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山崎元『経済評論家の父から息子への手紙』要約・感想

山崎元『経済評論家の父から息子への手紙』表紙

  1. 働き方と稼ぎ方の知恵
  2. 投資と資本主義の理解
  3. 幸福論と人間関係
  4. 息子への手紙と愛情

山崎元の略歴・経歴

山崎元(やまざき・はじめ、1958年~2024年)
経済評論家。
北海道札幌南高等学校、東京大学経済学部を卒業。三菱商事に入社し、その後12回の転職。食道癌にて逝去。

『経済評論家の父から息子への手紙』の目次

まえがき
第一章 働き方・稼ぎ方
第二章 お金の増やし方と資本主義経済の仕組み
第三章 もう少し話しておきたいこと
終章 小さな幸福論
付記 大人になった息子へ――息子への手紙全文
あとがき

『経済評論家の父から息子への手紙』の概要・内容

2024年2月15日に第一刷が発行。Gakken。電子書籍。119ページ。

副題は「お金と人生と幸せについて」。

『経済評論家の父から息子への手紙』の要約・感想

  • 第一章 働き方・稼ぎ方:仕事との向き合い方
  • 第二章 お金の増やし方と資本主義経済の仕組み
  • 終章 小さな幸福論:自分らしい幸せの見つけ方
  • 付記 大人になった息子へ:手紙に込められた本音
  • 総括:山崎元が遺した、今を生きる私たちへのメッセージ

山崎元が遺した、人生とお金の普遍的知恵

経済評論家として、また歯に衣着せぬ物言いで多くの読者から支持を集めた山崎元。

彼の著作は、難解な経済や投資の話を分かりやすく解説し、私たちの金融リテラシー向上に大きく貢献してきた。その山崎元が、自身の最晩年に記した一冊が『経済評論家の父から息子への手紙』である。

本書は、2023年に彼の息子が東京大学の理類、つまり理系学部に合格したことを機に書かれた手紙を基に構成されている。単なるお祝いのメッセージではない。

そこには、経済評論家として、そして人生の先輩として、息子に伝えたかったであろう「働き方・稼ぎ方」「お金の増やし方」「幸福論」といった、普遍的かつ実践的な知恵が凝縮されている。

山崎元は、本書の執筆時、自身の病状、食道がんとの闘いの最中にあった。「山崎元はどのような病気で亡くなったか?」という問いへの答えは食道がんであり、その事実を知ると、本書に込められた言葉一つひとつが、より一層重く、切実に響いてくる。

本書が「山崎元の最後の本は?最新刊は?」と探している読者にとって、彼の思想の核心に触れることができる貴重な一冊であることは間違いない。彼の知識と経験、そして息子への深い愛情が詰まった、まさに遺言とも言える書物なのである。

本書は、これから社会に出る若者、キャリアや資産形成に悩むビジネスパーソン、そしてより良く生きたいと願うすべての人々にとって、多くの示唆を与えてくれるだろう。

この記事では、『経済評論家の父から息子への手紙』の内容を紐解きながら、山崎元が伝えたかったメッセージの本質に迫っていく。

第一章 働き方・稼ぎ方:仕事との向き合い方

第一章では、働き方・稼ぎ方について、考察している。

「昭和生まれの働き方常識」として、大企業や国家公務員、医者や弁護士などに言及。そこから、現在の「新しい働き方」を考えていく。そこで必要なのが、適度なリスク、異なることを恐れず工夫することの二つの精神だと説く。

さらには、株式による報酬を取り込むことも。これは、単なる株式の売買によって、つまり株式運用によって、利益を上げることではない。

自分で起業したり、起業に参加したり、ストックオプション制度であったり、出資といった意味である。

それと同時に安易な借金や、不動産投資、信用取引、FX、暗号資産などの投資関連にも注意すべきであると述べている。

本筋とは少しずれるが、興味深いのは、世界的な成功者であるビル・ゲイツ(Bill Gates, 1955年~)に関するエピソードだ。

ビル・ゲイツ氏は、創業間もないころ、窓から外の駐車場を眺めて、早く帰ってしまう社員をチェックしていたと後年明かしている。(P.22「働き方・稼ぎ方」)

マイクロソフトの創業者であり、天才プログラマーとして知られるビル・ゲイツが、社員の勤怠を細かく見ていたという事実は、少々意外に感じるかもしれない。

しかしこれは、組織を率いるリーダーとして、メンバーのコミットメントや熱意を測る一つの方法であったのだろう。目標達成のためには、個々の能力だけでなく、組織全体の士気や集中力が重要であることを示唆している。

天才と呼ばれる人物でさえ、いや、天才だからこそ、そうした人間的な側面、組織運営の機微に注意を払っていたのかもしれない。凡人ならばなおさら、仕事への取り組み姿勢は重要である、というメッセージとも受け取れる。

この章で語られるのは、単なる処世術ではない。

山崎元が息子に送る「父親から息子へのメッセージ」として、厳しくも冷静で現実に沿った愛情のこもったアドバイスが詰まっている。それは、読者一人ひとりにとっても、自身の働き方やキャリアを見つめ直す良い機会となるはずだ。

