
書籍紹介
- 驚異的な読書速度と原典を先に読む習慣で、情報処理能力を高め、思考の独立性を保つ読書術を実践。
- 白紙に記憶を書き出す「検索練習」で知識の定着を確認し、未知の体験を積極的に選ぶことで価値判断の幅を広げる。
- 「暇」を徹底的に排除し、有限な時間を真剣に管理する姿勢が、生涯にわたる知的成長の基盤。
- 本書は受験テクニックを超えた普遍的な知的生産の習慣を提示し、若き医学生、後の精神科医の明晰な思考と人間的深みを称賛する一冊。
水上颯の略歴・経歴
水上颯(みずかみ・そう、1995年~)
精神科医。
山梨県の出身。山梨大学教育学部附属小学校・中学校を卒業。東京都荒川区の私立開成高等学校を卒業。東京大学医学部医学科を卒業。
開成高校時代には、日本テレビの第32回『全国高等学校クイズ選手権』に出場し優勝。東大在学中には、日本テレビの『最強の頭脳 日本一決定戦! 頭脳王』に3年連続で出演、2連覇を達成。
『頭を鍛える5つの習慣』の目次
はじめに
1章 勉強の習慣「効率を最大化する6つの方法」
2章 読書の習慣「考える力がつく6つの方法」
3章 記憶の習慣「どんどん頭に入る8つの方法」
4章 時間の習慣「人生のムダをなくす7つの方法」
5章 アウトプットの習慣「学びを成果につなげる5つの方法」
特別付録 水上颯をつくった10冊
おわりに
『頭を鍛える5つの習慣』の概要・内容
2019年9月25日に第一刷が発行。三笠書房。222ページ。ソフトカバー。127mm×188mm。四六判。
題名の前に「東大No.1頭脳が教える」と付く。つまり『東大No.1頭脳が教える 頭を鍛える5つの習慣』となる。
『頭を鍛える5つの習慣』の要約・感想
- 圧倒的な読書速度と情報処理能力
- 原典に触れることの意義と知的独立
- 人生の羅針盤となる書物との出会い
- 白紙に書き出すことの恐ろしさと効用
- 未知なる体験が価値判断の基準を広げる
- 有限なる時間と真剣に向き合う覚悟
- 普遍的な知恵を授ける若き才能への称賛
書店に足を運べば、思考力や記憶力を向上させるためのノウハウ本が所狭しと並んでいる。
誰もがより賢く、より効率的に日々を過ごしたいと願っている証左であろう。
しかし、数多ある書籍の中で、本当に本質を突いた、実践的かつ普遍的な知恵を提供してくれるものは決して多くはない。
そうした状況下において、ひときわ強い光を放つ一冊が存在する。
それが、三笠書房より2019年9月25日に第一刷が発行された『東大No.1頭脳が教える 頭を鍛える5つの習慣』である。
著者は、水上颯(みずかみ・そう、1995年~)である。
山梨県に生まれ、山梨大学教育学部附属小学校・中学校を経て、東京都荒川区の名門である私立開成高等学校を卒業している。
さらに、東京大学医学部医学科を卒業し、現在は精神科医として活躍している人物である。
彼の名前を聞いて、テレビ番組での圧倒的な活躍を思い出す人も多いだろう。
開成高校時代には日本テレビの『全国高等学校クイズ選手権』に出場して優勝を飾り、東京大学在学中には同じく日本テレビの『最強の頭脳 日本一決定戦! 頭脳王』に3年連続で出演し、見事2連覇を達成している。
まさに、日本トップクラスの頭脳を持つ青年である。
本書は、彼がいかにしてその卓越した頭脳を作り上げてきたのか、その秘密が余すところなく語られている。
目次は「はじめに」から始まり、「1章 勉強の習慣」、「2章 読書の習慣」、「3章 記憶の習慣」、「4章 時間の習慣」、「5章 アウトプットの習慣」と続き、「特別付録 水上颯をつくった10冊」、「おわりに」で締めくくられる構成となっている。
一見すると、受験勉強に特化した内容を想像するかもしれない。
確かに、受験を戦い抜くための具体的な技術も豊富に含まれているが、本質はそこにとどまらない。
彼が提示する習慣は、生涯にわたって学び続け、自らの人生を豊かに切り拓いていくための、普遍的な知的生産の技術なのである。
本稿では、彼の著書の中からいくつかの重要なポイントを抽出し、様々な学問的視点を交えながら、その背景にある深い思考を探っていきたい。
圧倒的な読書速度と情報処理能力
知識を獲得する上で、読書は最も基本的かつ強力な手段である。
歴史を紐解けば、古今東西の偉人たちは皆、膨大な書物を読み漁り、先人たちの知恵を吸収してきた。
水上颯もまた、桁外れの読書量と処理速度を持つ読書家である。
彼は自らの読書について、次のように述べている。
僕は、かなり読むのが速いほうだと思います。おそらく、たくさん読んできたことで、本を読む運動神経のようなものが発達したのでしょう。普通の文庫本ならば30分もかからずに読めてしまいます。(P.62:2章 読書の習慣「考える力がつく6つの方法」)
