『戦略読書日記』楠木建

楠木建の略歴

楠木建(くすのき・けん、1964年~)
経営学者。
東京都目黒区の生まれ。幼少期に南アフリカ共和国のヨハネスブルグで過ごす。一橋大学商学部を卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程を修了。

『戦略読書日記』の目次

まえがき
序章 時空間縦横無尽の疑似体験
『ストーリーとしての競争戦略』楠木建
第1章 疾走するセンス
『元祖テレビ屋大奮戦!』井原高忠
第2章 「当然ですけど。当たり前ですけど」
『一勝九敗』柳井正
第3章 持続的競争優位の最強論理
『「バカな」と「なるほど」』吉原英樹
第4章 日本の「持ち味」を再考する
『日本の半導体40年』菊池誠
第5章 情報は少なめに、注意はたっぷりと
『スパークする思考』内田和成
第6章 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の戦略思考
『最終戦争論』石原莞爾
第7章 経営人材を創る経営
『「日本の経営」を創る』三枝匡、伊丹敬之
第8章 暴走するセンス
『おそめ』石井妙子
第9章 殿堂入りの戦略ストーリー
『Hot Pepper ミラクル・ストーリー』平尾勇司
第10章 身も蓋もないがキレがある
『ストラテジストにさよならを』広木隆
第11章 並列から直列へ
『レコーディング・ダイエット 決定版』岡田斗司夫
第12章 俺の目を見ろ、何にも言うな
『プロフェッショナルマネジャー』ハロルド・ジェニーン
第13章 過剰に強烈な経営者との脳内対話
『成功はゴミ箱の中に』レイ・クロック
第14章 普通にして普遍の骨法
『映画はやくざなり』笠原和夫
第15章 ハッとして、グッとくる
『市場と企業組織』O・E・ウィリアムソン
第16章 日ごろの心構え
『生産システム進化論』藤本隆宏
第17章 花のお江戸のイノベーション
『日本永代蔵』井原西鶴
第18章 メタファーの炸裂
『10宅論』隈研吾
第19章 「当たり前」大作戦
『直球勝負の会社』出口治明
第20章 グローバル化とはどういうことか
『クアトロ・ラガッツィ』若桑みどり
第21章 センスと芸風
『日本の喜劇人』小林信彦
ロング・インタビュー 僕の読書スタイル
[付録] 読書録

概要

2013年9月28日に第一刷が発行。プレジデント社。電子書籍は、510ページ。

副題は、“本質を抉りだす思考のセンス”。

経営学者で無類の読書好きの楠木建が、書評という形式を利用して、経営や戦略についての考えをまとめた作品。

以下、第1章~第21章までの作品と著者の概要。

【第1章 疾走するセンス】
『元祖テレビ屋大奮戦!』

井原高忠(いはら・たかただ、1929年~2014年)…テレビプロデューサー。東京都北区王子の出身。慶應義塾大学文学部を卒業。日本テレビに勤務。

【第2章 「当然ですけど。当たり前ですけど」】
『一勝九敗』

柳井正(やない・ただし、1949年~)…実業家、ユニクロを中心とファーストリテイリングの会長兼社長。山口家宇部市の出身。早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業。実家の小郡商事(ファーストリテイリングの前身)に入社。1984年にユニクロの第一号店を出店。

【第3章 持続的競争優位の最強論理】
『「バカな」と「なるほど」』

吉原英樹(よしはら・ひでき、1941年~2022年)…経営学者。大阪府大阪市の出身。神戸大学大学院経営学研究科修正課程を修了。

【第4章 日本の「持ち味」を再考する】
『日本の半導体40年』

菊池誠(きくち・まこと、1925年~2012年)…物理学者。東京都の出身。東京大学理学部物理学科を卒業。通産省電気試験所(現在の産業技術総合研究所)などで勤務。

【第5章 情報は少なめに、注意はたっぷりと】
『スパークする思考』

内田和成(うちだ・かずなり、1951年~)…経営学者、コンサルタント。東京都の出身。東京大学工学部電子工学科を卒業。日本航空を経て、ボストン・コンサルティング・グループで勤務。

