『大学生のためのレポート・論文術』小笠原喜康

小笠原喜康の略歴

小笠原喜康(おがさわら・ひろやす、1950年~)
教育学者。
青森県八戸市の生まれ。筑波大学大学院博士課程教育学研究科を単位取得退学。博士・教育学。

『大学生のためのレポート・論文術』の目次

はじめに――「当たり前のこと」からはじめよう
1.書き方の約束
2.レポート作成の手順
3.卒業論文の執筆手順
4.文献・資料の集め方と整理の方法
5.よくない論文の書かないために
参考文献
おわりに

概要

2002年4月20日に第一刷が発行。講談社現代新書。232ページ。

括弧の名称は次の通り。これらの名称を使う方が正式かもしれない。
()パーレン括弧 【】すみつきパーレン括弧
〔〕キッコー括弧 〈〉山がた括弧 []ブラケット括弧(P.49「1.書き方の約束」)

意外と知らない括弧の名称。

パーレンは「parenthesis:丸括弧、挿入語句」の略。
キッコーは「亀甲:きっこう、きこう、かめのこう」。
ブラケットは「bracket:腕木、腕金、角括弧、丸括弧、鉤括弧」。

ここは「引用文と引用・参考文献の本文中の示し方」の一部分。括弧の名称とともに、さまざまな基本的なルールを知っておく必要がある。

この「知っているつもり」とか「常識」というのが、論文を書く場合にいちばんの妨げになる。というのも論文は、そういったレベル、つまり誰でもわかっているレベルではないことを書かなくてはならないからである。(P.102「3.卒業論文の執筆手順」)

論文を書く時の「テーマ設定」における注意事項。知っているつもりや常識というのがポイントとなる。

そのために、最初は、そのテーマに関して全くの未知であるという前提で、情報収集をする。

先行研究の論文や各種の文献を収集して、読み込む。しかも、最終的に、そのほとんどは、捨て去る覚悟を持っておく。

自分のテーマと関係があるのか、ないのかを判断する作業でもあるから。

索引を利用すると、自分のテーマに関連した用語を探しやすい。索引を使って、少しでも効率的に作業を行なうと良いということ。

そもそも自分の考えがなくては、他人の本や論文など読めないはずである。本を読むというのは、人の考え方を単に知るということではない。むしろ、その本の中に自分の考え方を読むことだからである。(P.147「3.卒業論文の執筆手順」)

執筆のテクニックを紹介している部分の後半部分。

たくさんの本や論文を読んで、勉強するのは良いことではあるが「自分で考える」という点も、とても重要であるという話。

自分の仮説が正しいかもしれない、もしくは、間違っているのかもしれない、と思いながら資料を読む。

本や論文の主張が、正しいかもしれない、もしくは、間違っているのかもしれない、と思いながら読む。

そうすることで、自分で考えながら読むことができる。

自殺という人の死に関わる問題でも、警察庁と厚生労働省と文部科学省とでは、まるで違う結果が出る。よほどの基本統計でもないかぎり、統計というものは、元来そうしたものだという前提で使っていかなくてはならない。(P.217「5.よくない論文の書かないために」)

直接、自分では調べられない場合には、さまざまな統計データや記録データを入手する。

ただし、統計や記録を集めた主体が、どのような目的を持っていて公表しているのか、どのようなバイアスがあるのかも、念頭に入れておく。

そのような心構えがないと、間違った前提から論理を始めてしまう。間違った前提からは、正しい結論は出て来ない。

また本の選び方についても、続けて書かれている。立ち読みして、2ページ目をめくる時に、1ページ目に何が書いてあったのか、よく分からない本は買わない方が良いというアドバイス。

その場合は、読者の頭の問題ではなく、執筆者に問題があるという。

2009年11月19日には、『新版 大学生のためのレポート・論文術』が刊行。

2018年10月17日には、『最新版 大学生のためのレポート・論文術』が刊行。

感想

文章術系の本はいろいろと読んでいる。

その中で、手に取った一冊。基本的な文章のルールや書き方が、手際良くまとまっているこの書籍。

タイトルに「大学生のための」と書かれているが、大学生以外の社会人にも、かなり役立つ内容になっている。実際に、私も大学卒業後に読んでいる。

あるいは、興味や関心のある高校生にも良いと思う。

最後の方には、参考文献が掲載されているので、さらに深く勉強したい人たちは、その辺りを読み進めていくのがオススメ。

生態学者である梅棹忠夫(うめさお・ただお、1920年~2010年)の『知的生産の技術』や、社会学者である加藤秀俊(かとう・ひでとし、1930年~)の『取材学』なども一覧に載っている。

またさらに本格的にいろいろなルールや書き方を知りたい人には、共同通信社の『記者ハンドブック』も。

割としっかりとしたメディアの場合、執筆者に購入してもらうように指示が出ることもある新聞用字用語集。

さまざまなコミュニケーションのツールで、誰もが情報発信をできるようになった現代。少しでも、文章の書き方に関するルールや手法を知っておくだけで、大きな違いが出てくるはず。

加えて「4.文献・資料の集め方と整理の方法」も、この書籍のポイント。文章を書く前の段階の方法も丁寧に記載されている。

繰り返し読んだり、調べたりしやすいような構成になっているので、購入して手元においておき、必要な時に利用すると良いと思う。

簡易的な辞書としても活用できるオススメの良書。

書籍紹介

関連書籍