『発想法』渡部昇一

渡部昇一の略歴

渡部昇一(わたなべ・しょういち、1930年~2017年)
英語学者。評論家。
山形県鶴岡市の生まれ。上智大学文学部英文学科を卒業、上智大学大学院西洋文化研究科修士課程を修了。
ヴェストファーレン・ヴィルヘルム大学(通称・ミュンスター大学)に留学、Dr.Phil(哲学博士号)を受ける。

『発想法』の目次

はじめに
1-リソースフル
2-発想の井戸を掘る
3-自分の体験をみがく
4-発想の泉としての語学
5-井戸の深さが自信を生む
6-カンを養う
7-異質の目をもつ
8-天からの発想・地からの発想

概要

1981年11月20日に第一刷が発行。講談社現代新書。242ページ。

副題には「リソースフル人間のすすめ」と書かれている。

滾滾と湧くアイデアを持った人をしらべてみると、その秘訣は語学にある場合が多い。語学というものは、相当な段階にまで達するならば、その言語を持った民族が作り上げた数世紀、あるいは数十世紀の文化・文明、特に思想・文学という宝庫に通ずる鍵を持ったようなものであって、ちょっとやそっとで種切れになることはなくなるであろう。(P.124「4-発想の泉としての語学」)

語学の重要性を語る。日本語だけではなく別の国の言葉を知っていると、情報収集に有利であるという事。

「2-発想の井戸を掘る」でも触れられているが、ここでも再び森鴎外(もり・おおがい、1862年~1922年)と坪内逍遥(つぼうち・しょうよう、1859年~1935年)の文学批評に関する論争が挙げられる。

因みに「没理想論争」と呼ばれるものである。

第三者から見ると、この論争は森鴎外が勝ったように思えた。

この理由を考察してみると、森鴎外の使える外国語が英語とドイツ語だったのに対して、坪内逍遥は英語だけだった、という点が重要だったのではないか、といった部分。

ある外国語を習得しているというのは、ただ単に外国語が読めるというだけではなく、その文化や思想の歴史的背景などにも、通じやすくなるという事。

外国語を読む時間は多くかかかっても、それは発想の井戸を掘っていると考えるべきである。相当の早さで一つの外国語を読めることは、水量豊かな井戸を持つことに連なる、ということは繰り返しておくに値しよう。(P.140「4-発想の泉としての語学」)

先述した部分と重複するが、さらに繰り返して重要性を強調している部分。

渡部昇一自身が、英語学者という事もあるが、明確な理由を述べて、外国語は読めるようになっておくべきという話。

この前に記述されているのは、社会学者で評論家の清水幾太郎(しみず・いくたろう、1907年~1988年)について。

清水幾太郎は、ドイツ語、フランス語、ロシア語、英語を習得していたという。

そのような語学力が各種の目覚ましい活躍の源泉の一つになっていたのではないだろうかという主旨。

「さるほどに、上るは三十四、五までのことろ、下がるは四十以来なり」とぞっとするような言葉をのべている。世阿弥は十行ばかりの間に、くり返して、四十二、三まで天下に許されていなければ、その後によくなることはないのだ、と言っているのは、実に印象深い。(P.160「5-井戸の深さが自信を生む」)

能役者で能作者の世阿弥(ぜあみ、1363年?~1443年?)の『風姿花伝』を引用しながら、年齢を指標として、能力、成果、自信について述べている箇所。ざっくりと40歳前までに、一応の成果を出しておくと良いという。

成果を出すという事は、多少なりともある一定数の他者から好評価を得られている。また好評価を得る事によって、自信も付いてさらに前向きに努力や研鑽に励む。という流れ。

年齢に関しては、体力的な問題もあるので、指針の一つとして重要でもある。

井戸は不断に、適当に使い続けておけば、いつの間にか水量が増していることさえあるものだ、ということは、やはり人間の頭の働きを考える場合にも当てはまることが少なくないであろう。はじめは小論文、小エッセイでも、数週間、数ヵ月の苦労をする。しかしそうした努力を続けているうちに、書く種は尽きずに増えてくることが多いであろう。(P.193「7-異質の目をもつ」)

インプットもアウトプットも継続していると、それぞれ尽き果てる事はないという話。

インプットとだけでは、成果は何も出ない。アウトプットだけでは、井戸つまり各種の資源は無くなってしまう。

情報収集をしつつ、仮説やテーマを設けて、一つの形としてまとめておく。そうすると、芋づる式ではないが、他にも興味や関心が湧いてきて、さらに情報収集が始まる。

その繰り返しで、より幅広く、より深く、自分自身の仕事の質が上がっていくという事。

感想

現在では、PHP研究所から電子書籍板『発想法』も出ているので、そちらもオススメである。

講談社現代新書の場合では、新書にしてはボリュームはなかなかある感じで、242ページの本。ただ情報もたっぷりと詰まっているので、非常に有用。

上述の通り、様々な偉人や有名人などを具体的な事例として挙げているので、とても分かりやすく読みやすい。

国内外を問わず、様々なエピソードが盛り込まれているのも、特徴。というよりも、この本そのものが、掲載されている手法を利用して書かれている。

英語学者の渡部昇一が、その語学力を活かして、海外の事例も豊富に記述。また海外のみならず国内の作家も。

また歴史的事項についての考察などもあり、文量を全く気にしないで、かなりのスピードで読めてしまう。

特に外国語の勉強を諦めてしまった方や苦労している方に刺激を与える本。

私自身も英語の勉強を継続しているので、改めてしっかりと学んでいこうと思った。

実際に趣味程度ではあるが、海外のドラマや映画などの詳細情報を調べる際に、英語を使っているので、普段の生活でも役に立っている。

海外の小説を難なく読めるようになりたいし、海外のドラマや映画をそのまま英語で楽しめるようになりたいと思っている。毎日の習慣になっているので、今後もずっと続けていくつもりである。

さまざまな刺激を受けるオススメの本である。

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