- 運の定義と科学的アプローチ:運のいい人は生き残る人
- 具体的な行動指針:自分は世界の中心。自分は運がいい。
- 脳内ホルモンの役割:セロトニン、メラトニン、オキシトシン
- 習慣化で運命を変える:3週間から3カ月の継続
- 中野信子の略歴・経歴
- 『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』の目次
- 『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』の概要・内容
- 『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』の要約・感想
- 運のいい人とは「生き残る」人である
- 運を良くするための具体的な行動と考え方
- 自分を世界の中心に据え、自分を最大限に生かす
- 自己一致:理想と現実が一致した心地よい状態
- 自分を殺さず、他人からも殺されないために
- 「面白そうか?」で判断する効用
- 反省はしても、自分を嫌いにならない
- 「自分は運がいい」と決め込む科学的根拠
- セロトニンとメラトニン:心と体のリズムを整える
- オキシトシン:「愛情ホルモン」がもたらす信頼と絆
- 「最適より好適」:長期的な視点でベターを選ぶ
- 自分なりの「しあわせのものさし」を持つ
- 運の悪い人の思考パターン:マイナスへのこだわり
- 祈りの力:脳内物質を活性化させる
- 悪い祈りの危険性:ストレスホルモン「コルチゾール」
- 脳を変え、運命を変える:3か月の習慣化
- 自分の軸を持ち、自分を大切にし、運のいいひとへ
- 書籍紹介
- 関連書籍
中野信子の略歴・経歴
中野信子(なかの・のぶこ、1975年~)
脳科学者、医学博士。
東京都の生まれ。東京大学工学部応用化学科を卒業、東京大学大学院医学系研究科医学専攻修士課程を修了、東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程を修了。
フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。
『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』の目次
新版に寄せて
プロローグ――運のいい人ってどんな人?
第1章 運のいい人は世界の中心に自分をすえる
第2章 運のいい人は「自分は運がいい」と決め込む
第3章 運のいい人は他人と「共に生きること」をめざす
第4章 運のいい人は目標や夢を「自分なりのしあわせのものさし」で決める
第5章 運のいい人は祈る
エピローグ――運のいい人は自分の脳を「運のいい脳」に変える
参考文献
『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』の概要・内容
2023年9月10日に第一刷が発行。サンマーク出版。133ページ。
2013年2月に単行本、2019年5月に文庫本として刊行されたものを加筆、再編集し「新版」としてまとめたもの。
『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』の要約・感想
- 運のいい人とは「生き残る」人である
- 運を良くするための具体的な行動と考え方
- 自分を世界の中心に据え、自分を最大限に生かす
- 自己一致:理想と現実が一致した心地よい状態
- 自分を殺さず、他人からも殺されないために
- 「面白そうか?」で判断する効用
- 反省はしても、自分を嫌いにならない
- 「自分は運がいい」と決め込む科学的根拠
- セロトニンとメラトニン:心と体のリズムを整える
- オキシトシン:「愛情ホルモン」がもたらす信頼と絆
- 「最適より好適」:長期的な視点でベターを選ぶ
- 自分なりの「しあわせのものさし」を持つ
- 運の悪い人の思考パターン:マイナスへのこだわり
- 祈りの力:脳内物質を活性化させる
- 悪い祈りの危険性:ストレスホルモン「コルチゾール」
- 脳を変え、運命を変える:3か月の習慣化
- 自分の軸を持ち、自分を大切にし、運のいいひとへ
中野信子『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』は、多くの人が漠然と捉えている「運」という概念に、脳科学の視点から鋭く切り込んだ一冊である。
運が良いとはどういうことなのか、そして、どうすれば運を味方につけられるのか。本書は、その具体的な方法と考え方を、科学的根拠と共に示してくれる。