この記述から読み取れる彼の読書スピードは、尋常ではない。
普通の文庫本というものを、仮に200ページ程度の分量であると想定してみよう。
30分かからずに読めるということは、15分で100ページを読み進める計算になる。
これをさらに細かく分解すると、1.5分で10ページ、すなわち90秒で10ページとなる。
1ページあたりに換算すると、わずか9秒という驚異的な短さである。
もし、その文庫本が300ページであったとしたらどうなるだろうか。
10分で100ページを読み切ることになり、1分で10ページを消化する。
60秒で10ページということは、1ページあたりたったの6秒である。
12秒から18秒くらいで見開きを読み終え、次々とページを捲っていく姿が想像できる。
これはもはや、文字を一つ一つ目で追うという一般的な読書とは根本的に異なる行為である。
凄まじい速度による情報処理が行われていると言わざるを得ない。
ここで注目すべきは、彼が「本を読む運動神経」という表現を用いている点である。
認知科学の観点から見れば、読書とは視覚から入力された記号を脳内で意味に変換する高度な情報処理プロセスである。
初心者は文字や単語のレベルで処理を行うため時間がかかるが、熟練者は複数の単語や文を一つの塊として捉える「チャンク化」と呼ばれる処理を行うことができる。
膨大な量の読書をこなすことで、脳内の神経回路が最適化され、このチャンク化の精度と速度が極限まで高まっている状態を、彼は「運動神経」という身体的な比喩を用いて表現したのだろう。
スポーツ選手が反復練習によって無意識レベルで複雑な動きをこなせるようになるのと同じように、彼にとっての読書は、高度に自動化された知的なスポーツのようなものなのかもしれない。
原典に触れることの意義と知的独立
情報が溢れる現代社会において、私たちは常に効率を求めがちである。
難解な書物を読む際にも、手っ取り早く内容を理解するために、解説本や要約された記事から手をつける人も多いだろう。
しかし、水上颯はそのような安易な方法に警鐘を鳴らす。
彼は読書の順番について、明確な独自のルールを持っている。
まず原典にふれて、その後、簡略本を見るようにしているのです。(P.79:2章 読書の習慣「考える力がつく6つの方法」)
この姿勢は、真の知性を育む上で極めて重要である。
もし、簡略本から読み始め、その後に原典を読むという順番をとった場合、どのような弊害が生じるだろうか。
原典を読んでいる途中で、どうしても内容が難解に感じられ、挫折してしまう可能性が高くなる。
「やっぱり簡略本の方が楽で読みやすいから、そっちだけでいいや」という妥協が生じ、原典を最後まで読み通すことを放棄してしまうのである。
さらに深刻な問題は、簡略本の著者が提示した意見や解釈に、自分自身の思考が完全に飲み込まれてしまうことである。
最初からフィルターを通した情報を受け取ることで、自分自身の頭で考え、独自の解釈を生み出す機会が奪われてしまう。
これでは、どれだけ本を読んでも、知識が自らの血肉になりにくい。
一方、原典から先に読み、その後に簡略本を読むという順番であれば、状況は大きく異なる。
難解な原典と格闘しながら、自分なりの理解を構築した上で簡略本に触れることで、「自分はこう考えたが、この解説者はこのように解釈しているのか」と、自らの考えと照らし合わせて読むことができる。
この比較検討のプロセスを経ることで、理解はより深まり、多角的な視点を獲得することができるのである。
この原典を重んじる姿勢は、歴史学や文学などの学問分野における「一次資料」への態度と通底している。
歴史研究において、後世に書かれた二次的な文献よりも、当時の人間が書き残した手紙や公文書などの一次資料が最も重視されるのは、そこに他者の解釈が介在していない生の事実が刻まれているからである。
ルネサンス期の人文学者たちも、「原典へ」を合言葉に、翻訳や注釈に頼らず、ギリシャ語やラテン語の古典を自ら読み解くことを何よりも重んじた。
彼らもまた、原典に直接触れることで、既存の権威から精神を解放しようとしたのである。
もちろん、古文などのように言語の壁がある場合は、現代語訳を補助線として用いることは合理的である。
しかし、基本的には超訳や図説といった加工された情報は後回しにするという原則を持っておくべきだろう。
これは単なる読書のテクニックではなく、自分の思考の独立性を守るための強靭な精神の在り方を示している。
人生の羅針盤となる書物との出会い
本書には、「特別付録 水上颯をつくった10冊」というリストが掲載されている。
