代目総帥の岩崎小弥太(いわさき・こやた、1879年~1945年)、実業家で貿易庁長官の白洲次郎(しらす・じろう、1902年~1985年)なども。

アメリカでの研究や日常での生活経験があった藤原正彦は、英語には自信があり、語学の心配がなかったのも、イギリスを選んだ理由であった。

だが、イギリスにやってきてテレビのニュースを観ていると半分くらいしか英語が分からない。

そのような描写から、この作品は始まっていく。

特に子供が学校で、いじめ被害に遭い、その対応や姿勢に関しては、非常に心に残った。

自分と子供、日本とイギリス、文化、個性の違い。藤原正彦が自らを顧みて反省する心の描写も印象的である。

藤原正彦のファン、イギリスに関心のある人、異国文化に興味のある人には、非常にオススメの一冊である。

特に『若き数学者のアメリカ』を読んでいる人は必読。

二冊を比較することで、アメリカとイギリスの違い、独身と既婚の違いなども楽しめる。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

ケンブリッジ大学

ケンブリッジ大学(University of Cambridge)は、イギリスのケンブリッジにある総合大学。1209年に創立。ノーベル賞受賞者は100人以上を輩出。

公式サイト:ケンブリッジ大学