著者は脳科学者の中野信子。彼女は、運の良し悪しは決して偶然の産物ではなく、その人の思考様式や行動パターン、さらには脳の働き方と密接に関わっていると説く。
本記事では、この『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』の内容を、引用を交えながら深く掘り下げ、運を引き寄せるためのヒントを探っていく。
運のいい人とは「生き残る」人である
まず、本書が定義する「運のいい人」とはどのような人物像なのだろうか。プロローグで中野信子は、運についてこう述べている。
人によってそのとらえ方はさまざまだと思いますが、科学的な観点から考えると「生き残ること」がひとつのキーワードといえます。(P.5「プロローグ――運のいい人ってどんな人?」)
「運がいい」イコール「生き残る」。
この定義は、一般的な幸運のイメージとは少し異なるかもしれない。「生き残る」という言葉には、どこかシビアで、競争的な響きがある。しかし、これは単に物理的な生存を意味するだけではないだろう。
社会的な成功、精神的な充足、困難な状況からの回復力など、様々な局面で「ゲームから降りない」強さ、粘り強さを持つこと、それが「生き残る」ことであり、ひいては運の良さにつながるという視点は、非常に興味深い。
安易に妥協せず、時には断り、否定することも含め、自分の軸をしっかりと持ち、状況に対応していく力が求められるということだろう。
運を良くするための具体的な行動と考え方
では、具体的にどのようにすれば「運のいい人」になれるのだろうか。中野信子は、いくつかの具体的な行動や考え方を提示している。
たとえば「世界の中心に自分をすえる」「『自分は運がいい』と決め込む」「他人と『共に生きること』をめざす」などです。これらを実行することはよりよく生きることにつながるでしょう。(P.13「プロローグ――運のいい人ってどんな人?」)
「世界の中心に自分をすえる」とは、自己中心的であれという意味ではない。自分の価値観や感覚を大切にし、それを基準に行動するということだ。
「『自分は運がいい』と決め込む」ことは、自己肯定感を高め、ポジティブな思考を促す。
「他人と『共に生きること』をめざす」は、孤立せず、協力的な関係を築くことの重要性を示している。
これらは一見すると当たり前のことのようにも思えるが、科学的な裏付けと共に提示されることで、その重要性がより深く理解できる。
特に「自分を世界の中心にすえる」という考え方は、自己犠牲を美徳としがちな文化の中では、新鮮に響くかもしれない。自分のメリットを考え、自分の軸を明確にし、目標を具体化すること。これが運を引き寄せる第一歩となるのだろう。
自分を世界の中心に据え、自分を最大限に生かす
第1章では、「世界の中心に自分をすえる」ことの重要性がさらに詳しく語られる。
自分を世界の標準に合わせる必要はありません。いちばん大事なのは自分です。その自分を最大限に生かすのです。
私は、これが運のいい人になるための絶対条件だと思っています。(P.22「第1章 運のいい人は世界の中心に自分をすえる」)
世間一般の「ものさし」や常識に、無理に自分を合わせる必要はない。大切なのは、自分自身の内なる声に耳を傾け、それを尊重することである。
他人の評価や期待に応えようとするのではなく、まず自分自身がどう感じ、何を望んでいるのかを深く理解し、それを基盤に行動することが、自分を最大限に生かす道であり、運を引き寄せるための絶対条件なのだと中野信子は強調する。
この「自分の内なる声」に従うことの重要性は、次の引用にも表れている。
大事なのは、自分が心の底からどう感じるか、自分の脳がどう反応するかをきちんと見極めて、それに従って行動することです。(P.27「第1章 運のいい人は世界の中心に自分をすえる」)
これは、論理的な思考だけでなく、直感や第六感といった、言葉にしにくい感覚を大切にすることを示唆している。
自分の心の奥底からの信号、脳が無意識のうちに送っているサインを見逃さず、それに素直に従う勇気を持つこと。それが、より良い選択をし、結果的に運の良い方向へと進むための鍵となるのかもしれない。
自己一致:理想と現実が一致した心地よい状態
自分自身を受け入れ、好きでいる状態、すなわち「自己一致」も、運を引き寄せる上で重要な要素である。
自己一致の状態とは、こうなったらいい、こうあるべきと考えている理想の自分と実際の自分が一致していること、あるがままの自分を自分で受け入れていること、もっと簡単にいえば、自分で自分のことが好きな状態です。(P.28「第1章 運のいい人は世界の中心に自分をすえる」)