どのような本が彼の知性を形作ったのか、興味深くページをめくる読者も多いだろう。
リストに挙げられた本の中には、意外性を感じるものもあるかもしれない。
しかし、本文の中で彼が言及しているある一冊の本の存在に、私は強い感銘を受けた。
彼は、繰り返し読む本について次のように語っている。
たとえば、神谷美恵子さんの『生きがいについて』(みすず書房)は、再読するたびに新しい刺激をもらっています。(P.85:2章 読書の習慣「考える力がつく6つの方法」)
ここで神谷美恵子(かみや・みえこ、1914年~1979年)の『生きがいについて』という名著が登場することに、彼の深い人間的素養を感じざるを得ない。
神谷美恵子は、精神科医であり、作家でもある。
旧姓を前田(まえだ)といい、岡山県岡山市に生まれた。
長崎、東京、さらにはスイスのジュネーヴで過ごした後、1925年に日本へ帰国している。
成城高等女学校、津田英学塾本科を経て、東京女子医学専門学校を卒業するという、当時としては稀有な学歴を持つ女性である。
彼女は、国立療養所長島愛生園などでハンセン病患者の精神科医療に長年携わった経験を持つ。
過酷な状況下に置かれた患者たちとの深い心の交流を通して、「人間にとって生きがいとは何か」という根源的な問いに向き合い続けた。
その思索の結晶が、『生きがいについて』という著作である。
水上颯自身も、過酷な受験戦争を勝ち抜き、東京大学医学部を卒業して、後に精神科医の道を歩んでいる。
同じ精神科医という職業を後に選んだ彼が、学生時代に人間の生と死、苦悩と希望を深く見つめた大先輩の著書を愛読し、再読するたびに刺激を受けているという事実は、非常に示唆に富んでいる。
単に知識を詰め込むためだけの読書ではなく、人間とは何か、自分はどう生きるべきかという実存的な問いを探求するための読書を、彼が実践していることがうかがえる。
白紙に書き出すことの恐ろしさと効用
知識を頭に入れることと、それが定着していることを確認することは、全く別の作業である。
多くの人は、教科書を何度も読んだり、ノートを見返したりすることで、記憶したつもりになってしまう。
しかし、いざ試験の場になると、全く言葉が出てこないという経験は誰にでもあるはずだ。
水上颯は、記憶を確実なものにするためのシンプルかつ最強の方法を提示している。
それは、「書き出してみる」ことです。(P.97:3章 記憶の習慣「どんどん頭に入る8つの方法」)
これは、暗記によって知識が本当に蓄積されたかどうかを確認するための、最も厳格なテストである。
手元に教科書もノートも置かず、ただ真っ白い紙を用意する。
そして、記憶したはずの事柄を、記憶だけを頼りに書き出していくのである。
もし、途中で筆が止まり、何も書けなくなってしまったら、それは暗記が不十分であるという残酷な事実を示している。
その場合は、潔く暗記の作業を再びやり直すしかない。
そして、再度記憶できたと思ったら、再び真っ白い紙に向かって書き出す挑戦を行う。
この作業を繰り返すことで、自分の記憶のあやふやな部分が明確に炙り出されるのである。
これは、認知心理学における「検索練習」の効果を最大限に活用した方法である。
情報を脳に入力する(符号化)だけでなく、脳から情報を引き出す(検索)訓練を行うことこそが、長期記憶の形成に最も寄与するということが、科学的にも証明されている。
さらに、書き出すという行為は、自分が「何を理解していて、何を理解していないか」を客観的に把握するメタ認知の能力を鍛えることにも繋がる。
経営学において、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Action)のPDCAサイクルを回すことが重要視されるが、白紙への書き出しは、まさに学習における厳格な「Check(評価)」のプロセスに他ならない。
自分自身に対して誤魔化しがきかないこの方法を習慣化することが、強固な知識の基盤を築くための近道なのである。
未知なる体験が価値判断の基準を広げる
私たちは日常生活の中で、無数の選択を行っている。
その際、どうしても自分がすでに知っていることや、好ましいと感じているものを選びがちである。
しかし、水上颯は、行動の選択において意図的に未知の領域へ踏み込むことを意識しているという。
「どこに行くか」「何をするか」という選択肢があった場合、僕は「好きなこと」よりも「これまでやっていないこと」を選ぶようにしています。(P.135:3章 記憶の習慣「どんどん頭に入る8つの方法」)
この考え方は、自己の成長と精神の豊かさを維持するために極めて重要な指針となる。
