沢木耕太郎『夕陽が眼にしみる』

沢木耕太郎の略歴

沢木耕太郎(さわき・こうたろう、1947年~)
ノンフィクション作家。
東京都大田区の生まれ。横浜国立大学経済学部を卒業。『テロルの決算』で、第10回(1979年)大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『一瞬の夏』で、第1回(1982年)新田次郎文学賞を受賞。『バーボン・ストリート』で、第1回講談社エッセイ賞を受賞。その他に数々の賞を受賞。代表作に『深夜特急』シリーズなど。

『夕陽が眼にしみる』の目次

夕陽が眼にしみる *歩く
改札口
私の上海
躰の中の風景
かげろうのような地図
街の王、泥の子
儀式
群れの行方
瘴気のような
駄馬に乗って
点と面
旅のドン・ファン
異国への視線

苦い報酬 *読む
父と子 大宅壮一
歴史からの救出者 塩野七生
一点を求めるために 山口瞳
放浪と帰還 藤原新也
無頼の背中 色川武大
事実と虚構の逆説 吉村昭
彼の視線 近藤紘一
苦い報酬 T・カポーティ
切り取る眼 E・ヘミングウェイ
運命の受容と反抗 柴田錬三郎
正しき人の 阿部昭
最初の十冊、最後の十冊
稀な自然さ
愛の名のもとの復讐
人に寄り添う
二つの驚き
命運を握れない苛立ち
死ぬ理由
野心と成果

解説 一志治夫

『夕陽が眼にしみる』の概要

2000年1月10日に第一刷が発行。文春文庫。316ページ。

1993年10月に刊行された単行本『象が空を』を、三分冊して、文庫化したものの第一弾。

そのため、副題的に「象が空をⅠ」と付記されている。つまり、以下の形で、文庫化されている。

「象が空をⅠ」は、『夕陽が眼にしみる』
「象が空をⅡ」は、『不思議の果実』
「象が空をⅢ」は、『勉強はそれからだ』

『夕陽が眼にしみる』は、旅と本と街について書かれた「夕陽が眼にしみる *歩く」と、本と作家について記述した「苦い報酬 *読む」の二部構成。

「苦い報酬 *読む」を詳しく紹介していくと膨大な量になってしまうので、取り敢えず、「最初の十冊、最後の十冊」について。

沢木耕太郎が中学生になったのが1960年。その頃から本格的に読書をするようになったという。261ページに、その当時の十冊として、以下を挙げている。

『真鶴』志賀直哉
『晩年』太宰治
『何でも見てやろう』小田実
『薄桜記』五味康祐
『チャンスは三度ある』柴田錬三郎
『橋のない川』住井すゑ
『剣』三島由紀夫
『今昔物語』
『立原道造詩集』
『ゴッホの手紙』小林秀雄

特に、時代小説に夢中になったというエピソードも記載。

ちなみに、最後の十冊というのは、この文章が書かれた1980年代の最後の月の最後の週に読んだ本が、267ページに、まとめられている。

そこは、本書で確認してもらえたらと思う。

「解説」は、ノンフィクション作家の一志治夫(いっし・はるお、1956年~)。ある登山家との関係性の話から、ノンフィクション作家としての立ち位置、また沢木耕太郎と会った時のことなどが綴られている。

『夕陽が眼にしみる』の感想

沢木耕太郎は、ノンフィクション作家になるまでに、特にノンフィクション作品を読んでいなかったというのは、面白い。

何よりも熱中したのが、時代小説。そして、詩なども読んでいたとう点も興味深い。

確かに、題名や章題などが、魅力的なのは、その詩情によるものなのかもしれない。

この『夕陽が眼にしみる』では、さまざまな本や作家についても記述がある。

その中で、特に気になったものだけ、ピックアップしてみようと思う。

「彼の視線 近藤紘一」について。

近藤紘一(こんどう・こういち、1940年~1986年)…ジャーナリスト、ノンフィクション作家。東京生まれ。神奈川県湘南高等学校を卒業。早稲田大学第一文学部仏文科を卒業。産経新聞社の記者として、東南アジアの特派員を務める。

沢木耕太郎が『テロルの決算』で、近藤紘一は『サイゴンから北妻と娘』で、第10回(1979年)大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。そのような縁のある二人。

授賞式には、近藤紘一は特派員の仕事の都合上、出席できなかったが、その妻と娘とは、沢木耕太郎は会場で会ったという。また直接会うことはなかったが、電話で話したことはあったという。

ちなみに、近藤紘一は小説『仏陀を買う』で第10回(1984年)中央公論新人賞も受賞している。

近藤紘一の作品は、確か大学の授業の課題図書となって、レポートを書いたような、書かなかったような。恐らく、その時初めて知り、『サイゴンのいちばん長い日』を読んだ記憶はある。

そこから、近藤紘一の他の作品を読み漁った。この『夕陽が眼にしみる』でも書かれているが、先妻や後の再婚のことにも触れて、近藤紘一の人柄というか、性格というか、精神性まで考察している。

後に『目撃者 近藤紘一全軌跡』を沢木耕太郎が編集したというのも頷ける。

「運命の受容と反抗 柴田錬三郎」について。

柴田錬三郎(しばた・れんざぶろう、1917年~1978年)…時代小説家。岡山県備前市生まれ。慶應義塾大学医学部予科に入学するが、半年後に文学部予科に転部。慶應義塾大学文学部支那文学科を卒業。編集者などを経て、作家になった人物。

柴田錬三郎の各種の本を、読み解きながら、その物語の構成に、登場人物たちが運命を受容しつつも、反抗もしている、という指摘。

沢木耕太郎が十代に何故、そこまで柴田錬三郎の著作に夢中になったのかを、自己分析も交えつつ記述していく。

私も柴田錬三郎の作品の大半は読了するくらいに、ハマったことがあるので、とても興味深い部分である。

とは言っても私の場合は、三十代に入ってからの時期ではあるが。

目次の中で、自分の気になる作家やテーマがあれば、是非じっくりと読んでもらいたいと思う作品。

沢木耕太郎のファンや読書好き、ノンフィクション好き、旅好きの人たちに非常にオススメの著作である。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

吉備路文学館:柴田錬三郎

岡山県岡山市北区にある文学館。吉備路とは、岡山県全域「備前・備中・美作」と、広島県東部「備後」の地域の古くからの呼称。柴田錬三郎に関連した展示もある。

公式サイト:吉備路文学館