田中菊雄『知的人生に贈る』

田中菊雄の略歴

田中菊雄(たなか・きくお、1893年~1975年)
英語学者、英和辞典の編纂者。
北海道小樽市の生まれ。
小学校代用教員、呉中学校教諭、山形大学教授、神奈川大学教授を歴任。

『知的人生に贈る』の目次

渡部昇一特別解説 田中菊雄先生の生き方に学ぶ
1 よりよい一生を企画するために
1 人生出発の心得三カ条
2 人生修業は「志」から
3 自分の仕事にどう生きるか
4 人生は苦しみと成長をくり返す
5 よい趣味は人生修業にかかせない
2 智恵の木の実をみのらせる
1 智恵は人生最大のエネルギー源
2 先人の足跡を自分の血肉とする
3 山野はどこも人生の研究室
4 自分なりの見識をもって書を読むこと
3 成功へ続く道を行くために
1 環境を生かして自分を築いて行く
2 仕事のこつ●●を体得する
3 生命力は無駄なく使う
4 にこにこ主義を身につける
5 謙譲の心で生きる智恵を手に入れる
6 恋愛と結婚は重要な曲がり角
7 人生成功への五訓
4 自分を最大限に開拓する
1 よく働き、よく頭を使うことが健康の特効薬
2 限られた人生の時間をフルにつかう
3 睡眠経済で効果的に眠る
5 懸命に生きる
1 余裕綽々として生きる
2 大志を抱いて「文化のサムライ」をめざす

『知的人生に贈る』の概要

1985年1月10日に第一刷が発行。知的生き方文庫。238ページ。

副題は「どう生きるかを考える書」。

1983年1月1日に三笠書房から刊行された単行本を文庫化したもの。

特別解説として、英語学者の渡部昇一(わたなべ・しょういち、1930年~2017年)の文章が、15~42ページまで続く。

田中先生を通じて知ったこの佐藤一斎の『言志四録』の言葉は、私の旧制中学、大学時代における座右の銘であった。そればかりか、今でも思い出すたびに学ぶところが多い。(P.20「渡部昇一特別解説」)

渡部昇一は、田中菊雄を尊敬し、またその生き方に影響を受けて、学問の道に進んでいったという。

そして、江戸時代後期の儒学者である佐藤一斎(さとう・いっさい、1772年~1859年)の『言志四録』も初めて知って、かなり感化された。

ちなみに『言志四録』については、教育学者の齋藤孝(さいとう・たかし、1960年~)が、『最強の人生指南書』として現代語訳を施し、祥伝社新書から発売されている。こちらもオススメ。

プラトンは哲学科に入ったことなどないし、二十世紀で最も大きな思想的影響を与えた人物のひとりでもあるアレキシス・カレル(著書に『人間―この未知なるもの』『人生の考察』<いずれも渡部訳・三笠書房刊>がある。)も医者であったし、不確定性原理のハイゼンベルクは物理学者である。(P.27「渡部昇一特別解説」)

大学の学科と自分の好きな学問や対象物は異なっても良い。さまざまな道筋があって良いということ。

また生活の基盤である収入を得る方法と、自分が楽しめる仕事の見定めも重要であるということ。

ギリシアの哲学者・プラトン(Platon、前427年~前347年)は、哲学科に通ってはいない。

アレクシス・カレル(Alexis Carrel、1873年~1944年)は、フランスの外科医、解剖学者、生物学者であったが、思想的な影響を世界に与えた。

ドイツの物理学者・ハイゼンベルク(Werner Karl Heisenberg、1901年~1976年)は、量子力学を創始して、不確定性原理を発見した。

人生の行路に立つ旅人は、常にポケットに小さな手帖を用意すること、そして心に浮かぶ感想を記入することを忘れてならない。その時にとらえておかなければ、それらは永遠に失われるものである。(P.48「1 よりよい一生を企画するために」)