新しいことに積極的に挑戦することで、自分の中に新たな価値判断の基準を増やすことができるという主旨である。
常に「好きなこと」や「慣れ親しんだこと」ばかりを選択していると、どうなるだろうか。
思考は次第に凝り固まり、視野は狭くなり、自分が見ている世界が小さくなってしまう。
経済学や経営学の分野において、組織が持続的に成長するためには、既存の知識を深掘りする「知の深化」だけでなく、未知の領域を探索する「知の探索」が不可欠であるとされている。
個人の人生においても全く同じことが言える。
外部からの新しい情報や、予想外の刺激がある程度は必要なのである。
自分がどのような状況に置かれたときに喜びを感じ、どのようなことに不快感を覚えるのか。
それは、実際に未知の体験をしてみないことには決して分からない。
新しい場所に行き、新しい活動を試してみてから、自分の好き嫌いや適性を判断しても遅くはない。
この未知を恐れず、むしろ面白がる姿勢こそが、彼の思考の柔軟性を担保しているのだろう。
常に自己を更新し続けるための、この精神や姿勢は非常に大事なものである。
有限なる時間と真剣に向き合う覚悟
現代は、かつてないほど情報が氾濫し、私たちの注意力を奪い合う時代である。
ポケットに入っている小さな端末は、絶え間なく通知を鳴らし、私たちから大切な時間を少しずつ搾取していく。
水上颯は、この時間の使い方について、非常に厳しい自己規律を持っている。
でも、少し厳しいことをいうようですが、僕たちに潰している「暇」なんてあるんでしょうか。本当は、その時間はとても貴重なもののはず。スマホをいじる代わりに、何をするかを真剣に検討する必要があるように思えます。(P.143:4章 時間の習慣「人生のムダをなくす7つの方法」)
この指摘は、現代を生きるすべての人間の胸に鋭く突き刺さる。
私たちには、無為に潰している「暇」なんてものは、本来存在しないはずである。
人生という時間は有限であり、取り戻すことのできない最も貴重な資源だからだ。
暇つぶしという名目で、目的もなくスマートフォンをスクロールし続ける時間は、自分の人生の可能性を少しずつ削り取っているに等しい。
古代ローマの哲学者たちも、生の短さを嘆くのではなく、時間を浪費することの愚かさを厳しく戒めた。
水上颯の言葉は、二千年以上の時を超えて、同じ本質的な問いを私たちに投げかけている。
自分の人生の目的は何なのか。
その目的を達成するために、今日という一日をどう過ごすべきか。
スマートフォンをいじる代わりに、読書をするのか、思索にふけるのか、新しいスキルを学ぶのか。
何をするかを真剣に検討し、日々を充実させることが不可欠である。
彼がこれほどの若さで膨大な知識を獲得し、多様な分野で結果を残すことができたのは、生まれ持った才能だけでなく、この時間に対する峻烈なまでの当事者意識があったからこそだろう。
時間を制する者が、自らの人生を制するのである。
普遍的な知恵を授ける若き才能への称賛
本書を通読して感じたのは、水上颯という人物の思考の明晰さと、その背後にある圧倒的な努力の痕跡である。
文章自体は読みやすく、流れるように論理が展開されていく。
内容としては、彼自身の経験に基づく受験勉強の文脈がメインとなる部分もある。
そのため、すでに学生時代を遠く過ぎ去った人間からすると、自分にはそこまで直接的に合わなかったと感じる部分も正直あった。
しかし、それでもなお、読書への姿勢、記憶のメカニズムへの洞察、未知への挑戦、そして時間管理の哲学など、参考になる点はいくつもあり、大いに知的な刺激を受けたから良かったと思う。
物事の表層だけでなく、その本質を捉えようとする思考の深さは、年齢を感じさせない。
とてもしっかりしている人だな、というのが率直な感想である。
テレビ番組の華やかなスポットライトを浴びながらも、浮き足立つことなく、ひたむきに学問と向き合い、思索を深めてきたことが伝わってくる。
こういった若く優れた才能を持つ人物が、医学の道を志し、精神科医となって社会に貢献していくのだと思うと、何だか上の世代としては無性に嬉しくなる、という温かい感情が込み上げてくる。
彼のような人材が医療の現場に立ち、人々の心の問題に向き合うことは、社会にとって大きな希望である。
『頭を鍛える5つの習慣』は、天才と呼ばれる人間の頭の中を覗き見るための興味深いテキストであると同時に、凡人である私たちが日々の生活をより良くするための、実践的なガイドブックでもある。
学ぶことの本当の楽しさと厳しさを教えてくれる、長く読み継がれるべき一冊である。
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