第二章 お金の増やし方と資本主義経済の仕組み

経済評論家である山崎元の真骨頂とも言えるのが、この第二章であろう。

ここでは、資本主義経済の本質と、その中で賢く資産を形成していくための具体的な方法が解説される。特に、投資に対する考え方は、多くの人にとって目から鱗が落ちる内容かもしれない。

まず、山崎元は資本主義経済の仕組みについて、非常に鋭い洞察を示す。

あらかじめ結論を言っておくと、資本主義経済は、リスクを取りたくない人間から、リスクを取ってもいい人間が利益を吸い上げるようにできている。(P.35「お金の増やし方と資本主義経済の仕組み」)

これは、資本主義社会における富の分配構造を端的に表していると言える。

リスクを取らなければ大きなリターンは得られない。銀行預金のように元本保証を求めるリスクを取りたくない人は、インフレによって実質的な価値が目減りするリスクを負う一方で、株式投資のように価格変動リスクを取る人は、経済成長の恩恵を受けて資産を増やす可能性を得る。

どちらが良い悪いではなく、これが資本主義のルールであると理解することが重要だ。リスクを理解し、適切に管理しながら、そのリターンを享受すること。それが、資本主義社会で豊かさを築くための鍵となる。

では、具体的にどのようにリスクを取り、資産を増やしていけば良いのか。

山崎元が一貫して推奨してきたのが、「長期・分散・低コスト」のインデックス投資である。これは、特定の銘柄やタイミングに賭けるのではなく、市場全体の成長に長期的に投資することで、リスクを抑えつつ着実なリターンを目指す手法だ。

その現実的なリターンについて、彼は次のように述べている。

インデックスファンドに投資した場合の株式投資のリターンは、100年に二、三度クラスの「最悪の場合」でも1年に3分の1くらいの損失、同じくらいの確率の「幸運な場合」では4割くらいの利益、平均的には短期金利がほぼ0%なら年率5~6%くらい、だと実務の世界や学者の間では考えられていて、父も「そんなものだろう」と思っている。正確な数字は誰も知らない。(P.38「お金の増やし方と資本主義経済の仕組み」)

これは、投資の神様や天才トレーダーのような特別な才能がなくとも、誰でも実践可能な再現性の高い方法である。

年率5~6%というリターンは、一見地味に見えるかもしれないが、長期的に複利の効果を活かせば、大きな資産形成につながる可能性を秘めている。山崎元は、専門家たちの知見を集約し、極めて現実的で信頼性の高い指標を示してくれているのである。

そして、具体的な投資対象として、彼は二つの代表的な投資信託を挙げる。その一つが以下。

eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)(P.47「お金の増やし方と資本主義経済の仕組み」)

「イーマクシス・スリム」シリーズは、業界最低水準の運用コストを目指すインデックスファンドとして知られており、特にこの「全世界株式(オール・カントリー)」は、日本を含む先進国および新興国の株式市場全体に、これ一本で分散投資ができるという優れものだ。

特定の国や地域に偏らず、世界経済全体の成長を取り込むことを目指す、まさに「長期・分散・低コスト」の原則に合致した商品と言える。

山崎元は、息子が東大という難関大学に進学したタイミングで、こうした具体的な金融知識を伝えている。これは、高い教育を受けることと同様に、あるいはそれ以上に、経済的な自立と資産形成の知識が人生において重要であるというメッセージであろう。

知性と経済的リテラシーの両輪が人生を豊かにするという、彼の信念を表しているのかもしれない。

この章を読むことで、私たちは資本主義のルールを理解し、お金に対する漠然とした不安から解放され、合理的で賢明な資産形成への第一歩を踏み出すことができるだろう。

終章 小さな幸福論:自分らしい幸せの見つけ方

第三章「もう少し話しておきたいこと」では、より具体的な働き方や人付き合いのコツなどについても語り、最終章では人生の究極的な目的とも言える「幸福」について考察。

経済的な成功や社会的な地位だけでは測れない、個々人にとっての幸せとは何か。山崎元自身の人生観が垣間見える、示唆に富んだ内容となっている。

彼は、幸福感を、自分が承認されているという感覚である、自己承認感と捉えた。

またお金と自由についても。自由は、また快適とも定義することができる。不自由は不快とも定義できる。お金はリッチとプアとする。この組み合わせの四象限による分析も面白い。

さらに話は進み、その中で、人間関係、特に異性との関係性についても、率直な意見が述べられている。

モテない男は幸せそうに見えない。(P.96「小さな幸福論」)

これは、やや挑発的な表現かもしれないが、本質を突いた指摘とも言える。

「モテる」とは、単に異性からの人気があるということだけではない。それは、自信、コミュニケーション能力、清潔感、思いやりといった、人間的な魅力の表れでもある。

そうした魅力を持つ人は、異性関係に限らず、社会生活全般において良好な人間関係を築きやすく、結果として幸福感を得やすい傾向があるのかもしれない。

もちろん、パートナーの有無が幸福の絶対条件ではないが、他者との良好な関係性が人生の満足度を高める上で重要な要素であることは間違いないだろう。自分に自信を持ち、他者と積極的に関わっていくことの重要性を示唆しているとも解釈できる。

