『明治の人物誌』星新一

星新一の略歴

星新一(ほし・しんいち、1926年~1997年)
小説家。
東京の生まれ。東京女子高等師範学校附属小学校(現・お茶の水女子大学附属小学校)を経て、東京高等師範学校附属中学校(現・筑波大学附属中学校・高等学校)に進む。
旧制の官立東京高等学校(現・東京大学教養学部及び東京大学教育学部附属中等教育学校に継承)に入学。東京大学農学部農芸化学科を卒業。東京大学大学院の前期修了。
本名は、筆名と同じ読み方で、漢字が異なる星親一。父親は、星薬科大学の創立者で星製薬の創業者・星一(ほし・はじめ、1873年~1951年)。

『明治の人物誌』の目次

中村正直
野口英世
岩下清周
伊藤博文
新渡戸稲造
エジソン
後藤猛太郎
花井卓蔵
後藤新平
杉山茂丸
解説 城山三郎

概要

1998年5月1日に第一刷が発行。新潮文庫。512ページ。

もともとは1978年12月に新潮社から刊行された単行本を文庫化したもの。

星新一の父親であり、星製薬の創業者の星一(ほし・はじめ、1873年~1951年)。

福島出身で東京、アメリカに学び、コロンビア大学を卒業。帰国後は製薬会社を設立。その中で多くの人物たちと関わってきた。

その関わってきた人物たちが、息子でSF短編小説の名手である星新一の手によって、まとめられたもの。

中村正直(なかむら・まさなお、1832年~1891年)…啓蒙思想家、教育者。東京の出身。サミュエル・スマイルズ(Samuel Smiles、1812年~1904年)の『Self Help』『西国立志編』(別訳名『自助論』)の邦題で出版し、大ベストセラーとなる。

野口英世(のぐち・ひでよ、1876年~1928年)…医師、細菌学者。福島の出身。済生学舎に通い、医術開業試験に合格。渡米してペンシルバニア大学医学部の助手を経て、ロックフェラー医学研究所の研究員。

岩下清周(いわした・きよちか、1857年~1928年)…実業家、政治家。長野の出身。商法講習所(現在の一橋大学)を卒業。阪急電鉄や近畿日本鉄道の事実上の創設者。トヨタ自動車や森永製菓、大林組などの草創にも関与。

伊藤博文(いとう・ひろぶみ、1841年~1909年)…政治家、初代内閣総理大臣。山口の出身。松下村塾で学ぶ。藩命によって、イギリスに密航し留学。帰国後は政府に出仕。岩倉使節団に副使として参加し欧米を視察。

新渡戸稲造(にとべ・いなぞう、1862年~1933年)…教育者、思想家。岩手の出身。東京英語学校、札幌農学校(現在の北海道大学)を卒業。アメリカ、ドイツへ留学。『武士道』Bushido: The Soul of Japan)を英文で書き世界的ベストセラーに。

トーマス・エジソン(Thomas Alva Edison、1847年~1931年)…発明家、起業家。アメリカのオハイオ州の生まれ。電話機、無線機、白熱電球、映画などを発明。

後藤猛太郎(ごとう・たけたろう、1863年~1913年)…実業家。高知の出身。オランダへ留学。台湾に渡り、後藤新平の私設秘書となる。日本活動フィルム株式会社(日活の前身)を設立。父親は政治家の後藤象二郎(ごとう・しょうじろう、1838年~1897年)。

花井卓蔵(はない・たくぞう、1868年~1931年)…弁護士、政治家。広島の出身。英吉利法律学校(現在の中央大学)を卒業。刑事弁護の第一人者とも呼ばれる。

後藤新平(ごとう・しんぺい、1857年~1929年)…医師、官僚、政治家。岩手の出身。福島の須賀川医学校を卒業。愛知県医学校(現・名古屋大学医学部)で医者として勤務。ドイツ留学。後に、台湾総督府民政長官、南満州鉄道の初代総裁、逓信大臣、内務大臣、外務大臣、東京市第7代の市長などを歴任。

杉山茂丸(すぎやま・しげまる、1864年~1935年)…政治運動家、実業家。福岡の出身。伊藤博文をはじめ、政界や財界、軍人などと多くの親交を結ぶ。息子は作家の夢野久作(ゆめの・きゅうさく、1889年~1936年)。

以上の明治に活躍した人物たちの評伝集。その評伝集を貫くのが、父親の星一である。

500~503ページの解説は、小説家の城山三郎(しろやま・さぶろう、1927年~2007年)。

感想

学校の教科書などでも出てくる人物もいれば、そこまで広く知られていない人物も登場してくる。

そこに貫かれるのが、製薬会社を設立した実業家の星一。星新一の父親である。

明治の激動の中で活躍した個々人に焦点が当てられている人物伝。

さすがの星新一なので、文章は読みやすく理解しやすい。ただ歴史や人物、背景などが複雑ではあるが。とても面白く読めた作品である。

様々な人物たちが出てくるので、興味のある人物はさらに深堀りしていくのがオススメである。

特に目を引いたのは、岩下清周。

紡績業界を育てた人物でもあるようだ。名古屋に織物機械を発明した人物がいる聞いて、赴いて継続的に援助。

後に外国製をしのぐものが完成し、実用化された。

その時に会った人物が、トヨタグループの創設者である豊田佐吉(とよだ・さきち、1867年~1930年)。

星製薬も援助を受けた一例でしかないとか。

さらには、三井銀行の時の後輩を助ける。阪急電鉄の創設者である小林一三(こばやし・いちぞう、1873年~1957年)である。

岩下は頭取として活躍していたころ、よくこう言っていたという。
「百歩さきの見える者は狂人あつかいされ、五十歩さきの見える者は多く犠牲者となり、一歩さきの見えるものが成功者で、現在を見得ぬのは落後者である」
そして、皮肉なことに、自分自身が時代の犠牲者となってしまった。(P.122「岩下清周」)

この言葉も印象的というか、心に残った。

ビジネスでも日常生活でも同じである。ここでの最後の記述については、1915年に背任罪等で起訴されたことなどである。

またエジソンの章では、本論とは関係ないが以下のような記述も。

フランスの映画監督ルネ・クレールは「自由をわれらに」で、チャップリンは「モダン・タイムス」で、フォード方式を痛烈に皮肉り、いまでは古典的名作とされている。
しかし、その映画という媒体そのものが、フォードの先生格のエジソンの発明であることを考えあわせると、さらに大きな皮肉になる。(P267「エジソン」)

何というか、現実ではあるけれど、まるで星新一のショートショートにもありそうなエピソードである。

ここで言うフォード方式というのは、ベルトコンベアーを用いて、自動車を効率良く大量に生産する方法。

見方によれば、そこで働く労働者もまるで機械の歯車として捉えられてしまう。

その点をルネ・クレール(René Clair、1898年~1981年)や、チャップリン(Charles Spencer Chaplin、1889年~1977年)は皮肉るが……といった二重の皮肉。

星一についても知ることができるし、明治の偉人たち生涯も知ることができる。

歴史好きや伝記好きの方には非常にオススメの作品である。

書籍紹介

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コロンビア大学(Columbia University)は、アメリカのニューヨーク州ニューヨークに本部を置くアメリカの私立大学。正式名称は、Columbia University in the City of New York。

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星薬科大学の創立者は星一。星製薬の教育部門が源流。校内には、星一の胸像や歴史資料館も。

公式サイト:星薬科大学