『自分の時間』アーノルド・ベネット

アーノルド・ベネットの略歴

イノーク・アーノルド・ベネット(Enoch Arnold Bennett、1867年~1931年)
イギリスの小説家、劇作家、評論家。
イギリス中部にあるスタッフォードシャーのハンリー生まれ。
ロンドンの弁護士事務所で勤務しながら、小説やノンフィクションを書く。フランス・パリにも住み、後に再びイギリスへ戻る。
1923年に小説『Riceyman Steps』で、文学賞ジェイムズ・テイト・ブラック記念賞を受賞。

『自分の時間』の目次

はじめに「自分の時間」再発見
第1章 一日一日が奇蹟をもたらす
第2章 「本業」以外に知的好奇心を満足させるものをもて
第3章 二十四時間の枠を最大限に生かす心構え
第4章 自分の精神・肉体を養うための「内なる一日」
第5章 一日九十分は必ず心をたがやす時間に使え
第6章 情熱と活気に満ちた一週間をつくる秘訣
第7章 思考を集中するひとときをもつ
第8章 「内省的な気分」を大切にする
第9章 「知的エネルギー」はどうやって生まれてくるのか
第10章 「もののわかる心」をもつこと
第11章 読書好きなあなたへ――人生に「利息」を生むアドバイス
第12章 財布にはまっさらな二十四時間がぎっしりと詰まっている
解説 渡部昇一

概要

1990年2月10日に第一刷が発行。知的生き方文庫。213ページ。

副題は「1日24時間でどう生きるか」。

1982年7月1日に三笠書房から刊行された単行本を文庫化したもの。

原書は、1910年に“How to Live on 24 Hours a Day”として刊行。

もっと時間ができるわけなどないのだ。われわれには今あるだけの時間しかなく、それはいつだって変わらないのだ。(P.37:第1章 一日一日が奇蹟をもたらす)

「時間ができたら……」ということは多いだろう。時間ができたら、趣味に熱中しよう。時間ができたら、旅に行こう。時間ができたら、友達と遊ぼう。時間ができたら、本を読もう。

アーノルド・ベネットは、気がついた。「もっと時間ができるわけなどないのだ」と。1日24時間で、やりくりをするしかないことに。

この前部では、一定の収入で、生活の仕方を考える人は多いのに、一定の時間で、生活の仕方を考える人は少ないというような主旨の指摘も。

お金の大切さに気付いている人は多いけれど、時間の大切さに気付いている人は少ないということ。

きっぱりとした決意をもって事にあたる場合には、根底には常に自尊心があるのであって、入念に計画した企てが失敗するとこの自尊心は致命傷を負うことになる。だから、何度も繰り返して言わせてもらう、あまり大きなことを言わず、さりげなく始めなさい、と。(P.96:第6章 情熱と活気に満ちた一週間をつくる秘訣)

日常の行動を変えるのは、なかなか難しいことではある。それが習慣になっている場合には特に。

そして、他の時間を犠牲にして、強い意志を持ち、行動を変えようとする。だが、失敗してしまうことが多い。

失敗によって、自尊心が傷ついてしまう。自尊心は大切である。失敗によって自信も失ってしまう。自信も重要である。

そのための対策として、大きな決意や大きな行動の変化を最初から止めること。まずは、ささやかに、さりげなく、始める。

そうでないならば、失敗を繰り返し、自尊心を何度も傷つけてしまうから。この忠告をアーノルド・ベネットは、何度も主張する。

つまり、それほど、本当に重要なポイントであるということ。

われわれが認識しておかなければならないことはいろいろあるが、なかでも最も大切なのは、物事の原因と結果を絶えず頭に入れておくことである(P.137:第10章 「もののわかる心」をもつこと)

原因と結果を見極める深い考察力。

物事には原因があり結果がある。単なる表面的なものではなく、より深く物事を見つめて、その事象の奥にある原因と結果を検証するのである。

そのように物事が見極められるようになると、寛容になり、思い遣りの心も、より養われるという。

すると、今まで経験したことのない出来事に遭遇しても、泰然自若としていられる。

愚かな精神状態にならないためにも、寛容さが大切であるということ。

夜のこの時間帯を利用して何かをやる際、まず、自分の好みにあった、心の底からやりたいと思うことから始めなさい。(P.171:第12章 財布にはまっさらな二十四時間がぎっしりと詰まっている)

昼間は何かしらの日常の仕事があるかもしれない。夜なら空いている時間があるかもしれない。

ということで、自分の大切な空いている時間帯には、自分に最適なものに取り組みなさいという話。

さらにこの前部では、始める時、出だしの時、最初の時は、つまずかないように、大切に丁寧に注意しようというアドバイスも。

その他に最終章である「第12章 財布にはまっさらな二十四時間がぎっしりと詰まっている」には、さまざまな具体的な助言や物事に取り組む際の注意点が、ぎっしりと詰まっている。

感想

訳者であり、解説も書いている英語学者・渡部昇一(わたなべ・しょういち、1930年~2017年)が推薦していた本。

解説も、173~213ページまで、たっぷりと書かれている。

あまり日本では馴染みのないイギリスの作家かもしれないが、とても分かりやすく具体的に書かれている。

さらに、音楽や絵画、建築などに関して、アーノルド・ベネットが推奨する本なども数多く掲載。物を考える上での訓練の読書として、二人の哲学者も紹介している。

第16第ローマ皇帝であり、ストア派の哲学者であったマルクス・アウレリウス・アントニヌス(Marcus Aurelius Antoninus、121年~180年)。

古代ギリシアのストア派の哲学者エピクテトス(Epiktētos、50年頃~135年頃)。

この二人の書物は「内容がいつまでたっても新鮮」であると言っている。

アーノルド・ベネットが生きていた時代が今から約100年前ではあるが、二人の哲学者が生きていた時代は、今から約1900年前。

100年前の時点でもすでに、1800年程の時代の風雪に耐えている古典の中の古典である。この二人の書物も、しっかりと読んでみたいと思った。

マルクス・アウレリウスの『自省録』は読み始めて、途中で挫折した経験があるけれど。また次の機会に再チャレンジしてみよう。

ちなみに訳者・解説者の渡部昇一は、解説の中で、作家・幸田露伴(こうだ・ろはん、1867年~1947年)の『努力論』『修省論』にも言及している。この書も読み進めたいところ。

実際、アーノルド・ベネットの作品は、著作権が切れているので、英語であればネットなどで読むことが可能。

幸田露伴も、国立国会図書館の近代デジタルライブラリーなどで閲覧ができる。

語学力や調査力があれば、無料でいろいろと楽しめる。ただ、紙の書籍で解説などが付いていた方が、より理解がしやすく、効率的ではあるかとは思うけれど。

今回、紹介した本は、渡部昇一の書籍が好きな人はもちろん、より時間を大切にしたい人、もっとさまざまなことに挑戦してみたい人には、とてもオススメである。

ちなみに電子書籍版の『自分の時間』も出ている。

書籍紹介

関連スポット

スタッフォードシャー

スタッフォードシャー(Staffordshire):アーノルド・ベネットが生まれた場所。

サヴォイ・ホテル

サヴォイ・ホテルは、イギリスのロンドンにある高級ホテル。燻製のタラを入れたオムレツを気に入ったアーノルド・ベネット。以降、滞在時に頼むように。「アーノルド・ベネット風オムレツ」(Omelette Arnold Bennett)が定番料理となる。

公式サイト:サヴォイ・ホテル