心理学の用語である「自己一致」。
理想の自分と現実の自分が一致し、ありのままの自分を受け入れている状態は、本人にとって非常に心地よいものである。そして、その心地よさ、精神的な余裕は、自然と周囲の人々にも伝わる。
自己一致している人は、無理がなく、安定しているため、他者からの信頼や好意を得やすい。結果として、人間関係が円滑になり、協力が得られやすくなるなど、様々な面で「運がいい」状況が生まれやすくなるのだ。
自分を殺さず、他人からも殺されないために
自己一致とは対極にあるのが、「自分を殺す」という行為である。
自分の感情や欲求を抑え込み、他人の期待や要求に合わせようとすること。これは、短期的には波風を立てずに済むかもしれないが、長期的には深刻な問題を引き起こしかねない。
実は、自分で自分を「殺し」てしまっている人は、他人からも「殺され」てしまうことが多いのです。前述したブラック企業などで無意味にこき使われてしまうのは、それが根本の原因です。(P.34「第1章 運のいい人は世界の中心に自分をすえる」)
これは衝撃的な指摘である。
自分を抑圧し、尊重しない態度は、他者にも「この人は軽んじても良いのだ」というメッセージを送ってしまう可能性がある。その結果、不当な扱いを受けやすくなるというのだ。
かつて、謙虚さや協調性だと思って自分を抑えていた経験を持つ人は少なくないだろう。しかし、それが度を越すと、自己肯定感を損ない、他者からの搾取を招くことにもなりかねない。
もちろん、自己主張ばかりが正しいわけではない。他者との調和も重要である。しかし、「自分を殺さない」という基本姿勢を貫くこと、自分の尊厳を守ることは、健全な人間関係を築き、理不尽な状況から身を守る上で不可欠なのである。
この「自分を殺さない」ことと、社会生活におけるバランスをどう取るかは難しい問題だが、まずは自分の意思を明確にし、安易に諦めず、試行回数を重ねていく中で、自分なりの最適解を見つけていく必要があるだろう。
「面白そうか?」で判断する効用
日々の選択において、何を基準に判断すれば良いのか。中野信子は、ひとつの有効な基準として「面白さ」を挙げる。
やるべきかやらざるべきか、とちらを選ぶべきかなどで悩んだら、「それが自分にとっておもしろそうかどうか?」で判断するのもおすすめです。(P.38「第1章 運のいい人は世界の中心に自分をすえる」)
義務感や責任感だけで行動するのではなく、「面白そう」「やってみたい」という好奇心や内発的な動機に基づいて選択することは、精神的な健康を保つ上で非常に重要である。
実際に、好奇心を持って物事に取り組む人は、ストレスが少なく、幸福度が高いだけでなく、死亡リスクが低下するという研究結果もあるという。
単なる気晴らしではなく、自分のエネルギーを高め、より積極的に人生に取り組むための重要な指針となり得るのだ。
反省はしても、自分を嫌いにならない
失敗や挫折は誰にでもある。重要なのは、その後の向き合い方だ。
反省はするけれど、落ち込みすぎないように、自分で自分を嫌いにならないように、どこまでも心の広い自分ももっておく。そして心の内で、「そんな◯◯ちゃんでもやっぱり好きだよ」と言ってあげるのです。(P.43「第1章 運のいい人は世界の中心に自分をすえる」)
失敗から学び、次に活かすための反省は必要である。
しかし、過度に自分を責め、自己嫌悪に陥ってしまうのは避けるべきだ。それでは前向きなエネルギーが失われ、次の行動に移れなくなってしまう。
どんな自分であっても、最終的には肯定し、受け入れる。そのような「心の広い自分」を持つことが、失敗から立ち直り、再び挑戦するための基盤となる。
自分自身への肯定的な語りかけは、自己肯定感を維持し、精神的な回復力を高める上で、非常に効果的な方法と言えるだろう。
「自分は運がいい」と決め込む科学的根拠
第2章では、「『自分は運がいい』と決め込む」ことの効能について掘り下げられる。
これは単なる精神論ではなく、脳科学的な根拠に基づいている。まず、私たちがこの世に生を受けたこと自体が、驚くべき幸運の連続の結果であるという事実が示される。
1回の射精に含まれる精子の数は、個人差などもありますが1億~4億個とされています。(P.50「第2章 運のいい人は「自分は運がいい」と決め込む」)
この天文学的な確率を乗り越え、さらに着床し、流産のリスクを回避して生まれてきた。
この事実を認識するだけでも、「自分は生まれつき運がいい」と感じられるのではないだろうか。この「生まれつき運がいい人」という感覚を持つことは、ポジティブな自己認識の基礎となる。
