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田中泰延『読みたいことを、書けばいい。』要約・感想・書評

田中泰延『読みたいことを、書けばいい。』表紙

  1. 書く目的:自己表現で人生を豊かに
  2. テーマ選び:日常と感情の交差で共感を
  3. 具体的な技術:リサーチ重視で信頼性を
  4. 人生への影響:書くことで個性と可能性を開く

田中泰延の略歴・経歴

田中泰延(たなか・ひろのぶ、1969年~)
ライター。経営者。
大阪府の生まれ。早稲田大学第二文学部を卒業。1993年に電通に入社。電通で24年間、コピーライター、広告プランナーとして活躍。2016年に退職し、執筆活動を開始。

『読みたいことを、書けばいい。』の目次

はじめに 自分のために書くということ
序章 なんのために書いたか
第1章 なにを書くのか ブログやSNSで書いているあなたへ
第2章 だれに書くのか 「読者を想定」しているあなたへ
第3章 どう書くのか 「つまらない人間」のあなたへ
第4章 なぜ書くのか 生き方を変えたいあなたへ
おわりに いつ書くのか。どこで書くのか。

『読みたいことを、書けばいい。』の情報・内容

2019年6月12日に第一刷が発行。ダイヤモンド社。270ページ。ソフトカバー。127mm✕188mm。四六判。

副題は「人生が変わるシンプルな文章術」。

『読みたいことを、書けばいい。』の要約・書評・感想

  • 田中泰延の経歴と文章の特徴
  • 本書の概要と対象の読者
  • 序章:書く目的を問い直す
  • 第1章:何をテーマに書くか
  • 第2章:誰に向けて書くのか
  • 第3章:どうやって書くのか
  • 第4章:なぜ書くのかを考える
  • 文章術コラム:実践的な学びの宝庫
  • まとめ:読みやすい文体と学び

文章を書くことは、自分の思いを形にし、人生を切り開く力を持つ。『読みたいことを、書けばいい。』は、書くことの本質を軽快かつ深く掘り下げた一冊だ。

著者の田中泰延は、電通で24年間コピーライターとして活躍した経験を基に、ブログやSNS、ビジネス文書まで、あらゆる場面で役立つ文章術を提示する。本記事では、要約を軸に本書のエッセンスと田中泰延の魅力を解説する。書くことの可能性を、じっくりと味わってほしい。

田中泰延の経歴と文章の特徴

田中泰延は、1969年大阪生まれのライターであり経営者である。早稲田大学第二文学部を卒業後、電通で24年間コピーライターや広告プランナーとして活躍。鋭い洞察力とユーモア溢れる表現で、数々の広告キャンペーンを成功に導いた。

独立後は、ブログやtwitter(現在のX)を通じて、映画評、読書感想、日常の考察を発信し、多くの読者を惹きつけている。特に映画評は作品の深層を独自の視点で解き明かすスタイルで高い評価を得る。また、学生時代に6,000冊もの本を読破したという読書家としても知られている。

本書では、彼の豊富な経験と教養が、シンプルで実践的な文章術として結実している。田中の文章は、コピーの技術にも通じる、短くも印象深い言葉選びが特徴だ。

本書の概要と対象の読者

『読みたいことを、書けばいい。』は、文章を書く目的や技術を初心者にも分かりやすく伝える指南書である。副題の「人生が変わるシンプルな文章術」が示す通り、書くことで自己理解を深め、人生を豊かにするヒントが詰まっている。

本書の構成は、理論と実践がバランスよく組み合わさり、読者が自分のペースで学べるよう工夫されている。文章術コラムは特に具体的で、ビジネスや就職活動に直結する内容が好評だ。本書は、幅広い読者層に支持され、文章力を磨きたい人に最適な一冊である。

序章:書く目的を問い直す

序章では、「なんのために書くのか」という根源的な問いが投げかけられる。田中は、文章を書くことは自己表現であり、まず自分のために書くことが大切だと説く。この章で印象的なのは、文豪の『文章読本』が引き合いに出される一節だ。

有名なところでは谷崎潤一郎『文章読本』、三島由紀夫『文章読本』、丸谷才一『文章読本』などがある。(P.17「序章 なんのために書いたか」)

田中はこれらを「題名が同じなので買うときに紛らわしい」とユーモアたっぷりに指摘する。この軽妙な語り口は、読者に親しみを与えつつ、田中の教養の深さをさりげなく示す。

