『成功は一日で捨て去れ』柳井正

柳井正の略歴

柳井正(やない・ただし、1949年~)
実業家。
山口家宇部市の出身。早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業。実家の小郡商事(ファーストリテイリングの前身)に入社。1984年にユニクロの第一号店を出店。

『成功は一日で捨て去れ』の目次

はじめに
第1章 安定志向という病
第2章 「第二創業」の悪戦苦闘
第3章 「成功」は捨て去れ
第4章 世界を相手に戦うために
第5章 次世代の経営者へ
おわりに
文庫版あとがき
巻末資料

概要

2012年4月1日に第一刷が発行。新潮文庫。314ページ。

世界的にも一旦の成功を収めたユニクロ。実情としては、大企業病の阻止や後継者の育成、海外への展開など問題は山積み。その中で悪戦苦闘する経営者・柳井正の記録。

2009年10月に刊行された単行本を文庫化したもの。

前著『一勝九敗』の続編といった形。

上記の目次のように、五つの章から成り立つ。それぞれの章の中に、1~3ページ程度で、小見出しがついて、細分化されている。

そのため簡潔で非常に読みやすい構成。

また、それぞれの章の最後には、社内のスッタフに毎年送信される「新年の抱負」も。

第1章には2004年の新年の抱負、第2章には2005年の、第3章には2006年の、第4章には2008年の、第5章には2009年の、といった形。

「文庫版あとがき」には、2010年、2011年、2012年の新年の抱負の要約も。

「巻末資料」には、「FAST RETAILING WAY」(FRグループ企業理念)、「FR WAYの解説」、「ファーストリテイリング主要年表」も掲載。

感想

前著『一勝九敗』が面白かったので、そのまま続けて読んでみた。

やはり、こちらも非常に楽しめた作品。

様々な施策が功を奏して、上手く増収増益もしてきたユニクロ。

2002年の8月期には、上場以来初の「減収減益」の決算。

2003年の8月期には、底を打つ。

2004年の8月期には、「増収減益」の決算。

一安心かと思いきや……。

2005年の8月期には、「増収減益」の決算。

革新的な挑戦の結果ではない減益で、最悪であると考えた柳井正。

売上が反転し安定成長志向という病にかかり、増収減益になったときこそ、会社の将来を決する最大の危機だと悟った。いったんは会長に退いたぼくは、3年で社長に復帰し、各現場をすべて見て回った。(P.5:はじめに)

そこから、「第二創業」のテーマを掲げて、社内の構造改革に乗り出す。

その挑戦の記録が、今回の『成功は一日で捨て去れ』である。

また、その前の部分には、成功に関する考えも書かれている。

「成功」は、そう呼ばれた瞬間から陳腐化していくものである。(P.4:はじめに)

というのも、経営環境の目まぐるしい変化が、大きな理由。

タイミング良く、何かが成功したとしても、次に上手くいくとは限らない。

成功事例の単なる復習では、無意味とも。

一度、成功体験をしてしまうと、そこに縋り付きたくなってしまうが、状況や条件というものが変化する。

そのために、常に挑戦し続けなければならないといった主旨。

なんでもそうだが、常識的な考え方をまずは疑ってかかり、それが本当に正しいかどうか、合理的かどうか自分自身の頭で考えてみることが大切だ。(P.175:第3章 「成功」は捨て去れ)

ここでは、店舗の人員配置について、具体的に説明。

例えば、3階建て大型店舗。階毎にフロアマネージャーとして責任者を置きがちである。

人件費の高騰。

さらに階毎の場合、フロアマネージャーは、自分の担当している階だけに集中して、他の階を軽視してしまう。

となると無駄も生じがち。

3つの階層に分かれていても、一つのフロアとして考えて、対応すれば問題は無いという。

まずは、常識を再考して、工夫するというのが大切であると。

さらに続いて

経営とは、人間の創意工夫で矛盾の解決をすることです。
いかに少ない費用と時間で、いかにその効果を最大にするのか、それが経営です。(P.182:第3章 「成功」は捨て去れ)

世界市場で戦うユニクロ。

そのためには、他の世界企業に対して、販売効率性や収益性で勝たないといけない。

勝機は、矛盾の解決であり、矛盾の解決が経営である、と。

では、矛盾の解決のためには何が必要かというと、人間の創意工夫。

常に創意工夫を意識して、改善をしていくことが大切である。

さらに仕事の達成水準を上げてください。
うまくいっていない人の仕事をみると高い目標と高い達成水準が抜けています。(P.227:第4章 世界を相手に戦うために)

「世界を相手に戦うために」という章の文章ではあるが、これは、一般的なビジネスでも学問でも、日々の生活でも同じことかもしれない。

自らの高い目標や高い達成水準がなければ、成長もしない。怠惰な日々が過ぎていく。

そのような生活に満足しているのであれば良いが、そこに満足できないのであれば、高い目標を持つこと。

その積み重ねが、時間経過とともに、大きな成果に繋がっていく。

なるほど、高い目標と高い達成水準を、常に持つようにしよう。

経営者マインドとは、顧客の要望に応えること、会社の成果を達成すること、困難な状況下で、何とかして会社の課題を解決することを、全社員一丸となって実践しようとすることです。(P.276:文庫版あとがき)

ユニクロが創業時から成長してきた大きな要因は、全社員が経営者マインドを持っていたからであると説く柳井正。

では、その経営者マインドとは、何であるかを上述のように定義。

文章としては、最後に少し定義のブレがあるようには思うけれど。

「全社員が一丸と~」の前までが、経営者マインド、だろうな。

経営者マインドというのは、割りと昨今も使われる言葉であるが、なかなか不明瞭な定義のことも多い。

そのため、混乱も多いように思われる。

柳井正のように、ある程度、具体的に言語化して周知させなければ意味はない。

さらに言うと、採用の時点で、有能な社員というか、適切な社員を入社させないといけないという問題もある。

なかなか難しい部分である。

ただ、柳井正のように、こういった書籍を出版することで、理念や理想に共感してくれる人が、スタッフとして入社しやすいというのは、あるのかも。

なるほど。採用にも繋がる書籍の出版。

というわけで、ユニクロ、ファーストリテイリング、柳井正、小売事業、海外展開など、ビジネスに興味のある人には、非常にオススメの作品である。

また非常にストーリー性もあるので、ノンフィクション作品的にも楽しめる著作。

いずれにしても、前著の『一勝九敗』をチェックしてから読むのが良いかと思う。

書籍紹介

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