越前敏弥の略歴
越前敏弥(えちぜん・としや、1961年~ )
翻訳家、翻訳講座講師。
石川県生まれ。筑波大学附属駒場中学校・高等学校、東京大学文学部国文科を卒業。ゲームセンター従業員、学習塾自営、留学予備校講師などを経た後、フェロー・アカデミーで翻訳を学ぶ。37歳からエンタテイメント小説の翻訳を始める。
アメリカの小説家であるダン・ブラウン(Dan Brown、1964年~)の『天使と悪魔』、『ダ・ヴィンチ・コード』などを手掛ける。
『日本人なら必ず悪訳する英文』の目次
まえがき
第1部 翻訳の基本10か条
◆翻訳者としてのわたしの半生(その1:翻訳者をめざすまで)
第2部 誤訳率50%以上の英文10題
◆翻訳者としてのわたしの半生(その2:念願の長編デビュー)
第3部 小説を正しく訳せますか
◆翻訳者としてのわたしの半生(その3:ダン・ブラウン作品どの出会い)
第4部 『ダ・ヴィンチ・コード』の翻訳に挑戦!
◆翻訳者としてのわたしの半生(その4:そして、これから)
あとがき
【英文出典】
◆【越前敏弥 長編訳書リスト】
『日本人なら必ず悪訳する英文』の概要
2011年2月15日に第一刷が発行。ディスカバー携書。194ページ。
正確には『越前敏弥の日本人なら必ず悪訳する英文』。
『日本人なら必ず誤訳する英文』の次の著作。
一応は、シリーズものではあるが、前作は一般的な英語学習者向け、今著作は、翻訳に興味のある英語学習者、もしくはさらに高みを目指している英語学習者向けといったもの。
『日本人なら必ず誤訳する英文』の完全なシリーズとしては続編として『日本人なら必ず誤訳する英文 リベンジ編』がある。
4部構成で、第1部に10問、第2部に10問、第3部に6問、第4部に4問の演習問題。
それぞれの部の終わりには、「翻訳者としてのわたしの半生」というインタビュー記事が挿入される。
『日本人なら必ず悪訳する英文』の感想
前著『日本人なら必ず誤訳する英文』が面白かったので、そのまま続けてシリーズとして、kindle unlimitedで読む。
今回のは、英語学習というよりも、翻訳に一端に触れて、新しい角度で英語を見てみようといった感じ。英語学習も刺激を受けるといった形である。
予想以上に面白かった。楽しかった。
そして、言葉の難しさを改めて痛感。英語も日本語も。また、翻訳という作業の奥深さも知る。
こんなに大変な作業だったとは。そして、繊細でもある。
最後の「翻訳は愛」であるというのも納得。色々な仕事にも通じることだけれど。
以下、引用をしながら紹介。
翻訳の仕事をするにあたって何より重要なことのひとつは、「自分がいま持っている知識など、たかが知れている」という自覚を持つことです。いかに英語を流暢に駆使できる人でも、いかに博覧強記の人でも、事情はたいして変わりません。(P.32「第1部 翻訳の基本10か条」)
翻訳の場合、英語が得意だからという理由の人が多いが、それ以外の調査がかなり膨大になる。
そのため、英語が得意というのは、大した意味を持たない。
英文の単語や文法だけではなく、英文の内容や記述で、疑問に思ったところがあれば、徹底的に調べることが必要。
この前の部分では、銃器についての話。そのようなテーマで、深く調べることが多々あるという。
これは、翻訳だけではなく、仕事全般にも言えることかもしれない。
大学には7年いましたが(P.47「◆翻訳者としてのわたしの半生(その1:翻訳者をめざすまで)」)
東大に入るのに、二浪して、入ってからも三留しているのか。
なんだかちょっと色々と驚いた。
何故だ。バイトが忙しかったのか。大学卒業後にも講師の仕事を続けていたらしい。
激務によって生命にかかわる病気をして、3箇月の入院。
「何か形に残る仕事をしたい」と思って翻訳家を目指す。それまでは、自営の塾と留学予備校とで、1日15時間以上も働いていたとか。
5年分の蓄えを作れとまでは言わないけれど、蓄えもないのに会社をやめるなよと。(P.49「◆翻訳者としてのわたしの半生(その1:翻訳者をめざすまで)」)
自営の塾や留学予備校の仕事をしていた時にはバブルの最中で、非常に儲かったらしい。
そのため、5年間ぐらいは無収入でも生活できる蓄えはあったとか。さらに、一応、予備校の仕事は、週に数日は継続していたとか。
現実的に全くの無収入になってしまうのは厳しいので、新しいことを始める場合には、貯金と少しでも良いので定期収入を確保しておくのが大切。
