『未来に先回りする思考法』佐藤航陽

佐藤航陽の略歴

佐藤航陽(さとう・かつあき、1986年~)
実業家、メタップス創業者。
福島県福島市の生まれ。福島県立福島高等学校を卒業、早稲田大学法学部を中退。
2007年にイーファクター株式会社(現在のメタップス)を設立。2015年に東証マザーズに上場。

『未来に先回りする思考法』の目次

はじめに――なぜ、99.9%の人は未来を見誤るのか
第1章 テクノロジーの進化には一本の「流れ」がある
第2章 すべてを「原理」から考えよ
第3章 テクノロジーは人類の敵なのか
第4章 未来に先回りする意思決定法
おわりに――Be a doer, not a talker,(評論家になるな、実践者たれ)

概要

2015年8月30日に第一刷が発行。電子書籍も発行。ディスカバー・トゥエンティワン。254ページ。ソフトカバー。

副題は「テクノロジーがすべてを塗りかえる」。

テクノロジーの進化を主軸に、社会や個人の変化を考察し、未来を見据えるためのポイントをまとめた作品。

「はじめに」には、著者自身によって、テクノロジーを軸にして、以下のような構成になっていると書かれている。

第1章で、テクノロジーの進化にどんなパターンがあるのか。

第2章で、インターネット中心のテクノロジーが社会システムに与える影響。

第3章で、テクノロジーの進化による問題。

第4章で、未来を予測した際の個人の意思決定の方法。

ちなみに、2018年1月26日には、再編集・改定した新版として、ほぼ同一内容の『未来予測の技法』が、ディスカヴァーリベラルアーツ・カレッジから出ているので、注意が必要。

感想

佐藤航陽の著作では、話題になっていたので、最初に『お金2.0』を読んだ。

思いの外、面白くて刺激を受けたので、続いて『未来に先回りする思考法』を手に取った。

こちらも、とても勉強になった本。kindle unlimitedで読んだ。

未来に対して上手く御する方法というか、考えがまとめられた作品。

つまりは、原理原則に立ち返り、データを確認して、自分の直感を信じてはいけない、というもの。

様々な事例や実体験などが語られているので、説得力もある。

「はじめに」では、ニューヨーク・タイムズが「飛行機の実現までには百万年から一千万年はかかるだろう」という記事を掲載してから、数週間後にライト兄弟が人類で初めて空を飛んだというエピソード。

掴みもバッチリ。

では、なぜ一流紙のジャーナリストを務めるほどのエリートが見誤ってしまったのか。といった流れで、内容に入っていく。

ちなみに、ライト兄弟(Wright Brothers)は、1903年12月17日にノースカロライナ州で、12馬力のエンジンを搭載したライトフライヤー号で、有人動力飛行に成功した。

さらに、ライト兄弟とは、ウィルバー・ライト(Wilbur Wright、1867年~1912年)とオーヴィル・ライト(英: Orville Wright、1871年~1948年)のこと。

スマートフォンのような機械が普及される未来を予測した発明家で電気技師のニコラ・テスラ(Nikola Tesla、1856年~1943年)のエピソードも面白い。

中東といった政治的な緊張関係のある国々の政府・民間・大学・軍といった協力体制。

世界人口の1%に過ぎないユダヤ人が、ノーベル賞受賞者の20%を占めていること。

上記の理由としての明確で切実な「必要性」。

以下、気になった部分の引用など。

ちなみにAppleの2014年の売上は1828億ドル(約22兆円)です。企業の「売上」を国家の「歳入」と同等に考えれば、Appleはすでに約200ある国家のうち20位付近に位置し、多くの国家を超える力を持っています。(No.953:第2章 すべてを「原理」から考えよ)

現在では、巨大企業は経済的な影響力だけを見ると、小国を上回る規模となっている。

そのため、隣国などとの関係性よりも、場所を選ばずにビジネスが可能なグローバルIT企業に、注意する必要が出てくるという話。

影響力のあるグローバルIT企業は、特定の地域でサービスを停止してしまえば、それはそのまま、経済制裁になる。

実際はビジネスも政治も、目的はまったく一緒で、そのアプローチが異なるだけです。何かに困っている人たちのニーズを汲み取り、その解決策を提示するというプロセスは共通しています。(No.1311:第2章 すべてを「原理」から考えよ)

この発想は、全くなかったので、とても納得した。

資金調達の源が、投資であればビジネス、税金であれば政治、ということ。

どちらも問題解決のための行為。

そして、現在は、政治家よりも実業家になった方が、問題解決をしやすいという状況である。

意思決定や実行への速度の違い。規模の大きさも異なる。

さらに、現在の各種のデータは、財務諸表に掲載されない、という指摘。

企業の正確な価値を、これまでの会計基準では、計測できないという事実。

新しいシステムが既存の産業から反発を受けるというパターンは、今にはじまったものではありません。産業革命時も、職を奪われた労働者が機械を壊す「ラッダイト運動」と呼ばれる暴動が起こりました。(No.1638:第3章 テクノロジーは人類の敵なのか)

ラッダイト運動は、産業革命期に、機械の導入による失業と共同体の解体という恐怖にかられたイギリスの労働者たちが起こした機械破壊運動のこと。

どの場所、どの時代、どの分野でも既得権益と新興勢力の衝突はある。

歴史は繰り返される。

その時の対応によって、自分が老害となるか、どうかも決まる。

さらに、不確実性を取り入れたGoogleの20%ルールについての記述も。

過去の歴史や現在の企業の手法など、さまざまな事例が掲載されているのは、この作品の大きなポイントである。

ロジカルシンキングには、すべての情報を得ることができないという「情報」の壁と、意思決定者が持つ「リテラシー」の壁というふたつの障壁が存在します。
問題は、そのふたつの壁を認識しないままに、自分たちに認識できる現実の範囲を「全体像」と捉えてしまうことです。(No.2334:第4章 未来に先回りする意思決定法)

全情報を得ることはできない。意思決定者が完璧に物事を理解しているとは限らない。

またロジカルシンキングの場合には、数学者で著作家の藤原正彦(ふじわら・まさひこ、1943年~)が『国家の品格』で主張している通り、論理のための出発点がある。

その出発点を決めるのは論理ではなく、情緒などである。

そのような振れ、揺らぎもある。

また、ほとんどのビジネスは失敗に終わる。

自分ですら半信半疑でありながら、マイペースに興味のあることを進めながら、原理原則を大切にするということが重要。

一見、相反するような事柄を上手く処していくこと。

まとめ的には、「おわりに」にある通り、評論家ではなく、実践者として、行動をしなさいという結論。

テクノロジーが主軸ということで、インターネットやGoogleなども、度々登場する。その辺りに興味のある人には、ピッタリの作品。

ビジネスに関心のある人や、今後の時代の流れを知りたいという人にも、非常にオススメの著作である。

書籍紹介

関連書籍