【第6章 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の戦略思考】
『最終戦争論』

石原莞爾(いしわら・かんじ、1889年~1949年)…陸軍軍人、軍事思想家。山形県鶴岡市の出身。陸軍士官学校を卒業。最終階級は、陸軍中将。

【第7章 経営人材を創る経営】
『「日本の経営」を創る』

三枝匡(さえぐさ・ただし、1944年~)…実業家、事業再生専門家。東京都の出身。一橋大学経済学部を卒業。ボストン・コンサルティング・グループを経て、スタンフォード大学経営大学院を修了。

伊丹敬之(いたみ・ひろゆき、1945年~)…愛知県豊橋市の出身。一橋大学商学部を卒業。一橋大学商学研究科修士課程を修了。カーネギーメロン大学経営大学院博士課程を修了。

【第8章 暴走するセンス】
『おそめ』

石井妙子(いしい・たえこ、1969年~)…ノンフィクション作家。神奈川県茅ヶ崎市の出身。白百合女子大学文学部国文科を卒業、白百合女子大学大学院修士課程を修了。

【第9章 殿堂入りの戦略ストーリー】
『Hot Pepper ミラクル・ストーリー』

平尾勇司(ひらお・ゆうじ、生年不明)…元リクルート社員。経営コンサルタント。香川大学経済学部を卒業。リクルートに入社し、ホットペッパーをはじめとする多くの事業で実績を残す。

【第10章 身も蓋もないがキレがある】
『ストラテジストにさよならを』

広木隆(ひろき・たかし、1963年~)…マネックス証券チーフ・ストラテジスト。東京都の出身。上智大学外国語学部を卒業。大和証券を経て、ファンドマネージャーに。多くの資産運用会社にて勤務。

【第11章 並列から直列へ】
『レコーディング・ダイエット 決定版』

岡田斗司夫(おかだ・としお、1958年~)…プロデューサー。大阪府大阪市住吉区の出身。大阪電気通信大学を中退。アニメ制作会社ガイナックスを設立し、多くのヒット作品を生み出す。

【第12章 俺の目を見ろ、何にも言うな】
『プロフェッショナルマネジャー』

ハロルド・ジェニーン(Harold Sydney Geneen、1910年~1997年)…アメリカの実業家。ITT(International Telephone and Telegraph)の元社長兼最高経営責任者。イギリスのハンプシャー州ボーマスの生まれ、1歳の頃にアメリカに移住。ニューヨーク大学で会計学を学ぶ。

【第13章 過剰に強烈な経営者との脳内対話】
『成功はゴミ箱の中に』

レイ・クロック(Raymond Albert Kroc、1902年~1984年)…アメリカの実業家、マクドナルドの創業者。イリノイ州シカゴの生まれ、オークパークの育ち。様々な職を経て、ミキサーのセールスマンに。後にマクドナルド兄弟と知り合い、フランチャイズ権を獲得。マクドナルドを大きく発展させる。

【第14章 普通にして普遍の骨法】
『映画はやくざなり』

笠原和夫(かさはら・かずお、1927年~2002年)…脚本家。東京都中央区の出身。日本大学法学部新聞学科を中退。様々な職を経て、東映に入社。『仁義なき戦い』シリーズなどが有名。

【第15章 ハッとして、グッとくる】
『市場と企業組織』

O・E・ウィリアムソン(Oliver Eaton Williamson、1932年~2020年)…アメリカの経済学者。ウィスコンシン州スペリオルの生まれ。マサチューセッツ工科大学のスーロンスクール・オブ・マネジメントを卒業。スタンフォード大学で修士号、カーネギーメロン大学で博士号を取得。2009年にノーベル経済学賞を受賞。