パッと会社を辞めるのは、潔いし、格好良く見えるかもしれないが、貧すれば鈍するとも言うので、注意が必要である。
英語の問題も以下に。
She always smiles pleasantly in the office, but isn’t reliable as a secretary. Not when it is urgent.(P.52「第2部 誤訳率50%以上の英文10題」)
ここでのポイントのひとつが、pleasantlyの捉え方。
pleasantで、まず考える。
-antは、ラテン語系の言語の現在分詞を作る接尾辞。英語で言えば、-ingとなる。
pleaseは、喜ばせる、楽しませる。
pleasantも相手を楽しませる。その矢印の方向性を正確に掴んで、日本語に訳す必要がある。
最終的には、lyがついて副詞となる。
彼女はオフィスでいつも感じのよい笑みを浮かべているが、秘書としては信頼できない。いざというときに頼りにならない。(P.54「第2部 誤訳率50%以上の英文10題」)
上記が、正しい翻訳となる。
これは私の持論ですが、翻訳というものは、どんなに忠実に原文のニュアンスを伝えようと努力しても、8割か9割程度しか伝えられないという宿命を背負っています。(P.150「第4部 『ダ・ヴィンチ・コード』の翻訳に挑戦!」)
比喩や同語反復についての部分、細かい部分に、こだわって訳をする。
場合によっては、補足をしたり、省略をしたり。英語と日本語の橋渡し役。
文法や文化の背景、音韻、字面なども考慮して、天秤にかけながら、日本語にするのが翻訳者。
そもそも、別の言語として成り立っているものだから、100%のニュアンスは伝わらない。
でも、そこで諦めずに、さまざまな工夫をするのが、翻訳者の大きな仕事のひとつでもある、といった感じ。
いずれにせよ、これからの時代の翻訳者は、もちろん翻訳の技術をいっそう高めていく必要がある一方で、自分からあれこれ企画を提案していくだけの知識も身につけなきゃいけない。
これまでのいわゆる「持ちこみ」だけじゃなくて、本をいっしょに作って売っていく仲間としてのセンスがいままで以上に問われるようになると思うんです。(P.177「翻訳者としてのわたしの半生(その4:そして、これから」)
翻訳作業だけではなく、持ち込みからさらに、本をつくって、売っていくまで、という総合的なビジネス能力が必要になってくると指摘。
これは翻訳業界だけではなく、他の業界にも言える話。トータルのビジネス能力が必要。
もちろん、前提として、その分野での知識や技術はしっかりと身についているという点も大切。
基礎がなければ、その先にも進むことは出来ない。
「原著者が日本語を知っていたらそう書くと思われるとおりに訳す」(P.182「あとがき」)
「翻訳とは何か?」と問われた場合の越前敏弥の答え。
そして、さらに「翻訳とは愛です」とも。
ここでいう愛とは、もちろん惚れた腫れたの話ではなく、社会心理学者のエーリッヒ・フロムが著書『愛するということ』で定義した愛です。フロムはその本のなかで「愛は技術である」と述べています。(P.182「あとがき」)
愛。さらに続けて、男女ではなく、親が子に向ける愛を想定すると分かりやすいと説く。
これもまた翻訳だけに限らず、あらゆる仕事やあらゆる生活でも言えることだ。
ちなみに、エーリヒ・ゼーリヒマン・フロム(Erich Seligmann Fromm、1900年~1980年)は、ドイツの社会心理学、精神分析、哲学の研究者。
1956年に『愛するということ』(Die Kunst des Liebens)を刊行。日本では、1959年、1991年に翻訳、刊行。2020年に改訳も。
やっぱり、かなり細かく読まないと正確な部分までは理解できないということ。色々と英語の細かい部分を学んでいこう。
でも、そうすると、かなり時間がかかる。どこまでやるか。どこまで時間をかけるか。自分の目的は何かを明確にしておく必要もある。
英検やTOEICとかも受けてみたいと思うし。大変ではあるけれど。
英語の勉強に興味のある人、英語の力試しをしてみたい人、英語の翻訳に関心のある人には非常にオススメの著作である。
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