『男は語る アガワと12人の男たち』阿川佐和子

阿川佐和子の略歴

阿川佐和子(あがわ・さわこ、1953年~)
エッセイスト、タレント。
東京の生まれ。東洋英和女学院中学部・高等部、慶應義塾大学文学部西洋史学科を卒業。
父親は、作家の阿川弘之(あがわ・ひろゆき、1920年~2015年)。

『男は語る アガワと12人の男たち』の目次

男とは 開高健
父とは 城山三郎
男と女とは 渡辺淳一
男の顔とは 辻井喬
ドラマとは 山田太一
ロマンとは 宮本輝
冒険とは 椎名誠
好奇心とは 村上龍
男の喧嘩とは 景山民夫
幸せとは 遠藤周作
少年とは 野坂昭如
娘とは 阿川弘之
文庫あとがき

概要

2001年5月10日に第一刷が発行。文春文庫。278ページ。

1992年3月にPHP研究所から刊行した単行本を文庫化したもの。

初出はPHP研究所の季刊誌「ビジネス・ボイス」に、1987年から3年の間、連載した巻頭対談。

対談した男たちは、以下の通り。

開高健(かいこう・たけし、1930年~1989年)…作家。大阪府大阪市の生まれ。天王寺中学校、大阪高等学校文科甲類を経て、大阪市立大学法文学部法学科を卒業。1958年に『裸の大様』で芥川賞を受賞。

城山三郎(しろやま・さぶろう、1927年~2007年)…作家。愛知県名古屋市の生まれ。名古屋市立名古屋商業学校、愛知県立工業専門学校を経て、一橋大学を卒業。1959年に『総会屋錦城』で直木賞を受賞。本名は、杉浦英一(すぎうら・えいいち)。

渡辺淳一(わたなべ・じゅんいち、1933年~2014年)…作家。北海道空知郡の出身。北海道札幌南高校を卒業。北海道大学理類に入学、教養課程を修了後に、札幌医科大学医学部に入学し卒業。1970年に『光と影』で直木賞を受賞。

辻井喬(つじい・たかし、1927年~2013年)…詩人、作家、実業家。東京都の出身。東京府立第十中学校、成城高等学校を経て、東京大学経済学部を卒業。西武百貨店に勤務。1961年に『異邦人』で室生犀星詩人賞を受賞。本名は、堤清二(つつみ・せいじ)。

山田太一(やまだ・たいち、1934年~)…脚本家、作家。東京都台東区浅草の出身。神奈川県立小田原高等学校を経て、早稲田大学教育学部国語国文学科を卒業。松竹を経て脚本家として活躍。本名は、石坂太一(いしざか・たいち)

宮本輝(みやもと・てる、1947年~)…作家。兵庫県神戸市の生まれ。私立関西大倉中学校・高等学校を卒業。追手門学院大学文学部を卒業。広告代理店で勤務後、1977年『泥の河』で、第13回太宰治賞を受賞しデビュー。1978年に『螢川』で、第78回芥川賞を受賞。本名は、宮本正仁(みやもと・まさひと)。

椎名誠(しいな・まこと、1944年~)…作家。東京都世田谷区の生まれ。千葉県の育ち。千葉市立千葉高等学校を卒業。東京写真大学を中退。1989年に『犬の系譜』で吉川英治文学新人賞を受賞。

村上龍(むらかみ・りゅう、1952年~)…作家。長崎市佐世保市の出身。長崎県立佐世保北高等学校を卒業。武蔵野美術大学造形学部を中退。1976年に『限りなく透明に近いブルー』で群像新人文学賞、芥川賞を受賞。本名は、村上龍之助(むらかみ・りゅうのすけ)。

景山民夫(かげやま・たみお、1947年~1998年)…作家。東京都千代田区の生まれ。武蔵中学校・高等学校を卒業、慶應義塾大学文学部を中退。放送作家として活躍。1988年に『遠い海から来たCOO』で直木賞を受賞。

遠藤周作(えんどう・しゅうさく、1923年~1996年)…作家。東京都豊島区の生まれ。満洲、兵庫で育つ。私立灘中学校を卒業。慶應義塾大学文学部仏文科を卒業。1955年に『白い人』で芥川賞を受賞。

野坂昭如(のさか・あきゆき、1930年~2015年)…作家。神奈川県鎌倉市の生まれ。兵庫県、福井県、大阪府などで育つ。新潟高等学校文乙(ドイツ語クラス)に編入。早稲田大学第一文学部仏文科を中退。『火垂るの墓』『アメリカひじき』で直木賞を受賞。

阿川弘之(あがわ・ひろゆき、1920年~2015年)…作家。広島県広島市の生まれ。広島高等師範学校附属中学校、広島高等学校を経て、東京帝国大学文学部国文科を卒業。海軍を経て、作家に。1952年に『春の城』で読売文学賞(小説賞)を受賞。

以上の男たちとさまざまなテーマで語る対談集。

感想

宮本輝が対談相手にいたので、購入。

ちょうど『優駿』を刊行した時だったようで、競馬関連の話題だった。

その他にも興味のある作家たちも。

開高健や辻井喬、村上龍、遠藤周作などは、作品に触れたことがある人物。

名前は知っているけれど、作品については知らない作家についても、何となくの性格や姿勢などが分かったので良かった。

阿川佐和子よりも年上の人たちの場合は、やはり阿川弘之の娘さんとしての扱い、みたいな感じだった。

仕方ないことではあるけれど。

以下、引用などをしながら紹介。

いろいろあるけれども、異なれるものを求めている人、そういう男を探しなさい。何であれ、自分の現在ある状態から反対のものを求めて、それに挑んでいるやつ。(P.18「男とは 開高健」)