そして、「自分は運がいい」という思い込みを強化し、習慣化するためには、ある程度の時間が必要である。
人間の脳の中に新しい回路ができるようになるには、少なくとも3週間はかかるとされているからです。(P.52「第2章 運のいい人は「自分は運がいい」と決め込む」)
何か新しい考え方や行動を定着させるには、最低でも3週間は継続する必要がある。
これは、脳の神経回路が変化し、新しいパターンが形成されるのに要する時間に基づいている。「自分は運がいい」と意識的に考え続けることで、それが脳の基本的な思考パターンとなり、無意識のうちにもポジティブな捉え方ができるようになる。
ブログの更新や新しいスキルの習得など、何かを習慣化したい場合にも、この「3週間」という期間はひとつの目安となるだろう。一度中断してしまうと、元の状態に戻りやすいのは、この神経回路の形成が不十分だからかもしれない。継続こそが力なり、である。
また、運や性格には、遺伝的な要因と環境的な要因の両方が関わっていることを示唆する興味深い話も紹介されている。
江戸時代には、結婚相手を決める際、「結婚しようと思っている娘の母親を見なさい」と言われたそうです。(P.52「第2章 運のいい人は「自分は運がいい」と決め込む」)
これは、娘の将来の姿を母親に重ねて見るという、ある種の経験則に基づいた知恵であろう。
遺伝的に受け継がれる気質や、家庭環境の中で形成される価値観や行動様式が、親子間で似通うことは十分に考えられる。もちろん、これが全てではないが、人の特性を考える上で、遺伝と環境の両面からの視点を持つことの重要性を示している。
セロトニンとメラトニン:心と体のリズムを整える
「運がいい」と感じるためには、精神的な安定と良好な体調が不可欠である。
その鍵を握るのが、セロトニンやメラトニンといった脳内物質だ。
セロトニンは、朝の自然光を網膜が感じると分泌されます。そしてセロトニンが分泌されはじめた15時間後にメラトニンが分泌を開始するのです。(P.56「第2章 運のいい人は「自分は運がいい」と決め込む」)
セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、精神安定作用がある。
一方、メラトニンは睡眠を促し、体の修復や老化防止に関わるホルモンである。
朝、太陽の光を浴びることでセロトニンの分泌が始まり、それが夜になるとメラトニンに変化して自然な眠りを誘う。
このリズムを整えるためには、規則正しい生活、特に朝に光を浴びることが重要となる。科学的に運がいい人を目指すなら、まずは生活習慣を見直すことから始めるのが良いだろう。
セロトニンの合成には、特定の栄養素も関わっている。
トリプトファンは、赤身の魚や肉類、乳製品などに含まれています。そして、セロトニンの合成にはビタミンB6も必要なので、ビタミンB6が含まれる食品(にんにく、とうがらし、ごまなど)をうまく組み合わせて食べるとよいでしょう。(P.57「第2章 運のいい人は「自分は運がいい」と決め込む」)
トリプトファンは必須アミノ酸の一種で、体内でセロトニンに変換される。ビタミンB6はその変換を助ける補酵素として働く。
したがって、これらの栄養素をバランス良く摂取することも、精神的な安定、ひいては運の良さにつながる可能性がある。
サプリメントを利用するのも一つの手だが、まずは日々の食事内容を見直すことが基本となるだろう。睡眠の質や精神の安定のために、これらの栄養素を意識的に摂取することは、試してみる価値がありそうだ。
オキシトシン:「愛情ホルモン」がもたらす信頼と絆
もうひとつ、運の良さと関連する重要なホルモンとして、オキシトシンが挙げられる。
オキシトシンは、出産時の陣痛を促進し、出産後は母乳の分泌を促す働きがあります。また、感情や行動を落ち着かせたり、互いの信頼関係を強化し、夫婦や親子の絆をつくりやすくしたりする効果もあるとされ、その特徴から「愛情ホルモン」とも呼ばれています。(P.62「第2章 運のいい人は「自分は運がいい」と決め込む」)
オキシトシンは、人との触れ合いや信頼関係によって分泌が促進される。
これが分泌されると、安心感が得られ、ストレスが軽減されるだけでなく、他者への共感力や協力的な行動も促される。運が良いとされる人は、良好な人間関係を築いていることが多いが、その背景にはオキシトシンの働きが関わっている可能性がある。
人との温かい交流を大切にすることが、脳科学的にも「運のいい人」に近づく道と言えるだろう。
