『本物の教養』出口治明

出口治明の略歴

出口治明(でぐち・はるあき、1948年~)
実業家、ライフネット生命保険の創業者。
三重県津市の生まれ。三重県立上野高等学校、京都大学法学部(専攻:憲法)を卒業。日本生命保険相互会社に勤務し、ロンドン現地法人の社長、国際業務部長などを歴任。退社後にライフネット生命保険を設立。読書家としても知られる。

『本物の教養』の目次

はじめに
第1章 教養とは何か?
第2章 日本のリーダー層は勉強が足りない
第3章 出口流・知的生産の方法
第4章 本を読む
第5章 人に会う
第6章 旅に出る
第7章 教養としての時事問題―国内編―
第8章 教養としての時事問題―世界のなかの日本編―
第9章 英語はあなたの人生を変える
第10章 自分の頭で考える生き方
おわりに
ようこそ「出口塾」へ!

概要

2015年9月30日に第一刷が発行。幻冬舎新書。261ページ。

実業家で読書家の出口治明が教養についての考察をまとめた著作。出口治明の考え方の基本や経験談などが豊富に記載されている内容。

2014年の春に取材を実施して、幻冬舎の小木田順子とライターの藤田哲生が仕上げるといった形式で製作されたもの。

感想

出口治明の本は、読みやすくて、面白くて、勉強になる。

何よりも、数字、事実、論理を重んじるという点が非常に共感できる。

出口の言葉では、「数字、ファクト、ロジック」。

以下、引用などをしながら紹介。

そのロジックの構築のしかたが素晴らしく、また言葉の使い方がとても巧みなのに驚いて、いったいこの人はどういう人なのだろうと調べてみたら、学生時代には、フランスの詩人、アルチュール・ランボーをテーマに博士論文を書いていました。(P.38「第2章 日本のリーダー層は勉強が足りない」)

2003年にフセイン政権下のイラクへの武力攻撃を巡って、フランスとアメリカの意見が対立。

その時のフランスの外相の言い分が素晴らしいと思った出口治明。

そのフランスの外相の名前は、ド・ビルパン(Dominique de Villepin、1953年11月14日~)…フランスの作家、外交官、弁護士、政治家。

ナポレオン(Napoléon Bonaparte、1769年~1821年)の研究者でもあり、長大な伝記も書いているという。

経歴を見ると、フランスの超絶なエリートである。

かなり特殊な事例ではあるとは思うけれど、こういった人物がリーダーに相応しいというもの。

現在の日本では誰になるのだろうか。

過去の日本では、岸信介(きし・のぶすけ、1896年~1987年)とかくらいだろうか。私の知っている限りでは。

岸信介に関しては、『叛骨の宰相 岸信介』などがオススメである。

私は睡眠時間が長くないとだめな、いわゆるロングスリーパーなので、大体午前零時ごろに就寝し、朝六時ごろに起きています。休日は八時、九時まで寝ています。(P.91「第3章 出口流・知的生産の方法」)

出口治明は、ロングスリーパーというのは驚いた。

結構、こういった元気な実業家というのは、ショートスリーパーで長時間労働をしているタイプのように感じられていたから。

と言っても、ロングスリーパーと主張しながら、平日は6時間である。

そんなにロングスリーパーとも言えないような気もするけれど。

私も、どちらかと言うとロングスリーパーなので、親近感がさらに湧いた。

ただ出口治明の場合は、超絶頭が良いので、起きている時間の作業効率が非常に卓越したものなのだろうけれど。

たとえば、何か新しい分野を勉強しようとするときは、まず図書館で、その分野の厚い本を五、六冊借りてきて読み始めます。分厚い本から読み始め、だんだん薄い本へと読み進んでいく。これが新しい分野を勉強しようとするときの私の読み方のルールです。(P.106「第4章 本を読む」)

よくありがちなアドバイスとしては、新しい分野の勉強では、薄い本を複数読むというのがある。

出口治明の場合には、厚い本からというもの。

これまた、新しい発想で驚いた。

点の理解から、線の理解、そして、面の理解へという流れ。

最初に難易度の高いところから、徐々に簡易的になっていくというメリットも。

ちなみに、その前の部分では、出口治明の読書量についても。

サラリーマン時代に比べて「激減」して、「週に3、4冊」だという。しかも、飛ばし読みなどは一切せずに。

出口治明は、速読とかを否定している。と言っても、出口治明の頭脳と読書習慣から、一般的な人より読書の速度が全然違うとは思うけれど。

帝王学の教科書『貞観政要』に唐の太宗、李世民の有名な「三鏡」の言葉が残されています。

夫れ銅を以て鏡と為せば、以て衣冠を正す可し。
古を以て鏡と為せば、以て興替を知る可し。
人を以て鏡と為せば、以て得失を明かにす可し。
朕常に此の三鏡を保ち、以て己が過を防ぐ。
(P.137「第5章 人に会う」)

李世民(り・せいみん、598年~649年)は、中国の唐朝の第2代の皇帝。優れた政治力があり、人材登用など諸制度を整えて唐朝の基盤を確立し、貞観の治と呼ばれる太平の世を築いたとされる人物。

上記の引用をザックリと説明すると、自らの感情と、歴史と、他者を鏡として冷静に見つめれば、過誤なく進むことができるという話。

出口治明は、『貞観政要』を座右の書として、『座右の書『貞観政要』』という著作も出している。

この本も気になるので、今度チェックしておきたい。

日本という国号は持統天皇の時代にほぼ確定されたので、日本には少なくとも千三百年以上の歴史があります。千三百年の歴史のなかで夫婦同姓が実施されたのは、明治三十一(一八九八)年に民法が成立して以来、わずか百二十年です。(P.186「第7章 教養としての時事問題―国内編―」)

持統天皇(じとうてんのう、645年~703年)は、第41代の天皇。

その頃に、日本という国号が確定。それから1300年以上を経た現代。

夫婦同姓や夫婦別姓についての議論が一時期大きく話題となった。

ただ、夫婦同姓に関しては、1898年に民法が成立して実施された。つまりは、夫婦同姓は歴史が浅い。

歴史を俯瞰して見ることで、現代の問題の根拠について、明確な判断がしやすくなるというもの。

また世界的に見ると、法律婚の条件として、夫婦同姓を矯正しているのは、OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development)、経済協力開発機構の34国のなかで、日本だけである、という事実も。

歴史というのは、単なる情報だけではなく、現代を見つめる上でも大きな力を発揮する。

地球が誕生してから四十六億年ぐらいが経っていますが、ホモサピエンスの登場はわずか二十万年前にすぎません。四十六億分の二十万と言えば、〇・〇〇四%です。ほんの一瞬です。(P.238「第10章 自分の頭で考える生き方」)

さらに続いて、人間の歴史というものですら、地球の誕生から時間軸で見ると、ほんの一瞬でしかないという事実。

まさに数字、ファクト、ロジックである。

そのような歴史というか、時間の流れで、自らのすべきこと、というか、好きなことを探して、実行していくことが大切である。

悩みすぎてはいけない、というメッセージも。

出口治明のファン、読書好き、歴史好き、知識好きな人には非常にオススメの本である。

書籍紹介