『メイン・テーマ』宮本輝

宮本輝の略歴

宮本輝(みやもと・てる、1947年~)
小説家。
兵庫県神戸市の生まれ。私立関西大倉中学校・高等学校を卒業。追手門学院大学文学部を卒業。広告代理店で勤務後、1977年『泥の河』で、第13回太宰治賞を受賞しデビュー。1978年に『螢川』で、第78回芥川賞を受賞。本名は、宮本正仁(みやもと・まさひと)。

『メイン・テーマ』の目次

林真理子 コピーライターが小説を書く時
小栗康平 映像の風土 文学の風土
マルセ太郎 出世しない男の四つのセリフ
杉浦日向子 褌をしめてる男性が好き
おすぎ 人間、このミステリアスなもの
野田知佑 滅びる川をカヌーに乗って
黒井千次 日本の「一人っ子」は中国で何をしたか
半田真理子 「課長」と「家長」のウィーン物語
西川きよし お母ちゃんの仇をとるんや!
小林伸明 ビリヤードと文学と
高野悦子 「鉄の女」と「紙の男」
宮尾登美子 世の不安神経症患者へ

概要

1990年6月10日に第一刷が発行。文春文庫。325ページ。

宮本輝がさまざまな分野で活躍する人物たちとの対談をまとめた作品。12人との対談が収められている。

1986年9月に潮出版社から刊行された単行本を文庫化。

初出は、『潮』の1985年6月号~1986年5月号に連載された各界の気鋭との対談。小林伸明との対談のみ『第三文明』(1984年12月号)に掲載されたもの。

以下、12人の対談相手の略歴

林真理子(はやし・まりこ、1954年~)…作家。山梨県山梨市の出身。山梨県立日川高等学校、日本大学芸術学部を卒業。1986年に『最終便に間に合えば』『京都まで』で直木賞を受賞。

小栗康平(おぐり・おうへい、1945年~)…映画監督。群馬県前橋市の生まれ。群馬県立前橋高等学校、早稲田大学第二文学部演劇専修を卒業。1981年1月に、宮本輝原作による処女作『泥の河』を発表。、第5回日本アカデミー賞で最優秀監督賞、モスクワ国際映画祭で銀賞を受賞。第54回アカデミー賞では外国語映画賞にノミネート。

マルセ太郎(まるせ・たろう、1933年~2001年)…パントマイム芸人。大阪府大阪市生野区の生まれ。大阪府立高津高等学校を卒業。本名、金原正周(きんばら・まさのり)。

杉浦日向子(すぎうら・ひなこ、1958年~2005年)…漫画家、江戸風俗研究家。東京都港区の出身。日本大学鶴ヶ丘高等学校を卒業。日本大学芸術学部を中退。1984年に『合葬』で日本漫画家協会賞優秀賞を受賞。本名は、鈴木順子(すずき・じゅんこ)。

おすぎ(1945年~)…タレント、映画評論家。神奈川県横浜市の出身。横浜市立桜丘高等学校、阿佐ヶ谷美術専門学校を卒業。本名は、杉浦孝昭(すぎうら・たかあき)。

野田知佑(のだ・ともすけ、1938年~2022年)…カヌーイスト、作家。熊本県玉名郡の出身。早稲田大学第一文学部英文学科を卒業。1982年に『日本の川を旅する』で第9回日本ノンフィクション賞・新人賞を受賞。

黒井千次(くろい・せんじ、1932年~)…作家。東京都杉並区の出身。東京都立西高等学校、東京大学経済学部を卒業。1970年に『時間』で芸術選奨新人賞を受賞。

半田真理子(はんだ・まりこ、1947年~2014年)…官僚、造園家。東京都の出身。東京大学教養学部教養学科ドイツ文化専攻を卒業後、東京大学農学部に学士入学し、卒業。建設省や経済企画庁などで勤務。1986年に『都市に森をつくる―私の公園学』で国際交通安全学会賞・著作部門を受賞。

西川きよし(にしかわ・きよし、1946年~)…漫才師、政治家。高知県高知市の生まれ。大阪府大阪市の育ち。漫才コンビ「やすしきよし」で活躍。

小林伸明(こばやし・のぶあき、1942年~2019年)…プロビリヤード選手。和歌山県の出身。1974年に世界スリークッション選手権大会で日本人初の世界チャンピオンに。

高野悦子(たかの・えつこ、1929年~2013年)…映画運動家、映画プロデューサー。満洲の大石橋(現在の中華人民共和国遼寧省)の生まれ。富山県の魚津高等女学校を卒業。日本女子大学社会福祉学科を卒業。東宝を経て、フランス・パリの高等映画学院(IDHEC)監督科を卒業。

