沢木耕太郎の略歴
沢木耕太郎(さわき・こうたろう、1947年~)
ノンフィクション作家。
東京都大田区の生まれ。横浜国立大学経済学部を卒業。『テロルの決算』で、第10回(1979年)大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『一瞬の夏』で、第1回(1982年)新田次郎文学賞を受賞。『バーボン・ストリート』で、第1回講談社エッセイ賞を受賞。その他に数々の賞を受賞。代表作に『深夜特急』シリーズなど。
『紙のライオン』の目次
紙のライオン *方法
虚構の誘惑
なぜ「わたしら」を書くのか
視ることの魔
完成と破壊
取材以前
肖像を刻む
ニュージャーナリズムについて
積木のように
方法への冒険
さまざまな「金閣」
可能性としてのノンフィクション
再び、ニュージャーナリズムについて
武器としての寛容さ
事実という仮説アスファルトの鼓動 *時代
匂いと挿話
小さい巨像、大きな虚像
著作としての日本列島改造論
日記による銃後
センチメンタル・ジャーニー
詐欺師の楽園
悪役をつくる
死の影
寵児
葡萄酒と心意気
顔
海賊解説 黒川創
『紙のライオン』の概要
1987年1月10日に第一刷が発行。文春文庫。270ページ。
1982年に刊行された単行本『路上の視野』を、三分冊して、文庫化したものの第一弾。
そのため、副題的に「路上の視野Ⅰ」と付記されている。つまり、以下の形で、文庫化されている。
「路上の視野Ⅰ」は、『紙のライオン』。
「路上の視野Ⅱ」は、『ペーパーナイフ』。
「路上の視野Ⅲ」は、『地図を燃やす』。
『紙のライオン』は、ノンフィクションの方法論や取材論、ニュージャーナリズムなどについて、沢木耕太郎の考察や体験が綴られたもの。
解説は、作家の黒川創(くろかわ・そう、1961年~)。京都府京都市の出身。同志社大学文学部を卒業。2009年に『かもめの日』で読売文学賞を受賞。
『紙のライオン』の感想
沢木耕太郎と言えば、『深夜特急』シリーズに目が行ってしまいがちである。
ただ『路上の視野』シリーズや、『象が空を』シリーズも、もっと注目されても良いと思う作品群である。
私が知らないだけで、上記の二つのシリーズも有名かもしれないけれど。
いくつか備忘録的に、用語の解説。
ルポルタージュ…reportage。フランス語で、報道、報告の意味。さらに、社会的な事件や個人の体験などを事実に基づき客観的に描いた文学の一つのジャンルとしての意味も。
ノンフィクション…nonfiction。ルポルタージュや旅行記、伝記など事実に即した作品のこと。フィクション(fiction)、つまり虚構に対する言葉。
ニュージャーナリズム…new journalism。1960年代、アメリカで成立したジャーナリズムにおけるルポルタージュ風エッセイの叙述方法。記者が単なる記録者ではなく、取材対象と個人的な関わり合いを持って、事件の本質を伝えようとする報道の手法。
ジャーナリズム…journalism。各種の媒体を通じて、時事的な事実や問題について、報じる諸活動。ラテン語で、「日中の、昼間の、一日の」などを意味する、diurnusに由来。
以上で、気になった用語の解説は終了。
「積木のように」では、詩人・立原道造(たちはら・みちぞう、1914年~1939年)についての記述も。
立原道造は、東京生まれの詩人、建築家。東京帝国大学工学部建築学科を卒業。在学中に建築の奨励賞である辰野賞を三度、受賞している。
ここでは、立原道造の詩作について触れながら、沢木耕太郎自身の原稿の書き方も紹介している。
立原道造は、スケッチブックの一枚の画用紙に、沢木耕太郎は、大きな一枚の紙に、といった手法。
また、その文章のオチも面白い。
「寵児」では、ミュージシャンの井上陽水(いのうえ・ようすい、1948年~)が登場。
井上陽水は、福岡県生まれのミュージシャン、シンガーソングライター。福岡県立西田川高等学校を卒業。本名は同じ漢字で「いのうえ・あきみ」。
沢木耕太郎と井上陽水との出会いの経緯。インタビュー。コンサートの模様。歌詞についてなど。
総合的に井上陽水について、触れられている。特に出会いの部分は、なかなかちょっと刺激的というか、双方の様子見の雰囲気が、読者を引き込む感じ。
その他にも、さまざまな作家についてやジャーナリズム、ノンフィクションについて、沢木耕太郎の姿勢や思考が披露される。
ノンフィクションが好きな人や、文章を書くことについて興味のある人などには、非常にオススメの作品である。