個人的には、丸谷才一(まるや・さいいち、1925年~2012年)の『文章読本』を読んでいたが、実際この一節をきっかけに、谷崎潤一郎(たにざき・じゅんいちろう、1886年~1965年)の『文章読本』三島由紀夫(みしま・ゆきお、1925年~1970年)の『文章読本』、さらには川端康成(かわばた・やすなり、1899年~1972年)の『新文章読本』まで読んだ。これらの名著は、文学や文章の歴史を学ぶ機会を提供し、田中の文章術の背景にある知的な土壌を感じさせる。

改めて谷崎や三島の作品に触れたことで、文章表現の幅が広がったと感じる。この序章は、書くことへの好奇心を刺激し、読者を本書の核心へと導く。

第1章:何をテーマに書くか

第1章は、ブログやSNSで発信する人に向けて、「なにを書くのか」を考えるヒントを提供する。田中はまず、「文書」と「文章」の違いを明確にし、ネットで読まれる文章の9割が「随筆」だと定義する。ここで彼が示す随筆の定義は特に印象的だ。

わたしが随筆を定義すると、こうなる。「事象と心象が交わるところに生まれる文章」(P.54 なにを書くのか)

この言葉は、出来事(事象)と内面の思い(心象)が交差する文章こそが読者の心を掴むと説く。

実はこの定義、筒井康隆(つつい・やすたか、1934年~)の『狂気の沙汰も金次第』に登場する編集者の言葉「随筆は心象と物象が交わるところに生じる文」を参考にしたものだ。田中がこの引用をほぼそのまま採用しつつ、独自の解釈を加えている点に、彼の遊び心とリスペクトが感じられる。

この定義は、ブログやSNSでの発信に悩む人に、新たな視点を提供する。たとえば、日常の小さな出来事を自分の感情と結びつけて書くことで、共感を呼ぶ投稿が生まれる。この章ではさらに、書くテーマを決める際に「分野」を意識することや、言葉の定義を明確にすることの重要性も説かれる。「ことばを疑うことから始める」というアドバイスは、大学生がエッセイを書く際や、社会人がプレゼン資料を準備する際に、深みのある内容を生む指針となるだろう。

第2章:誰に向けて書くのか

第2章では、「読者を想定する」という一般的な文章術の常識に異議を唱える。田中は、「ターゲットなど想定しなくていい」と断言し、承認欲求を満たすために書くのは非効率だと指摘する。この考え方は、SNSでの「いいね」を追い求める現代人に新鮮な気づきを与える。

特に印象的なのは、「何を書いたかよりも誰が書いたか」という一節だ。これは、文章には書く人の個性や生き方が反映されることを強調している。たとえば、田中は就職活動のエントリーシートで「逆に質問させるようなフレーズ」を書くテクニックを紹介する。この具体的なアドバイスは、就職活動中の大学生や転職を考えている社会人に特に響く。企業の人事担当者の関心を引きつけるフレーズを考える際、この視点は大きなヒントになる。

また「他人の人生を生きてはいけない」という言葉は、自己表現の本質を突く。自分の価値観や経験に基づいて書くことこそが、読者に届く文章を生むと田中は説く。この章は、自己ブランディングを考えるビジネスマンや、個性を発信したい大学生に実践的な示唆を与える。

第3章:どうやって書くのか

第3章は、文章を書く具体的な技術に焦点を当てた実践的な章だ。田中は、徹底的なリサーチの重要性を次のように強調する。

つまり、ライターの考えなど全体の1%以下でよいし、その1%以下を伝えるためにあとの99%以上が要る。「物書きは調べることが9割9分5厘6毛」なのである。(P.148「第3章 どう書くのか」)

このフレーズは、ライターの思考や意見は最小限で十分であり、残りの99%以上はリサーチが占めるとの考えを示す。たとえば、国立国会図書館の司書に相談したり、一次資料に直接当たったりすることが推奨される。「ウェブやAmazonで手に入る情報だけでは不十分」という指摘は、情報過多の現代で特に価値がある。

田中は具体的な方法として、図書館のデータベース活用や専門家へのインタビューを提案する。これらは、大学生がレポートや卒論を書く際、ビジネスマンが提案書を準備する際に、信頼性の高い情報収集の指針となる。個人的には、一次資料にこだわることで、大学のレポートが教授から高評価を得た経験がある。田中のアドバイスは、こうした実践に直結する。

また、田中のユーモアもこの章の魅力だ。

だいたい、1500円くらいで買ったビジネス書が人生を根本から変えて、めきめきとスタンフォードできたり、みるみるうちにハーバードするなら苦労しない。(P.189 どう書くのか)

