『サンリオピューロランドの人づくり』小巻亜矢

小巻亜矢の略歴

小巻亜矢(こまき・あや、1959年~)
実業家、起業家。
東京都の生まれ。成城大学法学部を卒業。サンリオ入社。結婚により退社。離婚後、化粧品会社の販売員を経て、サンリオ関連会社に化粧品事業の研究所長として復帰。
2013年、東京大学大学院教育学研究科の修士課程を修了。2016年、サンリオピューロランド館長に就任。2019年、サンリオエンターテイメント代表取締役社長に就任。

『サンリオピューロランドの人づくり』の目次

プロローグ

第1章 すべては1本のリポートから始まった
思い出の中にあるピューロランドは輝いていた
「大変です! ピューロランドは可能性に満ちています」
エンタメ業界の素人に何ができるのか
「この会社は黒字にならない」

第2章 朝礼と「かわいいトイレ」の効果は絶大!
やさしい話し方、あたたかな聴き方
「ウォーミングアップ朝礼」でスタッフを笑顔に
上司は1回で説得しようと思わない
朝礼は貴重なマーケティングの場でもある
「対話フェス」でおじさんと女子を仲良く
挨拶だけで社内の雰囲気はぐっと良くなる
「コンセプト会議」で組織に横串を刺す
「期間限定」「お試し」と言えば反対されない
男性脳には「数値化」が効く
廊下ですれ違いざまに「2行メッセージ」を送る
「バックヤードこそテーマパークに!」
トイレの落書きは、心の叫びを表すサイン
「いつでも遠慮なくメールを送ってください」
ミッションはみんなの「お母さん」役になること
相手の荷物を背負いすぎてはいけない
COLUMN 「自分となかよく」するための毎日の習慣①
バッハの音楽で集中モードに切り替える
スタッフの「隠し撮り」でやる気を出す
悩んだら「三日坊主でもやってみる」

第3章 人生は「想定外」でできている
「小さな贈り物」が大好きだった
号泣して帰ったサンリオの会社説明会
「お給料はいらないので、休みもいらないです」
次男を失った日の記憶
人って、哀しくてかわいい
精神的・経済的自立が女性を美しくする
「サンリオで化粧品を作らない?」
コーチングを通じて女性の悩みに応えたい
左胸と子宮の全摘出に迷いはなかった
51歳から大学院で自己論を学ぶ
COLUMN 「自分となかよく」するための毎日の習慣②
その日の服装は占いで決める
ストレスが溜まったら書いて捨てる
学ぶなら「通学スタイル」を選ぶ

第4章 ピューロランドの桃太郎が鬼退治しない理由
「これからはピューロランドの時代が来る!」
イケメンミュージカルで大人女子の心を鷲掴み
ハローキティのセリフに思いを託す
キャラクターのビジュアルは「メイキング感」が大事
「子どもが行く場所じゃなかったの?」と思ってもらえたら成功
オリジナルキャラクターは強力なIP
三世代、インバウンドも呼び込んだ
「KAWAIIKABUKI~ハローキティ一座の桃太郎~」
屋内型テーマパークの強みは「没入感」にある
「食べたい」「撮りたい」キャラクターメニュー
エイプリルフールのツイートから生れた「品川紋次郎」
カチューシャはピューロランドの「ドレスコード」
社内のデジタルアレルギーを払拭した「ちゃんりおメーカー」
ピューロランドアンバサダーが社員に教えてくれたこと
COLUMN 「自分となかよく」するための毎日の習慣③
いろんな自分を認めてあげる ―対話的自己論―
「バスのワーク」は他者理解にもつながる

第5章 課題の「深読み」で、はぐくむ力を強くする
「ダメ出し」のおかげで社内が一つにまとまった
従業員エンゲージメント指数で課題を「早期発見」
評価シートに込めた経営の方向性
「待ち」の姿勢では女性のキャリアは育たない
仕事の目的は、お互いに成長すること
「感情モニタリング」は大人のたしなみ
SDGsはピューロランドのビジネス戦略である
「KAWAII」で世界を変える