「最適より好適」:長期的な視点でベターを選ぶ
第3章では、「他人と『共に生きること』をめざす」という視点から、運の良い人の戦略について語られる。
そこでは、「最適より好適」という考え方が紹介されている。
「最適より好適」という言い方もあります。最適はベスト、好適はベターという意味。「最適より好適」とは、「最適な戦略をとると、一時期は勝てるものの、長期的なスパンでみると滅びてしまう可能性が高い。よってベストよりベターな道を選ぶべき」という意味です。(P.74「第3章 運のいい人は他人と「共に生きること」をめざす」)
短期的な成功や利益のみを追求する「最適(ベスト)」な戦略は、時には他者を蹴落としたり、持続可能性を損なったりする可能性がある。
それに対して、「好適(ベター)」な戦略は、必ずしも最大瞬間風速的な成功をもたらさないかもしれないが、周囲との調和を保ち、長期的に安定した関係や状況を築くことを目指す。
運が良い人は、目先の利益だけでなく、長期的な視点を持ち、自分だけでなく他者にとってもより良い、持続可能な道を選択する傾向があるということだろう。
これは、ビジネスや人間関係など、様々な場面で応用できる考え方である。運が良い人の特徴として、周囲を巻き込み、共に成功しようとする姿勢が見られることがあるが、それはこの「最適より好適」の精神に基づいているのかもしれない。
また、そのような人は、不思議と人を惹きつける運がいい人のオーラのようなものを放っているようにも感じられる。
自分なりの「しあわせのものさし」を持つ
第4章では、目標設定における「自分なりのしあわせのものさし」の重要性が説かれる。
そして自分の価値観が明確になっていない人は、他人の意見や一般的な価値観に影響を受けやすくなります。(P.100「第4章 運のいい人は目標や夢を「自分なりのしあわせのものさし」で決める」)
何をもって「しあわせ」とするかは、人それぞれ異なるはずである。
しかし、自分自身の価値観、すなわち「しあわせのものさし」が明確でないと、世間一般の成功イメージや他人の意見に流されやすくなってしまう。
その結果、本当は望んでいない目標を追いかけてしまったり、達成しても満足感が得られなかったりする。まずは、自分にとって何が本当に大切で、どのような状態が「しあわせ」なのかを深く考え、自己を確立することが重要である。
これが明確であれば、他人の評価に一喜一憂することなく、自分自身の基準で目標を設定し、主体的に人生を歩むことができる。
運の悪い人の思考パターン:マイナスへのこだわり
一方で、運が悪いと感じてしまう人には、共通の思考パターンが見られることがある。
一方、運の悪い人というのは、自分にとってマイナスの出来事が起きたときに、それにあまりにこだわりすぎてしまいます。
「ああ、最悪だ、もうだめだ」などと考えて、自暴自棄になる。そべてを投げ出してしまう傾向があるように思います。(P.112「第4章 運のいい人は目標や夢を「自分なりのしあわせのものさし」で決める」)
不運な出来事や失敗は誰にでも起こりうる。
問題は、それにどう対処するかである。運の悪い人は、ネガティブな出来事に囚われ、過度に悲観的になり、そこから抜け出せなくなってしまう傾向がある。そして、すべてを諦め、投げ出してしまう。
これでは、状況を好転させることは難しい。運の良い人は、たとえ困難な状況に陥っても、それを乗り越えるための対策を考え、行動を起こす。前もって準備をし、リスクを想定しておくことも、不運な出来事の影響を最小限に抑えるためには有効だろう。
失敗から学び、次に進むための糧とする。その切り替えの早さ、レジリエンス、つまり回復力の高さが、運の良い人と悪い人を分けるひとつの要因と言えるかもしれない。また、それは見た目の印象や雰囲気にも表れるかもしれない。
祈りの力:脳内物質を活性化させる
第5章では、「祈り」がもたらす意外な効果について、脳科学的な見地から解説される。
なかでもベータエンドルフィンは、脳を活性化させる働きがあり、体の免疫力を高めてさまざまな病気を予防します。さらにベータエンドルフィンが分泌されると、記憶力が高まり、集中力が増すことも知られています。
また、オキシトシンにも記憶力を高める作用があるといわれています。(P.118「第5章 運のいい人は祈る」)
祈りや瞑想といった行為は、脳内でベータエンドルフィンやオキシトシンといった有益な神経伝達物質の分泌を促すことが分かっている。
ベータエンドルフィンは「脳内麻薬」とも呼ばれ、幸福感をもたらし、痛みを和らげ、免疫力を高める効果がある。また、記憶力や集中力の向上にも寄与する。