この一節は、「スタンフォード流」や「ハーバード流」の名称の付いたビジネス書ブームを皮肉ったもので、読者に笑いと共感を呼ぶ。こうした軽妙な語り口が、硬いテーマを親しみやすくしている。さらに、田中は「起承転結」の構成を推奨し、「感動が中心になければ書く意味がない」と述べる。

読者の心を動かす文章には、感情の核が必要だという視点は、エッセイ、プレゼン、SNS投稿などあらゆる場面で応用できる。この章は、本書の中でも特に実践的な内容である。

第4章:なぜ書くのかを考える

第4章は、書くことが人生に与える深い影響を掘り下げる。田中は、「書くことは生き方の問題である」と述べ、文章を書く行為が自己理解や世界との繋がりを深めると説く。特に印象的なのは、「書くことはたった一人のベンチャー起業」という表現だ。自分の思いを文字にすることで、新しい可能性が開け、人生の方向性が見えてくるというメッセージは、大学生や社会人に勇気を与える。

また、「貨幣と言語は同じもの」という視点も興味深い。言葉を通じて価値を伝え、交換する行為が、書くことの本質だと田中は語る。この考え方は、ビジネスでの提案書やSNSでの発信において、言葉の力を再認識させる。さらに「書くことは世界を狭くすることだ」という一節は、書くことで自分の関心や価値観を明確にし、不要なものをそぎ落とすプロセスを表現している。

この章は、理論的でありながら心に響く内容で、キャリアに悩むビジネスマンや、自己実現を模索する大学生に新たな視点を提供する。個人的には、この章を読んで、自分の価値観を文章にすることで、進むべき道が少し見えた気がした。

文章術コラム:実践的な学びの宝庫

本書には、3つの文章術コラム(広告の書き方、履歴書の書き方、読書リスト)が収録され、実践的な学びが豊富だ。まず、「広告の書き方」では、田中の電通時代の経験が活かされたコピーライティングの技術が紹介される。短い言葉で強い印象を与える方法は、多くの人に役立つ。たとえば、SNSでの短い投稿を効果的にする方法に応用できる。

次に「履歴書の書き方」では、採用担当者の心を掴むエントリーシートの工夫が解説される。「逆に質問させるフレーズ」を盛り込むアイデアは、就職活動中の大学生にとって実践的だ。最後に「書くために読むといい本」では、田中が影響を受けた名著が紹介される。207ページからの抜粋と補足は以下の通りだ。

文学、歴史、経済、現代エッセイまで幅広いジャンルを網羅し、田中の教養の深さを物語る。「学生時代に6,000冊を読んだ」というプロフィールに納得してしまう。個人的には、一つも読んだことがないけど、興味が湧いたのは事実である。『資本論』の関連書籍は4、5冊は読んでいるが。

このリストは、田中泰延のおすすめの本を求める人に、読書の新たな扉を開く大きなきっかけを提供する。また文章に深みを与える読書の重要性も教えてくれる。

まとめ:読みやすい文体と学び

『読みたいことを、書けばいい。』の大きな魅力は、軽快なエッセイ調の読みやすい文体である。通常の大きさの文字で書かれた本文は、硬すぎず柔らかすぎないバランスが絶妙だ。田中の語り口は、ユーモアと教養が共存し、たとえば「恋愛の機微は夏目漱石が100年前に書き尽くしている」という一節にその個性が表れている。この軽いタッチが、文章術というやや硬いテーマを親しみやすくしている。

一方で、合間に挟まれる小さな文字の文章術コラムは、実用性に特化し、ビジネスや就職活動に直結する具体例が豊富だ。このメリハリのある構成は、読者が飽きずに読み進められる理由の一つである。特に、コラムや映画評のファンには、著者の独特な世界観が存分に楽しめる一冊だ。

またブログやSNSでの発信、ビジネス文書、就職活動など、あらゆる場面で役立つ実践的な学びが詰まっている。本書を手に取り、自分の思いを文字にしてみると、意外な発見があるかもしれない。気になる人は、ぜひこの本をチェックしてほしい。書くことは、シンプルだが奥深い冒険である。

書籍紹介

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スタンフォード大学

スタンフォード大学(Stanford University)は、アメリカのカリフォルニア州スタンフォードに本部を置く1891年に創立の私立大学。正式名称は、リーランド・スタンフォード・ジュニア大学(Leland Stanford Junior University)。

公式サイト:スタンフォード大学

ハーバード大学

ハーバード大学(Harvard University)は、アメリカのマサチューセッツ州ケンブリッジにある1636年に創立の私立大学。

公式サイト:ハーバード大学