猪瀬直樹の略歴
猪瀬直樹(いのせ・なおき、1946年~)
作家。
長野県飯山市の生まれ、長野市の育ち。信州大学教育学部附属長野小学校、信州大学教育学部附属長野中学校、長野県長野高等学校を経て、信州大学人文学部経済学科を卒業。明治大学大学院政治経済学研究科政治学専攻博士前期課程で日本政治思想史を研究。
1987年に『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
『小論文の書き方』の目次
【第一部】 基礎編 小論文を書く
キーワードに反応せよ
メディアは偏向していると思え
偽善的な自己に気づけ
きれいごとで終わらない
名人たちの方法
鳥の目線で、虫の触覚を
【第二部】 実践編 何をどう書くか ①文化論及びエッセイ風に
野心と挫折、人間の真実を描く
異文化としての日本、その呪縛を知ること
エピソードから脈絡がつくられる
現代でなく近代へ、実感から遠ざかってみる
【第三部】 実践編 何をどう書くか ②時事論文として
日本人は言論表現の自由を穿き違えている
リアルを喪失した日本の不気味さに気づけ
経済大国であるという事実を忘れないこと
肥大化した行政を構造的にとらえる
少年犯罪によって照射された領域
教育はやさしそうでむずかしいテーマあとがきに代えて
『小論文の書き方』の概要
2001年4月20日に第一刷が発行。文春新書。398ページ。
「週刊文春」に連載の「ニュースの考古学」の500篇近い数の時評コラムの中から、小論文の作成の参考になるものを82篇を厳選。
さらに「あとがきに代えて」の後に、コラム1篇を追加してまとめたもの。
発売当時の2001年で、約10年の間、「ニュースの考古学」を連載。そのため、題材は1990年のものが多い。
「第一部」に関しては、書き下ろし。「第二部」「第三部」は、時評コラムがメイン。目次の見出しごとに、ちょっとした文章が加えられて、内容の方向性を示している。
『小論文の書き方』の感想
時評コラムが中心になっているので、題材は幅広く多岐にわたる。
歴史、外交、行政、消費、法律、権利など。
もちろん、この書籍の題名は『小論文の書き方』なので、論文やレポートなどを書くための参考となるように、まとめられている。
「第一部 基礎編 小論文を書く」では、小説家・ノンフィクション作家の開高健(かいこう・たけし、1930年~1989年)の『衣食足りて文学は忘れられた!? 文学論』に収められた文章を書く上での極意も紹介されている。
一、読め。
二、耳を立てろ。
三、眼をひらいたままで眠れ。
四、右足で一歩一歩歩きつつ左足で跳べ。
五、トラブルを歓迎しろ。
六、遊べ。
七、飲め。
八、抱け、抱かれろ。
九、森羅万象に多情多恨たれ。
補遺一つ 女に泣かされろ。(P.20「第一部 基礎編 小論文を書く」)
なかなかのアドバイスである。
猪瀬直樹は、ここで一番目の「読め」にも触れる。当たり前ではあるが、この当たり前が軽視されがちなのが、情報化社会の実態であると、説く。
また、上記の極意に関して、実用性の話を越えて、つまり、書くことへの覚悟や気合について、言及しているのであると展開。
覚悟と気合を持ち、さまざまな経験や思考、視点を踏まえて、文章を書く必要があるということ。
面白い。
その他にも、芥川龍之介(あくたがわ・りゅうのすけ、1892年~1927年)や、司馬遼太郎(しば・りょうたろう、1923年~1996年)、三島由紀夫(みしま・ゆきお、1925年~1970年)、大江健三郎(おおえ・けんざぶろう、1935年~)といった人物名も出て来る。
文学関連の話も多々。
どちらかというと、小論文を書く具体的な技術や文章術ではなく、文章を書く姿勢、態度、視点の持ち方といった部分を中心に書かれている。
小論文やレポート、文章を書くための大きな方向性を知りたい人や、猪瀬直樹の考え方について知りたい人、もしくは、知的生産関連、1990年代の事柄などに興味のある人にもオススメの作品。