『仕事の手帳』最相葉月

最相葉月の略歴

最相葉月(さいしょう・はづき、1963年~)
ノンフィクションライター、編集者。
東京都の生まれ、神戸市の育ち。関西学院大学法学部法律学科(国際法専攻)を卒業。
第4回小学館ノンフィクション大賞を受賞した1998年刊行の『絶対音感』がベストセラーに。2007年刊行の『星新一 一〇〇一話をつくった人』は第34回大佛次郎賞、第29回講談社ノンフィクション賞、第28回日本SF大賞、第61回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)、第39回星雲賞ノンフィクション部門を受賞。

『仕事の手帳』の目次

はじめに
1 仕事の心得
2 聞くこと
3 書くこと
4 読むこと
おわりに
初出一覧

※実際には、非常に詳細に記載されている。

概要

2014年4月1日に第一刷が発行。日本経済新聞出版社。228ページ。ソフトカバー。128mm×188mm。四六判。

初出一覧として以下、簡易的に。

1章は、日本経済新聞夕刊「プロムナード」(2009年1月8日~6月25日連載)を改題・加筆。「ベストセラーの効用」書き下ろし。

2章は、「聞かせるインタビュー」書き下ろし。ラジオ・インターFM「HAZUKI’S LOUNGE」より書き起こし、加筆。

作家の三浦しをん(みうら・しをん、1976年~)、2007年2月19日~23日の放送。

三浦しをんは、東京都の出身。横浜雙葉中学校・高等学校、早稲田大学第一文学部文学科演劇専修を卒業。2006年に『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞を受賞。

写真科の野町和嘉(のまち・かずよし、1946年~)、2007年3月26日~29日の放送。

野町和嘉は、高知県三原村の出身。高知工業高等学校を卒業。杵島隆(きじま・たかし、1920年~2011年)に師事し、後にフリーに。1990年、写真集「ナイル」等により芸術選奨新人賞美術部門受賞。2009年、紫綬褒章受章。

3章は、「科学を書く」書き下ろし。「人間を書く」早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース講義「私のノンフィクション作法」(2009年6月)より書き起こし、加筆。

4章は、「書き手が読むノンフィクション」書き下ろし。ブック・アサヒ・コム「本の達人」連載。2011年3月9日~2013年10月4日の掲載。

感想

ネットで知った。とある人物が、フリーになる時に先輩から勧められたのが、この『仕事の手帳』だったという。

最相葉月の書いた『星新一 一〇〇一話をつくった人』は以前に読んで、とても良かったので、それではこの著作も読んでみようと思って購入。

結論としては、とても面白かった。

ちなみに星新一(ほし・しんいち、1926年~1997年)は、小説家、SF作家。掌編小説を手掛け“ショートショートの神様”とも呼ばれる。

十代の頃にハマって相当な作品を読んだ経験がある。

では、本題に戻って内容に触れていく。

三十代後半に再婚した夫とは家計はまったく別で給与明細も見たことがない。いつ三たびの独身生活が訪れても困らぬよう経済的な面だけは自立していなければと思っているためだ。(P.78「1 仕事の心得:撤退を決断できますか」)

まずは、最相葉月が結婚、そして離婚を経験して、さらに再婚をしていたというのは驚いた。このように文章として記載しているということは、最相葉月のファンなどでは周知の事実なのだろうか。

かなりの量の仕事をしているので、なかなか一般的な結婚生活は難しいとは思うけれど。

と同時に、ここでは、仕事に関する撤退の判断と金銭的な部分への言及。確かにシビアである。ノンフィクションであれば尚更、厳しいのだろうか。あまり売れないと聞いたことがある。

交通費、宿泊費、取材費、資料費、書籍代といった費用に加えて、移動や取材、本や資料の読み込み、整理、執筆といった膨大な時間も必要。

今であれば、noteなどのSNSやウェブを活用したり、ファンサイトを作ったりで、多少は金銭的なサポートにはなるのだろうか。

そもそも読書人口が少ないという問題もあるけれど。

星新一の評伝を書くための取材をしていたとき、星が一〇〇一編のショートショートを書き上げることができたのは、ファンクラブの存在があったからだと長年の担当編集者に聞いた。(P.80「1 仕事の心得:読者が書き手を救うとき」)

星新一が精神的にファンに支えられていた事が語られる。しかも、星新一とファンは、適切な距離感を保っていたとの話も。

そして、最相葉月も、見知らぬファンのネット上に書かれた言葉に励まされることがあるという。作家は孤独である。星新一も最相葉月も同じ人であるので、弱さもあるということか。

二人とも、そのようなイメージがなかったので意外に感じた。

まぁ、それくらいギリギリに精神も体力も使って、文章を書いているということか。

英語の科学書は漫然と読んでもなかなか理解できないが、不思議なことに、新幹線や飛行機などの移動時間に集中して読むようにすると頭に浸透するように入ってくる。(P.145「3 書くこと:科学を書く」)

英語の原書を、苦も無く読んでいるかのような記述がさらりとある。また当然の如く、論文も読んでいるとのこと。

マジか。やっぱり英語を読んだり、論文を読んだりは、当然なんだよな。プロのノンフィクションライターであれば、一つくらいは外国語が出来るのは前提条件みたいなものか。

そう言えば、英語学者の渡部昇一(わたなべ・しょういち、1930年~2017年)が、小説家の森鴎外(もり・おうがい、1862年~1922年)について記述していた。

森鴎外は、英語だけではなく、ドイツ語にも堪能であったので、他の人よりも情報収集の経路があったというもの。

渡部昇一も、英語とドイツ語が出来るし。小説家や読書好きでも、結構、語学に堪能な人も多いみたいだし。

自分も、取り敢えずは、一定レベルの英語は読めるようにしておこう。

星新一の評伝では、実際に取材をさせていただいたのは百三十四人になりました。(P.155「3 書くこと:人間を書く」)

一冊の本、星新一の評伝の時には、134人に取材をしていると。驚きの数だ。いや、評伝の取材であれば、これくらいの人数は当たり前か。どうなんだろう。

評伝を書いたこともないし、大人数を取材して記事を書いたこともないし、分からない。複数でも3人くらいか。イベントの取材であれば10人くらいとか。

上記の134人でも、繰り返し会って取材をする人もいれば、電話だけの人、手紙で事実関係の確認だけの人などの濃淡はあるとのこと。

それでも凄いとは思うけれど。確か別の媒体で語っていたが、最相葉月は取材がとても楽しいとのこと。取材がずっと続けば良いと。さすがだなぁ、と思った。

最相葉月の優秀さが改めて分かる内容。

というわけで、仕事の向き合い方、人との向き合い方などを再考できる、非常にオススメの本である。

エッセイなども出ているみたいなので、今度チェックしておこうと思う。

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