立花隆『「知」のソフトウェア』

立花隆の略歴

立花隆(たちばな・たかし、1940年~2021年)
ノンフィクション作家、評論家。
長崎県長崎市の生まれ。東京大学仏文科を卒業後、文藝春秋に入社。
東京大学哲学科に再入学。後に中退。

『「知」のソフトウェア』の目次

1-情報のインプット&アウトプット
2-新聞情報の整理と活用
3-雑誌情報の整理について
4-情報検索とコンピュータ
5-入門書から専門書まで
6-官庁情報と企業情報
7-「聞き取り取材」の心得
8-アウトプットと無意識の効用
9-コンテ型と閃き型
10-材料メモ・年表・チャート
11-文章表現の技法
12-懐疑の精神
あとがき

『「知」のソフトウェア』の概要

1984年3月20日に第一刷が発行。講談社現代新書。236ページ。

副題は「情報のインプット&アウトプット」。発売当時から現代まで売れ続けている名著。

知的生産系の本を読み始めていた時期に手に取った。

本を読もうとするときに、それが自分が死ぬまでに読める残り何冊の一冊たるに値する本であるかどうかを頭の中で吟味してから読むべきである。(P.13:情報のインプット&アウトプット)

何となく面白そうだから、評判が良さそうだから、役に立ちそうだから、勉強のためになりそうだから、本を読み始める。

ただ自分の有限の人生の残り時間を考慮すべきと語る。日常生活の中の読書では、なかなか忘れがちである。

読書は精神的食事である。自分で読む本くらい自分で選んで、自分で買って、自分の手もとに置き、好きなときに好きなように読むべきである。(P.91:入門書から専門書まで)

多くの評論家たちが口を揃えて言う。「本は購入して所有せよ」と。

確かに借りた本と身銭を切って買った本とでは、読む前からの姿勢が異なるし、読み方にも影響が出てくるだろう。

また購入した本を身近に置いておく事で、気になった時に即座に参照できるのも利点である。

一冊の入門書を三回くり返して読むより、三冊の入門書を一回ずつ読んだほうが三倍は役に立つ。(P.98:入門書から専門書まで)

特に視点の異なる種類の入門書を数冊読むのが良いという風に推奨している。

複数の入門書の中で、同内容の事柄が出てきたら、それは基礎となる重要な部分である。

また同内容でも、様々な視点がある事も分かる。

情報は権力である。情報それ自体が力を持ち、また情報は力を持つものに流れる。逆に、権力は情報を集め、集めた情報は権力維持に活用されるという面もある。(P.106:官庁情報と企業情報)

「知は力なり」、「知識は力なり」(Ipsa scientia potestas est)というイギリスの哲学者、フランシス・ベーコン(Francis Bacon、1561年~1626年)の主張に基づく格言もある。

知識や情報というものの取り扱いの重要性を再認識する必要がある。

人にものを問うということを、あまり安易に考えてはいけない。人にものを問うときには、必ず、そのことにおいて自分も問われているのである。質問を投げ返されたときに、「問うことは問われること」という二重構造がはっきり表に出てくる。(P.125:「聞き取り取材」の心得)

抽象的な質問には答えられない。具体的な質問には答えられる。

質問には、前提条件が必要となる。質問を明確に設定する時点で、回答の方向性も自ずと決まってくる。

いい文章を楽しみながら読むのが一番である。『論語』に、「これを知る者はこれを好む者にしかず。これを好む者はこれを楽しむ者にしかず」とある。楽しむという心境が、無意識層に一番近い。(P.157:アウトプットと無意識の効用)

何事も楽しんで取り組む事が大切。ここでは、沢山の文章を読んでいると、いい文章に出合うと言う。

いい文章に数多く触れていれば、無意識の内に、書く文章も向上していく、という内容。

量と質の問題でもある。最終的には、良質を大量に、という事か。

すべてのセンテンスの文末に「……とこの著者はいうが本当にそういえるだろうか」と頭の中で書き加えてその通り考えてみるということを、一センテンスごとに辛抱強く丹念にくり返していけば、どんな大著作にも論理的欠落を発見できるものだと教わったことがある。それはその通りである。(P.212:文章表現の技法)

所謂、自分で考えながら本を読むという方法。意外と忘れがちである。

単に著者の考え方をなぞるだけではなく、自分でオリジナルの思考を試みながら読むと、著者の知識や情報をさらに発展させて、活用もしやすくなる。

最後にもう一度述べておくが、本書の内容を一言で要約すれば、「自分で自分の方法論を早く発見しなさい」ということである。本書を含めて、人の方法論に惑わされてはならない。(P.236:あとがき)

さまざまな方法論が記載されているが、その中で自分に合いそうものを選び取っていって実践すべしと。

やはり自分の方法論を持った者が強いというお話。

『「知」のソフトウェア』の感想

知的生産系の書物は今尚好きである。再読している著作も多々ある。

それは何故かというと、読む時の自分の知識や経験の量が違うから、新たな発見があり、毎回楽しいためである。

あとは、そもそも一回読んだだけで、頭に内容が入るほど賢くはないという点もある。

何よりも自分が好む著作者たちは、基本的に読者に対して誠実である。その姿勢にも魅力を感じる。

この著作においても立花隆は、読者に対して誠実である。特に先述した「あとがき」の最後の一文。

結末部分で、シンプルにメッセージをまとめ上げている。

時代は移り変わって、新しいメディアや技術が出て来るが、結局の所、人間の営みである。

情報の取得、整理、結合を、個人がどのように取り組むかの問題。基本的な部分は普遍である。

今後も変わらずに売れ続けるであろう名著であり、素晴らしいオススメの古典である。

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