『私の知的生産の技術』編・梅棹忠夫

梅棹忠夫の略歴

梅棹忠夫(うめさお・ただお、1920年~2010年)
民俗学者、文化人類学者。
京都市生まれ。京都帝国大学理学部動物学科を卒業。

『私の知的生産の技術』の目次

『知的生産の技術』その後……梅棹忠夫
私の知的生産の技術(入選作品)
文章づくりを生きがいに……加瀬滋男(大学教授)
走る研究室……金子功(文化施設長)
ハイテク機器を駆使する……国本憲明(自営業)
知的生産の技術――盲人の場合……田中邦夫(盲学校教員)
週刊ニュースファイル……中元正弘(会社員)
想像の遊び……坂東悠紀代(日舞三絃教師)
生態系としての書斎……福井和美(翻訳業)
夫婦で看板店を開く……福田繁子(看板店自営)
天然物化学の仕事場から……船山信次(研究所研究員)
家庭管理のための情報整理……松本佐智子(主婦)
まずエプロンカードから―女のための細切れ時間活用法―……溝江玲子(主婦)
魅力ある学校図書館をつくる……米谷茂則(小学校教員)

※名前の後の丸鉤括弧内は、筆者が参考のために補足加筆。実際の目次には記載無し。

概要

1988年11月21日に第一刷が発行。岩波新書。216ページ。

岩波新書創刊50周年を記念して「私の知的生産の技術」をテーマに論文を募集。

その入選作品12編がまとめられた著作。

編者には『知的生産の技術』の梅棹忠夫。『知的生産の技術』が発売されて約20年後である。

読書カードをつくるときにかくべき内容は、読書によって誘発された自分のひらめきや着想であって、本の抜粋ではない。内容をみる必要があれば、その本をもう一どひらけばいいのだから。(P.4「『知的生産の技術』その後……梅棹忠夫」)

これは、このサイトにも言える事である。本の抜粋に割と比重がある。

ただ、内容紹介の目的が主題であるので、これは特に問題はない。

ここでは、まず、本の内容よりも、読者自身が何を感じて、何を考えたかという点が重要であると指摘。

また、その本をもう一度読めば良いというのも、手元にその書物を保管しておくという姿勢が暗示されているように思う。

ほんとうは『知的生産の技術』という本は、そのなかにもすでにのべているのだが、そこでとりあげているのは能率の問題ではない。それはむしろ精神衛生の問題なのだ。いかにして人間の心にしずけさと、ゆとりをあたえるかという技術の問題なのである。(P.17「『知的生産の技術』その後……梅棹忠夫」)

「知的生産の技術」というのは、能率ではなく、精神衛生の問題。心の静けさと、心のゆとりを基盤として、豊かな知的な楽しみを味わうというのが目的。

そのため、具体的な各種の技術は、時代によって変化する。現在であれば特にスマートフォンのアプリの利用となるだろうか。

情報の収集や整理。情報の大波にさらわれないように、心の静けさとゆとりを守るために、技術が必要というのも、なかなか面白い。

すでに発表されている内容を知っていて、それを手掛かりにすると、調査は効果的に進み、フィールドノートは一杯になる。いかにも収穫があったように勘違いするが、実は先人の調査した事実を再確認をして歩いていたに過ぎない。(P.40「走る研究室……金子功(文化施設長)」)

ここで分かるのは、複数ある。

まずは、事前調査によって自分の研究は効率的に進める事が出来る。

ただ、事前調査は先人たちの事実の再確認、もしくは良くても再整理であるという事。

予習は大切ではある。だが予習ばかりになると先人たちの後を追うだけになってしまう危険性も。

そのため適度な予習で切り上げて、自らの道を進んでいくと、先人たちが気付かなかった疑問や仮説に到達する事がある。

この辺りの塩梅は、経験や勘になってしまうのかもしれないが。

自分の住居を中心に半径二百メートルの空間を丸々「書斎」にしてしまおうと考えたのである。(P.120「生態系としての書斎……福井和美(翻訳業)」)

この発想は画期的。

この文章の著者は、マンション住まいでスペースも無いし、資金にも限りがあるため、考え方を大転換。ご近所の半径200メートルを書斎という概念に含めてみた。

すると近くの本屋は私設図書館、複数の喫茶店はそれぞれ特徴のある施設喫茶室、また郵便局も私設となる、という発想。

現在で言えば、コンビニやスーパー銭湯なども含めて考えると、さらに面白い。

書斎を再定義して、より広い範囲にする。すると生活空間となり、自分の力すらも及ばない独自の生態系としても捉えられる、という主張。

課題設定――情報収集――イメージ生産――実践化の間には、必ず、これでよいのかと考え直す間が必要である。実践したものは、実践報告または、研究論文として公にし、他の批判を得ていく。(P.216「魅力ある学校図書館をつくる……米谷茂則(小学校教員)」)

自らの知的生産において、プロセスのサイクルを設計。Plan・Do・Check・ActといったPDCAサイクルのようなもの。

自分自身でも確認をしながら、他者の批判や意見を取り入れて、さらに洗練したものに仕上げていく。

無理の無いような形で、このサイクルを回していくと、より効果的という事。

感想

だいたい15ページから20ページくらいの文量で、それぞれの知的生産の技術についての考察が書かれている。

一般的な方々が大半なので、非常に身近で興味を覚えるものが多々ある。

特に書斎を再定義して、近所まで書斎に含めて考えるというのは、とても刺激を受けた。

なるほど。最近で言えば、職住近接という言葉も出て来ているので、仕事と生活の場所という事柄について、改めて考えさせられる。

特にインターネットの環境が整ってきているので、出社さえも無く、リモートで仕事が出来る人達も多くなってきている点も深堀りしたい所。

私自身の書斎も再考していきたいと思う。

『知的生産の技術』を読んで興味を持った方には、とても楽しく読める著作である。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

京都大学

京都府京都市にある国立大学。梅棹忠夫が学び、また教鞭を執った。

公式サイト:京都大学

国立民俗学博物館

国立民族学博物館は、大阪府吹田市にある民俗学・文化人類学を中心とした研究機関並びに博物館。初代館長は、梅棹忠夫。

公式サイト:国立民族学博物館