【第16章 日ごろの心構え】
『生産システム進化論』

藤本隆宏(ふじもと・たかひろ、1955年~)…経営学者。東京都の出身。東京大学経済学部経済学科卒業。三菱総合研究所を経て、ハーバード大学ビジネススクールで博士号を取得。

【第17章 花のお江戸のイノベーション】
『日本永代蔵』

井原西鶴(いはら・さいかく、1642年~1693年)…浮世草子・人形浄瑠璃の作者、俳諧師。紀伊国中津村(現在の和歌山県)の生まれ。談林派を代表する俳諧師となり、後に『好色一代男』などを出版。

【第18章 メタファーの炸裂】
『10宅論』

隈研吾(くま・けんご、1954年~)建築家、デザイナー。神奈川県横浜市大倉山の出身。東京大学工学部建築学科を卒業、東京大学大学院建築意匠専攻修士課程を修了。

【第19章 「当たり前」大作戦】
『直球勝負の会社』

出口治明(でぐち・はるあき、1948年~)…実業家、ライフネット生命保険の創業者。三重県津市の出身。京都大学法学部を卒業。日本生命保険相互会社に入社し、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを歴任。退社後に、ライフネット生命保険を開業。

【第20章 グローバル化とはどういうことか】
『クアトロ・ラガッツィ』

若桑みどり(わかくわ・みどり、1935年~2007年)…美術史学者。東京都の出身。東京藝術大学美術学部芸術学専攻科を修了。イタリア政府給費留学生としてローマ大学に留学。教授として、様々な大学で指導。

【第21章 センスと芸風】
『日本の喜劇人』

小林信彦(こばやし・のぶひこ、1932年~)…小説家、評論家。東京都中央区の出身。早稲田大学第一文学部英文学科を卒業。雑誌の編集長をしながらテレビやラジオなどにも出演し、後にフリーとなり構成作家などを経て小説家に。

以上、著者たちの略歴など。

2019年4月10日には、文庫版も刊行されている。

感想

kindle unlimitedで読む。

思いの外、面白かった。

書評ではなく、その本を何故読み、どのように読み、どこが面白いのか、どこに感動したのか、何を考えたのか、が分かりやすい。

しかも自身のエピソードを交えて、ユーモラス且つリズミカルに書かれている。

知らない人や知らない書籍が沢山ある。ビジネス的にも勉強になった。

以下、引用などをしながら紹介。

戦略をストーリーとして考えるという僕の視点からすれば、戦略は分析の産物ではない。戦略の構想は何よりも「綜合」(シンセシス)の思考を必要とする。戦略をつくるという仕事にはそもそも「分析」(アナリシス)の思考とは相容れない面がある。(No.117「序章 時空間縦横無尽の疑似体験」)

戦略は、分析ではなく綜合である、と説く。

分析は、細分的であり、ミクロ。綜合は、大局的で、マクロ。

そのため、戦略はビジネスの全体像を把握している経営者が担う部分というもの。

綜合は、一般的な総合の意味合いで良いかと思う。

読者の注意をより振り向かせるために、綜合と記載したと推測。

ちなみに、シンセシスは、synthesisで、総合、統合、合成の意味を持つ。

経験を積むだけでは意味がない。一つひとつの経験が論理化されていないと必ず同じ失敗を繰り返す。論理レベルに抽象化できていれば勘がはたらく。(No.1142「第7章 経営人材を創る経営」)

経験を論理化し、抽象化させる、それが勘であるというもの。

有能な経営者の場合、経験が勘へと変換され、蓄積されている。

そこから、正しい勘という直観が働く。結果として、失敗の可能性は少なくなる。

これは、第一章でも触れられているが、センスとも言える部分。

経験を因果の論理に整理して、経験の量と質、幅と深さが、その経営者の引き出しを多くするという。

引き出しの多さが、センスとなる。

センスがあれば、現在や未来の事象にも対応しやすい。

どうやったって株式投資は予測不可能で不確実。だから、いかに勝つかを考えても仕方がない。むしろ「いかに負けを軽微にするか」が勝負の分かれ目になる。(NO.1890「第10章 身も蓋もないがキレがある」)