開高健が男の値打ちを説く。

そういう男がいたら、ちょっと目をつけておいた方が良いと阿川佐和子に語る。

反対のものを求めること。

ある程度の経験や実績があると、その延長線上が安心で、安定する。

だが、反対のものを求めることで大きく成長する。

もちろん、大きく失敗することもあるが。

ただ、安心や安定だけでは、つまらなくなってしまうので、大きな冒険も必要。

さらに経験の蓄積も大切だと主張する開高健。

大体において、われわれは言語生活が貧困です。(P.23「男とは 開高健」)

自らの経験を分析して、言語化すること。

多くの場合、言語による細分化が出来ずに、具体性の欠けた抽象的な発言が多くなってしまう。

心の襞、心の機微が分かるように、言葉に敏感になること。

開高健は面白い。

「それで阿川さんは?」
そうおっしゃるときの城山さんの目は、そこはかとなく優しく、
「ふーん、そうなの。面白いねえ」
そう頷かれる城山さんの表情は、たとえようもなくあたたかい。(P.44「父とは 城山三郎」)

この対談集の構成のポイントとしては、単なる対談を掲載しているだけではない。

途中や最後に、阿川佐和子の独白的な文章が入る時もある。

なかなか興味深い構成になっている。

ここでは、インタビューアーが、阿川佐和子ではなく、城山三郎に、自然となってしまう状況の説明。

城山三郎の合いの手が、あまりにも上手く思わず、阿川佐和子が答える側に回ってしまう。

作家にとっては、それが事実であるかそうでないかは、ほとんど関心がないのです。自分の書いた世界が真実なのであって、真実が事実か事実でないかは、ほとんどどうでもいいことなのです。(P.74「男の顔とは 辻井喬」)

家族に作家がいる場合に、その題材に自分がなってしまい、そのことが、実生活にも微妙に影響を与えるというもの。

というよりも、家族にとって、文章として書かれるのは迷惑であるということ。

しかも、事実と反する場合もある。

だが、作家の視点からすると、どういことであるか、という説明が上述の文章。

人物としても面白い辻井喬。本名は、堤清二であり、実業家としても活躍。

父親は、西武グループの創業者である堤康次郎(つつみ・やすじろう、1889年~1964年)。

複雑な家庭環境や仕事などが、その作品に大きな影響を与えている。

文化交流で外国へ行くと、お前の国の人間はどうしてこんなに野蛮になったのかと、よく言われます。君の国は歴史があって素晴らしい、『源氏物語』をフランス語で読んだよ、というような人たがあちらの役所とか経済界にたくさんいる。(P.87「男の顔とは 辻井喬」)

辻井喬や阿川佐和子とは直接関係のない記述ではあるが、気になった部分。

海外の教養人の知識の深さを感じる。

異国の地の文学や文化に対する見識の違い。

自らもしっかりと世界のことを学んでいきたいと思うところである。

辻井喬は、ちゃんと歴史を学ぶことが大切であると説く。日本だけではなく、もちろん世界の歴史も。

寺山修司ってすごい歌人だったと思うんですけれど、この人に「マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや」という歌がある。僕は、この歌が好きでね、高校のときからいつも口ずさんでいた。(P.128「ロマンとは 宮本輝」)

寺山修司(てらやま・しゅうじ、1935年~1983年)は、歌人、劇作家。

宮本輝よりも、一回りの上の世代の歌人となる。

競走馬の物語『優駿』の話が最初のテーマとなった宮本輝との対談。

寺山修司も競馬に熱中していたという共通項も面白い。

ちなみに上記の引用は、ちょっと日本が嫌になってきた宮本輝が、子供たちが独立した後には、奥さんと一緒に海外で暮らそうかな、と考えているという逸話からの流れ。

同世代の作家、年上の作家との雰囲気の違い。また父親との対談なども楽しめる作品。

阿川佐和子ファンだけではなく、その対談相手に興味のある人には非常にオススメの作品である。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

開高健記念館

開高健記念館は神奈川県茅ヶ崎市にある開高健の邸宅を利用した文化施設。

公式サイト:開高健記念会・開高健記念館

開高健記念文庫

開高健記念文庫は、東京都杉並区にある開高健の邸宅を利用した文化施設。

公式サイト:開高健記念会・開高健記念文庫

渡辺淳一文学館

渡辺淳一文学館は、北海道札幌市にある渡辺淳一の文化施設。

公式サイト:渡辺淳一文学館

宮本輝ミュージアム

宮本輝ミュージアムは、大阪府茨木市の追手門学院大学付属図書館にある宮本輝の文化施設。学校法人追手門学院の創立120周年を記念して2008年に開設。宮本輝は、追手門学院大学の第一期の卒業生。

公式サイト:宮本輝ミュージアム

以前に行ったことがある。なかなか綺麗な感じの館内。宮本輝の講演会の映像を個別で借りて、館内で視聴できたのは、とても良かった。

ファンであれば、一度は訪問してみるのが良いかと思う場所である。

大阪府立中之島図書館:宮本輝

大阪府立中之島図書館は、大阪府大阪市北区中之島一丁目にある1904年に開館の公共図書館。

宮本輝は浪人生時代に通って、ロシア文学とフランス文学に耽溺したという。

実際に訪問したことがあるが、ルネッサンス様式の外観もバロック様式の内観も、非常に素晴らしく、知的な雰囲気に満ち溢れた場所。

公式サイト:大阪府立中之島図書館