宮尾登美子(みやお・とみこ、1926年~2014年)…小説家。高知県高知市の生まれ。高坂高等女学校を卒業。1978年に『一絃の琴』で直木賞を受賞。

目次の記載にはないが、「あとがき」もある。

感想

小説や随筆などとは雰囲気の異なる対談。

より気軽に、さまざまな話題へと流れていく。

作家もいれば、映画監督、カヌーイストやビリヤード選手も。

対談相手の幅も広くて楽しめる内容である。

以下、引用などをしながら紹介。

アンデルセンが言ってるじゃないですか。どんな小説や絵空事を書いたって、リアリティーという舞台に立っているんだと。これを、アンデルセンが言っているところがすごいと思う。(P.195:黒井千次 日本の「一人っ子」は中国で何をしたか)

ここは、宮本輝の発言。

虚構とリアリティーのバランスの問題。創作にとってキーポイントとなる部分である。

ハンス・クリスチャン・アンデルセン(Hans Christian Andersen、1805年~1875年)…デンマークの童話作家、詩人。代表作に「人魚姫」、「みにくいアヒルの子」、「マッチ売りの少女」、「雪の女王」など。

アンデルセンの場合は、特に人間ではないものたちの物語が多い。

そのアンデルセンがリアリティーについて言及しているというもの。

また、リアリティーと同時に新規性や古典などについての話も。

創作の裏側の思考を垣間見ることができて面白い。

宮本 西川さんのように、付き人として初めから非常に感性の鋭い人は、芸人になってもやっぱり出世します?
西川 しますね。僕の確率から言えばほとんどしてますね。ただ、辛抱が足らない人間と、誘惑に弱い人間はダメですね。いわゆる女の誘惑と、飲み食いさせてやるという誘惑に弱いは。(P.231:西川きよし お母ちゃんの仇をとるんや!)

感性の鋭さ。つまりは、気配りといったところか。

さらに忍耐力、女性や美食に対する耐性の大切さも。

やはり、人間は弱いもの。そういった誘惑に対しては、簡単に靡いてしまう。

自らも周りの人間も、この辺りは意識的に注意したいところである。

その後には、西川きよしの生い立ちも。

西川きよしの父親も事業をしていて、上手くいったこともあったが、失敗して、高知から大阪に出てきたという。

宮本輝の父親も事業をして失敗続きだった。

二人の共通項があり、なかなか興味深かった。

つまるところ、お互いの「度量」と「埋蔵量」にかかっていることに気づかされる。その意味では、形として残る対話というものは、恐ろしい作品である。(P.322:あとがき)

この対談のまとめとしての「あとがき」。

初めて会う人もいれば、既に仲良くしている人もいた対談。

黒井千次とは、よく夜に電話で話をする仲だとか。

宮尾登美子とは、作家としても、同じ病気を持つ先輩としても、定期的に連絡を取っていたようだ。

そのような中で、最終的な結論として、度量と埋蔵量。

これは、普段の一般的な人たちの生活でもそうである。

仕事であれば、尚更際立つというか、キーポイントとなる部分である。

自らも、度量を大きくし、埋蔵量を豊富にしていこう。

他にも黒井千次や宮尾登美子の作品は、未読などで、その辺りもチェックしていきたい。

宮本輝のファンだけではなく、対談相手のファンなどにも、非常にオススメの対談集である。

その他のエッセーや随筆の読む順番としては、『二十歳の火影』『命の器』『生きものたちの部屋』『血の騒ぎを聴け』へと進んでいくのが良いかも。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

宮本輝ミュージアム

宮本輝ミュージアムは、大阪府茨木市の追手門学院大学付属図書館にある宮本輝の文化施設。学校法人追手門学院の創立120周年を記念して2008年に開設。宮本輝は、追手門学院大学の第一期の卒業生。

公式サイト:宮本輝ミュージアム

以前に行ったことがある。なかなか綺麗な感じの館内。宮本輝の講演会の映像を個別で借りて、館内で視聴できたのは、とても良かった。

ファンであれば、一度は訪問してみるのが良いかと思う場所である。

大阪府立中之島図書館

大阪府立中之島図書館は、大阪府大阪市北区中之島一丁目にある1904年に開館の公共図書館。

宮本輝は浪人生時代に通って、ロシア文学とフランス文学に耽溺したという。

実際に訪問したことがあるが、ルネッサンス様式の外観もバロック様式の内観も、非常に素晴らしく、知的な雰囲気に満ち溢れた場所。

公式サイト:大阪府立中之島図書館