上記は、楠木建が広木隆の考えを解説した部分。

勝ちではなく、負けに焦点を当てるというもの。

大勝ちを狙うのではなく、大負けしないように、長期的な視野で株式投資を実行することが大切という結論。

これは、なかなか難しい。

私自身も株式投資をしているが、株価が下がれば、いつか上がるかもしれないと塩漬け的になってしまう。

損切りのラインを明確に考えておかなければいけないのかも。

実績のみが、きみの自信、能力、そして勇気の最良の尺度だ。実績のみが、きみ自身として成長する自由をきみに与えてくれる。(No.2273「第12章 俺の目を見ろ、何にも言うな」)

これは、楠木建が引用した、アメリカの実業家であるハロルド・ジェニーンの言葉。

実績を積み上げよ、これが大原則である、という助言。

楠木建も、この意見に賛同して、実績、つまり成果を出しなさいという主旨。

実績や成果のためには、行動が大切である、という結論。

「第15章 ハッとしてグッとくる」では、経営学者の野中郁次郎(のなか・いくじろう、1935年~)のエピソードが語られる。

芸者さんに自転車の乗り方の説明をお願いする。困惑する芸者さん。

「人間は語るよりも多くのことを知っているからです」と、まとめる野中郁次郎。

ここでは、暗黙知の話。暗黙知を解説している部分。

暗黙知と形式知の転換が知識創造の本質であるというエピソードである。

天神様の縁日市場をターゲットとし、手や顔を拭くという「機能」を売るのではなく、「縁起物」を売るというバリュー・プロポジション(価値提案)でボロ儲けしたという話だ。(No.3825「第17章 花のお江戸のイノベーション」)

井原西鶴の『日本永代蔵』には、現在のビジネススクールの授業の教材にもなりそうな話が、沢山あるというもの。

単なるハンカチやタオル的な機能の手拭。

縁起物のお土産としての手拭。

価値の意味合いを変更することで、売れ行きが全く変わるという話。

結局のところ、世の中に商売のヒントは、そこら中に転がっている。

でも、なかなか気づくことが出来ない。

これまで本書で書かれていた論理化された経験の引き出し、センスをしっかりと磨いておかないといけない。

さらに、楠木建は、最新の経営手法を学べるビジネス書も良いが、ビジネス関連の古い本も推奨している。

というのも、中途半端な実践的な話が出て来ないので、抽象レベルの論理に、目が向きやすく、学びがあるという。

なるほど、この方法も自分の引き出しに入れておこうと思う。

この人の本を読んでみたくなって、『元アイドル!』『人間コク宝』『男気万字固め』『豪さんのポッド』『電池以下』なんかを続けて読んでみたらまたこれがとんでもなく面白い。(No.6074「ロング・インタビュー 僕の読書スタイル」)

この人、というのは、プロ書評家の吉田豪(よしだ・ごう、1970年~)のこと。

まさか、ここで、吉田豪の話が出て来るとは思わなかったので、驚きと同時に、思わず笑ってしまった。

というか、楠木建の読書の守備範囲の広さに唖然とした。

そして、吉田豪をべた褒めしているのも面白い。

ちなみに、吉田豪の『聞き出す力』シリーズは、取材や調査、インタビューなどを仕事や業務の一環で担当している人には非常にオススメの本。

閑話休題。

「[付録]読書録」に記載されている本を眺めるのも面白いので、最後の最後まで楽しめる作品。

まとめとしては、楠木建のファンやビジネス関連に興味のある人、読書好きの人などには、とてもオススメの著作である。

書籍紹介