自分の体験を大切にして、真剣に生きることが、大成への道と説く。大きな希望と現状の把握、真剣な生活態度を、しっかりと確認していれば、成功すると述べる。

小さな積み重ねが、一日、一月、一年となり、大きな力を持ってくる。ささやかな自分を大切にしていれば、累積によって大きな物事を成し遂げることが可能になる。

そのために、気がついたことや思ったこと、考えたことなどを、しっかりと直ぐにメモしておく。その瞬間でなければ永遠に消えてしまうから。

経を読むときは、人生の生きた事実、自分の体験を考えあわせ読む、なにか事をなすときは、逆に聖賢の語を参考とする。これでこそ事と理がぴったりと合い、学問と日用が離れない。まずこのあたりが、読書人の心かけの中心点ともいうべきところであろう。(P.102「2 智恵の木の実をみのらせる」)

ここでは、佐藤一斎の書いた文章を現代語訳して、田中菊雄が念を押している。自分の経験や思考と照らし合わせながら、読書をするのが良いという主旨。

また学問と日常が合うようにする。理論と実践ということ。

この前の部分でも、読書の時の心構え的なアドバイスとして中国・戦国時代の儒学者・思想家である孟子(もうし、前372年頃?~前289年?)の文章も紹介。

孟子の読書時の助言を要約すると、しっかりと文章の深い意味を汲み取ること、文章の全てを信じてはいけないこと、文章の書かれた時代や状況も確認すること、という三つのポイント。

何事にも几帳面であること
他人が終わったところから出発する
知ったことは必ず行なう
自分の能力を疑わない
すべての金を自分の将来のためにつぎこむ
(P.159~162の抜粋「3 成功へ続く道を行くために」)

上記は、田中菊雄が自動車会社フォード・モーターの創設者であるヘンリー・フォード(Henry Ford、1863年~1947年)に、どのような修養が良いのかを質問したら返ってきた回答。

几帳面であれば無駄が省けて効率的である。先人たちの功績の研究が必須。知ったら、実行が大切。

自らを疑わないで信じる。訓練と経験のためにお金をつぎ込む。

という風に自分で咀嚼をしてみた。

仕事の変化は、ほんとんどまったく休息と同様の効果がある。この方法にある程度まで熟達するときは――これは熟考よりも練習によって得られるものだが――われわれはほとんど終日働きつづけることができる。(P.194「4 自分を最大限に開拓する」)

ここは、スイスの法学者・文筆家のカール・ヒルティ(Carl Hilty、1833年~1909年)の言葉。

時間を節約して能率を上げるために、上手く変化を取り入れるという方法である。

さらに続いて、小説家であり軍医であった森鴎外(もり・おうがい、1862年~1922年)と、歌人であり精神科医であった斎藤茂吉(さいとう・もきち、1882年~1953年)を実例として挙げる。

二人とも、医学と文学の両方を並行させていた。それは大変なことではあったが、良い気分転換にもなっていたという推測。

また二人の「溌剌たる弾力性に富む精神」の影響が大きいのではないのだろうかとも。

『知的人生に贈る』の感想

もともと好きな渡部昇一が、とても強く推薦していたので、手に取った書物。素晴らしい本である。

古今東西の偉人やその言葉などが多く掲載されていて、尚且、田中菊雄自身の体験や意見も、存分に書かれている。

また文章も読みやすい。特に難しい表現や言葉、漢字も使われてはいない。

ちょっとした特徴としては、冒頭になかなかのボリュームで、渡部昇一の解説もある部分。田中菊雄についての思いが語られている。

本の内容はどれも具体的で、実践しやすい。実践しやすいからといって、読んだ人が直ぐに実行するとは限らない。ここで差が出てしまうところ。

先述のフォードの修養のための助言にもあると通り、実行することが大切である。

知的好奇心を大いに刺激させ、精神的にも活力を与えるオススメの本である。

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