『新ネットワーク思考』アルバート=ラズロ・バラバシ

アルバート=ラズロ・バラバシの略歴

アルバート=ラズロ・バラバシ (Albert-László Barabási、1967年~)
理論物理学者。
ルーマニア領トランシルヴァニアの出身。国籍は、ハンガリー、ルーマニア、アメリカ合衆国の三つ。
ルーマニアのブカレスト大学の物理・工学科を経て、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学大学院で、修士号を取得。アメリカのボストン大学で、理学博士号を取得。

『新ネットワーク思考』の目次

第一章 序
第二章 ランダムな宇宙
第三章 六次の隔たり
第四章 小さな世界
第五章 ハブとコネクター
第六章 80対20の法則
第七章 金持ちはもっと金持ちに
第八章 アインシュタインの遺産
第九章 アキレス腱
第十章 ウイルスと流行
第十一章 目覚めつつあるインターネット
第十二章 断片化するウェブ
第十三章 生命の地図
第十四章 ネットワーク経済
第十五章 クモのいないクモの巣
謝辞
訳者あとがき
メモ

概要

2002年12月20日に第一刷が発行。NHK出版。364ページ。ハードカバー。127mm×188mm。四六判。

副題は「世界のしくみを読み解く」。

理論物理学者が、自然、社会、ビジネスなどを、ネットワークという視点で、捉えて考察した著作。

原題は『Linked: The New Science Of Networks』。2002年5月14日に刊行されている。

また2014年6月14日には、ペーパーバックとkindleで『Linked: How Everything Is Connected to Everything Else and What It Means for Business, Science, and Everyday Life』という題名が付けられて再刊行。

「訳者あとがき」までが、327ページ。「メモ」と名付けられた注釈が、37ページ。

訳者は、青木薫(あおき・かおる、1956年~)。山形県の生まれで、京都大学理学部物理学科を卒業、京都大学大学院博士課程を修了した人物。専門は理論物理学。

感想

実業家の佐藤航陽(さとう・かつあき、1986年~)の『未来に先回りする思考法』の中で、紹介されていた書籍。

ちなみに、『未来に先回りする思考法』は、2015年8月27日に刊行されたもの。

2015年の時点で、2002年に発売された著作を紹介しているということは、ある種の古典的名著とも考えられる。

なかなか難しそうな雰囲気だったけれど、興味を持ったので購入。

結果、予想通り、内容は非常に濃く、とても楽しく読めた。もちろん、全てを理解したとは思ってはいないけれど。

読みやすい。というか、文章や構成が上手い、というのもポイントかもしれない。

特に新しい章の入り口。

ちょっとした随筆というか、ノンフィクションみたいな。人物描写やストーリーテリングの妙。

翻訳も、特に無理な表現や日本語が無かったのも良かった。

ベキ法則、つまり、少数のものが多数を得る、多数のものが少数しか得られない。

なるほど、やはり、飛び抜けたり、突き抜けたり、外れ値にならないといけない。

ただ、そういった者や物は、自分の好奇心に従っているだけという真実。

そこを、上手く戦略的にやらなければ、いけないと自分は考えた。

以下、気になった部分を引用。

パウロがその後十二年間に歩いた距離は二万キロに及んだ。しかし彼はランダムに歩き回ったわけではない。キリスト教がもっとも効率よく芽生え、広がるような、人間、場所、大きなコミュニティーを訪れたのである。神学と社会的ネットワークの両方を効果的に活用したパウロは、キリスト教の最初にして最大のセールスマンだった。(P.11「第一章 序」)

パウロ(Paul、5年頃~65年頃)は、初期キリスト教の使徒で、新約聖書の著者の一人。

最初は、キリスト教を迫害していたが、後に回心して伝道活動に注力する。

ちなみに、2万キロというのは、地球の半周分。地球の一周は、約4万キロ。

その距離だけではなく、より効率的にキリスト教を広めようとしたパウロ。

人間、場所、コミュニティーに目をつけて、営業をしたという。

では、重要なのは、パウロなのか、イエス(Jesus Christus、1年~33年)なのか、メッセージなのか、といった形で、ネットワークについての考察が始まっていく。

グラノヴェッターは「弱い絆の強さ」の中で、一見すると非常識なことを主張している。職を見つけたり、情報を得たり、レストランを開業したり、流行を生み出したりすることに関するかぎり、強い友人関係よりも、弱い社会的絆のほうが重要だというのである。(P.64「第四章 小さな世界」)

アメリカの社会学者であるマーク・グラノヴェッター(Mark Granovetter、1943年~)の主張について。

“The strength of weak ties”と呼ばれるもの。

強い絆の関係では、共有している情報や価値観、ネットワークが、ほとんど同一である。

弱い絆の関係では、共有している情報や価値観、ネットワークが、ほとんど異なる。

この差異が、新しい動きを呼び起こす。

確か東北大震災の救援や支援の活動も、このような弱い絆の強さが、発揮されたエピソードが多々あったと思う。

適応度を導入したからといって、ネットワークの進化を支配する二つの基本的メカニズムである成長と優先的選択が消滅するわけではない。(P.140「第八章 アインシュタインの遺産」)

ここでは、ネットワークの基本メカニズムの前提である、成長と優先的選択。

そこに、適応度という要素が加わる。

適応度は、魅力である。魅力によって、競争の勝敗が変化する。

ネットワークについてなので、つまり、より多くのリンクを得られるという話。

具体的な話として、検索エンジンのGoogleについての事例が紹介される。

Googleは、もともと検索エンジンの業界に参入するのが遅かった。通常では、先行者が有利。

だが、Googleは、魅力となる素晴らしい適応度、つまり、利用者が必要とする正確な検索結果の表示、という魅力で、後発でありながら、業界トップとなった。

ウォルター・W・パウエルはその著書『市場でもなくヒエラルキーでもなく――組織のネットワーク』にこう書いた。「市場における標準的戦略は、即時に限り、堅実な取引をすることだ。しかしネットワークの視点によれば、長期的な負債を作ったり、協力関係を作ったりすることのほうが好まれることも少なくない」(P.298「第十四章 ネットワーク経済」)

ここでは、アメリカの社会学者であるウォルター・W・パウエル(Walter W. Powell、1951年~)の市場と取引についての考え方が引用。

さらに、ネットワーク経済においては、バイヤーとサプライヤーとは、競争関係ではなくパートナーになり、その関係が長期的に安定したものになることもある、という主旨の指摘も。

この辺りは、ミクロの視点とマクロの視点の違いもある。

部分最適か、全体最適なのかの違いといった感じか。

現実的にも、“損して得取れ”といったこともある。

その他にも、目次にある通り、社会的事象の考察が、ネットワークの視点で語られる作品。

ネットワークについては、もちろん、ビジネスやインターネット、理論物理学などに、興味のある人には、非常にオススメの内容の濃い作品である。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

ブカレスト大学

ブカレスト大学(Universitatea din București)は、ルーマニアの首都ブカレストにある1864年創立の国立大学。

公式サイト:ブカレスト大学

エトヴェシュ・ロラーンド大学

エトヴェシュ・ロラーンド大学(Eötvös Loránd Tudományegyetem、ELTE)は、ハンガリーのブダペストに本部を置く大学。慣用的にブダペスト大学(Budapesti Tudományegyetem)と呼ばれることも。1635年の創立。

公式サイト:エトヴェシュ・ロラーンド大学

ボストン大学

ボストン大学(Boston University)は、アメリカ合衆国のマサチューセッツ州ボストンに本部を置く私立大学。1839年の創立。

公式サイト:ボストン大学