エピローグ

概要

2019年7月17日に第一刷が発行。ダイヤモンド社。255ページ。ソフトカバー。127mm×188mm。四六判。

サンリオピューロランドを立て直しのために実施した具体策と、著者である小巻亜矢の半生が、まとめられた作品。

副題は「来場者4倍のV字回復!」。

帯には「専業主婦から社長へ!」というコピーも。

1~16ページまでは、カラー写真。著者の若い頃の写真や、略歴的な写真も数点。その他は、改善されたサンリオピューロランドの写真。

目次を見て分かる通り、細分化されているので、端的で読みやすい構成。

著者の人生経験とサンリオピューロランドをV字回復させるための悪戦苦闘も描かれるマーケティング論、組織論の本である。

感想

オンラインのセミナー・Climbersの登壇者で、講演を聞いて興味を持ったこと。あとは、サンリオという企業にも関心があったので、こちらの本を購入。

結論としては、面白かった。基本的に、男性経営者の本ばかりを読んでいるので、女性経営者の視点は新鮮である。

小巻亜矢のビジネスの方法というか、人とのつながり、関係性の部分が、とても勉強になった。

結婚、出産、次男の逝去、離婚、左胸と子宮の全摘出、大学院の進学など、その半生も、なかなか凄い。

先述した通り、最初の16ページは、カラーで写真が豊富。サンリオピューロランドの改善点を披露しながら、宣伝として紹介しているのは非常に上手いマーケティング手法。

以下、印象的な部分を抜粋。

ちなみに、最終的にイエスと言ってもらうための大切な心構えは、「1回で突破しようと思わないこと」です。
「サービス向上には朝礼が不可欠だと思うのですが、皆さんにご納得いただくためには、どのような情報が必要でしょうか」
相手に問いを投げかけつつ、正面切ってノーと言えないように外堀を埋めていきます。ときに相手の提案を待つことで“自分事”にしてもらい、最終的に「協力するしかない」と思ってもらえたら成功です。(P.63「第2章 朝礼と「かわいいトイレ」の効果は絶大!」)

最初から、1回で突破しようと思わない、というのはとても戦略的である。

時間をかけて、外堀を埋めつつ、相手も巻き込んで、ノーが言えない状況に持っていく。

なるほど、非常に勉強になる。

使えるキーワードは「期間限定」や「お試し」。大上段に構えず、「実験させてください」という姿勢で入るのです。「あなたの意見もわかります。でも、ちょっと実験させてもらえませんか」という言い方なら相手を否定せずに済みますし、実験やお試しにノーと言う人はまずいません。(P.82「第2章 朝礼と「かわいいトイレ」の効果は絶大!」)

この辺りも、素晴らしいというか、バランス感覚に非常に優れている点だと思う。

拒絶や否定が無い。ある種、なし崩し的。

反対に「改革」という言葉は使わないという。反発を招く可能性があるため。

さらに教育心理学の心理行動であるピグマリオン効果についての言及も。

「ピグマリオン効果」は、1964年にアメリカの教育心理学者であるロバート・ローゼンタール(Robert Rosenthal、1933年~)によって実験された効果。

期待された人間は、期待された結果を出す傾向があるというもの。良い期待も、悪い期待も、生じられるという。

ピグマリオンという名称は、ギリシャ神話を収録した古代ローマのオウィディウス(Publius Ovidius Naso、前43年~後17年頃)の『変身物語』(”Metamorphosen”、訳に『転身物語』とも)の第10巻に登場するピュグマリオン王が恋焦がれた女性の彫像を、アプロディテ神の力で人間化したと言う伝説に由来。

あと、サンリオというのがスペイン語で「聖なる河」という意味だったのも勉強になった。

ピューロランド(puroland)については、公式的な見解は出ていなさそうな感じ。

ネットで調べたら、スペイン語で純真な、純粋な、を意味する「puro」と、土地の「land」を組み合わせたものという説も。

化粧品販売員の時の女性陣たちからの妬み、嫉みなどの記述も。なかなか大変だな。本当に女性は。

心理学関連をしっかりと大学院とかで学んでいるのは、流石と思った。雰囲気や情緒だけではないということ。

さまざまなエンタメを研究しているのも面白かった。歌舞伎とのコラボもしていたのは驚きだし、ホラーや男性限定イベントとかの企画も凄いと思う。

あとは、創業者の辻信太郎(つじ・しんたろう、1927年~)の言及も多々あり、そちらにも興味が湧いた。

同じエンタメ系の施設であるUSJをV字回復させた森岡毅(もりおか・つよし、1972年~)の書籍『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか? 』『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』が、好きな人とかにも、読んでもらいたい作品。

サンリオ系が好きな人はもちろん、ビジネスやマーケティング、組織論などに興味のある人には、非常にオススメの著作である。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

サンリオピューロランド

東京都多摩市にあるサンリオキャラクターをモチーフとした屋内型テーマパーク。1990年12月7日に開園。株式会社サンリオの子会社・株式会社サンリオエンターテイメントが運営。

公式サイト:サンリオピューロランド