この章を通じて伝わってくるのは、経済合理性だけではない、人間味あふれる山崎元の姿である。彼の家族構成、特に再婚の有無など、プライベートな部分については多く語られていない。しかし、本書全体、特にこの終章からは、息子や家族に対する深い愛情、そして人生に対する誠実な姿勢が強く感じられる。

それは、単なる経済評論家の枠を超えた、一人の人間としての温かみである。

ここで語られる「小さな幸福論」は、華やかさはないかもしれないが、地に足のついた、現実的で持続可能な幸福の形を提示してくれる。

変化が激しく、将来への不安も多い現代社会において、自分自身の心の声に耳を傾け、ささやかでも確かな幸せを見つけていくためのヒントが、この章には散りばめられている。

付記 大人になった息子へ:手紙に込められた本音

本書の核心とも言えるのが、この「付記」に収められた、息子へ宛てた手紙の全文である。

まえがきから終章までで展開されてきた議論の根底にある、父としての切実な思い、そして人生哲学が、よりパーソナルな言葉で綴られている。

様々なテーマについて語られる中で、特に印象的なのが、現代社会における「マーケティング」に対する厳しい指摘だ。

世間が称えるマーケティングとは「本来の価値以上の価格でたくさんのモノを売るための技術の集大成」だ。「ボッタクリのテクニック集」だとも言える。消費者は、マーケティングのおかげで、無駄なモノや無駄に高いモノを買わされている。(P.112「付記 大人になった息子へ――息子への手紙全文」)

これは、経済の専門家である山崎元ならではの、極めて批判的な視点である。

彼は、巧みな広告宣伝やブランディングによって、商品の本質的な価値とは乖離した価格が設定され、消費者がそれに踊らされている現状を憂いている。情報が溢れ、あらゆるものが商品化される現代において、物事の本質を見抜く目、情報の真偽を判断するリテラシーがいかに重要であるかを強調しているのだ。

彼自身、こうした世にはびこる「まやかし」に対抗するための「解毒サービス」を提供したいという思いがあったとされる。しかし、私としては、その普及にもまたマーケティングが必要になるというジレンマもある気がする。

この手紙は、単なるアドバイスの羅列ではない。

そこには、息子がこれからの人生で遭遇するであろう様々な困難や誘惑に対して、惑わされることなく、自分自身の頭で考え、判断し、本質を見失わずに生きていってほしいという、父親としての切なる願いが込められている。

世の中には、様々な形式の「父から息子への手紙」が存在するかもしれない。しかし、本書の手紙は、経済合理性と人間的な洞察、そして社会への批判的な視点が融合した、唯一無二の内容となっている。

この手紙を読むことで、読者は山崎元という人物の思考の核心に触れると同時に、自分自身の人生における価値観や判断基準について、改めて深く考えさせられることになるはずだ。

総括:山崎元が遺した、今を生きる私たちへのメッセージ

『経済評論家の父から息子への手紙』は、単なる一冊の書籍ではない。

それは、経済評論家・山崎元が生涯を通じて培ってきた知見と、人生の最終段階で達したであろう境地、そして息子への深い愛情が結晶化した、貴重な贈り物である。

本書全体を通じて、山崎元は一貫して「合理的であること」「本質を見抜くこと」の重要性を説いている。それは、働き方やお金の増やし方といった具体的なテーマだけでなく、幸福論や人生観といった、より根源的な問いに対しても通底する姿勢だ。

特に、投資における「長期・分散・低コスト」という原則は、彼の思想を象徴するものである。一攫千金を狙うのではなく、リスクを適切に管理しながら、時間をかけて着実に資産を築いていく。

この考え方は、投資のみならず、キャリア形成や人生設計全般にも応用できる、普遍的な知恵と言えるだろう。焦らず、しかし着実に、自分自身のペースで目標に向かっていくことの大切さを教えてくれる。

また、資本主義経済やマーケティングに対する鋭い洞察は、私たちが生きる現代社会の構造を理解し、賢く立ち回るための羅針盤となる。

本書は、山崎元が息子に向けて書いた手紙が基になっているが、そのメッセージは息子だけにとどまらず、現代を生きる私たちすべてに向けられているように感じられる。「父親から息子へのメッセージ」という形を取りながらも、その内容は普遍的であり、多くの読者の心に響く力を持っている。

2024年1月、山崎元は食道がんとの闘病の末、この世を去った。

彼の死を悼む声は多く、その功績を改めて讃える動きも広がっている。『経済評論家の父から息子への手紙』は、彼の最後の著作の一つとして、その思想と人柄を後世に伝える重要な役割を担っている。

本書を読むことは、山崎元という稀有な知性との対話である。

彼の言葉に耳を傾け、自身の生き方や考え方を見つめ直すことで、私たちはより豊かで、より自分らしい人生を歩むためのヒントを得ることができるはずだ。

ぜひ一度手に取り、その深いメッセージに触れてみてほしい。それはきっと、あなたの人生にとって、かけがえのない財産となるだろう。

書籍紹介

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