『ペーパーナイフ』沢木耕太郎

沢木耕太郎の略歴

沢木耕太郎(さわき・こうたろう、1947年~)
ノンフィクション作家。
東京都大田区生まれ。横浜国立大学経済学部を卒業。『テロルの決算』で、第10回(1979年)大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『一瞬の夏』で、第1回(1982年)新田次郎文学賞を受賞。『バーボン・ストリート』で、第1回講談社エッセイ賞を受賞。その他に数々の賞を受賞。代表作に『深夜特急』シリーズなど。

『ペーパーナイフ』の目次

職人衆の仕事 *作家
破壊への意志 唐十郎
細部は復讐する 三島由紀夫
父の視線 阿部昭
冷血の毒 T・カポーティ
スポーツライターの夢 P・R・ロスワイラー
必死の詐欺師 井上ひさし
青春の救済 山本周五郎
虚構という鏡 田辺聖子
最初の図書館 五人の時代作家
睾丸を食べすぎた男 E・ヘミングウェイ
記憶を読む職人 向田邦子

ペーパーナイフ *書物
ペーパーナイフ
無造作であることの新鮮さ
砂漠の青春
斬る、掬う
パニックの方法
壮大な空騒ぎ
語り口の自在さ
虚しいゲーム
死者の成熟
偶然の連鎖
異国を語ることの難しさ
ハードボイルドとしての「坊っちゃん」
夢の人

解説 杉山隆男

概要

1987年2月10日に第一刷が発行。文春文庫。350ページ。

1982年に刊行された単行本『路上の視野』を、三分冊して、文庫化したものの第二弾。

そのため、副題的に「路上の視野Ⅱ」と付記されている。つまり、以下の形で、文庫化されている。

「路上の視野Ⅰ」は、『紙のライオン』
「路上の視野Ⅱ」は、『ペーパーナイフ』
「路上の視野Ⅲ」は、『地図を燃やす』

『ペーパーナイフ』は、沢木耕太郎の各種の作家論と書評がまとめられたもの。登場する作家は目次の通り。

「最初の図書館 五人の時代作家」については、次の五人。

山手樹一郎(やまて・きいちろう、1899年~1978年)…栃木県那須塩原市の生まれ。明治中学校を卒業。出版社の博文館で編集者をしながら、作家となる。

五味康祐(ごみ・やすすけ、1921年~1980年)…大阪府大阪市の生まれ。大阪府立八尾中学校を卒業し、第二早稲田高等学院に進むも中退。明治大学専門部文芸科本科に入学するが後に除名。柳生一族を扱った作品が有名。

司馬遼太郎(しば・りょうたろう、1923年~1996年)…大阪府大阪市の生まれ。私立の上宮中学校、大阪外国語大学蒙古学科を卒業。新聞記者を経て、作家に。

柴田錬三郎(しばた・れんざぶろう、1917年~1978年)…岡山県備前市の生まれ。慶應義塾大学医学部予科に入学するが、半年後に文学部予科に転部。慶應義塾大学文学部支那文学科を卒業。編集者などを経て、作家に。

山本周五郎(やまもと・しゅうごろう、1903年~1967年)…山梨県大月市の生まれ。横浜市立尋常西前小学校を卒業。編集記者などを経て、作家に。

「ペーパーナイフ *書物」にある、107~290ページまでの「ペーパーナイフ」の章では、数々の書籍と作家を簡潔に紹介。

また291ページからの「無造作であることの新鮮さ」以降も基本は同じであるが、少し文章が長くなるといった形。

国内外を問わず、さまざまな書籍や作家が紹介されているのがポイント。

解説は、ノンフィクション作家の杉山隆男(すぎやま・たかお、1952年~)。

杉山隆男は、東京都千代田区の出身、一橋大学社会学部を卒業。在学中から、沢木耕太郎のアシスタントをしていた人物。後に読売新聞社を経て、フリーランスに。

感想

沢木耕太郎が普段どのような書籍を読み、また幼少期や学生時代にどのような本に影響や感銘を受けたのかなどを知れる作品。

「ペーパーナイフ *書物」の一覧を書いていこうかと思ったけれど、予想以上に紹介している本が多かったので、断念。

その中で気になったものをピックアップして感想を。

●「史実の大海から」柴田錬三郎『生きざま』
151ページに記載されている文章。「最初の図書館 五人の時代作家」にも言及されていた柴田錬三郎。

沢木耕太郎が考察した柴田錬三郎について、また『生きざま』という何十人もの武士が登場する時代小説にも触れる。

ノンフィクション・ノベルについて、否定的であった柴田錬三郎の発言に対して、でも、実は柴田錬三郎の時代小説も、ノンフィクション・ノベルなのではないか、といった内容。

もちろん、肯定的な意味合いで。

柴田錬三郎は私としても好きな時代小説作家。大半の作品は読んでいると思う。エッセイも、なかなか面白かった。

●「唯一神としての“知的生活”」渡部昇一『知的生活の方法』
181ページに記載の文章。渡部昇一(わたなべ・しょういち、1930年~2017年)は、英文学者で評論家。

苦学して、後にドイツのミュンスター大学で、哲学博士を取得した人物。その名著である『知的生活の方法』について考察。

技術論よりは、精神論であり、また一つの私小説としても読めるのではないかという主旨。

確かに私小説的なエッセイというか随筆としても読める作品である。

渡部昇一の著作も好きで大半は読んでいると思うし『知的生活の方法』は、数度は読み返している。自分の現在のライフスタイルにも大きな影響を与えた著作である。

●「喪失感の喪失」五木寛之『戒厳令の夜』
233ページに記載の文章。小説家・五木寛之(いつき・ひろゆき、1932年~)の作品に対する過去と現在の違いについて。

同じく五木寛之の作品で、その10年前に発表された短編『蒼ざめた馬を見よ』との比較。類似の構成だが、主人公に決定的な差異があると。そのポイントとなるのが喪失感であるという指摘。

なかなか面白い考察である。五木寛之も好きで一時期、読み漁り大半を読んだと思う。

自分の好きな作家が、また別の自分の好きな作家の著作について語るというのは、とても関心が高まる。

他にもさまざまな作家たちの書物について、語られているので、読書好きな人たちには非常にオススメの一冊である。

また知らない作家や書物に出合う一つの手立てにもなるので、ここからさらに読書の幅を広げていくこともできる。

もちろん、沢木耕太郎のファンは、必読だと思う。

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