『MEDIA MAKERS』田端信太郎

田端信太郎の略歴

田端信太郎(たばた・しんたろう、1975年~)
メディア編集者。
石川県の生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業。
NTTデータ、リクルート、ライブドア、コンデナスト・ジャパン、NHN JAPAN(現在のLINE)、スタートトゥデイ(現在のZOZO)などで勤務。

『MEDIA MAKERS』の目次

まえがき
第1章 はじめに
第2章 一般ビジネスパーソンもメディアの知識が必要な時代
第3章 「メディア」とは何か?
第4章 そこにメディアが存在する意味――影響力の本質
第5章 「コンテンツ」の軸でメディアを読み解く――源氏物語からニコ動まで コンテンツを分類する3次元マトリックス
第6章 「メディア野郎」へのブートキャンプ
第7章 メディアとテクノロジー
第8章 劇的に変わるメディアとメディア・ビジネス
第9章 拡大する、個人型メディアの影響力とこれから
あとがき

概要

2012年11月10日に第一刷が発行。宣伝会議。205ページ。ソフトカバー。127mm×188mm。四六判。

さまざまなメディアを立ち上げたり、収益化をさせたりしてきた田端信太郎のメディアに対する考えをまとめた、初めての著作。

副題は、“社会が動く「影響力」の正体”。

宣伝会議が運営するサイト「Advertimes(アドバタイムズ)」に、2012年2月から7月まで、12回にわたって連載した「メディア野郎のブートキャンプ」をベースに、加筆修正したもの。

帯には「メディアに踊らされずにメディアで人を踊らせる法」とも。

また数字的には、“7000万ユーザーの「LINE」、5億PVの「livedoorニュース」、60万部の「R25」など数々のメディア・ビジネスを経験した著者が、その魔力を解き明かす”、といった記述もある。

メディアやコンテンツ、収益、権威、信頼、読者との関係性などを、網羅的に触れた作品である。

感想

メディアに関しての興味があり、またネットで何人かが推奨していたので、読んでみた書籍。

恐らく発売してから数年後では、あったような気がする。

結論としては、とても勉強になり、刺激を受けた。

「R25」を立ち上げたり、ライブドア事件の際には、自社にとってマイナス情報を「livedoorニュース」などに掲載し、広告費を得たりした人物。

その程度の知識しか、もともとは持ち合わせていなかった。

かなり考え抜かれてメディアを運用してきたことが分かる内容。

ファンダメンタル(実体あるいは事実)が、価格(価値の数値あるいはメディア上の表象イメージ)に反映されるという因果の矢印は、決して一方通行ではなく、価格(やメディア上で表象されるイメージそのもの)が、逆向きにファンダメンタルや事実の方にフィードバックされることもある、ということなのです。(P.17:第2章 一般ビジネスパーソンもメディアの知識が必要な時代)

ここでは、ハンガリー系ユダヤ人の投資家であるジョージ・ソロス(George Soros、1930年~)が「再帰性」と名付けた現象についての解説。

企業の株価の上下動に関して、メディアの報道によって、実力とハッタリの境目を第三者は区分できない状態となること。

「予言が自己実現する」についても。

影響力を持ったメディアや人物が、何かを発言すると、それがそのまま事実になってしまうこともある。

この辺りは「第4章 そこにメディアが存在する意味――影響力の本質」でも触れられる。

自社が意思を持って編集しようとしている「コントロール範囲」を事前に読者やユーザーに対して明確にしておくことは重要です。なぜならば、それがすなわち編集の負う「責任」範囲になるからです。自分がメディア編集者として、何をコントロールして、何をコントロールしていないのか、についての自覚は、プロとして必須の基本態度です。(P.81:第5章 「コンテンツ」の軸でメディアを読み解く)

ここでは、メディアの責任の範囲について。

どこまで責任を負っているかを明確にすることで、権威性や影響力が増していく。

読者や顧客との信頼関係にも繋がっていく。

さらに、そこから、読者参加型のメディアである「食べログ」や「カカクコム」との比較も。

それぞれのメリットやデメリットも整理されている。

権威性による腐敗や双方向性によるフィードバックなど。

数字に強く、抜け目のない感覚を発揮することに支えられた高収益メディアは、それだけ編集コストを負担する力も増えるわけですし、プロモーションのためにイベントを開催したり、交通広告などを打つ余力も出てくるでしょう。(P.123:第6章 「メディア野郎」へのブートキャンプ)

ここでは、ウェブメディアに関しての例を挙げて、「定量化」や「構造化」、PDCA(Plan-Do-Check-Act)のサイクルを回すなどについて、言及。

つまり、しっかりとしたKPI(Key Performance Indicator)、重要業績評価指標に基づいて、改善的な施策を繰り返す必要性を説く。

すると、収益性も上がり、コンテンツに資金を投入できたり、広告のために費用を使えたりと、もろもろのメリットが出てきて好循環になる、ということ。

さらに話は、進んでいき、読者との信頼関係にも結びついていく。

メディアの高潔さや信頼感など。差別化要因となるものは、時間を掛けて作られるなど。

新規サービスに対して「こんなの本物の◯◯ではない。オモチャだ」と言いたくなったら、自分の脳味噌が陳腐化しており、自分自身が「抵抗勢力」の「守旧派」になっていることを疑いましょう。(P.177:第8章 劇的に変わるメディアとメディア・ビジネス)

ここでは、破壊的な技術革新に対する、エスタブリッシュメント側の反応の歴史的に繰り返される反応について。

新しい技術に対して、自分の反応を俯瞰する必要性がある。

もしも、上のような気持ちになってしまったら、自分が老害となっている可能性がある。

この辺りは、充分に注意した点である。

テクノロジーの発達とともに、さまざまなビジネス形態が出現する。

メディアも同様である。

どのように収益化して、どのように優れたコンテンツを作成し、どのような媒体で、どのように発信していくか。

常に考え続けなければならない。

メディアの在り方やメディアと読者の関係、影響力と信頼、お金やコンテンツについて、などなど学びの多い著作である。

メディアに興味のある人には、非常にオススメの作品。

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