オキシトシンも同様に、記憶力を高める作用が報告されている。神社や寺院へのお参りといった行為が、単なる気休めではなく、実際に脳機能を活性化させ、心身に良い影響を与える可能性があるというのは、興味深い指摘である。
これは運がいい人とスピリチュアルが結びつく側面とも捉えられるかもしれないが、科学的な裏付けがあるのだ。
ポジティブな祈りや願いは、セロトニンやドーパミンの分泌も促し、前向きな気持ちを生み出す。運がいい人の口癖として、感謝の言葉や肯定的な言葉が多いのも、こうした脳内メカニズムと関連している可能性がある。
悪い祈りの危険性:ストレスホルモン「コルチゾール」
しかし、祈りであれば何でも良いというわけではない。ネガティブな感情、例えば他者への呪いや恨みといった「悪い祈り」は、逆効果になる可能性がある。
コルチゾールは生体に必須のホルモンですが、脳内で過剰に分泌されると、脳の「記憶」の回路で中心的な役割を担う「海馬」という部位が萎縮してしまうことがわかっています。(P.119「第5章 運のいい人は祈る」)
強いストレスやネガティブな感情は、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を促す。
コルチゾールは、短期的には生体防御に必要なホルモンだが、過剰に分泌され続けると、記憶を司る海馬を萎縮させ、認知機能に悪影響を与える可能性があるのだ。
さらに、コルチゾールの過剰分泌は、身体的な健康にも様々な問題を引き起こす。
コルチゾールは生体に必須のホルモンで、分泌量が増えすぎると血圧や血糖値を上昇させたり、免疫機能を低下させたり、記憶や精神面にも影響を与えたりするなど、体によくな働きをするのです。(P.122「第5章 運のいい人は祈る」)
血圧や血糖値の上昇、免疫機能の低下、精神的な不安定など、コルチゾールの過剰分泌は心身の健康を蝕む。
つまり、他人を呪うようなネガティブな思考は、巡り巡って自分自身の心と体を傷つけることになるのだ。
運を引き寄せたいのであれば、ネガティブな感情に囚われず、意識的にポジティブな思考を心がけ、コルチゾールの過剰分泌を抑えるような、健やかな精神状態を保つことが重要である。
脳を変え、運命を変える:3か月の習慣化
エピローグでは、これまでの議論を踏まえ、「運のいい脳」へと自分自身を変えていくための総括がなされる。
そして、変化にはある程度の時間が必要であることが改めて示される。
人間の細胞が入れ替わるには、約3か月かかるとされています。(P.128「エピローグ――運のいい人は自分の脳を「運のいい脳」に変える」)
第2章で触れられた「3週間」は、新しい習慣が脳に定着し始める目安であるが、より根本的な変化、体細胞レベルでの変化を実感するには、「3か月」程度の期間が必要とされる。
運を良くするための思考や行動を意識的に続け、それを習慣化することで、脳の働き方、さらには体質までもが変化し、「運のいい人」へと変貌していく可能性があるのである。焦らず、しかし着実に、日々の積み重ねを大切にすることが、運命を変える鍵となる。
自分の軸を持ち、自分を大切にし、運のいいひとへ
本書『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』は、運という掴みどころのないテーマに対して、脳科学という明確な視点からアプローチし、具体的な行動指針を示してくれる良書である。
全体を通して感じたのは、「自分の軸を持つこと」の重要性だ。自分の感覚を信じ、自分の価値観で判断し、自分自身を大切にする。そして、その上で他者と良好な関係を築き、共に生きる道を探る。
脳内ホルモンの働きに関する記述も多く、セロトニン、メラトニン、オキシトシン、ベータエンドルフィン、コルチゾールといった物質が、私たちの気分や行動、そして運にまで影響を与えていることを学ぶことができた。
特に、これらのホルモンに関する知識は、これまで断片的だったものが整理され、理解が深まった。自分を殺さず、自分の意見をしっかりと持ち、他者と建設的な対話を通じて合意形成を図っていく。
本書で示されたこれらの原則は、運のいい人のチェックリストとして自己分析に活用できるだろう。
運は、決して天から与えられるだけのものではない。自らの思考と行動によって、引き寄せ、作り上げていくことができる。本書は、そのための科学的な根拠と具体的な方法論を、分かりやすく、しかし深く示唆してくれる。
運気を上げたい、より良い人生を送りたいと願うすべての人にとって、読む価値のある一冊であると言えるだろう。