『ライフワークの思想』外山滋比古

外山滋比古の略歴

外山滋比古(とやま・しげひこ、1923年~2020年)
英文学者。評論家。
愛知県幡豆郡寺津町(現・西尾市)の生まれ。
東京高等師範学校英語科を卒業。東京文理科大学(現・筑波大学)文学部英文学科を卒業。

『ライフワークの思想』の目次

第一章 フィナーレの思想
ライフワークの花
フィナーレの思想
第二章 知的生活考
再考知的生活
分析から創造
発見について
忘れる
第三章 島国考
パブリック・スクール
コンサヴァティブ
大西洋の両岸
島国考
第四章 教育の男性化
面食い文化
市民的価値観
ことばの引力
ことばと心
文庫版あとがき

概要

2009年7月10日に第一刷が発行。ちくま文庫。234ページ。

1978年に『中年閑居して……』の題名で日本経済新聞社から刊行。

1983年に『ライフワークの思想』と改題して旺文社文庫から刊行。

西田幾多郎は、日本が生んだもっともすぐれた哲学的天才であろうが、京都大学を六十歳で定年になった。彼の業績のすぐれたもののほんどんどは、それ以後に、まとまったのだという。(P.33「フィナーレの思想」)

日本の代表的な哲学者・西田幾多郎(にしだ・きたろう、1870年~1945年)を例に取って、ライフワークの真髄を語る。

定年になって以後、自らの仕事に打ち込んだ。つまり、ライフワークに取り組んだ。その取り組みは「西田哲学」と呼ばれる体系をつくり上げる。

これはヨーロッパ流のライフワークであると外山滋比古は言う。

またライフワークの定義として、バラバラの断片に有機的な統一をもたらす個人の奇跡と説く。

日常生活の改造なくして知的生活はあり得ない。一日一日の生きかたにすべての文化の根源がある。(P.40「再考知的生活」)

知的生活を送るのであれば、雑然とした日常生活を改善する必要がある。

仕事、余暇、趣味、家庭とバラバラではいけない。それぞれが有機的に、つながらなければならない。

もちろん、心と体も調和させる。頭と体のバランスをしっかりと取る。

日々の一日一日が大切で、個人個人がそれぞれの一日の編集者である。毎日の“生活の雑誌”をつくっている。

毎月、毎年の雑誌が、集積されて人生になると。

われわれはだいたい知識は多いほどよいという知的蓄積主義に立っている。これは日常生活を円滑にするには結構なことであるけれども、この蓄積主義はそれだけ厚いスクリーンとなって、真理の認識を妨げていることを反省すべきである。(P.67「発見について」)

知識が多くなると、それだけものが見えにくくなってしまう場合もある。

常識というような知識は、ときどき破壊する必要がある。そうでなければ、新しい発見は難しい。

ここでは、discover(発見)という言葉の原義にも触れている。

dis-は、反対や否定、除くなどの意味がある接頭語。
coverは、覆う、隠すなどの意味のある単語。

覆いを除く、隠さない。つまり、発見となる。

菊池寛は“みんなすっかりわかるように話した”と誇った友人に向かって“それはいけない、どこか一、二カ所はわからぬところを残しておかなければ……”と忠告したという。芭蕉は“言いおおせて何かある”といっている。全部いいつくしたらおしまい、ということだ。(P.219「ことばの引力」)

小説家であり、また実業家として、文藝春秋社をつくった菊池寛(きくち・かん、1888年~1948年)の逸話。

ちょっとした気になるポイント、破綻した部分、論理の飛躍などが、目を引く魅力となる。適度な余白、遊びがあると良いということでもある。

また、江戸時代の俳諧師である松尾芭蕉(まつお・ばしょう、1644年~1694年)の「いいおおせて何かある」という言葉も。

この松尾芭蕉の言葉は、弟子であった俳人の向井去来(むかい・きょらい、1651年~1704年)の著書『去来抄』の中に書かれたもの。

松尾芭蕉は、言い尽くしても意味がない。10の内、7、8でも、クドい。5、6くらいで、飽きることがない。と述べている。

『徒然草』にものいわぬは腹ふくるるわざなり、とある。胸にあることをしまっておくのはたいへん体によくないことを昔の人も知っていたらしい。それをいかにエレガントに発散するかが現代人の知恵である。(P.229「ことばと心」)

兼好法師と呼ばれる歌人・随筆家の吉田兼好(よしだ・けんこう、1283年頃~1352年)の『徒然草』の第19段にも「おぼしき事言はぬは腹ふくるゝわざなれば」とある。

昔から、思ったことや考えたことを外に出さないのは、体に良くはないというのが分かっていた。では、そのことをどのような方法で解消するのか。

現代人であれば、洗練された形で発散できた方が良い。分かりやすくいうと、健康的なストレス発散方法が必要だということ。

ちなみに、その後段には、生き甲斐や幸福についての言及も。お金や住む場所、美味しい食べ物。それ以外にも、心の楽しみが必要。それは、人から褒められること、と説く。

なかなか興味深い部分である。

感想

外山滋比古の本は好きで色々と読んでいる。

この本では、タイトル通り人生を通した生き方というか、自らの仕事の方法を、過去の偉人やその言葉、書物などを参照しながら紹介している。

現在から約40年前の本ではあるが、とても参考になる。

そもそも、この本の中で現代から約700年前の鎌倉後期の随筆『徒然草』の内容にも触れられているので、約40年なら可愛いものか。

日本の事例や海外の事例も豊富。さすが、英文学者であるといった感じ。論理展開も分かりやすく、言葉や表現も読みやすい。

自分の人生を改めて立ち止まり見直したい人や、ちょっと自分の仕事に行き詰まっている人などには、よい気分転換になるオススメの本。

書籍紹介

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